単発SS
暗闇に支配された街。
月が雲に隠れてしまい黒一色の中に、女性の走る音と荒い息遣いが響く。
入り組んだ都会の路地を抜けると、人々から忘れ去られた空き地に出た。
風が吹き雲の切れ間から月明かりがもれた。
照らし出すのは、少女の姿。
ショートカット、ジャンパーとデニムのミニスカート。
彼女は空き地に置かれた建築資材の上から、もう一人の少女を見下ろす。
驚いて後ずさるロングヘアーに桃色のワンピース。
暗い路地を走ってきたからか、少し黒く汚れている。
「プリキュアシステム起動…」
ショートカットの少女がスマートフォンのような端末にささやくと、空間が歪み、月の光とはまた違う光が発生し少女を包みこむ。
やがて光の中から現れた彼女は、メカニカルなパーツが配置されたドレスをまとっていた。
人類が作り出した2番目のプリキュア。
昔に世界を救った伝説の戦士をついに科学の力が誕生させたのだ。
12人いた実験素体の中で、力を発動できたのは数名のみ…。
中には拒絶反応をおこした者や、身体に影響をうけた者もいると聞く…。
「超絶科学の力! キュアマキナ!」
彼女の使命は、欠陥品の始末…。
実験用の小動物を組織から奪い逃げ出したプリキュアの失敗作…。
「まずいピロ!もの凄い力を感じるピロ!」
ワンピース少女の背中に張り付いた小動物が叫ぶ。
キュアマキナの右手が輝き、空間からスティックが現れる。同時に爆発が起きる!
爆風に翻弄される…。
痛い、苦しい、辛い…。
そんな事ばかり…。
記憶を奪われ人造プリキュアとして薬物投与を繰り返され、それでも結局力を掴むことはできなかった…。
人造プリキュアは変身して初めて名前を持つことができる。
よって失敗作の彼女は名無しである…。
このまま何も守れずに、死んでゆくのか…。
自分が何者かもわからずに…。
「次で最後だ…」
光がどんどんキュアマキナのスティックに集まってゆく…。
いやだ、いやだ、いやだ!
まだ、死にたく無い思いよりも、背中の小動物を救いたい、その思いが強かった。
何も守れずに終わるのは、あまりに無念だ…。
「!な、なにか感じるピロ!」
あまりの熱に指先がヒリヒリする。
「プ…プリキュア?」
声…?
光のエネルギーが最大となった時。
名無しの少女は、光を見た。
人が作った偽りの光ではなく、それは太陽のようでもあり、意思を持っているように彼女を包みこんだ。
心に浮んだ言葉を叫ぶと、空間に歪みが生じる。
「馬鹿な…ジェネレーターを介さずに、キュア次元から力を引き出している…だと!」
光はやがてスティックの形になり、キュアマキナの放った攻撃を無効化する。
「本物ピロ!伝説の戦士プリキュアピロー!」
「わ、私、変身できた…!」
「女の子は、誰でもプリキュアになれるんだピロ!」
次の瞬間、轟音とともに爆発が起きる。
空き地に隣接していた工事中のビルが半壊した。
「姿が変わろうが、蒸発させてしまえば同じだ…私が、私が負けるはずなんて…」
半円に削り取られた地面に、名無しの姿はなかった。
もっと上、はるか上空に翼を広げるその姿…
「浄化!」
キュアマキナの変身が解け、彼女はその場に崩れ落ちた。
「なぜ…殺さない?」
「私は、救いたいの。あなたも、そして…」
「?」
代わりに小動物が口を開く。
「人間界は狙われてるピロ!プリキュア同士で争ってる場合ではないピロ!」
プリキュア研究のために、多くの仲間を殺された彼ら妖精が、なぜ人間を救うために…?
それは名無しと同じく「救いたいから」であった。
正義、無償の愛、それは生存原理に反する。しかし、だからこそ尊いのかもしれない。
…そして、この始まりを見つめる者が、他にもいた…。
「予定通りネームレスが覚醒しました」
執事…であろうか?
初老の男が、空間に投影された映像を見ていた。
そして、たぶん、その主。
随分若く見える男が、ソファに横たえた身体をおこし、黒い肩にかかりそうな黒髪をかきあげ…。
「ネームレス…、予想以上だ…。そうでないと困る」
黒と白の市松模様。
タイルが敷き詰められた部屋。
その上には、絨毯とソファーがあり、結構な奥行きがある。
部屋の一角は、レースのカーテンで仕切られていて、その向こうには、ソーダ水に満たされた浴槽があった。
溢れ出した水はタイルを伝い部屋に広がる。
カーテンが開くと、そこから全裸の少女が顔を出した。
年齢は12歳ぐらい。透き通るような白い身体に、美しい金髪のロングヘアー。
か細い手がカーテンをはがすと、それを身体に巻き付けてタイルの上を舞う。
「伯爵、新しいお友達と、早く遊びたいですわ」
ソファーにいた男、伯爵が立ち上がる。
「そうだね、キュアファースト。そろそろ恐怖と快楽の世界への門を開くとするか…」
空中に浮かんだ映像の中で、名無しの少女がアップになる。
彼女は、マキナに手を差し延べる。
「一緒に戦いましょう!」
ここに一つの物語が始まろうとしていた。
その先にあるのは、夢か希望か?
つづく?
(あとがき)
仕事でバタバタしてる時期、帰宅途中に携帯で打ってました。
こんな漫画を書きたいなんて思ってたりしてたんですよ。
暗闇に支配された街。
月が雲に隠れてしまい黒一色の中に、女性の走る音と荒い息遣いが響く。
入り組んだ都会の路地を抜けると、人々から忘れ去られた空き地に出た。
風が吹き雲の切れ間から月明かりがもれた。
照らし出すのは、少女の姿。
ショートカット、ジャンパーとデニムのミニスカート。
彼女は空き地に置かれた建築資材の上から、もう一人の少女を見下ろす。
驚いて後ずさるロングヘアーに桃色のワンピース。
暗い路地を走ってきたからか、少し黒く汚れている。
「プリキュアシステム起動…」
ショートカットの少女がスマートフォンのような端末にささやくと、空間が歪み、月の光とはまた違う光が発生し少女を包みこむ。
やがて光の中から現れた彼女は、メカニカルなパーツが配置されたドレスをまとっていた。
人類が作り出した2番目のプリキュア。
昔に世界を救った伝説の戦士をついに科学の力が誕生させたのだ。
12人いた実験素体の中で、力を発動できたのは数名のみ…。
中には拒絶反応をおこした者や、身体に影響をうけた者もいると聞く…。
「超絶科学の力! キュアマキナ!」
彼女の使命は、欠陥品の始末…。
実験用の小動物を組織から奪い逃げ出したプリキュアの失敗作…。
「まずいピロ!もの凄い力を感じるピロ!」
ワンピース少女の背中に張り付いた小動物が叫ぶ。
キュアマキナの右手が輝き、空間からスティックが現れる。同時に爆発が起きる!
爆風に翻弄される…。
痛い、苦しい、辛い…。
そんな事ばかり…。
記憶を奪われ人造プリキュアとして薬物投与を繰り返され、それでも結局力を掴むことはできなかった…。
人造プリキュアは変身して初めて名前を持つことができる。
よって失敗作の彼女は名無しである…。
このまま何も守れずに、死んでゆくのか…。
自分が何者かもわからずに…。
「次で最後だ…」
光がどんどんキュアマキナのスティックに集まってゆく…。
いやだ、いやだ、いやだ!
まだ、死にたく無い思いよりも、背中の小動物を救いたい、その思いが強かった。
何も守れずに終わるのは、あまりに無念だ…。
「!な、なにか感じるピロ!」
あまりの熱に指先がヒリヒリする。
「プ…プリキュア?」
声…?
光のエネルギーが最大となった時。
名無しの少女は、光を見た。
人が作った偽りの光ではなく、それは太陽のようでもあり、意思を持っているように彼女を包みこんだ。
心に浮んだ言葉を叫ぶと、空間に歪みが生じる。
「馬鹿な…ジェネレーターを介さずに、キュア次元から力を引き出している…だと!」
光はやがてスティックの形になり、キュアマキナの放った攻撃を無効化する。
「本物ピロ!伝説の戦士プリキュアピロー!」
「わ、私、変身できた…!」
「女の子は、誰でもプリキュアになれるんだピロ!」
次の瞬間、轟音とともに爆発が起きる。
空き地に隣接していた工事中のビルが半壊した。
「姿が変わろうが、蒸発させてしまえば同じだ…私が、私が負けるはずなんて…」
半円に削り取られた地面に、名無しの姿はなかった。
もっと上、はるか上空に翼を広げるその姿…
「浄化!」
キュアマキナの変身が解け、彼女はその場に崩れ落ちた。
「なぜ…殺さない?」
「私は、救いたいの。あなたも、そして…」
「?」
代わりに小動物が口を開く。
「人間界は狙われてるピロ!プリキュア同士で争ってる場合ではないピロ!」
プリキュア研究のために、多くの仲間を殺された彼ら妖精が、なぜ人間を救うために…?
それは名無しと同じく「救いたいから」であった。
正義、無償の愛、それは生存原理に反する。しかし、だからこそ尊いのかもしれない。
…そして、この始まりを見つめる者が、他にもいた…。
「予定通りネームレスが覚醒しました」
執事…であろうか?
初老の男が、空間に投影された映像を見ていた。
そして、たぶん、その主。
随分若く見える男が、ソファに横たえた身体をおこし、黒い肩にかかりそうな黒髪をかきあげ…。
「ネームレス…、予想以上だ…。そうでないと困る」
黒と白の市松模様。
タイルが敷き詰められた部屋。
その上には、絨毯とソファーがあり、結構な奥行きがある。
部屋の一角は、レースのカーテンで仕切られていて、その向こうには、ソーダ水に満たされた浴槽があった。
溢れ出した水はタイルを伝い部屋に広がる。
カーテンが開くと、そこから全裸の少女が顔を出した。
年齢は12歳ぐらい。透き通るような白い身体に、美しい金髪のロングヘアー。
か細い手がカーテンをはがすと、それを身体に巻き付けてタイルの上を舞う。
「伯爵、新しいお友達と、早く遊びたいですわ」
ソファーにいた男、伯爵が立ち上がる。
「そうだね、キュアファースト。そろそろ恐怖と快楽の世界への門を開くとするか…」
空中に浮かんだ映像の中で、名無しの少女がアップになる。
彼女は、マキナに手を差し延べる。
「一緒に戦いましょう!」
ここに一つの物語が始まろうとしていた。
その先にあるのは、夢か希望か?
つづく?
(あとがき)
仕事でバタバタしてる時期、帰宅途中に携帯で打ってました。
こんな漫画を書きたいなんて思ってたりしてたんですよ。