新潟久紀ブログ版retrospective

【連載23】空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕(その23)」

●不思議なおばちゃん達と僕(その23) ※「連載初回」はこちら
~有料施設から転換できるか~

 予定どおりの日程で、僕が車で送迎して年少おばちゃんの入所は終えたのだが、知的障害があるので一筋縄ではいかない。車で連れてこられて暫くは介護指導員らとレクレーションに興じていたのだが、夕方近くになると「帰りたい」と言い始めたという。入所に同意して来たもののその時々の意識で態度が異なるのだ。施設職員もその辺は心得ていて一々振り回されずに、なだめたりすかしたりしながら、本人に今日はここで泊まろうねなどと話してそのように事を運ぶのだが、一日一日と重ねても、本人はなかなか落ち着かなかったようだ。
 本人から僕の母を施設に来させろと訴え続けられた職員は、施設職員限りで対処するつもりではいたが、そうした状況だけは承知して欲しいと僕の母に電話で逐次連絡してきた。どうやら本人は僕の母が見捨てて施設に押し込んだものと怒っているきらいがあるという。そんな話を聞けば母もいたたまれなくなり、春先で気候も良かったので自転車で施設に行き、本人と日中一緒に過ごしてなだめたりすることが入所後の数日間続いた。
 そうした難しいケースでもあり、特養につきものの「介護計画」の内容も、よりきめ細やかで専門的な話にならざるを得なかった。親族がその説明を聞いて身元引受人として同意の判子を押す四半期に一回ほどの手続きについては、高齢の僕の母ではさすがに荷が重かったので、土曜の午前などに打ち合わせを設定してもらい、僕が対応していった。
 それでも時が解決するとはよく言ったもので、2か月も経つと年少おばちゃんも施設の生活に馴染み、あまり職員を煩わせることが少なくなってきたようだ。倹約の鬼としてスパルタンだった真ん中のおばちゃんの下での厳しい暮らしに比べれば、施設職員は誰もがやさしく、空調など生活環境も快適で、もともと贅沢を知らない者として何不自由のない生活がこの上もないことであると分かってきたのだろう。
 梅雨入り前の市内の恒例行事なのだが、住民による住居周りの側溝清掃と雑草取りや除草剤散布を行う日がある。例年土曜か日曜に設定されているので僕は帰省して実家に前泊し、御近所と示し合わせた朝6時頃からの作業に臨む。これまでもおばちゃん達の家の周りも併せて作業してきたのだが、今年は無人となっていることが意識される。二人のおばちゃんが、別々ではあるが、きちんと介護を受けて生活していける施設に入れて気を楽に持てるようになったね、などと作業を終えて朝食を摂りながら僕と母は話した。
 しかし、正に人間は"現金"なもので、一面で落ち着くとそれで良しとはいかず別の面が心配になるものだ。真ん中のおばちゃんが介護付き有料老人ホームに入所して半年余り。月々の支払は結構な金額だ。毎日ホテルに泊まっているようなもので、当然真ん中のおばちゃんの月あたりの年金収入は有に超えている。貯金を取り崩してというのはいつまでも続かない。90歳を超えて年齢的にも生活能力的にも衰えが進む真ん中おばちゃんは既に特養入所に適う状態になっていた。ケアマネさんから早く施設の空き情報が来ることを祈るばかりだが、待機者は相当多そうだ。
 平成26年も風が冷たく感じ始める10月の下旬になっていた。つるべ落としの秋。日が短くなるのが加速的で夜が日々次第に長くなって行く。真ん中のおばちゃんの特養待機も明ける見込が遠のいていくかのような持久戦の様相だなあと時折思っていたある日の夜、母から電話だ。「ケアマネさんから連絡が入った。市内の特養に空きが出て、真ん中のおばちゃんに打診が来た」。
 僕や母の蓄財の取り崩しも視野に入れねばならないかと考えていた矢先に、なんというラッキーか。母はその特養について、市内の近くにあるとはいうが見たことがないので現地に行って視察がてら職員の話も聞いてみたいという。僕は仕事の都合で融通がつかないので視察は母に一任した。待機者が多い中で施設も空きはすぐ埋めたいはずなので段取りはトントン拍子に進むだろう。直ぐに母からまた電話が来て明後日の午前中に施設に視察に行けることになったという。懸案の真ん中のおぱちゃんの特養入所が一年も経たないうちに叶うとは。僕はこれで一区切りだと受話器を置いて安堵のため息をついた。
 母は、真ん中のおばちゃんにと打診のあった特養を視察すると、その日の夕方すぐに僕に電話してきた。施設職員による本人の面談調査の日程までも決めてきたという報告だろうと受話器を取ると、「この話はお断りしようと思う」と思いがけないことを言うから驚いた。特養は待機者が多いので、千載一遇の機会を逃すと後回しにされるというのは母も十分承知しているはずなのにである。いぶかる僕に母は続けた。「施設をくまなく見てきたが、古くていたるところくすんでおり、空いている居室はとても寂し気な位置にあった。痴呆とかで本人が何も分からない状態ならまだしも、真ん中おばちゃんは高齢になってから新築で自分の住み良い家を求めた人であり、頑固でプライドも高い。真ん中のおばちゃんには馴染まないと思う」。

(空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕」の「その24」に続きます。)
※"空き家"の掃除日記はこちらをご覧ください。↓
 「ほのぼの空き家の掃除2020.11.14」
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