新潟久紀ブログ版retrospective

財政課1「肩透かしの総務班配属スタートで生活転換だ」編

●肩透かしの総務班配属スタートで生活転換だ

 平成13年3月半ば過ぎ。県庁内で一二を争う過酷な職場と言われている財政課への異動内示を受けて、私は非常に身構えていた。役所の仕事というのは突き詰めれば予算次第。華々しい政策的な事業予算のみならず、許認可の審査や意思形成のための会議体の運営など、職員をどのように組織的に配置して作業や役務に従事させるのかも重要で、人件費や事務費など経常的な予算であっても、その調整や査定は行政の運営を大きく左右する。国では財務省が各官庁の予算を握ることから"官庁の中の官庁"と言われているように、自治体においても、財政課は肝心要となるセクションなのだ。入庁してから10年余りを経て、予算を査定調整される側の立場から、功罪が相まみえるそのプレゼンスを見せられてきた私は、長く県職員生活を続けていく上で、若手のうちに経験しておきたい登竜門ではあるなあと考えていたので、内示を受けて尻込みするというより、武者震いするという感じだったのだ。
 少し前のめりで「さあ私に何を担当させるんだ」と、詳しい事務分掌の伝達を待ち構えていたのだが、内示日から数日経っても何も連絡が来ない。人事課への異動内示の時は、配置される行政システム改革班が新設の組織であったため、仕事内容や分担の調整に手間取ることが理解できたが、財政課は組織改正など無いはず。知人の財政課OBに聞くと、財政課は「毎度こうだよ」とにべもない。ならばと、先日終えた2月議会で成立したばかりの平成13年度当初予算の報道発表資料などを手にして、どの部局の予算査定担当になってもよいように概括的な予習くらいはし始めたものだ。
 しかし、役所仕事の内部管理の極みとして、"鉄板中の鉄板"的な業務といえる予算査定の仕事に、これまでアブノーマルな仕事を渡り歩かされてきた私がすんなりとはまるのだろうか。過去に経験してきた5カ所の職場のことを考えると、何処もトラブルに見舞われがちであった。新採用でいきなり債権回収に奔走した上に、事業計画推進中の工業用水道と旧施設の前代未聞のドッキング、コメどころ新潟を直撃したガットウルグアイラウンドという黒船来襲のタイミングでの農政業務への着任、県庁への信頼を失墜させた公金不適正支出問題調査のやり直しへの従事…。異動内示後の音沙汰無しが続く中で妙に自虐的な思考が脳裏に染み広がっていた。
 もうすぐ3月も終わりになろうかという頃、新しく赴任する財政課における私の担当業務を伝達する電話が入った。「総務班の経理担当として主に総務部内の担当課の予算管理を行ってもらう」のだという。驚いた。予算査定チームの一員ではなく、財政課の属する総務部内で決定済み予算の執行管理等を行う庶務的な仕事になるというのだ。財政課の中で査定担当とは比べものにならないほど業務の量も質も軽度の業務だ。毎日ほぼ定時に退庁できるという。気負いすぎていたために本当に腰が抜けそうな脱力感に見舞われた。
 なるほど、私の能力は"重要な査定業務の任に適わず"と、私自身が査定された結果というわけか。伝達を聞いた直後は、他者から見れば私は評価が低いのだなあと思い知らされて少し落胆もしたが、私は昔から頭の切り替えだけは早いので、「これは人並み以上に理不尽な(?)苦労を重ねてきたことに対するご褒美かな」とポジティブに考え、出先機関にいた頃のリフレッシュできた日々を直ぐに思い出していた。毎日定時に退庁して、バスケットボールにバドミントン、テニスなどもやりたいし、残業続きでろくに相手してやれなかった子供達とも楽しみたいな…といった具合だ。県庁が仕事で自分を使い込んでくれないのなら、別の舞台で注力できるやりがいを見出そうと、興味や関心のある余暇活動の分野の情報収集に一気に切り替えたのだ。
 そんな訳で、財政課の経理担当配属されて後は、事務的で定型的な業務ばかりであったとはいえ結構な作業量があり残業する同僚もいた中で、私は仕事以外に楽しめたり自分を活かせる世界に向けた時間を確保したい一心だったので、とにかく与えられた仕事を効率的に処理して就業時間内に納め、定時に即退庁することに腐心していた。私と同じタイミングで財政課に転入してきて査定担当チームに配置された同期職員がいたのだが、「毎晩10時過ぎ帰りだよ」と春先からくたびれ気味の彼に「お疲れさん」と笑顔で手を振って、県庁から出てまだ明るい街路を家路につくのは、快感にすらなっていた。本庁勤務であっても仕事中心にならない暮らしが出来る。そういえば、公務員になったばかりの頃は昔の友人などからは「暇で良さそうだね」と言われたものだ。年1000時間を超える残業に見舞われた新採用職場からのスタートで今までは感覚がズレていたのかもしれない。「これからずっと仕事と家庭や趣味を両立していくぞ」と本気で思えた。身構えた気持ちが肩透かしをくらって拍子抜けするも、人生の見直しにつながる好機になりそうな気配の財政課勤務スタートの春だった。
 この頃は、まさかこの余裕ある経理担当職務において、自分的に見て県職員で5本の指に入るくらいの大きな悲劇に見舞われるなどとは想像すらせずに、久方ぶりの呑気な日々を満喫していたのだ。

(「財政課1「肩透かしの総務班配置スタートで生活転換だ」編」終わり。「財政課2「余裕こいてたら特命2つの言い渡し」編」に続きます。)
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