行く当てのないままぼくは東京湾の岸辺を歩いていた。倉庫には搬入作業をしているミニクレーン車が積み荷をゆっくりと地面に降ろそうとしている。
錆び付いた金属片が落ちていた。空き缶が潰れてもなく転がっている。コールタールのむせ返るような匂いや、東京湾の濁った水は6月の梅雨時にはある意味ではふさわしいものであった。停めてあった日産のマーチに乗る。
流線型の青い車体がひと気のない夕方の高速道路を時速80kmで進んで行く。
休憩エリアでトイレを済ますと、ふと思い立ち来た道を戻り、高速を降りた。ゴーストタウンへとなりつつある夕暮れの都心のビル群を幾つも通り過ぎてそのたびにぼくは社会参加出来ていない自らの境遇との差異を痛感した。 汐留はやはりオフィス街だ。ドライブになんてとても向いていない。そこから注意深くUターンをした。
反対車線には幸い車は来ていなかった。
高速道路に上がると時速100kmで飛ばした。ハンドルが車体の速度に引っ張られて自然と動く。夕暮れはまだ梅雨だというのに夏の終わりさえ感じさせるくらいに、澄んだオレンジ色に輝いていた。昼間、曇っていたからだろうか。
ハンドルを握る手に力を入れ、ブレーキを少し効かせる。車内メーターは92kmからより下がろうとしている。アクセルを踏む足をそのままにして車線からはみ出ないようにと前との車間距離に気をつけた。ぼくはただ前を見て日産のマーチを走らせ続ける。
ETCをくぐり抜け、高速を降りた。フロントガラスから見えるファミリーレストランの人影はとても楽しそうで、家路へとぼくを焦らせた。
駐車場に停めると、カギをしてアパートの部屋に入った。アパートの2階は伸びて絡まったツタが窓辺に見えるくらいまで到達していた。夏を前にして植物さえもその活力を何よりもみなぎらせようとしていた。ぼくはその日はドライブの疲れで夜の8時には消灯し、眠りについた。
起きると雨が降っていた。アスファルトを大粒の雨が叩き、灰色の空が曇りガラス越しに見えた。
外へ出ると思ったよりも降りは激しくビニール傘をさして駐車場まで行き、車を発進させた。
中古買取店に着くと、査定のためにキーを預けてたまたま近くにあった映画館でホラーを見た。
映画館を出るとビニール傘をさして歩いてあじさいが雨で濡れていた。アスファルトは雨水を吸収する事なくスニーカーのぼくの足元を滑りやすく不安定にさせているように思えた。
査定は納得のいく金額であった。
歩いて駅に向かう、ビニール傘はぽつぽつと音を立ててぼくの心を和ませた。駅前の喫茶店で一息つく事にした。6月ももう終わろうとしている。
クーラーは微風であったが雨で肩が濡れた柄物のシャツを冷たく刺激した。
ぼくは風邪をひくことを恐れていた。ホットのコーヒーを頼むと生暖かいお絞りで顔を覆い暖気をもらう。それから適当に濡れた服やズボンを吹いて、テーブルの上の少年ジャンプを読んだ。
コーヒーも冷める頃、雨は上がっていた。駅に向かうさなか上を見上げると、昨日東京湾で見た夕暮れよりも梅雨時に相応しいような美しく淀んだ夕暮れがあった。
電車は混んでいた。やはり社会参加していない後ろめたさをスーツのサラリーマンやOLと同じ車内でいる事で実感する。
アパートに着くと、服を脱いでシャワーを浴びた。そしてTシャツとボクサーパンツのまま夜の9時には眠りについた。
起きて外へ出ると快晴であった。一旦ズボンを履きに部屋に戻り財布とカギと携帯電話だけを持って出掛けた。
久しぶりに乗る自転車は懐かしかった。車を売ったお金で買う事ができた。まだ乾ききらないアスファルトを新調したばかりの自転車のゴムタイヤはギュルギュルと軋んだ音をなびかせた。やはりぼくには自動車よりも自転車が合っているのだなと思う。
その日はとにかく自転車で走り回った。夕暮れのなかをすでに終わった幾つかのロマンスを思い出して走った。
もう過去のロマンスとは出会えないという事をまだ梅雨の抜けきらない夕暮れに思った。
アパートに帰ると、木製のミニテーブルの上で小説を書いた。ボールペンで手書きで、4月から書き溜めていた小説の98枚目を書いた。取り敢えず中編は書き終えられた。
三日月の夜の下、窓を開けて発泡酒を呑んだ。そしてまた中編を今度は50枚でもいいから書こうと思った。酔いが回り自然と眠りについた。
7月になろうとしていた中編の小説に取り掛かるために文房具店に原稿用紙を買いに、自転車を走らせた。
雲はあまり見られなかった。たぶん梅雨は明けてしまったのだろうか。
文房具店で原稿用紙の20枚の157円のものを4セット買った。
帰り際にいつも見ていたあじさいが散り始めていた。
本格的な夏はこれからぼくにいや万人にのしかかり喜びと苦しみを与えようとしている。
アパートに帰り、眠った。
起きると快晴だった。壁の柱にピンで留めてある日めくりカレンダーの「30」を破いた。「1」が出現して、日めくりの紙の上のほうには小さく7月となっていた。ぼくは木製のミニテーブルの前に座ると20枚の原稿用紙セットのビニールを開けて1枚取り出すと、水性インキのボールペンで50枚の短編を書き始めた。
セミが鳴く声が電信柱に染みてぼくのアパートを少しだけ揺らす。夏はもう始まってしまった。
錆び付いた金属片が落ちていた。空き缶が潰れてもなく転がっている。コールタールのむせ返るような匂いや、東京湾の濁った水は6月の梅雨時にはある意味ではふさわしいものであった。停めてあった日産のマーチに乗る。
流線型の青い車体がひと気のない夕方の高速道路を時速80kmで進んで行く。
休憩エリアでトイレを済ますと、ふと思い立ち来た道を戻り、高速を降りた。ゴーストタウンへとなりつつある夕暮れの都心のビル群を幾つも通り過ぎてそのたびにぼくは社会参加出来ていない自らの境遇との差異を痛感した。 汐留はやはりオフィス街だ。ドライブになんてとても向いていない。そこから注意深くUターンをした。
反対車線には幸い車は来ていなかった。
高速道路に上がると時速100kmで飛ばした。ハンドルが車体の速度に引っ張られて自然と動く。夕暮れはまだ梅雨だというのに夏の終わりさえ感じさせるくらいに、澄んだオレンジ色に輝いていた。昼間、曇っていたからだろうか。
ハンドルを握る手に力を入れ、ブレーキを少し効かせる。車内メーターは92kmからより下がろうとしている。アクセルを踏む足をそのままにして車線からはみ出ないようにと前との車間距離に気をつけた。ぼくはただ前を見て日産のマーチを走らせ続ける。
ETCをくぐり抜け、高速を降りた。フロントガラスから見えるファミリーレストランの人影はとても楽しそうで、家路へとぼくを焦らせた。
駐車場に停めると、カギをしてアパートの部屋に入った。アパートの2階は伸びて絡まったツタが窓辺に見えるくらいまで到達していた。夏を前にして植物さえもその活力を何よりもみなぎらせようとしていた。ぼくはその日はドライブの疲れで夜の8時には消灯し、眠りについた。
起きると雨が降っていた。アスファルトを大粒の雨が叩き、灰色の空が曇りガラス越しに見えた。
外へ出ると思ったよりも降りは激しくビニール傘をさして駐車場まで行き、車を発進させた。
中古買取店に着くと、査定のためにキーを預けてたまたま近くにあった映画館でホラーを見た。
映画館を出るとビニール傘をさして歩いてあじさいが雨で濡れていた。アスファルトは雨水を吸収する事なくスニーカーのぼくの足元を滑りやすく不安定にさせているように思えた。
査定は納得のいく金額であった。
歩いて駅に向かう、ビニール傘はぽつぽつと音を立ててぼくの心を和ませた。駅前の喫茶店で一息つく事にした。6月ももう終わろうとしている。
クーラーは微風であったが雨で肩が濡れた柄物のシャツを冷たく刺激した。
ぼくは風邪をひくことを恐れていた。ホットのコーヒーを頼むと生暖かいお絞りで顔を覆い暖気をもらう。それから適当に濡れた服やズボンを吹いて、テーブルの上の少年ジャンプを読んだ。
コーヒーも冷める頃、雨は上がっていた。駅に向かうさなか上を見上げると、昨日東京湾で見た夕暮れよりも梅雨時に相応しいような美しく淀んだ夕暮れがあった。
電車は混んでいた。やはり社会参加していない後ろめたさをスーツのサラリーマンやOLと同じ車内でいる事で実感する。
アパートに着くと、服を脱いでシャワーを浴びた。そしてTシャツとボクサーパンツのまま夜の9時には眠りについた。
起きて外へ出ると快晴であった。一旦ズボンを履きに部屋に戻り財布とカギと携帯電話だけを持って出掛けた。
久しぶりに乗る自転車は懐かしかった。車を売ったお金で買う事ができた。まだ乾ききらないアスファルトを新調したばかりの自転車のゴムタイヤはギュルギュルと軋んだ音をなびかせた。やはりぼくには自動車よりも自転車が合っているのだなと思う。
その日はとにかく自転車で走り回った。夕暮れのなかをすでに終わった幾つかのロマンスを思い出して走った。
もう過去のロマンスとは出会えないという事をまだ梅雨の抜けきらない夕暮れに思った。
アパートに帰ると、木製のミニテーブルの上で小説を書いた。ボールペンで手書きで、4月から書き溜めていた小説の98枚目を書いた。取り敢えず中編は書き終えられた。
三日月の夜の下、窓を開けて発泡酒を呑んだ。そしてまた中編を今度は50枚でもいいから書こうと思った。酔いが回り自然と眠りについた。
7月になろうとしていた中編の小説に取り掛かるために文房具店に原稿用紙を買いに、自転車を走らせた。
雲はあまり見られなかった。たぶん梅雨は明けてしまったのだろうか。
文房具店で原稿用紙の20枚の157円のものを4セット買った。
帰り際にいつも見ていたあじさいが散り始めていた。
本格的な夏はこれからぼくにいや万人にのしかかり喜びと苦しみを与えようとしている。
アパートに帰り、眠った。
起きると快晴だった。壁の柱にピンで留めてある日めくりカレンダーの「30」を破いた。「1」が出現して、日めくりの紙の上のほうには小さく7月となっていた。ぼくは木製のミニテーブルの前に座ると20枚の原稿用紙セットのビニールを開けて1枚取り出すと、水性インキのボールペンで50枚の短編を書き始めた。
セミが鳴く声が電信柱に染みてぼくのアパートを少しだけ揺らす。夏はもう始まってしまった。
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