新潟久紀ブログ版retrospective

【連載24】空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕(その24)」

●不思議なおばちゃん達と僕(その24) ※「連載初回」はこちら
~まさかの入所キャンセルと僥倖 ~

 最初はこの期に及んで母は困ったことを言い出したなあと思っていたが、時間を掛けて隅々までしっかりと見てきたことが良く伝わる母の話を聞いているうちに、これは真剣な見解だと思えてきた。特養に入るとなれば終の棲家である。他人が良かれと思って押し込んでしまえばよいものではない。妥協してはいけない線はあるだろう。それを見極められるのは、本人の判断力が衰えている中で、生まれながらに気性を良く知る僕の母しかできない。僕も打診の話しを聞いてからその特養をネットで調べたのだが、確かに建物の外と中が古い感じであり、そうしたハードの不足を補うような運営内容などソフト面の情報も少なく物足りないとは思っていた。ここは母の判断もやむなしと僕もキャンセルに同意した。
 苦労して調整に当たってくれているのにせっかくの打診を断るのは申し訳ないし、心証を害して今後は対応を冷ややかにされてしまうかもなあなどと恐れながらキャンセルの連絡をケアマネさんにすると、じっくりとその理由を聞いた上で意外にも「わかりました」と穏やかに応えてくれた。やはり本人や縁者が納得できてこその施設入所が大事だとして、引き続き全体の優先度を見ながら空きがでたら連絡しますと言ってくれた。本当にありがたいことで、頭の下がる思いだった。
 それにしても、この先一年近くは待つのだろうか。その上、空き情報が来ても今回と同様にお断りということになる可能性もある。僕や母の僅かな蓄財の取り崩しも本気で想定して対応していかねばならなくなりそうだ。真ん中のおばちゃんが、かつて育ち盛り食べ盛りの僕へと、勤め先の料亭の余り物の料理のお裾分けを続けてくれたことが思い出される。恩義に報いる番が回ってきたのだなあと。
 しかし、転機は比較的直ぐに訪れた。キャンセル騒ぎの翌11月半ば。ケアマネさんから思いがけない連絡が入った。「新しく駅前にできた特養に入れるかもしれない」という。「ああ」と思い出した。昨年の12月下旬に真ん中おばちゃんが倒れて緊急入院した騒ぎの折に、何時になるかあてには出来ないけどとりあえずダメ元でエントリーしておくかと申込書を提出しておいた施設が7月に完成開所したのだが、既存施設で死亡退所者が増えて待機者が減る中で、90歳を超える真ん中のおばちゃんの優先度が高まったというのだ。昨今の介護職員需給のひっ迫もあり真新しい施設に十分な職員を集めるのが困難な状況らしく、真ん中のおばちゃんが比較的手が掛らない状態ということも奏効したらしい。
 前回"お断りした時"と同様に、僕の日程の都合は付かなかったのだが、スピード優先と母の目利き力を信じて、母から日を空けずに施設の視察に行ってもらった。結果の連絡は「この施設なら良い」であった。なにしろ最新の施設であり何もかもが真新しく施設や設備の機能も最新鋭で凄いという。
 母の眼鏡にかなったところで、真ん中のおばちゃん本人の同意がなくては話は決まらない。僕と母とで回顧付き有料老人ホームでの生活が一年近くになり、せっかく馴染んだところであることと、何よりも自宅に替えるためのリハビリとして入所しているという意識の本人は、更に別の施設に移るという話を聞いた途端は強い難色を示した。それでも、もはや頼りにできる唯一人の縁者である僕の母が新しい施設の環境の良さなどをじっくりと説いて聞かせていくうちに、最後は「分かった」ということになった。自宅に帰りたいという思いは根強いようだが、高齢化のためか最近は集中力が続かなくなり認知症的な反応も見られてきた。面倒なことはわからないので僕の母に任せるという心持ちなのかも知れない。
 かくして、真ん中のおばちゃんの有料老人ホームから特養への転居は施設の受入都合により12月5日に決まった。金曜日であったが僕は有給休暇が取れたので、真ん中のおばちゃん本人の移送と簡単な衣類タンスなどの搬送運搬に対応した。母から聞いていたとおり、建物の内外と施設設備の全てが真新しく最新鋭だ。真ん中のおぱちゃんが倒れて緊急入院した頃は、約1年後にこんな素晴らしい施設に入所させることができるなど夢にも思えなかった。困った時にこちらの勝手なお願いや要望を訴えるてしまうだけのケアマネさんなど関係者の方々がこうした展開を支えてくれていることの有難みが当事者として具体的に対応してきて痛感された。
 施設職員との手続きを一通り終えて帰路につくと、施設に来た時に降り始めた雪が本格化してきた。翌日には、例年比較的積雪の少ない僕の住む街では大変な大雪に見舞われたのだが、元日から年間を通じて二人のおばちゃん達の処遇に明け暮れたものの、年末までに二人ともが選びうる中でも最良の方法である特養入所へ繋げることができたことで、数年ぶりに30センチの積雪で埋もれる歩道での長靴の足取りすら軽くなっていた。

(空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕」の「その25」に続きます。)
※"空き家"の掃除日記はこちらをご覧ください。↓
 「ほのぼの空き家の掃除2020.11.14」
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