今宵はコレ「A Gasser !」Annie Ross '59年録音を聴いてます。いやぁ、良い。凄くいい。
ロス(vo)の隅々まで行き届いた歌いっぷりは勿論、バックを務めるラス・フリーマン(p)や、ズート・シムズ(ts)とビル・パーキンス(ts)の小粋で気の利いたサポート。勿論、リズム・セクションも最高。
ズートは正直、あまり好きなサックスじゃなかったけど、この60年辺りはかなりバッピッシュだし絶好調なので割と好み。パーキンスはサウンドから何から、もう大好き。こういうサポートにまわってる時が特にいい。
少し自分の演奏の話をすると、高音域はゲッツの雰囲気、中低音は今ズートを研究している。色んなレコードを買い集めた結果、このズートって人はクール・ジャズから、晩年に向けどんどんベン・ウェブスターに近づいて行くのが分かる。特にソロの後半でホンクするのは、その影響だろうと思う。僕はあまりホンクやグロウは好きではないので、やはりこの中期が好みかな。ウェブスターは好きなんだけどね。
話がどんどん表題とそれちゃったけど、実は、数年前までこの手の音楽は嫌いだった。「ジャズは進化するもの」という考えの元、コンテンポラリー・ジャズを中心に聴いていたからだ。でも、マーク・ターナー(ts)にインタビューした時に、彼がしきりに「過去のレジェンド達から学ばなければ駄目だ!」と訴えていたのを聞き、今迄聴いたことの無い古いものを聴いてみるか…となって、クール・ジャズを中心にすっかりハマってしまったのである。
勿論、古いジャズでやってる事なんて、今では当たり前になっている事ばかりだ。ちょっと前まで、そんな音楽を聴いてると「古臭い」と思うのが常だった。しかし、時代を遡る事でジャズの進化の過程を理解し、如何に昔の人達が新しい音楽を作ろうと努力していたかを感じ取ることが出来、「こんな時代に既にこんな事を⁉︎」と驚く事も度々有るのだ。
さて、表題に戻そう。
僕は、TikTokは興味無いのでやってないけど、インスタやFBで、そういう感じのショートムービーがよく流れる。自動的に流れるから観ちゃうんだけど、ジャンルに関係なく、また国にも関係なく、「どうだ!俺(私)、スゲーだろ⁉︎」って動画ばかりで辟易する。最近の音楽って、なんかそういうのが多くてしんどい。
若い頃、古い音楽ってのは、ジジィが懐メロとして「いいねー」って言ってるだけのもので自分にゃ関係ないって思ってた。俺は歳食ってもトンガってるし…ってね。今でもその気持ちには変わりないけど。でも、自分にとって懐メロでも何でも無い、自分が生まれる前のこれらの音楽を今聴くと、エンターテインメント性がしっかり有る事に気付き、とっても楽しいのだ。
「どうだ!スゲーだろ!」っていう所謂Check Me Out系の動画や音楽には、そのエンタメ性を全く感じない。テクニックは有って良いと思うし、プロなら当たり前の事。でも、そこに「お客さんを楽しませよう」という気概が感じられない事の方が多い。「自分を表現する」って大切な事なんだけど、あまりにもそこにばかり重点を置き過ぎていて、「おめーの事なんてどうでもいいよ。俺を楽しませてくれよ!」と言いたくなる。プロって他人を楽しませてお金を戴く仕事だよね?って。
ジャズの進化の過程で新しいスケールとかフレイジングとか必要だとは思うけど、殆どが呪文みたいに聴こえるし、それを延々と聴かされるのは苦痛でしかない。やはりバランス感覚は必要だと思う。速いフレーズも必要だとは思うけど、それもバランス。2拍3連みたいなゆったりしたフレーズと混ぜてタイム(テンポ)シフトしなければ、折角のチョップスだって無駄にしかならない。それを自ら切り取ってSNSに上げるなんて、政治家や芸能人が言葉を切り取られて報道されてるのと同じ事だと思うんだけど。
て事で、僕はどんどん世間から遠ざかって自分の世界に閉じ籠って行ってるんだけど、ジャズなんて元々個々の違いを表現するドメスティックなもんだし、ましてや、もう音楽なんてネット中心になり、サブスクのお陰で皆が自分の好きなものしか聴かなくなるので、趣味嗜好の細分化が進み、結果、トレンドやビッグヒットなんて生まれないと考えているので、自分のやってる事が決して間違っているとは思えない。かつての様にトレンドのアンテナを張るなんて事をする必要も無いし、好きな事だけをして、自分の音楽を好んでくれる人を見つければ良いだけの事。
まぁ、その為に宣伝としてTikTok的なものは必要なのかもだけど、多分それで引っ掛かるのは正直文化度の低い人だけだと思う。全世界的に文化度が下がってると言えばそれまでかもだけど、そりゃ、もう老い先短い僕にゃ関係の無い話で、後の事は知らん、若い人達だけで勝手にやって下さいって感じ。でも、自分は少なくとも、切り取りではなく、全ストーリーを観て(聴いて)貰いたいし、ちゃんとそれに呼応してくれるお客さんしか望んでいない。幸い、そういうお客さんに恵まれて幸せだけど。
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