新潟久紀ブログ版retrospective

【連載27】空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕(その27)」

●不思議なおばちゃん達と僕(その27) ※「連載初回」はこちら
~昏睡状態での入院で施設退所を決断~

 しかし、90歳も半ばに差し掛かる真ん中のおばちゃんも、衰退するときは畳み掛けるように一気にであった。年少おばちゃんの亡くなる半年くらいまえから、「夜中に年少おばちゃんが来た」とか、「何か異様なものが現れる」とか、あり得ない不穏なことを口走り始めたのだが、面会に行くと母も僕も認識できないようになってきた。丁度お盆で帰省した機会に、僕の妻と子供達も連れて行けば、昔の事も思い出して僕たちを識別してくれるのではと淡い期待で面会に行くと、食べかけの菓子パンをちぎって僕たちに投げつけてくる始末だ。認知症が進むというのはこういうことか。正に人格が壊れていく様を見ていくようで、今後の面会は辛さが増していくのだろうなと、ショックを受けた僕の子供達をなだめながら施設を後にした。
 だが、真ん中のおばちゃんと向き合う面会の"次"は無かった。衝撃のお盆の面会の一件から1月ほどの後、おばちゃんが施設の提携病院に入院してしまったと母から電話連絡を受けた。施設職員からの母への説明では、主治医によれば脳梗塞らしくて意識が無く、回復の見込みは低いが急に悪化することもなさそうなので、昏睡状態が長期化するかもしれないという。年少おばちゃんの時と同様に母は特段の延命は望まない旨を伝えたという。とりあえずは推移を見守るしかないが、昏睡状態が固定してしまうと、医療を要しない状態であることが基本となる特養に籍を置き続けることができないということが僕の頭をよぎった。
 真ん中のおばちゃんが昏睡入院して一月近くが経過した。案の定、施設からは病院から戻れる目途が立たないので、施設を退去してはもらえないかという打診が来た。もちろん、強い口調で立ち退きを要求してくるというものではなく、あくまでも施設入所時の契約に基づく連絡であり、円満に僕と母の同意を得たいという姿勢がにじむ丁寧な話しぶりだ。僕と母が心配するのは、施設退去の後に病院からも退院を迫られると真ん中のおばちゃんの受け皿は無いということだ。80歳に達する僕の母も遠い街に住む僕も支えることは出来ない。それを考えると、契約での決まり事とは言え施設の申し入れに同意して良いものかと逡巡するのだ。
 「万一退院させられることがあったら」などと全く不確実な段階ではケアマネさんにも相談できるものではない。僕は、その万一がどの程度の可能性なのか、真ん中おばちゃんの入院先を訪ね、昏睡状態で横たわる真ん中おばちゃんの様子を自分の目で見た上で、病院の医師から所見を伺うことにした。コメントは、真ん中のおばちゃんは「もう長くない。もってあと二三週間くらいでは」ということだった。施設から委嘱を受けている医師であり、その内容は施設職員からも聞いていたのだが、直に確認したかったのだ。
 心証が得られたとなれば、戻れる可能性のない施設の居室をいつまでも確保し続けることは適当ではない。かつての母や僕がそうであったように、今か今かと入所の機会を待ちわびる待機者や家族は大勢いるという。僕と母は納得して速やかに真ん中のおばちゃんの施設退所の手続きをとり、僕は有給休暇を取って自家用車で居室の荷物や衣類タンスなど一切を引き上げた。真ん中のおぱちゃんは、倒れて緊急入院して以来実家に戻れないまま、そして、施設からの入院でも施設に戻れないまま、それも、そんなことを考えるような意識も戻らない昏睡のまま、最後の時を病院で過ごすことになった。

(空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕」の「その28」に続きます。)
※"空き家"の掃除日記はこちらをご覧ください。↓
 「ほのぼの空き家の掃除2020.11.14」
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