NHKが受信料不払いの人に対し,裁判所の「支払督促」を利用して請求するというニュースがありました。また,「振り込め詐欺」が,この支払督促を利用し,またはそれを真似して金をだまし取ろうという話もよく聞きます。
一方で,人にお金を貸したがなかなか返してもらえない,でも裁判にするのはちょっと,という方もいるのではないでしょうか。
そこで,今回は,この「支払督促制度」について,簡単に説明したいと思います。
1 支払督促とは
簡単にいうと,「裁判所から,金を支払え,支払わなければ強制執行(差押え)するぞ」という書面です。もっと分かりやすくいえば,「判決」と同じようなものです。
2 裁判との違いは何か
判決みたいなものなら,裁判と違いがあるの?と思われる方もいるでしょう。
裁判との違いは次の点です。
(1) 早い
支払督促と裁判との最大の違いは,「相手を呼ぶかどうか」です。
裁判では,相手も裁判所に呼んで,そこでお互いの主張をぶつけ合います。
ところが,支払督促は,相手を呼ばずに決定を出します。つまり「書面審査」です。
したがって,形式的な要件さえ整っていれば,裁判所に出頭する必要もなく,すぐに決定が出ます(申立から1週間くらいで出ることもあります。)
(2) 安い
申立の手数料が,裁判の半額です。例えば,100万円を請求する場合,普通の裁判の場合,収入印紙1万円分が必要となりますが,支払督促の場合は,5千円で済みます。
3 支払督促はどのように進むのか
まず,申立は簡易裁判所に対して行います(全国に500カ所くらいあります)。また,具体的な管轄(申し立てる裁判所)は,相手の住所地に限られます。
次に,申立書に必要な印紙と切手を添えて裁判所に提出します(郵送でも可能です。)。具体的な金額(収入印紙と切手)については,申立の際に裁判所に聞くとよいでしょう(収入印紙は前述のとおり請求金額によって異なります。切手は2000円前後の場合が多いです。)。
裁判所は,書類をチェックして,問題なければ「支払督促正本」を相手に送達します。
それでひとまず手続は終了です(この間,早ければ前述のとおり1週間くらいででます。)。
その後,相手から後述の異議が出なければ,2週間後以降に「仮執行宣言申立」を裁判所に対して行います。
これまた裁判所は書面審査で,問題がなければ仮執行宣言を付けます。
これで,支払督促の手続はすべて終了します。あとは,この支払督促正本をつかって強制執行の手続きを行うことができるわけです。具体的には,土地建物や給料,銀行預金を差し押さえることができます。
4 これに不服がある場合はどうするか
支払督促をもらった相手は,当然自分の言い分を全く聞くことなく発令されているわけですから,文句の一つもいいたい場合があるでしょう。当然借りた覚えがないとか金額が違うなどの話だってあるはずですし,分割払いにしてほしいなどの希望もあるはずです。
そこで,このような場合,支払督促正本をもらってから2週間以内に異議申立をすれば,普通の裁判に移行します。
また,仮執行宣言が付いてからでも2週間以内に異議を出せば同様に普通の裁判に移行します(ただし,この場合,強制執行は止まりません。)。
5 どんな事件が支払督促に向いているか
支払督促が書面審査であることからすると,当事者間に争いがないが支払が期待できないために強制執行(差押え)をしなければならないというものに向いています。
例えば,貸金請求や敷金返還請求,さらには損害額が確定している交通事故などの損害賠償請求など,相手が反論してこないであろう事件に向いています。
6 支払督促に向いていない事件は何か
5の逆で,請求内容があいまいで書面だけでは判断ができないものや,当事者間で争いがある事件はあまり向きません。なぜなら,ほぼ確実に異議が出るからです。
異議が出ると,普通の裁判に移行しますが,その管轄は相手の住所地のままになります(通常の裁判の場合,請求する内容によっては自分の住所地を裁判所の管轄とすることもできます。)。したがって,郵送で申し立てたとしても,異議が出たらばその遠方の裁判所まで自分が行かなければなりません。
また,異議が出た場合,その金額によって簡易裁判所と地方裁判所に分かれます(請求金額が140万円以下の場合は簡易裁判所,それを肥える場合は地方裁判所になります。)そして,地方裁判所の裁判になると,弁護士以外が代理人となることはできません(イメージとしては,まさにドラマにあるような裁判そのものになります)。
さらに,異議が出て裁判に移行した場合,費用を追加して納めなければなりません(安かった半額分を更に納めます)。
7 振り込め詐欺対策(本物の支払督促と偽物の支払督促の区別)
振り込め詐欺がこの制度を悪用していますが,中には「支払督促っぽい書面」で騙して振り込ませようとしているものがあります。
主な見分け方は次の点です。
(1) 封筒の表に「**簡易裁判所」と実在の裁判所名が記載されている。
(2) 封筒が「特別送達」という方法で送達されている(封筒の表に「特別送達」と記載されている。)。裁判所がいきなり「書留」で送ることはごくまれ。
(3) 中身の正本のタイトルが「支払督促」とあり,裁判所書記官の氏名と,「これは正本である」という認証文が書かれている(「最後通知」などと書かれていたら100%偽物。また,正本の旨の記載と判子がないものも100%偽物)
(4) 督促の内容は,「金**円を支払え」と記載されていること(そこに振込先口座が記載されていたら100%偽物。裁判所の判決や督促には振り込み口座は記載されない。)
(5) 異議申立書のひな形が同封されていること(たまに忘れる裁判所もあるので,一概には言えないが,ほとんどの裁判所では異議申立書のひな形が同封されている。逆に「すぐ払わないと強制執行するぞ」みたいな書面が入っていたら100%偽物)。
以上を踏まえて真偽を判断してください。それでも不明な場合は,封筒に記載された裁判所に,電話帳や104で電話番号を確認した上で,電話をして書面に記載のある裁判所書記官に尋ねてみましょう。
もし本物で,かつ自分に覚えのないものであれば,直ちに異議申立をしてください。さもないと,冒頭のとおり本当に強制執行されてしまいますよ。
8 まとめ
支払督促制度は,早くかつ安く命令がもらえるため,債権者(金を貸した人など)に取って非常に便利な制度です。
司法制度改革で求められている「迅速な裁判」に一役買っているといえるでしょう。
一方で書面審査であることから,悪用される可能性もあります。しかし,悪用されたと判断した場合は,直ちに異議をだすことで普通の裁判になりますので,そこで白黒をはっきりつければよいという制度でもあります。
ちなみに,NHKはこの制度を使うことを検討しているようです。裁判所からこの命令が届いたことでビックリして支払うという心理的効果も狙っていると思われますが,一方で納得がいかなければ裁判で争うという道の残っていますので,本当にNHKが実行した場合,どっちの方法をとるのかは,皆様にお任せします。
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一方で,人にお金を貸したがなかなか返してもらえない,でも裁判にするのはちょっと,という方もいるのではないでしょうか。
そこで,今回は,この「支払督促制度」について,簡単に説明したいと思います。
1 支払督促とは
簡単にいうと,「裁判所から,金を支払え,支払わなければ強制執行(差押え)するぞ」という書面です。もっと分かりやすくいえば,「判決」と同じようなものです。
2 裁判との違いは何か
判決みたいなものなら,裁判と違いがあるの?と思われる方もいるでしょう。
裁判との違いは次の点です。
(1) 早い
支払督促と裁判との最大の違いは,「相手を呼ぶかどうか」です。
裁判では,相手も裁判所に呼んで,そこでお互いの主張をぶつけ合います。
ところが,支払督促は,相手を呼ばずに決定を出します。つまり「書面審査」です。
したがって,形式的な要件さえ整っていれば,裁判所に出頭する必要もなく,すぐに決定が出ます(申立から1週間くらいで出ることもあります。)
(2) 安い
申立の手数料が,裁判の半額です。例えば,100万円を請求する場合,普通の裁判の場合,収入印紙1万円分が必要となりますが,支払督促の場合は,5千円で済みます。
3 支払督促はどのように進むのか
まず,申立は簡易裁判所に対して行います(全国に500カ所くらいあります)。また,具体的な管轄(申し立てる裁判所)は,相手の住所地に限られます。
次に,申立書に必要な印紙と切手を添えて裁判所に提出します(郵送でも可能です。)。具体的な金額(収入印紙と切手)については,申立の際に裁判所に聞くとよいでしょう(収入印紙は前述のとおり請求金額によって異なります。切手は2000円前後の場合が多いです。)。
裁判所は,書類をチェックして,問題なければ「支払督促正本」を相手に送達します。
それでひとまず手続は終了です(この間,早ければ前述のとおり1週間くらいででます。)。
その後,相手から後述の異議が出なければ,2週間後以降に「仮執行宣言申立」を裁判所に対して行います。
これまた裁判所は書面審査で,問題がなければ仮執行宣言を付けます。
これで,支払督促の手続はすべて終了します。あとは,この支払督促正本をつかって強制執行の手続きを行うことができるわけです。具体的には,土地建物や給料,銀行預金を差し押さえることができます。
4 これに不服がある場合はどうするか
支払督促をもらった相手は,当然自分の言い分を全く聞くことなく発令されているわけですから,文句の一つもいいたい場合があるでしょう。当然借りた覚えがないとか金額が違うなどの話だってあるはずですし,分割払いにしてほしいなどの希望もあるはずです。
そこで,このような場合,支払督促正本をもらってから2週間以内に異議申立をすれば,普通の裁判に移行します。
また,仮執行宣言が付いてからでも2週間以内に異議を出せば同様に普通の裁判に移行します(ただし,この場合,強制執行は止まりません。)。
5 どんな事件が支払督促に向いているか
支払督促が書面審査であることからすると,当事者間に争いがないが支払が期待できないために強制執行(差押え)をしなければならないというものに向いています。
例えば,貸金請求や敷金返還請求,さらには損害額が確定している交通事故などの損害賠償請求など,相手が反論してこないであろう事件に向いています。
6 支払督促に向いていない事件は何か
5の逆で,請求内容があいまいで書面だけでは判断ができないものや,当事者間で争いがある事件はあまり向きません。なぜなら,ほぼ確実に異議が出るからです。
異議が出ると,普通の裁判に移行しますが,その管轄は相手の住所地のままになります(通常の裁判の場合,請求する内容によっては自分の住所地を裁判所の管轄とすることもできます。)。したがって,郵送で申し立てたとしても,異議が出たらばその遠方の裁判所まで自分が行かなければなりません。
また,異議が出た場合,その金額によって簡易裁判所と地方裁判所に分かれます(請求金額が140万円以下の場合は簡易裁判所,それを肥える場合は地方裁判所になります。)そして,地方裁判所の裁判になると,弁護士以外が代理人となることはできません(イメージとしては,まさにドラマにあるような裁判そのものになります)。
さらに,異議が出て裁判に移行した場合,費用を追加して納めなければなりません(安かった半額分を更に納めます)。
7 振り込め詐欺対策(本物の支払督促と偽物の支払督促の区別)
振り込め詐欺がこの制度を悪用していますが,中には「支払督促っぽい書面」で騙して振り込ませようとしているものがあります。
主な見分け方は次の点です。
(1) 封筒の表に「**簡易裁判所」と実在の裁判所名が記載されている。
(2) 封筒が「特別送達」という方法で送達されている(封筒の表に「特別送達」と記載されている。)。裁判所がいきなり「書留」で送ることはごくまれ。
(3) 中身の正本のタイトルが「支払督促」とあり,裁判所書記官の氏名と,「これは正本である」という認証文が書かれている(「最後通知」などと書かれていたら100%偽物。また,正本の旨の記載と判子がないものも100%偽物)
(4) 督促の内容は,「金**円を支払え」と記載されていること(そこに振込先口座が記載されていたら100%偽物。裁判所の判決や督促には振り込み口座は記載されない。)
(5) 異議申立書のひな形が同封されていること(たまに忘れる裁判所もあるので,一概には言えないが,ほとんどの裁判所では異議申立書のひな形が同封されている。逆に「すぐ払わないと強制執行するぞ」みたいな書面が入っていたら100%偽物)。
以上を踏まえて真偽を判断してください。それでも不明な場合は,封筒に記載された裁判所に,電話帳や104で電話番号を確認した上で,電話をして書面に記載のある裁判所書記官に尋ねてみましょう。
もし本物で,かつ自分に覚えのないものであれば,直ちに異議申立をしてください。さもないと,冒頭のとおり本当に強制執行されてしまいますよ。
8 まとめ
支払督促制度は,早くかつ安く命令がもらえるため,債権者(金を貸した人など)に取って非常に便利な制度です。
司法制度改革で求められている「迅速な裁判」に一役買っているといえるでしょう。
一方で書面審査であることから,悪用される可能性もあります。しかし,悪用されたと判断した場合は,直ちに異議をだすことで普通の裁判になりますので,そこで白黒をはっきりつければよいという制度でもあります。
ちなみに,NHKはこの制度を使うことを検討しているようです。裁判所からこの命令が届いたことでビックリして支払うという心理的効果も狙っていると思われますが,一方で納得がいかなければ裁判で争うという道の残っていますので,本当にNHKが実行した場合,どっちの方法をとるのかは,皆様にお任せします。
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