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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
英訳短歌version0.01
* 大みわ神社の大鳥居 ?!(011)
大分、昔の話である。
自動二輪の小型から中型に切り換えた。
バイクも買った。
例のSサヤカだ。
彼女に慣れるため、会社を5時過ぎに出ては
毎晩練習していた。
同僚の少しキツーイ視線も、別に気にはしない。
コースは大体決まっている。
自宅に近い所ばかりだ。Oさんも、
「いい加減にしたら!」と眉をひそめる。
しかし、私は必死だ。
合格もスレスレの70点だったし、
今までカブばかりに乗っていたので、
250ccともなると感覚が全然違うのだ。
車体重量も150kg前後。
重たい。
恐い。
それでも乗る。
行のようなものだ。
慣れて乗りこなしたいという要求も強い。
跨がると、元来足の短い私は足をつきかねている。
きき足は左なので、右へ倒れると、
右足の踏張りがきかない。
というよりも、コツがわからないのだ。
シートに跨がるにも一苦労する。
サヤカは、オン・オフ兼用のバイクだ。
山路のような悪路でも高速道路でも走れる。
カブで、この10年近く田圃の畦路ばかり走っていた。
特に、私は道らしくない道や山の路が好きだ。
その為、兼用車にしたのである。
クラッチの切り換えにも慣れていない為、
左手首・左腕が痛いので、
サポーターをはめて練習している。
事故から遠ざかるには、身体で覚えるしかない。
カブの経験からわかっている。
ギアチエンジもまだまだ、だ。
エンストもよくする。
初日に、ガソリン・スタンドで、
キル・スイッチに知らぬ間にふれていて大恥かいた。
カブにはキル・スイッチがなかったのだ。
キル・スイッチとは非常時に備えて、
エンジンを強制的に停止させるスイッチである。
何かの拍子にふれたのだろう。
ガソリンを入れ終わって、
いくらスタータ・ボタンを押してもかからない。
あせった。
あせったが、どうしようもない。
店員に聞いてみる。
「今日買ったばかりなのに、もう故障したのかな?」
店員はちょっと見て、
「お客さん、OFFになってますよ」と、
キル・スイッチを戻してくれた。
やはり、私のような初心者が多いのか、よく知っている。
思い出すと、今でも恥ずかしくなってくる。
その夜は、霧がかかっていた。
大神(おおみわ)神社に行った。
山全体が、ご神体となっている例の神社だ。
酒の神様でもある。
万葉集などにも詠みこまれている、この国最古の神社だ。
夜の神社はいい。
誰ひとりいない。
灯篭が灯っているので恐くはない。
静かで、こころが落ち着く。
パンパンと柏手を打つとあたり一面に響き渡る。
無事故・無違反を祈る。
巳の神杉が、心憎いほど高い。
しいーん。
霧で全体がボヤケていて夜。
私の眼は夜盲症気味で近眼。
何とも風情がある。
いくら居ても厭きないのだが、やはりもっと
練習しなければならないと、またサヤカに跨がる。
霧の道も慣れておかねば、という挑戦意欲もある。
前方に、大神神社の大鳥居が見えてきた。
その(ころ)日本一大きいという鳥居には、
夜間照明があたっている。
が、霧のためぼんやりとしか見えない。
大鳥居は耐候性鋼板で作られていて、
1,300年ぐらいは持つらしい。
私は進んだ。
その時である。
目の前がクラクラッとした。
何とサヤカが大鳥居の柱を登り五角形になっている、
大鳥居の上を走っているのだ。
ワァーッ!
40mもある一本橋。
それも空中。
高さは32.2m。
教習所の低地でさえ何度も落ちたことのある
恐怖の一本橋走行。
不思議だ。
バランスはくずれない。
サヤカが勝手に走っているという感じだ。
私は、こわごわ。
もう生きた心地はしなかった。
しばらくすると、サヤカは反対側の柱を下りて、
普通の霧道を何事もなかったように
澄まし切って走っていた。
鉄びとの バチを恐れぬ わがバイク
大鳥居渡る 霧つつむ深夜
ち ふ
この項おわり
註、
短歌の英訳につきましては、
短歌を打ち込んで、(←数テンポ遅れの元電脳人)
検索をかけてみてください。(以下、略すこともあります)
「
くだらない小説を書きてよろこべる
男憐れなり
初秋(はつあき)の風
啄木「一握の砂」
」