●病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その2)
県立病院を経営する病院局に対して、財政課の私が実効性ある収支改善の取り組みの計画的な明示を求め続けるも、ゼロ回答が繰り返されるという空虚な月日が流れ、ついに定例の当初予算編成時期が到来した。私は、それまでになんとか小出しではあるが相手から聞き出せた収入増や費用節減の小さな取り組み内容を予算要求に盛り込ませた調整案で財政課長査定に臨んだ。要求側との架け橋という立場でもあるので、病院局が言うところの現状においてどうにもならない構造的な状況について説明を連ねて、小手先の収支改善策でもやむなしという判断で手打ちとしたかった。
しかし、財政課長は良くも悪くも国のキャリア官僚からの出向者である。私よりも若く東大卒の切れる頭脳は、私ごとき田舎の公務員の説明の論理的な稚拙ぶりに加えて、私と病院局の改革意欲の低さをことごとく指摘し、終いには「あなたはこんな要求をさせるために春先から病院局と協議してきたのですか。やり直しですよ」と締めくくった。
財政課長は現場を知らず机上の論理で仕事しているから言いたい放題ができるのだ…というとそうでもない。指摘は私の考えの及ばなさと至らなさを痛感させて余りあるもので、やりようによっては病院局に自らの発意で更なる収支改善策を整理させることができたのかもしれないと思い知らされた。やはり偏差値の高いキャリア官僚は流石なのだ。
それにしても、関心している場合ではない。病院局も曲がりなりにも時間を掛けて組み立ててきた予算要求案である。その過程で少なからず関わってきた私にも責任がある。それが「やり直し」と言われたものだから私は正に窮地だ。財政課長から宣告されたこの日が金曜日。予算編成期限を考えると財政課長による再調整は週明け早々にできないと間に合わない。病院局にやり直し案を出してもらうためには土日の休日を潰して突貫工事で作業してもらう必要があるのだ。
そうして金曜の夕方、私は財政課長からの指摘とそれに基づく要求内容の再提出を病院局の窓口担当職員に伝え、休日までも作業を要する"手戻り"については私の至らなさによる部分もあることを丁寧に詫びて作業依頼をしたのだが、相手方は理解を示して「病院局内で対応を調整します」と穏やかに言って財政課から出て行った。椅子に座して頭の後ろで手を組み、薄汚れた財政課の天井を眺めながらため息をついていると、病院局の担当係長からの電話が来た。
「本日はもう夕方になったし、作業にあたる職員の中に残業できない者もいるので、明日土曜の9:00に病院局に来て、課長補佐以下の関係職員の皆に対して直接、予算要求作業のやり直しに至った財政課長査定の経緯を説明してほしい。事と次第によっては病院局は作業を拒否して、財政課長よりもっと高い段階で、つまり、病院局長と総務部長でやり取りすることになるかもしれない」という。自分の段取りの悪さに引け目もあった私は取り敢えず「分かりました」と答えて受話器を置く。話がこじれたから上の者同士のタイマンで決着させてもらおうじゃあねえかとはなんてヤクザな物言いだ…そんな思いは取り敢えず奥に秘めてだ。
平成20年1月20日の土曜の朝は、晴れてはいたが昨日までの薄く積もった雪が凍り付いたように朝日を反射し、県庁に向かって通勤路を歩いていると涙目になるような空気の冷たさだ。財政課というのは仕事柄、部局の担当者に来てもらって説明を受けたり指示を出したりすることが多いのであるが、この度は、私に一人で病院局の執務室に来いという。厳しい先行きが雪道を歩く足下の冷たさからも伝わるようだ。
しかし、財政課長は良くも悪くも国のキャリア官僚からの出向者である。私よりも若く東大卒の切れる頭脳は、私ごとき田舎の公務員の説明の論理的な稚拙ぶりに加えて、私と病院局の改革意欲の低さをことごとく指摘し、終いには「あなたはこんな要求をさせるために春先から病院局と協議してきたのですか。やり直しですよ」と締めくくった。
財政課長は現場を知らず机上の論理で仕事しているから言いたい放題ができるのだ…というとそうでもない。指摘は私の考えの及ばなさと至らなさを痛感させて余りあるもので、やりようによっては病院局に自らの発意で更なる収支改善策を整理させることができたのかもしれないと思い知らされた。やはり偏差値の高いキャリア官僚は流石なのだ。
それにしても、関心している場合ではない。病院局も曲がりなりにも時間を掛けて組み立ててきた予算要求案である。その過程で少なからず関わってきた私にも責任がある。それが「やり直し」と言われたものだから私は正に窮地だ。財政課長から宣告されたこの日が金曜日。予算編成期限を考えると財政課長による再調整は週明け早々にできないと間に合わない。病院局にやり直し案を出してもらうためには土日の休日を潰して突貫工事で作業してもらう必要があるのだ。
そうして金曜の夕方、私は財政課長からの指摘とそれに基づく要求内容の再提出を病院局の窓口担当職員に伝え、休日までも作業を要する"手戻り"については私の至らなさによる部分もあることを丁寧に詫びて作業依頼をしたのだが、相手方は理解を示して「病院局内で対応を調整します」と穏やかに言って財政課から出て行った。椅子に座して頭の後ろで手を組み、薄汚れた財政課の天井を眺めながらため息をついていると、病院局の担当係長からの電話が来た。
「本日はもう夕方になったし、作業にあたる職員の中に残業できない者もいるので、明日土曜の9:00に病院局に来て、課長補佐以下の関係職員の皆に対して直接、予算要求作業のやり直しに至った財政課長査定の経緯を説明してほしい。事と次第によっては病院局は作業を拒否して、財政課長よりもっと高い段階で、つまり、病院局長と総務部長でやり取りすることになるかもしれない」という。自分の段取りの悪さに引け目もあった私は取り敢えず「分かりました」と答えて受話器を置く。話がこじれたから上の者同士のタイマンで決着させてもらおうじゃあねえかとはなんてヤクザな物言いだ…そんな思いは取り敢えず奥に秘めてだ。
平成20年1月20日の土曜の朝は、晴れてはいたが昨日までの薄く積もった雪が凍り付いたように朝日を反射し、県庁に向かって通勤路を歩いていると涙目になるような空気の冷たさだ。財政課というのは仕事柄、部局の担当者に来てもらって説明を受けたり指示を出したりすることが多いのであるが、この度は、私に一人で病院局の執務室に来いという。厳しい先行きが雪道を歩く足下の冷たさからも伝わるようだ。
(「財政課27「病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その2)」編」終わり。「財政課28「病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その3)」編」に続きます。)
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