●驚愕の「3ジャンプ」運動とマンガリーフレット自作
「新潟県として独自の取組を展開するぞ」。農業専門職でもある課長補佐から、ガットウルグアイラウンド農業合意を受けて、農地集積を加速させるべく、国の取組への追随や便乗だけでなくオリジナリティを出すべしとの指示が下った。「さすが国から課長に来て頂いている新潟県の取組は凄い」と世間に言わせるのだ、とのヨイショ心もあからさまに言う。この課長補佐の本音丸出しで歯に衣着せぬ物言いと、それでいて核心を突く態度は、農業関係の業界筋でも有名で評価も高く、私も事務屋にはなかなか見られないタイプだと思い慕っていた。
さすがに指示の矛先は、係内で私の上位職であり他課から転入したばかりの農業専門職の主査に向けられた。先に記したとおり、農地集積は長い時間を掛けても遅遅としており、農地法という"規制の中の規制"とも言える岩盤を前にして、誰しもが推進を尻込みする施策だ。そこにブレイクスルーを起こすべく本県独自の取組を考えろというのだから、真面目な主査は頭を抱えた。
農地については、貸し出すだけでも「先祖伝来を手放すのか」と噂されるなど、農村のムラ社会の中では"流動化"を相互に牽制するような風土が根強い。農地の流動化を通じた利用促進のためには、農地の出し受けの当事者はもとより、地域や県全体として社会的にそれを肯定的に思う意識醸成が必要だ。係内で具体策案を検討する中で、なにかスローガンを掲げて県全体としての機運を盛り上げる取組を独自に展開することが、課長補佐への答えになるのでは…と議論が収斂していった。
そこから生まれたのが「スリージャンプ運動」だ。国際競争力も視野にした強い農業者の育成には、①先ずは担い手としての公的な位置づけが明確化される「認定農業者」となり、②次に、各種支援策の集中等を通じて施設設備整備と共に「農地の集積を加速」させ、③更に経営基盤の安定と永続性のための「法人化」も目指す…。ざっくり言ってこの①から③の3段階をガットウルグアイラウンド対策期間内の6年間ほどで一気に進めなくてはならない。そのスピード感は「ホップ・ステップ・ジャンプ」などと悠長にはしていられない。全ての段階を劇的に「ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ」して行かねばならない…。担当主査は「だから"3ジャンプ"なのだ!!」と言い切って見せた。
あまりに真っ直ぐでひねりのないスローガンに「大丈夫か?」と思いつつ、課長補佐に説明すると、「ジャンプ、ジャンプ、ジャンプを連続するくらいが期限内に必要だというのは、農業者含め広く老若男女に分かり易いかもね」と意外にも肯定的だ。確かに、農林水産省が発する各種制度の名称や資料内容は小難しい漢字や熟語、論述が多くて現場の農家に伝わるまでには相当かみ砕いてやることに腐心が必要だった。課長補佐はその辺も意識しているのだ。
続いて「それで、どう進める?」と課長補佐は私の方をギョロリと睨む。「取組骨子の企画は主査に命じたが、展開は法制度推進担当の貴方でしょう」。確かにそうだ、全くの新たな概念であるこの「スリージャンプ運動」を県内農業関係者津々浦々に普及浸透させなくては取り組みの意味をなさない。それもウルグアイラウンド対策期間の短さを考えれば"早急に"だ。市町村を通じて農業団体経由で農業者や関係者に周知するにしても、ありがちな文字の羅列による無味乾燥でお役所的な通知文の発出では、広く浸透しないのは経験的にも明らかだ。
それならば広告媒体を活用してはどうか。広告代理店に新聞やテレビラジオなどによる宣伝広報を展開してはと考え、我が係で使用可能な予算がないか探すが、まともな財源が見当たらない。しかし、課長補佐は、予算が無いことなど十分承知の上で、早急な対応を求めている。これは若い事務屋を試しているのだなと思う。私の答えはこうだ。「予算ゼロなので自作で普及啓発用のリーフレットを作成する」と。
係長に申し出ると、素人の手作りでまともなモノができるのかといぶかったが、それでも上に諮ることについて了解してくれたので、実質的に可否の判断を下す課長補佐へ伺ってみる。一笑にされて終わりか…と思っていたら、「面白そうだからやってみな」と意外にも了解。昨今は、あまり上手な絵でなくても、いわゆる"ヘタウマ"といわれるイラストやマンガが話題だし、国が外注して作るような完成度の高すぎるチラシや広報には、現場の農業者の泥臭い臨場感との乖離を感じてきたところだとも言う。「新潟の田舎の小役人らしい手作り感で親しみやすさを狙ってみるのも面白いだろう」と、即座に了解の背景にある戦略性を語る課長補佐には脱帽だ。
「新潟県として独自の取組を展開するぞ」。農業専門職でもある課長補佐から、ガットウルグアイラウンド農業合意を受けて、農地集積を加速させるべく、国の取組への追随や便乗だけでなくオリジナリティを出すべしとの指示が下った。「さすが国から課長に来て頂いている新潟県の取組は凄い」と世間に言わせるのだ、とのヨイショ心もあからさまに言う。この課長補佐の本音丸出しで歯に衣着せぬ物言いと、それでいて核心を突く態度は、農業関係の業界筋でも有名で評価も高く、私も事務屋にはなかなか見られないタイプだと思い慕っていた。
さすがに指示の矛先は、係内で私の上位職であり他課から転入したばかりの農業専門職の主査に向けられた。先に記したとおり、農地集積は長い時間を掛けても遅遅としており、農地法という"規制の中の規制"とも言える岩盤を前にして、誰しもが推進を尻込みする施策だ。そこにブレイクスルーを起こすべく本県独自の取組を考えろというのだから、真面目な主査は頭を抱えた。
農地については、貸し出すだけでも「先祖伝来を手放すのか」と噂されるなど、農村のムラ社会の中では"流動化"を相互に牽制するような風土が根強い。農地の流動化を通じた利用促進のためには、農地の出し受けの当事者はもとより、地域や県全体として社会的にそれを肯定的に思う意識醸成が必要だ。係内で具体策案を検討する中で、なにかスローガンを掲げて県全体としての機運を盛り上げる取組を独自に展開することが、課長補佐への答えになるのでは…と議論が収斂していった。
そこから生まれたのが「スリージャンプ運動」だ。国際競争力も視野にした強い農業者の育成には、①先ずは担い手としての公的な位置づけが明確化される「認定農業者」となり、②次に、各種支援策の集中等を通じて施設設備整備と共に「農地の集積を加速」させ、③更に経営基盤の安定と永続性のための「法人化」も目指す…。ざっくり言ってこの①から③の3段階をガットウルグアイラウンド対策期間内の6年間ほどで一気に進めなくてはならない。そのスピード感は「ホップ・ステップ・ジャンプ」などと悠長にはしていられない。全ての段階を劇的に「ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ」して行かねばならない…。担当主査は「だから"3ジャンプ"なのだ!!」と言い切って見せた。
あまりに真っ直ぐでひねりのないスローガンに「大丈夫か?」と思いつつ、課長補佐に説明すると、「ジャンプ、ジャンプ、ジャンプを連続するくらいが期限内に必要だというのは、農業者含め広く老若男女に分かり易いかもね」と意外にも肯定的だ。確かに、農林水産省が発する各種制度の名称や資料内容は小難しい漢字や熟語、論述が多くて現場の農家に伝わるまでには相当かみ砕いてやることに腐心が必要だった。課長補佐はその辺も意識しているのだ。
続いて「それで、どう進める?」と課長補佐は私の方をギョロリと睨む。「取組骨子の企画は主査に命じたが、展開は法制度推進担当の貴方でしょう」。確かにそうだ、全くの新たな概念であるこの「スリージャンプ運動」を県内農業関係者津々浦々に普及浸透させなくては取り組みの意味をなさない。それもウルグアイラウンド対策期間の短さを考えれば"早急に"だ。市町村を通じて農業団体経由で農業者や関係者に周知するにしても、ありがちな文字の羅列による無味乾燥でお役所的な通知文の発出では、広く浸透しないのは経験的にも明らかだ。
それならば広告媒体を活用してはどうか。広告代理店に新聞やテレビラジオなどによる宣伝広報を展開してはと考え、我が係で使用可能な予算がないか探すが、まともな財源が見当たらない。しかし、課長補佐は、予算が無いことなど十分承知の上で、早急な対応を求めている。これは若い事務屋を試しているのだなと思う。私の答えはこうだ。「予算ゼロなので自作で普及啓発用のリーフレットを作成する」と。
係長に申し出ると、素人の手作りでまともなモノができるのかといぶかったが、それでも上に諮ることについて了解してくれたので、実質的に可否の判断を下す課長補佐へ伺ってみる。一笑にされて終わりか…と思っていたら、「面白そうだからやってみな」と意外にも了解。昨今は、あまり上手な絵でなくても、いわゆる"ヘタウマ"といわれるイラストやマンガが話題だし、国が外注して作るような完成度の高すぎるチラシや広報には、現場の農業者の泥臭い臨場感との乖離を感じてきたところだとも言う。「新潟の田舎の小役人らしい手作り感で親しみやすさを狙ってみるのも面白いだろう」と、即座に了解の背景にある戦略性を語る課長補佐には脱帽だ。
(「農政企画5-1「驚愕の"3ジャンプ"運動とリーフレット自作」編(1/2)」終わり。ミルクボーイ並み?の掛け合いもある「農政企画5-2「驚愕の"3ジャンプ"運動とリーフレット自作」編(2/2)」に続きます。)
☆農政企画課勤務時代に自作したマンガリーフレットもご笑覧ください。
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