●病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その3)
休日の土曜日の朝早くに県庁14階の病院局の執務室に伺うと、総務課のセンターテーブルを囲むように、課長補佐と担当係長、予算要求案の作成担当者3人が勢揃いして待ち構えていた。私は、取り囲まれるように座らせられ、財政課長査定の顛末を説明し、要求案の出し直しをお願いした。それを受けて、財政課OBでもある課長補佐によるお裁きがこれから始まるのだ。
「財政課的な立場は分かるけどさ、机上の空論で収支改善を実現する"綺麗な"計画を作ってそれに基づいて予算を組んでも、現場の実情はそんなものについて行けるものではないよ。あんただって春からずっとリアルな話を聞いてきて分かっているだろうに。現場知らずの財政課長に伝えきれないあんたの責任をかぶってまで貴重な休日に家族持ちの若手職員を作業させるわけにはいかないよ」。課長補佐は端から手厳しい。
私も財政課長には現場の実情を伝えるあらゆる具体の情報をもって説明を尽くしたが、端的に言ってそれは「できない理由や、やむを得なさ」といったもののオンパレードであった。財政課長は、幅広い知見と頭の回転の速さで具体的に収支改善を実践した病院の事例なども持ち出しながら、どうすれば優良事例と同様なこと、もしくはそこからヒントを得て「できるのか」を検討し尽くしたのかなどと詰めてきた。私も無意識のうちに諦めモードに入ってしまっていたことを痛感させられた。目の前の現実だけでなく、他所でのことにも目を向けるなど貪欲に経営改善策を追求し尽くしているのか。他所事については状況か違うと切り捨てがちで、確かに全く同じにはできないのであるが、そこから何か自所に適用できる知恵と工夫を見いだして実効ある取り組みに挑戦してみるということまではしてこなかった。昨日までから続く今日と明日しか考えてこなかったのだ。
いろいろと細かい事も話したのであるが、概ね伝えたのはこうした姿勢論であった。病院現場の実情は実情としても、15箇所ある病院現場を俯瞰し、忙しい現場が見渡すことのできない他病院の優良事例などをもとに具体的な改善策を提案できるのは正に本庁機関の役割のはず。そこでの努力や知恵出しと工夫出しを尽くさないまま、超大な現場組織の大きな流れにただ身を任せるだけで良いのかという議論なのだ。これは本庁機関が統計値や業務関係係数を適当にあしらった机上論で綺麗に計画書を仕立てれば良いという指摘ではない。
痛いところを突かれたという気持ちもあったのか、小一時間に亘る私とのやり取りに辟易したのか、仕切り役の課長補佐は、「今ここで知り得る範囲の情報に基づいて、病院現場や我々本庁などの十分な努力が奏功した場合という前提で、収支改善計画を再整理してみる。それに基づいて当初予算要求内容を差し替えることとする」ということにしてくれた。実際に作業にあたる職員3人も課長補佐の判断に得心してくれたようだ。そうなれば作業の邪魔にならないように病院局を引き上げて、県庁3階の財政課執務室で待機することになる。病院局長と総務部長の直接対決は取り敢えず免れたようだ。下りのエレベータで私は胸をなで下ろした。
以前から感じていたが、病院局の担当3人衆は皆が優秀であった。「真冬の土曜の朝の緊急呼び出し会合」から数時間したその日の宵の口には「収支改善計画」の再調整版とそれに基づく翌年度当初予算要求案の差し替えが提出されてきた。何せ突貫工事で作り上げた内容であるから、これこそが正に机上論での仕上げに違いないのであろうが、その内容から浮かび上がる実効性や現実性が作成担当者の真摯さを伝えてくれている。実際にはすべて計画どおりに上手くいくとも思えないが、自分自身の頭で真剣に考えた企画立案には当事者としての責任意識がついて回るし、次なる企画立案などへの展開にも繋がるものだ。
休み明けの財政課長との再調整では、切り込み不足や大胆さの不足を指摘されながらも、内容からにじむ前向きな姿勢というか、進捗管理の仕組みなどにより前向きにならざるを得ないことがビルトインされていることには好感をいただけて、「昨日の今日という作業期間でしたからね。先ずはこの内容から。これから更に本格的に改革を進めていくと言うことで…」として、予算要求案の了承にこぎ着けた。
財政課査定チーム員としては自分の担当する部局の当初予算案編成が最大の仕事であるので、ひとまず一件落着である。さりながら病院局としては、財政課に言われっぱなしで、さも自助努力が足りないかのように指摘される中で、背伸びした収支改善計画を作らせられたという思いと憤懣は大いに残ったようであった。「やれると思うものなら財政課のあんたがここに来てみてやってみればいい」…。土曜日の寒い朝に病院局に呼び出されて取り囲まれる中で何度か課長補佐から言われたことが脳裏にふと浮かんだが、疲れてぼんやりする頭からはすぐに消えていった。早く家に帰って眠りたかっただけだった。
「財政課的な立場は分かるけどさ、机上の空論で収支改善を実現する"綺麗な"計画を作ってそれに基づいて予算を組んでも、現場の実情はそんなものについて行けるものではないよ。あんただって春からずっとリアルな話を聞いてきて分かっているだろうに。現場知らずの財政課長に伝えきれないあんたの責任をかぶってまで貴重な休日に家族持ちの若手職員を作業させるわけにはいかないよ」。課長補佐は端から手厳しい。
私も財政課長には現場の実情を伝えるあらゆる具体の情報をもって説明を尽くしたが、端的に言ってそれは「できない理由や、やむを得なさ」といったもののオンパレードであった。財政課長は、幅広い知見と頭の回転の速さで具体的に収支改善を実践した病院の事例なども持ち出しながら、どうすれば優良事例と同様なこと、もしくはそこからヒントを得て「できるのか」を検討し尽くしたのかなどと詰めてきた。私も無意識のうちに諦めモードに入ってしまっていたことを痛感させられた。目の前の現実だけでなく、他所でのことにも目を向けるなど貪欲に経営改善策を追求し尽くしているのか。他所事については状況か違うと切り捨てがちで、確かに全く同じにはできないのであるが、そこから何か自所に適用できる知恵と工夫を見いだして実効ある取り組みに挑戦してみるということまではしてこなかった。昨日までから続く今日と明日しか考えてこなかったのだ。
いろいろと細かい事も話したのであるが、概ね伝えたのはこうした姿勢論であった。病院現場の実情は実情としても、15箇所ある病院現場を俯瞰し、忙しい現場が見渡すことのできない他病院の優良事例などをもとに具体的な改善策を提案できるのは正に本庁機関の役割のはず。そこでの努力や知恵出しと工夫出しを尽くさないまま、超大な現場組織の大きな流れにただ身を任せるだけで良いのかという議論なのだ。これは本庁機関が統計値や業務関係係数を適当にあしらった机上論で綺麗に計画書を仕立てれば良いという指摘ではない。
痛いところを突かれたという気持ちもあったのか、小一時間に亘る私とのやり取りに辟易したのか、仕切り役の課長補佐は、「今ここで知り得る範囲の情報に基づいて、病院現場や我々本庁などの十分な努力が奏功した場合という前提で、収支改善計画を再整理してみる。それに基づいて当初予算要求内容を差し替えることとする」ということにしてくれた。実際に作業にあたる職員3人も課長補佐の判断に得心してくれたようだ。そうなれば作業の邪魔にならないように病院局を引き上げて、県庁3階の財政課執務室で待機することになる。病院局長と総務部長の直接対決は取り敢えず免れたようだ。下りのエレベータで私は胸をなで下ろした。
以前から感じていたが、病院局の担当3人衆は皆が優秀であった。「真冬の土曜の朝の緊急呼び出し会合」から数時間したその日の宵の口には「収支改善計画」の再調整版とそれに基づく翌年度当初予算要求案の差し替えが提出されてきた。何せ突貫工事で作り上げた内容であるから、これこそが正に机上論での仕上げに違いないのであろうが、その内容から浮かび上がる実効性や現実性が作成担当者の真摯さを伝えてくれている。実際にはすべて計画どおりに上手くいくとも思えないが、自分自身の頭で真剣に考えた企画立案には当事者としての責任意識がついて回るし、次なる企画立案などへの展開にも繋がるものだ。
休み明けの財政課長との再調整では、切り込み不足や大胆さの不足を指摘されながらも、内容からにじむ前向きな姿勢というか、進捗管理の仕組みなどにより前向きにならざるを得ないことがビルトインされていることには好感をいただけて、「昨日の今日という作業期間でしたからね。先ずはこの内容から。これから更に本格的に改革を進めていくと言うことで…」として、予算要求案の了承にこぎ着けた。
財政課査定チーム員としては自分の担当する部局の当初予算案編成が最大の仕事であるので、ひとまず一件落着である。さりながら病院局としては、財政課に言われっぱなしで、さも自助努力が足りないかのように指摘される中で、背伸びした収支改善計画を作らせられたという思いと憤懣は大いに残ったようであった。「やれると思うものなら財政課のあんたがここに来てみてやってみればいい」…。土曜日の寒い朝に病院局に呼び出されて取り囲まれる中で何度か課長補佐から言われたことが脳裏にふと浮かんだが、疲れてぼんやりする頭からはすぐに消えていった。早く家に帰って眠りたかっただけだった。
(「財政課28「病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その3)」編」終わり。「財政課29「掟破りの異動内示」編」に続きます。)
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