あれは,あれで良いのかなPART2

世の中の様々なニュースをばっさり斬ってみます。
ブログ界の「おか上彰」を目指し、サボりながらも頑張ります!

真実はどっち?

2006年04月15日 12時40分48秒 | 裁判・犯罪
中央線内で痴漢を働いたとして逮捕勾留された沖田さんが,痴漢の申告が虚偽であり,それに基づいて違法な捜査を行ったとして国,東京都及び被害者とされる女性に対する損害賠償請求に対する判決が10日にあり,請求棄却となったようです。
これに対し,沖田さんは控訴すると共に,この判決についていろんな批判が集まっているようです。

刑事と民事は別物です

そもそも,刑事裁判と民事裁判が全く別である,ということが今ひとつ理解されていないのかなあ,というのが今回の報道をみて感じたことです。
簡単にいえば,刑事裁判は「あいつ犯人だから刑務所に入れてくれ」と検察官が訴える裁判であるのに対し,民事裁判は「金返せ」などと訴える裁判です。そして,前者は犯人とされる被告人の権利を守るため(被告人の無罪推定),さまざまな制約があるのに対し,後者は基本的には当事者双方の言い争いなので,どっちの言い分が妥当かをかなり気楽に(っていうと語弊はありますが)判断するという違いがあります。

他にも,今回の裁判で,議論が錯綜してしまっているため,ここで整理したいと思います。なお,通常は,原告の名前は伏せて書くのですが,今回,沖田さんは実名でマスコミ取材も含めて様々な活動を行っていますので,逆に本人の名誉のことを考え,ここでも実名で記載することにします。

1 今回は,刑事は無罪ではなく,裁判になっていないだけであること
  今回の問題は,刑事裁判と民事裁判の乖離ではありません。刑事裁判は起訴されていませんから,判決は出ていないのです。
  刑事事件については,検察庁は沖田さんを不起訴としたにすぎません。そして,この不起訴の解釈を沖田さんやマスコミは「無罪」と言っています。ところが,不起訴=無罪とは必ずしもいえないのです。
  通常,不起訴の理由として,①嫌疑なし,②嫌疑あるが裁判にするまでもない(起訴猶予),③嫌疑あるが証拠が足らない(公判維持できない)などがあります。そして,検察庁側の見解は,沖田さんの事件については③であると説明しています。
  したがって,検察庁としては,あくまでも有罪の心証があったが,証拠がないので泣く泣く起訴できなかったという発想になっています。
  よって,必ずしも刑事が無罪という前提は正しいとはいえません
  正しく議論するのであれば,「不起訴となった事件について,民事裁判が事実上有罪認定したことはどうか?」という問題提起になるでしょう。

2 民事裁判と刑事裁判の乖離は結構発生している
  実は沖田さん事件以外にも,かなり民事と刑事の乖離は発生しています。別の痴漢裁判においては,刑事裁判で無罪とはっきり判決が出たが,民事裁判では事実上の有罪認定をして請求を認めなかったという今回の裁判に類似した判決が数件出ています。また,痴漢意外には,いわゆる山形マット事件においては,民事と刑事(家裁の少年審判)では全く別の事実認定をしています。
  さらには,国外の例として,OJシンプソン事件もあります。これも,刑事(陪審)では無罪となったが,民事では賠償が認められ,事実上有罪認定されています。
  このように,民事と刑事での乖離は,かなりあるのです。

3 なぜこのような乖離が発生するのか
  簡単に言えば,冒頭にも書きましたとおり「裁判のやり方自体の違い」によります。
  刑事裁判は,「被告人無罪推定」が働きますくわしくはこちらを参照してください)。したがって,被告人を有罪にするためには,事実認定がかなり厳格で,基本的にはすべて証拠がなければ認定できません。極論ですが,例え被告人が全部自白していたとしても,証拠が全くない場合は,被告人は無罪となります(憲法上の規定)。
  一方,民事裁判は,「当事者対等」です。したがって,当事者のどちらかが自白すれば,証拠なくして事実認定ができるほか,証拠の出し方や内容についてもかなり自由になっています。
  民事裁判は,1対1で自分の権利を求めて戦うものであるため,平たく言えば「K1グランプリ」のようなものです。つまり,極論として,最後は「力のあるものが勝つ」という構造になっています。この力というのが法律ですが,この法律をどう解釈するかという点においては,最後は頭脳戦ということになるでしょう。

4 刑事裁判の判決は拘束力がないのか
  もちろん,被告人自身が二度と処罰を受けないなどといった拘束力はあります。
  しかし,刑事裁判で無罪となったことは,民事裁判では必ずしも確実な拘束力はありません。それは,3で記載したとおり,事実認定に対する証明方法の違いがあるからです。
  この辺は,裁判テクニックの問題なので,話が難しくなります。
  ただ,通常は,刑事裁判で無罪となれば,無罪を前提に民事裁判でも審理を進めることになります

5 刑事裁判と民事裁判は一緒にできないのか
  以上のように手続が違うので,一緒にできません。
  ただ,最近法律が変わって,刑事裁判の中で被害者に示談をすることができるようになりました。つまり,刑事裁判の中で,和解という民事裁判的行為ができるようになったのです。

6 沖田さんは控訴した
  今後,この民事裁判は高裁で審理が続きます。はたして,どのような判決になるのかは,現段階では神のみぞ知る状態です。
  更に言うと,真実は沖田さんと被害女性だけが知っているということになります。

7 今後裁判員制度が導入されると,この問題はもっと発生しうる
  裁判員制度が導入されると,事実認定は一般人の人が行います。もちろん,刑事裁判である以上厳格な証拠に基づいて事実認定を行うという基本姿勢は変わりませんが,事実認定になれていない一般人の場合,どこまで真実に近づけるかどうかは正直私にも分かりません。
  ただ,前述のOJシンプソン事件のように,裁判戦術如何によっては,真実と異なる評決となる可能性もあり得ます
  そう考えると,今後裁判員制度の導入により,民事と刑事の乖離判決は増えるのではないかという懸念もあります。
  そうすると,一体何が真実なのか,分からなくなってしまうかもしれません。

いずれにしても,今回の沖田さんの判決を議論する上では,この辺りを踏まえた上で検討するとよいかと思います。
真実は一つなのですが,現状では真実は2つ発生してしまいます。これを1つにするには,裁判官のたゆまなき努力に委ねるしかないのでしょう。もちろん,上記議論を踏まえて制度を見直すことも当然ありといえるでしょうね。

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取立ては計画的に

2006年04月15日 11時41分38秒 | 裁判・犯罪
大手貸金業者アイフルの違法取立てが多数発生していたことを理由に,営業停止処分となったようです。

livedoor ニュース


どーする,アイフル?

記事によると,相当あこぎな取立をしていたようですね。さながらミナミの帝王顔負けの状態です(ちゃーんとアコーギ,って感じですね)。
ただ,今回の営業停止処分については,実はいろんな問題があります。報道で指摘されていることされていないことを含めて,ちょっとまとめてみます。

1 取立てノルマが厳しいのはアイフルだけではなくほぼ全部の貸金業者にある
  ということは,他社でもかなりきわどい取立を行っている実態があります。
  そして,多くの貸金業者の支店長は,取立困難な場合に自腹を切ってノルマを達成しているという実態もあるようです。
  さらには,そのために会社から借金まで背負っている社員もいるようです。
  これじゃあ,貸金業者の社員って,奴隷状態ですね。

2 脱法的取立てが横行している
  法律的には取立てができない人に対する取立てを行っています。
  例えば,「子供の借金は親が払うもの」といって,親に返済を求める例がかなりあると聞きます(実際は,保証人などになっていない限り,払う筋合いはありません。)。
  また,法的に支払わなくて済んだものを支払わせようと言う手法もあります。特に結構卑劣な手を使うのは,「相続放棄を認めない作戦」です。
  簡単に言うと,例えば,親が借金をして亡くなった場合,子供が相続人となりますが,この借金も相続してしまいます。そこで,借金を背負いたくない場合,家庭裁判所に対して「相続放棄」の申述をすれば,借金を背負いません(もちろん,遺産も全く貰えません)。
  ところが,一部の貸金業者は,相続放棄をした相続人に対してこう言います。「本当に気持ちでいいので,最後に払って貰えませんか。5千円くらいでもいいんです。」と。
  すると,多少負い目のある相続人は5千円くらいならばと思って払ってしまいます。
  ところが,そうすると,貸金業者は「あなたは相続人の借金を払ったので,相続を認めたことになりました。だから,残りの借金はあなたが払いなさい。」と請求をはじめるのです。
  民法的には,業者の言い分は正しいのですが,その過程においてあまりにちゃーんとアコーギな手法が含まれているので,おそらく訴訟になれば貸金業者は敗訴すると思います。
  他にもいろいろありますが(破産して免責した人からの取立てなど),とにかく,正規の貸金業者であっても,あの手この手を使って返済を求めてくる実態があるのです。

3 そもそもなぜ高利貸しからお金を借りるのか
  今度は借りる側の問題です。
  素朴な疑問として,「なぜ高金利の業者から借りなければならないのか」と思うことが多々あります。
  その理由はかなりあると思いますが,主に①銀行が貸してくれないこと>,②お金の使い方を知らない人が増えたことにあるのかな,と思います。
  ①については,最近報じられなくなってきましたが,銀行は不良債権化を防ぐことから,中小企業に対する「貸し渋り」は実は今でもかなり横行しています。また,市町村で行っている中小企業支援融資についても,採用枠と金額枠が小さいことから,現実にはあまり役に立っていません。
  そこで,事業資金としてつい高利貸しに走るという実態があります。
  これは,もっと単純に言えば,「銀行が貸さない企業あるってことは,日本はまだまだ景気が悪い」ということを暗に言っているようなものです
  また,個人で生活費に困って借りているいるといういわゆる格差社会の問題も出てきます。これも,借金よりも生活保護,っていうアプローチを考えるべきでしょう。
  ②については,ちゃんと計画してお金を使うという発想がなくなった人が増えている,ということです。ほしいものは借金してでも買う,これ自体は否定しないのですが,次々と借金したら絶対返せなくなるというのは,小学生でも分かる話です。ところが,なぜかこれを平気でやる大人が増えてきています。
  借金とはお金が沸いてくるもの,とでも思っているのでしょうか。②の発想の人については,私には正直理解不能です。

4 実は取立ができない場合でも,あまり損をしない
  取立不能債権については,税金上「損金」扱いになります。そして,その半額を税控除の対象とできます
  したがって,実は貸した金の1割くらいが取立不能になっても,業者はあまり困りません。
  むしろ,損金処理をした後にその不良債権を取り立てた場合は,税控除された債権がまるまる懐に入ってくるわけですから,逆に業者は大もうけ,っていうことになります
  長期の不良債権ほど,熱心に取立を行うのは,実は意外なウラがあるわけです。

5 グレーゾーン金利是正のために,密かに利息制限法の方が改正されるおそれがある
  今,貸金業者は金利20%以上で貸しています。しかし,利息制限法という法律では,上限15%となっています。したがって,本来は15%を越える利息は払う必要がありません。
  この辺は,説明が長くなるので端折りますが,最近最高裁でも「そりゃおかしい」という判決がでました。それを受けて,政府は金利法制を見直すとしています(グレーゾーンの廃止を含めて)。
  ところが,最近一部の議員から「世の中の実態にあわない利息制限法の上限を変えるべきだ」という議論が浮上しはじめてきました。つまり,利息制限法の上限を例えば30%とすることで,貸金業者の金利を完全にOK牧場にしようという発想です
  ただ,この手法を取ると,貸金業者でなくても,上限金利がみんな高くなるという可能性が出てきます。本当にこの手法がよいのか,よーく考えよー,お金は大事だよー!

6 貸金業者は,銀行と提携しはじめた
  簡単にいえば,高利貸しの金主さんが銀行っていうことです。だったら,銀行で貸してやれよ,って思うのですが,銀行からすれば,業者に貸す方が100%返済可能であるため,この手法を取るわけです。ここが経済活動の複雑さなのですね。

ちょっと思いつくままにまとめてみました。
いずれにしても,これを機に,各貸金業者は自己の業務内容を見直すと共に,借り手側も「本当に借りるべきかどうか」をよーく考えてから借りるべきでしょう
そして,今貸金業者からお金を借りている人,今回の事件で別にあなたの借金が消えてなくなるわけではありませんので,油断しないでください。むしろ,違法な取立てに代わって,合法的な取立て(裁判)になるだけの話ですから。

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