皇居の落書き

乱臣賊子の戯言

皇位継承の問題について(試論・皇位継承者の選定は、本来天皇陛下の専権事項ではないか)

2024-05-11 00:28:07 | 皇室の話(3)
1 はじめに
政策・施策の議論をする際、実現可能かどうかという視点は重要なものであると思うのだが、それにとらわれ過ぎると、既存の政策・施策の延長、修正的なものにとどまることとなって、物事の根本的な解決にならないということもあるのではないだろうか。

そういうわけで、実現可能性ということにはあまりとらわれずに、このあたりで筆者としての試論を述べようと思うのであるが、書いてみようと思う。

2 法定決定は適切なのか
まず、一つ目は、これまでに述べた「領域」、「法定継承順位」の問題にかかわる事柄であるが、そもそも、国会制定の法律において、皇位継承資格者の順位、次期皇位継承者を決定してしまうということが適切であるのか否かという問題である。

これらは、皇室の方々の人生を大きく左右してしまうものであり、国民の側からすると、どこまで踏み込んで決めてしまってよいのかについては、躊躇があるであろう。

他方、法律事項ということになると、皇室の方々は何も言えなくなってしまう。

踏み込んで者を言えるのは、自らの信念は天皇陛下のお考えよりも正しいとか、皇室をマネジメントの対象ととらえているような勢力ぐらいであり、そういった勢力の考え方というのは国民の多数と合致していないので、いつまでも結論にたどり着かない。

現状は、そんな状況なのではないだろうか。

3 天皇陛下の専権事項とすることの可能性
現行の憲法第2条においては「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定めており、この条文作成に関わった関係者の念頭にあったのは、旧皇室典範をベースに同様の内容を法律で作り直すということであったのかもしれない。

ただ、現行の同条の解釈として、皇室典範を国会制定の法律で定めることは必須であるとしても、具体的にどこまで決定するべきかについては、再考の必要があるのではないか。

何が言いたいかというと、同条において「国会の議決した皇室典範の定めるところにより」としている趣旨は、国民主権原理ということになるであろうから、皇室の構成員の範囲、構成員としての身分の得喪、皇位継承資格者の要件(血統に連なる皇族であること)までは皇室典範で決めるのが適切であると思うのだが、皇位継承資格者の順位をすべて決定するところまでは必須ではないのであって、皇位継承資格者のうち次期皇位継承者を誰にするかについては天皇陛下の専権事項とすること(そういう旨の規定を皇室典範に設けること)も、可能なのではないか、ということである。

4 天皇陛下の専権事項とするべき理由(本人の意欲、資質、国民からの支持の重視)
旧皇室典範にしても、現行の皇室典範にしても、皇位継承資格者の順位が全て決定することとなっているので、次期皇位継承者が自動的に決まることとなっている。

自動的に決まるが故に、選定にかかる混乱が生じないというのが、このことのメリットなのであろうか。

ただし、このような在り方が本当によいのかについては、改めて考えてみる必要があるのではないだろうか。

このように自動的に決まる仕組みというのは、本人の意欲、資質、国民からの支持がどうであるかについてはお構いなしということを意味する。

これは、天皇という存在が、形式的・儀礼的な存在にすぎず、誰がなってもよいという思想の下においては、問題は生じないのかもしれない。

しかしながら、戦後、平成、令和における天皇と国民との関係に着目したとき、到底このような天皇観というものは、通用するものではあり得ないであろう。

憲法に定める国事行為のほかの公的御活動が広く認められ、支持され、そういう御活動に対する国民の敬意こそが、皇室制度を支える根幹となっているのではないか。

すなわち、象徴天皇制とは、皇位にある方の人格的な要素に、極めて依存しているのである。

昭和、平成、令和においては、この点、非常に恵まれていたと言えるわけであるが、将来にわたって、当然に同じように恵まれるとは限らないであろう。

現行の皇室典範において、皇位継承の順序を変えることを認める規定(第3条)も設けられているが、それは「精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるとき」を要件としており、その要件が無ければ変更できない仕組みとなっている。

したがって、将来、皇位につく意欲がなく、その資質もなく、国民からの支持もない方が次期皇位継承者となったような場合でも、結局、そのままその方に皇位に即いていただくしか道はないことになり、それはその方にとっても不幸なことであるし、国民にとっても不幸なことであり、制度としてあまりに醜悪というしかないのではないだろうか。

現在の女系拡大支持派の議論にしても、次期皇位継承者が自動的に決まるということについての問題意識はないようである。

5 天皇陛下の専権事項とするべき理由(適切に判断できるのは天皇陛下以外におられない)
天皇というお立場は唯一無二であるということにつき、異論のある者はいないであろう。

そのお立場における人生というものがどのようなものであるかにつき、とても想像できるものではないということについても、異論のある者はいないのではないか。

であれば、次期皇位継承者として誰がふさわしいか、選定することができるのは、天皇陛下以外にはおられないというのが、当然の帰結であろうと思う。

しかしながら、現行の制度では、そのような選定ができない仕組みとなっている。

現行の制度では、天皇に男子が生まれた場合であれば、将来、皇位に即くのにふさわしい人物となるよう養育に努めることができる。

ただ、それでも、親としていくら養育に努めても、必ずしもそのように育つとは限らない。
また、男子が複数生まれた場合において、長男に最も優れた資質があれば良いだろうけれども、長男に資質がなく、次男、三男に優れた資質があるような場合はどうなるのだろうか。

やはり、次期皇位継承者を選定できないという仕組みというのは、あまりに不合理というべきなのではないか。

6 次期皇位継承者選定制度を導入するべき理由(皇位継承資格者確保の責任の分散)
次期皇位継承者が自動的に決まる仕組みにおいては、皇位継承資格者確保の責任が、天皇皇后に集中しすぎてしまうという問題がある。

このことは、男系男子を維持した場合にも、女系拡大を実施した場合にも変わらない。

むしろ、女系拡大をした場合には、「男子」を生まなければならないというプレッシャーは無くなるとしても、皇位継承の流れが宮家に移る可能性が低くなるのと裏腹に、天皇皇后が子を生まなければならないというプレッシャーは高まることとなるかもしれない。

次期皇位継承者につき、皇室全体(皇族のうち皇統に連なる血統の方)を対象とする場合には、皇位継承資格者確保の責任が分散されることとなり、プレッシャーを減じることはできるのではないか。

7 次期皇位継承者選定制度を導入するべき理由(順位の呪縛からの解放)
次期皇位継承者が自動的に決まる仕組みというのは、すなわち、皇位継承資格者の順位を全て決めてしまうということなのであるが、この順位というものが、下位の者の上位の者に対する遠慮という効果を生じ、それがあらゆる場面でついて回ることになるとすると、それは皇室の方々の人生を極めて窮屈なものとすることになるのではないか。

順位を全て決めてしまうと、下位の方々は天皇との関係が遠くなり、国事行為の代行、御名代を務めるという機会も生じることがなくなり、中心的役割を果たす機会がなくなってしまう。

一般の国民が享受する権利が制限された人生において、果たすべき役割があまり無いということになってしまうと、自分自身の存在意義を感じられなくなってしまうのではないか。

何等かの志をもって、宮家独自の御公務に取り組むという道も可能ではあろうけれども、天皇からの距離の遠さが固定してしまうのであれば、頑張っても頑張っても、どこまでも寂しい人生ということになってしまうのではないか。

皇室の方々が全員そろうような場面における席次のようなものは決めておく必要があるかもしれないが、あまり固定的なものとはせず、例えば、ある場面においてはそれが得意な皇族に御名代を務めさせ、別な場面においてはその分野に詳しい別の皇族に御名代を務めさせるといった運用を可能とした方が、皇室全体の活力、一体性が向上するのではないだろうか。

皇位継承資格者の順位を全て決めてしまうという制度の下においては、上位の少数の方々に重要な出番が集中し、その他の方々についてはスペアとしての存在意義しかないというような感じになってしまうが、これはあまりに多くの方々の人生を不毛なものとしてしまうことになるのではないか。

8 まとめ
今回の試論については、皇室制度を大胆に変革するものであり、実際のところ実現可能性はないかもしれない。

しかし、皇位継承順位を全て決めてしまうというのは明治の旧皇室典範から始まったものであり、その硬直的な運用は、皇室の方々の人生を必要以上に窮屈で不毛なものとしているのではないか。

犠牲というのも、それが意味のあるものであるならば、そこに美しさがあると言えるのかもしれないが、意味のない犠牲というのは、醜悪というべきなのではないだろうか。

象徴天皇制について価値のあるものと認める人々は多い。

皇室の方々の苦しみについて認識している人々も多い。

それでいながら、どこに制度上の問題があるのか、それを解消するにはどうしたらいいのかといったことにつき、根本的な議論があまり見られないという状況は、何とも寂しいものである。

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