つれ:「日本にも即身仏の例はあるものの、遺体を造形するボディワークがサスペンスやミステリーの要素は絡まないファッションとして取り上げられるのはエンバーミングが発達してる外国小説ベースの所以かもしれないねぇ。
原作とは多少異なるストーリーになってるそうだけど不老不死がテーマだけに各シーンの展開には哲学的な深みがあり、登場人物それぞれについてその立場でその状況だったらどう考えるかを問いかけられてる感じにもなるんじゃないかぃ。
既に老境の身としてはこのままお迎えが来ないとなるとむしろ憂鬱になるくらいだけど日増しに衰えが目立つほどに齢を重ねずに済むのは垂涎もんだから、不老ポックリ死で逝ける技術がありゃ金に糸目は付けつつ飛び付きたくなっちまうよ」
ズレ:「作中の台詞にも”まるで漫画みたい”てぇフレーズが頻繁に登場するとおり、画面にも映り込む名だたるヤンキー漫画をそっくりそのままレディースならぬオフィスレディに換骨奪胎したような按配だわな。
腕利き芸人さんの脚本だけに荒唐無稽なコント仕立てで笑いのツボはしっかり押さえてるうえに綺麗どころの女優さんや強面の俳優さんもノリノリの風情だから、こっちもややこしいことは一切抜きにして屈託なく楽しめるってもんでぃ。
テレビ系の企画となれば遠からず自宅で視聴できるんだろうけど、コロナ騒ぎで何かと逼塞してるご時勢だからこそ敢えて映画館に足を運んでこういう他愛ない作品に興じるのも幾許かのストレス解消には効果的なんじゃねぇか」
つれ:「007を筆頭にスパイものなら大英帝国が舞台になるのは定番ながら、いわゆるフィルムノワールの系譜をイギリスで展開してる作品となるとほとんど思い浮かばないだけに貴族社会とも絡めたストーリーが新鮮だったよ。
いかにも英国流の洒落たエスプリが溢れてるあたりは北野武監督のアウトレイジをツービートの漫才調にアレンジしたような趣もあり、ラップ集団の激しいビートはひょっとすると北野版座頭市の下駄タップへのオマージュかとも見えるんじゃないかぃ。
映画のテーマとは離れるけれど華やかなイメージの貴族が体面を保つのに四苦八苦してるてぇ背景は、経済大国てな過去の栄光の下で貧困化が進行してる本邦の大衆社会と重なるようでいささか身につまされるようだねぇ」
ズレ:「作品自体もさることながら最初の緊急事態宣言開けに映画館で見た映画として印象深いエジソンズゲームから丁度1年を経て、今度はテスラさん側から直流交流抗争を描いたこの作品はアンサーソングならぬアンサームービーの趣だわな。
こう立て続けにテスラさんが取り上げられるのはその名を冠した電気自動車の大ヒットの所以かどうかは定かならねど、今となっては動力電源は交流が当たり前のように自動車といえば電動が当たり前になる時代はもう目前みたいだぜ。
いわば革命的な技術を開発したエキセントリックな人物像を際立たせるように舞台回しや小道具に時折シュールな映像が現れるのがアクセントになってて、エジソンさんといいテスラさんといい大発明は常人離れの賜物ってのが実感できるようでぃ」
つれ:「邦題のイメージからドタバタ系のコメディかと思いきや小ジャレた笑いも鏤めて軽妙に展開しつつ人生を深く考察するスタイルはいかにもフランス映画てぇ仕上がりになってて、そうなるとシンプルな原題も哲学的な重々しい響きになってくるよねぇ。
LGBTってのはステレオタイプに語れるものでなく人によってその態様は千差万別てのはかねがね拝聴するところで、偏見を持たないとか尊重するとか肩肘張ったことでなく単なる一つの個性として当然に社会に溶け込んでるかってのを問い掛けられてる感じだょ。
近頃本邦の裁判所で同性婚届出不受理違法や同性内縁確定の判決が出てるけど、世の風潮に乗った制度的な判断としてではなくあくまで当事者の個性に根差した結果として理解したいとこじゃないかぃ」
ズレ:「タイトルからすると往年の任侠路線チックな義理人情もののイメージながら、フィルムノワールを彷彿とさせるダークトーンのバイオレンスシーンが続いた後に舘ひろしさんが貫禄十分な親分として登場するとゴッドファーザーみたいなマフィアファミリー風の展開も思い浮かぶとこだぜ。
ところがどっこい中盤からは暴対法施行後の極道渡世の悲哀をクローズアップするストーリーに一転して、前半との対比で世の移ろいを浮き上がらせる社会派ドキュメンタリー風の趣が色濃くなってるわな。
さしずめ任侠映画の様式美を当世に蘇らせると北野武監督作品のアウトレイジみたくなるのに対して、今のご時世に深作欣二監督の仁義なき戦いみたいな実録ものを作ろうとするとこういう映画になるってことだろうよ」
つれ:「富山出身の役者さんを揃えたってだけあって相当手加減はされてるんだろうけど字幕が要るほど怒涛の地元言葉での応酬が大層生々しく、こっちも現場に立ち会ってるような臨場感が味わえるってもんだょ。
投機的な米不足からの米価暴騰がもたらした米騒動の史実を背景にしつつも、映画オリジナルのストーリーだけに女性活力を軸にしながら生活格差やメディアの情報操作から労働運動切り崩しまで今日的なネタをちりばめてて時代色を感じないくらいだねぇ。
あくまでコメディ調に仕立ててあるから作品としては朗らかな印象ながら、コロナ当初にマスクがないと殺気立ったようにいよいよ食うものがなくなれば一揆や暴動が起きるのが歴史の必然だけに、ウィルス戒厳令続きで世の中が食い詰めないようにと祈るばかりじゃないかぃ」
ズレ:「29年ぶりに第3作を出すほど制作陣がお気に入りのシリーズだそうで、同じタイムトラベルネタながらテネットのシリアス調とは正反対のコメディ仕立てだからこっちもややこしいことは考えず気楽に鑑賞できらぁな。
時空を超えて自分に遭遇しちゃいけないてぇセオリーのパロディのように未来の自分に会いまくったり時代の異なる著名人が一堂に会したりと、なんの屈託もない脱力系のストーリー展開だけに現場もノリノリで楽しんでるんじゃねぇか。
電話ボックスがタイムマシンてのもいかにも30年前らしい設定で、携帯からスマホと普及が進んで公衆電話そのものが忘却の彼方に消え去りそうな昨今とすりゃそれだけでタイムトラベル気分が味わえるってもんよ」
つれ:「大昔に多からず少なからず釧路周辺と縁があった身としては原作者がモチーフとしたホテルにもあそこだろうかてぇ心当たりがあり、立派な舗装道路から踏切を隔てて砂利道に変るシーンだけで思い切り往時の郷愁に浸っちまったよ。
ホテルが舞台となれば定番のグランドホテル形式で登場人物の人生模様がしみじみと描かれてくのも、直接画面には映ってなくとも周囲に人気のない釧路湿原界隈の風物の中での出来事と思うと哀感も一入だねぇ。
DVDやらも充実してるのにわざわざ映画館に出掛けてくのは非日常空間に浸りきる醍醐味もあらばこそだから自ずとより非日常的な洋画を中心にチョイスしがちだけど、コロナ禍で洋画の配給が激減してる折柄こういう邦画の秀作に目を向けるにはいい機会ってもんかもねぇ」
つれ:「タイムパラドックスものは考えれば考えるほど難しく訳が分からなくなるのが定番でこの作品も御多分に漏れず一度見ただけじゃ納得できないてぇリピーターが続出してるそうで、こちとらなんざDVDになってからこまめに行きつ戻りつしてもなお追い付けそうにねぇぜ。
映像の逆回転はオーソドックスな手法ながらストーリーの逆行を映像にするのはなかなかに斬新な感覚で船酔いするようだとも評されてるけど、祖父殺しのパラドックスのみならずシュレディンガーの猫やらも実写にしたみたいな按配かもなぁ。
とはいえそんなややこしさには関わりなくサスペンススリラーとしての流れがスムーズだから、分からないところは分からないままに放っておいても格別の不消化感なく長尺を一気呵成に観賞できるように仕上がってるのは大した手練れの技と感服するばかりでぃ。」