新潟久紀ブログ版retrospective

柏崎こども時代39「校外学習は県都新潟市」

●校外学習は県都新潟市

 校外学習と聞けば大抵の子供たちがワクワク胸躍らせる非日常への招待になるのかもしれないが、私はひねくれものなのか、それらの思い出が非常に希薄だ。小学中学年の頃から肥満が進んだこともあり、鉄棒を筆頭に体育でのおおよその種目が上手に出来なかったので、教室から出て身体を動かして評価されることが嫌になっていて、その連鎖で遠足的なイベントまでも億劫になり記憶も少ないのかもしれない。
 それでも学年を上げての大型イベントくらいはかすかな覚えを手繰ってみたい。
 昭和半ばの柏崎市立比角小学校において小学5年生になると、春先に市外への校外学習が設定されていた。大勢で貸し切りバスに乗りあって出掛けるのであるが、柏崎市から道路距離にして80kmほどにある県都の新潟市を見学に行こうというものだった。
 柏崎から新潟までの高速道路が開通する数年前であり、児童で一杯になったバスに揺られて2時間以上かけての移動だったと思う。
 当時は既にマイカーが随分と普及していたが、乗り心地は現代の乗用車とくらべれば雲泥の差で悪く、私も後部座席に乗せられては父親が結構乱暴な運転をする方だったので車酔いをしてまって、道端で停めてもらってはゲーゲーとやっていたものだ。
 バスにおいても、大柄な車体ゆえの体に響いてくるような揺れと例の何とも言えないバス車内の匂いというものが心身に障って、吐き気を催すことが多かったのであるが、当時そんな児童は少なくなかったと思う。
 だからなのかどうが、当時のバス運行には女性のバスガイドが必ず同乗していて、自ら歌ったり児童を歌わせたり、クイズを出したりなどと子供たちの気を紛らわせたものだ。子供だまし的な趣向にしらけ気味だった私にはうっとおしく思えるガイドさんの存在ではあったが、思いのほか大勢がそうした余興を喜んでいるようなのを不思議に思いつつ、吐く前に到着してくれと青い顔で祈るばかりだった。
 新潟市に乗り入れる直前まで、日本有数の水田地帯である越後平野のど真ん中を走り続けるので、車窓からは田植えしたばかりの田んぼばかりを眺め続けるのであるが、市街地に入るとさすがに所狭しと戸建て住宅が密集してきて、果たして柏崎市内では見たことも無いようなビルがひしめき合い大勢の人々が行き交う市の中心部へと行き着いた。
 何やら厳かで物々しい構えの建物の前でバスが止まると、最初はこの建物を見学するのだという。当時の「新潟県庁」であった。1階部分が荒石張りで中央にバルコニー付ファサードがあり、両脇に翼部を張り出すデザインは、何らかの強い権威を感じさせるものではあったが、どんな役割を果たしているのかなどの説明は頭には全く入ってこなかった。市役所のように身近な物事としてイメージできる情報ではなく、どこか遠い世界の話の様に上の空で聞いていたのだと思う。約十年後に新造される後継の建物が自分の職場になるとは思うはずもなかった。
 これに引き続き何か所か視察先を巡ったのかもしれないが全く記憶がない。それほど小学5年生当時の自分には何の継爪痕も残さない催しだったのだ。わざわざこんな遠くまで来て、面白くもなんともない建物などを眺めて終わりかと思いきや、最後に「大和デパート」に寄るという。デパートが見学先だというのだから当時の柏崎市がいかに田舎だったのかということだが、実際に入店してみると広く明るいフロアが煌びやかに装飾されていたりして、日常使いではないハイクラスの物品を買い求めるにはそれに相応しい場があるのだなあと感心させられた。並ぶ品物はどれも高価であるが、その相応しさは子供の私にも分かる気がした。
 近所の八百屋やスーパー、馴染みの衣類店などで扱われるものとは違うグレードがあって、腕時計など同じ品目でも上には上があり、欲しいと思う気持ちを釣り上げていく世界が随分と高くまでありそうだなあと感じ入ったことを覚えている。今から思えば校外学習の最後にお土産を買えるようにと立ち寄った、たかだか地方のデパートではあったが、その時の見学先で一番の印象を残した場所であった。

(「柏崎こども時代39「校外学習は県都新潟市」」終わり。仕事遍歴を少し離れた実家暮らしこども時代の思い出話「柏崎こども時代40「校外学習は宿泊キャンプ」」に続きます。)
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