今年は雪が多いか少ないか・・・
窓から見える山は真っ白で綺麗です。
それでは嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ♪
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (18)
美冬がベッドから出て行く気配で悟は目を覚ました。
「今、何時?」
「6時少しまわったところ」
「早いね。もう行くの?」
「一度家に帰って着替えないと」
「同じ服じゃまずいか・・・」
悟はベッドの中から、美冬が着替える様子を眺めていた。
「そんなに見ないで」
「わかった」
悟はそう言って手で目を覆い、それから中指と薬指の間を開いてのぞいた。
笑いながら美冬は悟のそんなしぐさをたまらなく愛おしく思う。
手早く着替えると、バスルームで顔を洗い髪をとかしながら、今日の仕事の段取りを考えた。
新年の挨拶にいかなくてはいけないところが2件、夜も会食の予定が入っている。
去年あたりから父の功一が長い付き合いの自分のお得意様を、少しずつ美冬に引き合わせるようになった。
美冬はワンマンだった功一に反発していたのに、最近めっきり穏やかになっていく父の背中に寂しさを覚える。
佐和野のことが頭に浮かんだ。
もう、父の望む未来を選択することはできない。
今ならまだ引き返せる?鏡の中の自分に問いかけてみる。
そんなことはとうてい無理だ。
これから仕事のために悟と離れるのすら辛い。
どこからか湧き上がる、悟を求める熱い気持ちを抑えて明るく声をかけた。
「仕事あるから行くね」
「ほんとにもう行っちゃうんだ。今夜、また会える?」
悟がベッドから起きて来て美冬の背中に声をかけた。
「今夜は無理なの」
「じゃいつだったら会える?明日?あさって?」
美冬は靴を履いて振り返ると、悟の胸を人差し指で軽く突いた。
「困らせないで。連絡するから」
悟はその手を引いて腕の中に引き寄せた。
「アトリエで待ってる。俺はずっとアトリエで絵を描いてるよ」
家に向かうタクシーの中で、美冬は別れ際に交わしたキスの、
柔らかい唇の感触を思い出していた。
甘く切ない想いがこみ上げてきて、何度も悟の名前を心の中でつぶやいた。
忙しい仕事の合間をぬって、美冬は悟に会いに行った。
アトリエに行って、悟が絵を描く様子をずっと見ているだけで帰ることもあった。
絵を描き始めると悟は寝食を忘れて没頭してしまうことも多く、身体のことが気がかりだった。
その夜は、家で目を通そうと思っていた書類を忘れてギャラリーに取りに戻った。
閉店時間はとうに過ぎているのに灯りがついている。
佐和野だった。
このところ体調を崩している功一に代わって、遠方への出張は佐和野が一手に引き受けていた。
二人きりで顔を合わせたのは久しぶりだった。
あの話を避けては通れない。
「よかったら食事して帰りませんか?仕事以外の話もしたいし」
「あの、そのことなんだけど、佐和野さんとはこれからもずっと仕事のパートナーとして」
「大町悟ですか?」
佐和野が美冬の言葉をさえぎった。
重い空気が流れた。
「彼は才能に溢れているし、若くて可能性も無限だ。あなたが惹かれているのは
画家としての大町悟の才能じゃないのかな。長い人生を共に歩いていける相手とは思えない」
「確かに先のことはまだ考えられないけど、今は彼のことで頭がいっぱいで・・・自分でも戸惑ってるくらい」
佐和野が小さくため息をついた。
「そうですか。僕が入り込む余地はなさそうだな」
「ごめんなさい」
「あやまらないで。僕の話はなかった事にしてください」
「ありがとう」
佐和野は机の引き出しから何かをとりだすと美冬に言った。
「ここからは仕事の話です」
そう言うと佐和野は一枚の名刺を美冬に差し出した。
美冬もよく知っている月刊アートの社員のものだった。
佐和野の友人に月刊アートの編集者がいて、有望な新人が個展を開くまでを追いかける企画を提案し、編集長からOKをもらった。
そこで悟を取材したいということだった。
毎月、見開き2ページの記事にして、最後は個展開催の記事で締めくくる。
ただ才能があるだけでは世に出られない。
実は個展を成功させるために、この企画を友人に持ちかけたのは佐和野だった。
「社長は了解済みです。大町くんには美冬さんから話してください。向こうはとにかく一度本人に会いたいと言ってますから」
「わかりました。でも・・・」
「心配しないで。あなたと大町悟がどういう関係でも、彼の個展は僕がやりたくて言い出したことですから」
佐和野はいつも大人で冷静だ。
美冬は今更ながら佐和野の好意に甘えてばかりで、その気持ちに応えられないことを申し訳なく思った。
----------つづく-------
窓から見える山は真っ白で綺麗です。
それでは嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ♪
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妄想ドラマ 『Snowflake』 (18)
美冬がベッドから出て行く気配で悟は目を覚ました。
「今、何時?」
「6時少しまわったところ」
「早いね。もう行くの?」
「一度家に帰って着替えないと」
「同じ服じゃまずいか・・・」
悟はベッドの中から、美冬が着替える様子を眺めていた。
「そんなに見ないで」
「わかった」
悟はそう言って手で目を覆い、それから中指と薬指の間を開いてのぞいた。
笑いながら美冬は悟のそんなしぐさをたまらなく愛おしく思う。
手早く着替えると、バスルームで顔を洗い髪をとかしながら、今日の仕事の段取りを考えた。
新年の挨拶にいかなくてはいけないところが2件、夜も会食の予定が入っている。
去年あたりから父の功一が長い付き合いの自分のお得意様を、少しずつ美冬に引き合わせるようになった。
美冬はワンマンだった功一に反発していたのに、最近めっきり穏やかになっていく父の背中に寂しさを覚える。
佐和野のことが頭に浮かんだ。
もう、父の望む未来を選択することはできない。
今ならまだ引き返せる?鏡の中の自分に問いかけてみる。
そんなことはとうてい無理だ。
これから仕事のために悟と離れるのすら辛い。
どこからか湧き上がる、悟を求める熱い気持ちを抑えて明るく声をかけた。
「仕事あるから行くね」
「ほんとにもう行っちゃうんだ。今夜、また会える?」
悟がベッドから起きて来て美冬の背中に声をかけた。
「今夜は無理なの」
「じゃいつだったら会える?明日?あさって?」
美冬は靴を履いて振り返ると、悟の胸を人差し指で軽く突いた。
「困らせないで。連絡するから」
悟はその手を引いて腕の中に引き寄せた。
「アトリエで待ってる。俺はずっとアトリエで絵を描いてるよ」
家に向かうタクシーの中で、美冬は別れ際に交わしたキスの、
柔らかい唇の感触を思い出していた。
甘く切ない想いがこみ上げてきて、何度も悟の名前を心の中でつぶやいた。
忙しい仕事の合間をぬって、美冬は悟に会いに行った。
アトリエに行って、悟が絵を描く様子をずっと見ているだけで帰ることもあった。
絵を描き始めると悟は寝食を忘れて没頭してしまうことも多く、身体のことが気がかりだった。
その夜は、家で目を通そうと思っていた書類を忘れてギャラリーに取りに戻った。
閉店時間はとうに過ぎているのに灯りがついている。
佐和野だった。
このところ体調を崩している功一に代わって、遠方への出張は佐和野が一手に引き受けていた。
二人きりで顔を合わせたのは久しぶりだった。
あの話を避けては通れない。
「よかったら食事して帰りませんか?仕事以外の話もしたいし」
「あの、そのことなんだけど、佐和野さんとはこれからもずっと仕事のパートナーとして」
「大町悟ですか?」
佐和野が美冬の言葉をさえぎった。
重い空気が流れた。
「彼は才能に溢れているし、若くて可能性も無限だ。あなたが惹かれているのは
画家としての大町悟の才能じゃないのかな。長い人生を共に歩いていける相手とは思えない」
「確かに先のことはまだ考えられないけど、今は彼のことで頭がいっぱいで・・・自分でも戸惑ってるくらい」
佐和野が小さくため息をついた。
「そうですか。僕が入り込む余地はなさそうだな」
「ごめんなさい」
「あやまらないで。僕の話はなかった事にしてください」
「ありがとう」
佐和野は机の引き出しから何かをとりだすと美冬に言った。
「ここからは仕事の話です」
そう言うと佐和野は一枚の名刺を美冬に差し出した。
美冬もよく知っている月刊アートの社員のものだった。
佐和野の友人に月刊アートの編集者がいて、有望な新人が個展を開くまでを追いかける企画を提案し、編集長からOKをもらった。
そこで悟を取材したいということだった。
毎月、見開き2ページの記事にして、最後は個展開催の記事で締めくくる。
ただ才能があるだけでは世に出られない。
実は個展を成功させるために、この企画を友人に持ちかけたのは佐和野だった。
「社長は了解済みです。大町くんには美冬さんから話してください。向こうはとにかく一度本人に会いたいと言ってますから」
「わかりました。でも・・・」
「心配しないで。あなたと大町悟がどういう関係でも、彼の個展は僕がやりたくて言い出したことですから」
佐和野はいつも大人で冷静だ。
美冬は今更ながら佐和野の好意に甘えてばかりで、その気持ちに応えられないことを申し訳なく思った。
----------つづく-------