「各駅停車。各駅停車○○駅行停車します! お待ちのお客様は線の後ろにお下がりください」
――その言葉を野々野小頭は三回は繰り返した。徐行はしても停車はしてなかった芋虫妖怪。実際芋虫妖怪が入ってくる方の駅の一番前にいた小頭を既に芋虫妖怪は通り過ぎてる。小頭の行動を見てか、今回は鬼たちは芋虫妖怪に立ち向かってはない。小頭のやってる意味は分かってるのだろうか? でも色々となんかアイテムを使ってたりする鬼たちだ。地獄も別にこっちの社会とそんなに変わりはないのかもしれない。とりあえず今はこれで芋虫妖怪が止まってくれるのを祈るしかない。
あの芋虫妖怪が電車大好きで、自身が電車になりきってる……というのなら、とまってもおかしくない筈だ、と小頭は思ってる。実際鬼たちと違って、芋虫妖怪はよくわからない言葉を発してる。それはなんとなくだけど、小頭には駅のアナウンスに聞こえたんだ。電車になりたいみたいな芋虫妖怪の為に、小頭は駅員……という役を買って出た状況というわけだ。それを芋虫妖怪はわかってるだろうか? もしかしたら芋虫妖怪はただ自分の中だけで完結できるタイプかもしれない。
寧ろ他の誰かなんて邪魔でしかないとか……そんな風に思うタイプだっていると思う。
(お願い……止まって!)
小頭は前に進んでいく芋虫妖怪を見つつそれを願う。小さな駅だ。たった一両か二両くらいの連結した電車しか入らないような……反対側を見たら確実に駅の終わりまで見えるような……そんな小さな駅。小頭のいつも使ってる駅では考えれないような……そんな小ささだった。でもだからこそ全部が見える。芋虫妖怪はこの駅のサイズに丁度入る程度の大きさだ。多分自身でそこは調整してるんじゃないだろうか? と小頭は思ってた。
もともと駅に入ってる間は徐行してた芋虫妖怪。でも、更に今回は芋虫妖怪のスピードが落ちてるように見えた。いつもは駅からその体を半分くらい出したら戻ってた。迫る最後尾。もしも……だ。もしも本当に止まる気があるのなら、この駅にピッタリサイズになってる芋虫妖怪は最後尾を今小頭がいる場所につけるはずだ。だってこの駅にピッタリなサイズなんだから。うまく駅に丁度止まるのだって電車の技術。今まではただ速度を落として通り過ぎる――という事だけをやってた。
それが芋虫妖怪だけでやってる限界だったのかもしれない。でも今、小頭が駅員をやったことで新たな選択肢が生まれてる。芋虫妖怪はどっちを選択するのか。徐々に迫る最後尾。もうほとんど徒歩レベルにゆっくりになってる。流石にこれまでだったら徐行運転でもここまでになることはなかったはずだ。せめて駆けてるくらいのスピードはあっただろう。実際は電車の徐行スピードはもっとあるだろうが、これは小頭のイメージだ。
そしてついに最後尾が小頭がいる駅の先端と重なった。それと同時に『プシュー』というなんか電車が出してそうな音が聞こえた。それはきっと完全に止まった合図。