前回に続きます。
前回は,株式会社とはなんぞや,についてその法律上の基本構造を中心に説明しました。
さて,今回は,それを踏まえて,企業買収の本題に入りたいと思います。
第2 上場企業と非上場企業
1 上場の理由
まず,なぜ株式会社は上場しようとするのでしょうか。これは,簡単に言えば,「資金が集まりやすい」からです。
株式を上場するということは,各株式会社の株式が店頭に展示されていて,それを誰でも自由に買うことができる状態,すなわち「株のスーパーマーケット」であるといえます。
したがって,誰でも株を買えることができるということは,会社への出資を誰でもできることとなり,会社から見れば,資金が簡単に集まるということになるわけです。
2 上場のメリット・デメリット
上場することで,資金集めが容易になるということのほか,上場していること自体が,会社の信用,すなわちステータスになります。
上場するためには様々な条件をクリアしなければなりません。その条件をクリアして上場しているということは,それだけで「この会社は,上場できるくらいすごい会社なんだ」ということをアピールでき,普通の取引などでも優位に立つことも可能となります(上場会社なんだから,ちゃんと支払ったり売ったりしてくれるだろうなど)。
一方,問題点としては,株式を1人で全部持つ,ということができなくなります。一般の人に買ってもらうという前提である以上,これは当然のことでしょう。
また,会社の意に添わない株主が入ってくる可能性もあります。これまた,誰でも買えるようにしている以上,宿命といえるでしょう。
3 知らない株主が入らないようにするためにはどうするか
では,「うちの会社は,知らない人が株主になるのはまっぴらごめんだ」という場合,どうすればよいでしょうか。
実は,商法ではそのような手法を手当てしてあります。発行している株式を他の人には原則譲ることができないという「株式譲渡制限」を設定することができます。
もちろん,一定の手続きをとれば譲渡もできますが,原則としてこれならば知らない株主は入ってきません。
ただし,譲渡制限がある場合,当然上場することはできませんし,また他から広く資金を集めることも難しくなります。
ちなみに,日本の90%以上の会社はこの譲渡制限を設定しています。なぜなら,ほとんどの株式会社は,家族3人程度で構成されている「さんちゃん会社」だから,第三者に介入してほしくないためです。
第3 企業買収
1 企業買収の方法
では,企業買収とはどのように行うのでしょうか。複雑なケースもありますが,ここでは単純なケースをいくつか説明します。
(1) 会社自体を直接買収する
まず,基本的には,直接株式会社を金で買い取ります。
しかし,後述のとおり,株式を買わなければ,ほとんど意味がないため,今日このような直接的な買収を行う人はいません。
(2) 会社の重要な営業部門を買収する
いろいろな顧客やノウハウを持っている会社の場合,その重要な営業を買い取ることで,実質的に企業を買収するという手法があります。買収される会社から見た場合,これを「営業譲渡」と呼んでいます。
この手法は,あくまでもある事業部門に関心がある場合のやり方であり,会社自体を買収するわけではないため,厳密には企業買収とは異なりますが,ある分野だけ力を入れたい会社は,この手法をとる場合があります。
(3) 株式を買い取る
前回説明したように,株式の数に応じて会社への発言権が変わってきます。そして,基本的に半分持てば,役員すべてを自分の意志で選べることになりますので,株式半分を買い取ることで,事実上会社を買収したことになります。
この手法は,非上場会社では,前述のとおり譲渡制限があることなどから難しく,ほとんどは上場会社の場合に使われる手法です。
2 株式の買い取り方
では,たくさん株式を買い取るにはどうすればよいでしょうか。これもいろんな裏技があるみたいですが,ここでは単純な手法を紹介します。
(1) 証券会社で買う(株式市場からの購入)
上場会社の株を,普通の投資家のように購入します。
一番手っ取り早いですが,50%近くも買おうとすると,だんだん市場にその会社の株が売られなくなってくるため,必然的にだんだん株式の価格が高くなってきます。したがって,かなりの資金が必要になるばかりか,急に株が高くなると,その会社の経営者も「かるくやばい」と危機感を持って対策を講じてしまう恐れもあります。
(2) 大口株主から買う
株式市場ではなく,大口株主から直接購入します。
こうすることで,株式市場には直ちに金額が繁栄されないため,その会社にはすぐにばれません。
ただし,大口株主は,そもそもその会社に友好的である場合が多いため,単純に「はい,売ります」となるとは限りません。また,市場価格より高額にしなければ当然売らないわけで,やはりかなりの資金が必要となります。
(3) TOB(公開買い付け)
上記各種法の折衷策として,TOBがあります。
これは,簡単に言えば,「株主の方,10月31日までに私に株を売ってください。そうしたら,1株5000円で買い取ります。」と公告するのです。この場合,例えば,この会社の株式が3000円くらいで取り引きされているのであれば,当然5000円で売れば得をすることから,多くの株主が応じてくる可能性が高くなります。
もちろん,これはその会社にも当然ばれてしまうばかりか,市場価格より高く設定しなければ誰も食いつかないわけですから,かなりの資金が必要となります。
とはいえ,確実に大量株式を取得することが可能となります。
2 どのような企業が買収されるのか
これは,「会社の価値が高いのに,会社がその価値を活かした経営を行っていない」とか「会社の業績に対して株価が低い」など,会社経営と会社財産との間にアンバランスが生じている場合,非常に狙われやすくなります。理由は次のとおりです。
まず,業績がよい会社で,かつ会社資産や株価がそれに応じている企業であれば,株価も高いため,簡単に過半数を取得することはできません。つまり,相当な資金が必要となることから,無理して買い取っても,元を取るのに時間がかかります。
ところが,この辺にアンバランスがある企業の場合はどうでしょうか。会社資産を活かしていない企業であれば,買収してその資産を他に売ったり,またはそれを有効に活用することで,簡単に増収が期待でき,投資した資金の取り戻しが容易となります。また,このような企業は,株価がそんなに高くないことから,そもそも買収資金がそんなに必要ありません。さらに,株価と業績がアンマッチの会社の場合,大量買い付けが簡単であるばかりか,株価を適正価格にまで戻すことも容易であり,そこで全部売却すれば,それだけでもかなり儲けることができます。
以上の理由から,バランスの悪い会社は狙われる,ということになります。
3 なぜバランスの悪い会社は存在するのか
ここは私見になります。
株式には,配当があるということを前回説明しましたが,日本では,これまでは株式配当について関心が低かったです。つまり,投資家も配当よりも株価の上昇のみに視点を置き,一方企業も配当に回せる金はすべて会社の増資や役員の報酬に回すなどしており,株主に還元しようという気持ちがあまりありませんでした。
しかし,本来ならば業績に応じて株価も上がるわけですから,本来なるべき価格と現状の価格との間に大きな差が出てしまうようになったわけです。
つまり,バランスの悪い会社とは,経営者側に会社経営について危機意識や先を見る目がなく,単に従前どおりの経営をすればよいと思っていたような経営者がいるところに多いといえるでしょう。
第4 企業買収の防衛策
1 経営面
まず,企業買収を阻止するためには,「上場しない」ということです。
しかし,それでは,資金集めが大変になります。
次に,「株価の適正化を図る」ことです。これは,これまでないがしろにしていた株式配当など株主に本来還元されるべき利益を積極的に還元していくことです。いうなれば,「当たり前のことをやる」だけのはなしですが,これにより,株価がかなり上昇するため,企業買収も困難となります。
さらに,「経営者は常に先を考える」ということです。時代は変化しているため,従来どおり単純にやっていては,あっという間に回りから取り残されます。そうすると,会社は倒産するか,または買収の矛先になることでしょう。それよりも,「時代のニーズ」「これから先の会社経営のありかた」等について,常に考えて行動する必要があります。まあ,言い方を変えると,これも「当たり前のこと」なのですが。
つまり,企業買収に対する防衛策とは,「当たり前のことを当たり前のようにやる」こと,これに尽きます。
2 法制度
企業買収を禁止する法律はありませんし,これを制限してしまうと,海外投資家から見放されてしまい,日本経済は一気に崩壊します。
現状の法制度としては,「種類株式の発行」になります。議決権制限株式を発行したり,拒否権付与株式を発行するなどして,投資家の経済活動の確保と企業防衛の確保の両面を図ることができます。
しかし,ここからは私見になりますが,これもやりすぎると投資家から見放され,また種類株式は企業防衛というよりも「役員防衛」的要素が強いため,本当に会社のためになるかどうかは微妙ともいえる場合があります。
したがって,法制度で企業買収を制限するというのは,ナンセンスなのではないかと思います。
第5 まとめ
以上,株式会社と企業買収について簡単に説明しました。簡単と言いながら,長文になってしまいましたが,まとめるとこうなるでしょうか。
株式会社は,一般の人から多くの資金を集めるために作られる会社であり,その出資した資金に応じて,会社に対する発言権が強くなります。したがって,時にはたくさんお金を出した人が,会社の役員に取って代わり経営権を牛耳ることも可能となります。このように,株式会社が買収されるというのは,会社の制度自体の宿命といえるでしょう。
もし企業買収に合いたくなければ,普段から健全経営に心がけ,会社の価値を高めるなど,当たり前のことを当たり前のようにしていればよいのではないでしょうか。
よろしければ1クリックお願いしますm(__)m→人気blogランキングへ
前回は,株式会社とはなんぞや,についてその法律上の基本構造を中心に説明しました。
さて,今回は,それを踏まえて,企業買収の本題に入りたいと思います。
第2 上場企業と非上場企業
1 上場の理由
まず,なぜ株式会社は上場しようとするのでしょうか。これは,簡単に言えば,「資金が集まりやすい」からです。
株式を上場するということは,各株式会社の株式が店頭に展示されていて,それを誰でも自由に買うことができる状態,すなわち「株のスーパーマーケット」であるといえます。
したがって,誰でも株を買えることができるということは,会社への出資を誰でもできることとなり,会社から見れば,資金が簡単に集まるということになるわけです。
2 上場のメリット・デメリット
上場することで,資金集めが容易になるということのほか,上場していること自体が,会社の信用,すなわちステータスになります。
上場するためには様々な条件をクリアしなければなりません。その条件をクリアして上場しているということは,それだけで「この会社は,上場できるくらいすごい会社なんだ」ということをアピールでき,普通の取引などでも優位に立つことも可能となります(上場会社なんだから,ちゃんと支払ったり売ったりしてくれるだろうなど)。
一方,問題点としては,株式を1人で全部持つ,ということができなくなります。一般の人に買ってもらうという前提である以上,これは当然のことでしょう。
また,会社の意に添わない株主が入ってくる可能性もあります。これまた,誰でも買えるようにしている以上,宿命といえるでしょう。
3 知らない株主が入らないようにするためにはどうするか
では,「うちの会社は,知らない人が株主になるのはまっぴらごめんだ」という場合,どうすればよいでしょうか。
実は,商法ではそのような手法を手当てしてあります。発行している株式を他の人には原則譲ることができないという「株式譲渡制限」を設定することができます。
もちろん,一定の手続きをとれば譲渡もできますが,原則としてこれならば知らない株主は入ってきません。
ただし,譲渡制限がある場合,当然上場することはできませんし,また他から広く資金を集めることも難しくなります。
ちなみに,日本の90%以上の会社はこの譲渡制限を設定しています。なぜなら,ほとんどの株式会社は,家族3人程度で構成されている「さんちゃん会社」だから,第三者に介入してほしくないためです。
第3 企業買収
1 企業買収の方法
では,企業買収とはどのように行うのでしょうか。複雑なケースもありますが,ここでは単純なケースをいくつか説明します。
(1) 会社自体を直接買収する
まず,基本的には,直接株式会社を金で買い取ります。
しかし,後述のとおり,株式を買わなければ,ほとんど意味がないため,今日このような直接的な買収を行う人はいません。
(2) 会社の重要な営業部門を買収する
いろいろな顧客やノウハウを持っている会社の場合,その重要な営業を買い取ることで,実質的に企業を買収するという手法があります。買収される会社から見た場合,これを「営業譲渡」と呼んでいます。
この手法は,あくまでもある事業部門に関心がある場合のやり方であり,会社自体を買収するわけではないため,厳密には企業買収とは異なりますが,ある分野だけ力を入れたい会社は,この手法をとる場合があります。
(3) 株式を買い取る
前回説明したように,株式の数に応じて会社への発言権が変わってきます。そして,基本的に半分持てば,役員すべてを自分の意志で選べることになりますので,株式半分を買い取ることで,事実上会社を買収したことになります。
この手法は,非上場会社では,前述のとおり譲渡制限があることなどから難しく,ほとんどは上場会社の場合に使われる手法です。
2 株式の買い取り方
では,たくさん株式を買い取るにはどうすればよいでしょうか。これもいろんな裏技があるみたいですが,ここでは単純な手法を紹介します。
(1) 証券会社で買う(株式市場からの購入)
上場会社の株を,普通の投資家のように購入します。
一番手っ取り早いですが,50%近くも買おうとすると,だんだん市場にその会社の株が売られなくなってくるため,必然的にだんだん株式の価格が高くなってきます。したがって,かなりの資金が必要になるばかりか,急に株が高くなると,その会社の経営者も「かるくやばい」と危機感を持って対策を講じてしまう恐れもあります。
(2) 大口株主から買う
株式市場ではなく,大口株主から直接購入します。
こうすることで,株式市場には直ちに金額が繁栄されないため,その会社にはすぐにばれません。
ただし,大口株主は,そもそもその会社に友好的である場合が多いため,単純に「はい,売ります」となるとは限りません。また,市場価格より高額にしなければ当然売らないわけで,やはりかなりの資金が必要となります。
(3) TOB(公開買い付け)
上記各種法の折衷策として,TOBがあります。
これは,簡単に言えば,「株主の方,10月31日までに私に株を売ってください。そうしたら,1株5000円で買い取ります。」と公告するのです。この場合,例えば,この会社の株式が3000円くらいで取り引きされているのであれば,当然5000円で売れば得をすることから,多くの株主が応じてくる可能性が高くなります。
もちろん,これはその会社にも当然ばれてしまうばかりか,市場価格より高く設定しなければ誰も食いつかないわけですから,かなりの資金が必要となります。
とはいえ,確実に大量株式を取得することが可能となります。
2 どのような企業が買収されるのか
これは,「会社の価値が高いのに,会社がその価値を活かした経営を行っていない」とか「会社の業績に対して株価が低い」など,会社経営と会社財産との間にアンバランスが生じている場合,非常に狙われやすくなります。理由は次のとおりです。
まず,業績がよい会社で,かつ会社資産や株価がそれに応じている企業であれば,株価も高いため,簡単に過半数を取得することはできません。つまり,相当な資金が必要となることから,無理して買い取っても,元を取るのに時間がかかります。
ところが,この辺にアンバランスがある企業の場合はどうでしょうか。会社資産を活かしていない企業であれば,買収してその資産を他に売ったり,またはそれを有効に活用することで,簡単に増収が期待でき,投資した資金の取り戻しが容易となります。また,このような企業は,株価がそんなに高くないことから,そもそも買収資金がそんなに必要ありません。さらに,株価と業績がアンマッチの会社の場合,大量買い付けが簡単であるばかりか,株価を適正価格にまで戻すことも容易であり,そこで全部売却すれば,それだけでもかなり儲けることができます。
以上の理由から,バランスの悪い会社は狙われる,ということになります。
3 なぜバランスの悪い会社は存在するのか
ここは私見になります。
株式には,配当があるということを前回説明しましたが,日本では,これまでは株式配当について関心が低かったです。つまり,投資家も配当よりも株価の上昇のみに視点を置き,一方企業も配当に回せる金はすべて会社の増資や役員の報酬に回すなどしており,株主に還元しようという気持ちがあまりありませんでした。
しかし,本来ならば業績に応じて株価も上がるわけですから,本来なるべき価格と現状の価格との間に大きな差が出てしまうようになったわけです。
つまり,バランスの悪い会社とは,経営者側に会社経営について危機意識や先を見る目がなく,単に従前どおりの経営をすればよいと思っていたような経営者がいるところに多いといえるでしょう。
第4 企業買収の防衛策
1 経営面
まず,企業買収を阻止するためには,「上場しない」ということです。
しかし,それでは,資金集めが大変になります。
次に,「株価の適正化を図る」ことです。これは,これまでないがしろにしていた株式配当など株主に本来還元されるべき利益を積極的に還元していくことです。いうなれば,「当たり前のことをやる」だけのはなしですが,これにより,株価がかなり上昇するため,企業買収も困難となります。
さらに,「経営者は常に先を考える」ということです。時代は変化しているため,従来どおり単純にやっていては,あっという間に回りから取り残されます。そうすると,会社は倒産するか,または買収の矛先になることでしょう。それよりも,「時代のニーズ」「これから先の会社経営のありかた」等について,常に考えて行動する必要があります。まあ,言い方を変えると,これも「当たり前のこと」なのですが。
つまり,企業買収に対する防衛策とは,「当たり前のことを当たり前のようにやる」こと,これに尽きます。
2 法制度
企業買収を禁止する法律はありませんし,これを制限してしまうと,海外投資家から見放されてしまい,日本経済は一気に崩壊します。
現状の法制度としては,「種類株式の発行」になります。議決権制限株式を発行したり,拒否権付与株式を発行するなどして,投資家の経済活動の確保と企業防衛の確保の両面を図ることができます。
しかし,ここからは私見になりますが,これもやりすぎると投資家から見放され,また種類株式は企業防衛というよりも「役員防衛」的要素が強いため,本当に会社のためになるかどうかは微妙ともいえる場合があります。
したがって,法制度で企業買収を制限するというのは,ナンセンスなのではないかと思います。
第5 まとめ
以上,株式会社と企業買収について簡単に説明しました。簡単と言いながら,長文になってしまいましたが,まとめるとこうなるでしょうか。
株式会社は,一般の人から多くの資金を集めるために作られる会社であり,その出資した資金に応じて,会社に対する発言権が強くなります。したがって,時にはたくさんお金を出した人が,会社の役員に取って代わり経営権を牛耳ることも可能となります。このように,株式会社が買収されるというのは,会社の制度自体の宿命といえるでしょう。
もし企業買収に合いたくなければ,普段から健全経営に心がけ,会社の価値を高めるなど,当たり前のことを当たり前のようにしていればよいのではないでしょうか。
よろしければ1クリックお願いしますm(__)m→人気blogランキングへ