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突発ショートストーリー

2010年11月26日 23時55分15秒 | ウェブノベル
窓から見える夕焼けがぼんやりと滲んだ。

海辺の小さな町に少女リイカは住んでいた。
岸壁の上の灯台下にある白い土壁の小さな家。
そこが彼女の家だった。

暗闇鳩の時計が月凪時を告げると、彼女はカップに入っていた冷めた甘雪糖を飲みほした。

扉を開けて灯台の外壁にそった階段を上がる。

てっぺんにある魔法あかりに火をともすのが毎日の日課だ。

精霊式原動機のハンドルを力いっぱい回すと、三段レンズ付き真空ガラスの中を青い光が走る。

ぼぅ…。

灯台にあかりがともる…。
この高さから見ると、はるか遠くにシトイダの町が見える。
この町から遠く、遠く離れたその町は、どの星よりも遠い別世界だ。

水平線に浮かぶ青い太陽は、もう沈みかけている。
今夜は快晴。うっすらと三つの月が空に浮かんでいる。

ふと下を見ると、灯台に続く道を大きなリュックを背負ったコートの男が歩いてくる。

階段を駆け降り、部屋に彼を迎え入れた。
コートを脱がし壁の取っ手にそれをかける。

彼はこの世界の外れにある灯台に、星より遠い町の香りをいつも届けてくれる。
輝月花の香りがほのかに漂う少年の名前はバイダオ。
リイカより五つは上の歳だ。

少年は、南方式月光キセルに火をつける。

長い夜の始まり…。
少年はみた事もない遠い世界の話をしてくれる。

初めて聞くはずなのに懐かしいその話。

そして朝、疲れて寝てしまった少女を置いて少年は出発する。

一瞬、少女の寝顔を見る彼の眼が悲しげに見えたのは気のせいか…。



彼女が目を醒ましたのは昼過ぎだった。

空渡鳥の卵焼きと、干した豚牛の肉で朝昼兼用の食事をすませると、窓の外に青い光が満ちてくる。

カップに温かい甘雪糖を注ぎ、一口…。

何回も何回も、繰り返す時間のループ。
ここは世界の果て、閉じた世界。

遠い町も、人々で賑わう市場もすべては夢の世界。

窓から見える夕焼けがぼんやりと滲んだ。
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