写真はここ最近買ったスタン・ゲッツのCD。レコードでは古い時代のものの蒐集が続いている。どうしても手に入らないものや、あまりにもレアで値が釣り上がったものは中古CDで蒐集するか、地元の図書館でお借りしている。
ここ最近のジャズ(2010年以降)を聴いて、かつてクリス・チークを聴いた時の様な驚きや新しい潮流を感じた事は一切無い。どれも、僕にとっては過去に聴いた事のある様なものだ。ゲッツ達がもう既に演ってしまっている。それ程アイデアは出尽くしたし、それを再現する事に僕は意味を見出せない。今の時代に、よりニッチなものを求めるとなると、自ずと古いジャズに耳が行くし、トレンドなど気にしなくて良いなら、聴きたいものを聴き、やりたい事をやれば良い…という風になって来た。到底、お金持ちにはなれないけどね(笑)
コロナ禍で仕事を奪われ、やる事が無くなり、ゲッツの研究…というか、リスニングを続けて来て気が付いたのは、時代時代のトレンドに彼が物凄く敏感だったという事。
50年代後半に、二人目の妻、モニカ夫人の故郷であるスウェーデンで半ば隠居生活をし、地元のミュージシャンとの演奏活動を細々と続けていたものの、母国からライバルのコルトレーンやマイルスの「モード・ジャズ」のムーブメントを伝え聞き、焦燥感と共に61年に慌てて帰国、偶然耳にした「ボサノバ」というブラジルからの新しいジャンルに魅了され、取り入れるとそれが空前の大ヒット。ジャズ界の歴史を塗り替えてしまった。
この辺りから、彼のトレンドへのアンテナは相当感度が高くなったのだと思う。まぁ、ハタチそこそこでレスター・ヤング・スタイルがこれからのトレンドになる…と見抜いた洞察力も、その後の「クール・ジャズ」ブームを考えると凄い事なのだが。
写真のアルバムは両方とも、当時の最先端の音楽であり、ジャンル的には「フュージョン」とも言えるが今聴いても魅力的だ。「Dynasty」はストレート8thのビートが主体で、今(トレンド的にはここ20年ほどになる)、若手達が演ってる様なコンテンポラリー・ジャズと大差は無い。
「Billy Highstreet Samba」の後、ゲッツは旧友達と「Dolphin」というアコースティックなスタンダード集をリリース、ストレート・アヘッドなジャズ回帰に転じる。奇しくも、この頃はウイントン・マルサリスが衝撃的デビューし、ジャズ界も完全アコースティックへの潮流が起こり始めた。ゲッツのその嗅覚はやはり凄いものを感じる。その後、フュージョンはどんどん衰退して行く。
僕がバークリーで学んでいた90年代初頭は、まだフュージョンは生き残っていたけど、バークリーのカフェで、クリス・チーク(ts)が自らのバンドでアコースティック・ファンクを演ってるのを聴いた時は衝撃的だった。僕は96年までアメリカに居たのだけど、その間に様々なライブを観て来た。あのフュージョン・サックスの雄で僕の永遠のアイドルだったマイケル・ブレッカーでさえラテンを演ったり、デビッド・サンボーンも黒人ばかり集めてあまりフィットしないストレート・アヘッドを演っていた。それまでフュージョンで稼いでたプレイヤー達が、新たな方向性を模索して苦労してた時代だ。結局、ブレッカーはアコースティック・ジャズに活路を見出し、ブランフォードと鎬を削りながらトップに君臨したのだからお見事。そして、クリス・チークがあの時やっていた不思議な音楽が2000年辺りからメインストリームへとのし上がって来るのだ。彼とほぼ同世代のマーク・ターナー、クリス・ポッター、シェーマス・ブレイク等のテナー界の潮流がジャズ界に及ぼした影響はご存知の通り。
こういう経験から、僕はトレンドに敏感にならざるを得なかった。「ジャズは常に進化する音楽であり、新しいムーブメントは積極的に取り入れるべし。」というアメリカでの先輩方の言いつけ通り活動して来た。自ら新しいムーブメントを作ってみようという試みもやってみた。しかし、時代は大きく変わったのだと思う。
ムーブメントとは、誰かが発見し、それを潮流に敏感な若者を中心に噂の広まりを見せ、それにメディアが気付く事で大きなうねりとなって爆発的に世界に広がる。しかし、今はサブスクで個人個人が、まさに個人的嗜好に合わせて好きなものだけをピックアップする時代だ。そこにはムーブメントは必要無いし、逆を言えば流行りに惑わされずに無限にあるサウンド・データの中から自分にフィットしたものだけを選ぶ事が可能だ。もう、音楽でかつての様なビッグヒットは生まれないと思う。しかしながら、マニアックでニッチなものにこそチャンスは有ると思っている。
ゲッツの様に大成功を収め、大金持ちになり豪邸に住む…なんて夢が有って良いのだけど、恐らく、これからの時代は無理だと思うし、ゲッツ自身がそのステイタスを維持する為に、ストレスや躁鬱病により、ドラッグや酒に溺れてDVや逮捕・入院を繰り返し、私生活がボロボロだったという話を本で読むと、サックスを吹いてる時以外の彼は幸福だったのだろうか?と疑問に思い、哀しくなる。
ここ最近のジャズ(2010年以降)を聴いて、かつてクリス・チークを聴いた時の様な驚きや新しい潮流を感じた事は一切無い。どれも、僕にとっては過去に聴いた事のある様なものだ。ゲッツ達がもう既に演ってしまっている。それ程アイデアは出尽くしたし、それを再現する事に僕は意味を見出せない。今の時代に、よりニッチなものを求めるとなると、自ずと古いジャズに耳が行くし、トレンドなど気にしなくて良いなら、聴きたいものを聴き、やりたい事をやれば良い…という風になって来た。到底、お金持ちにはなれないけどね(笑)
でも、それってとても幸せな事だと思う。特に色んな時代のジャズを幅広く聴いて感銘を受ける事って、演奏をする以上に僕は幸せを感じる。これって、もはやジャズに限られた事じゃ無いのかも知れない。
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