copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
(昭和の終わりころ~)
ふとその時、海亀が気になったので目をやった。
犬に脅されて隠していた首を出しきって、上下に振っている。
あれは、お礼を言っているのか?
それにしては、回数が多すぎる。
よく見ると、右手も出していて、オイデオイデをしているではないか!
私は、また例のサヤカの力を借りる事にする。
すぐさま、ガソリンの給油口を開け耳を当てる。
{オッさん、ありがとう。助かりました}
私を、オッさん呼ばわりする奴がここにも居たのか!
有り難いと言おうか、情けないと言おうか、
とんだ有名人になってしまったものだ。
これも元はと言えば、すべてはサヤカの所為だし、お陰でもある。
{お礼にいい所へ、ご案内しましょう。
海に潜る道具は持っていますか?}
そんなもの、ツーリングに持ってくるわけない。
それに趣味ではない。
かといって、いい所と言われると行きたくなるのが、私の性分。
その上、助けた亀といい所、これは浦島太郎に違いない。
しかし、何とも安上がりな太郎なのだろう。
石つぶて、たったの10個足らず。
もう、これは運だ。
海亀が苛められていた。
たまたま、私が通りかかった。
石を投げる。
犬が去る。
何とも単純なストーリィ。
でも、宝くじを買って当たるよりは、込み入った筋にはなっている。
このチャンス、何とかならないもんか!
ない知恵を絞り出す。
ああ、そうだ。
ここは太平洋だ。
鯨のクジクジをサヤカに呼んでもらって、
彼奴の口のなかに入れば何とか潜れそうだ。
{オレは、人間なので酸素がいる。
何分ぐらいで行けるのかい?}
{15分とかかりません。
着けば空気の心配はいりません}
ここから、15分の所に竜宮城があるなんて、
とてもじゃないが信じられない。
そんなに近いのだったら、
もうとっくに話題になって、
マスコミを賑わしているはずなのに。
またまた、20世紀末のお粗末な知識が邪魔をするが、
信じる者は救われるだ。
この際、信じてしまおう。
サヤカに、クジクジを呼んでもらった。
いまデイトの最中なので、30分ぐらい待ってくれという。
(人の恋路を邪魔する奴は、
野犬に襲われて噛まれてしまえ!)
そんな言葉が浮かんでくる。
何とも心細い。
人っ子ひとり通らない。
そのうちに、クジクジがやってきた。
{ご厄介かけます}
{おう、オッさん、久しぶりじゃのう}
サヤカを通して話しかける。
訳を話すと気持よく、口をぱかーっと開けてくれた。
OKサインである。
{気をつけてね。鼻の下にもね}
サヤカの見送りのきつい一発が聞こえた、ような気がした。
そんな短い言葉でも純情な(?)私には堪える。
ビィーンと心に射い入るのだ。
海亀がのっそりと進み始める。
口の中は真っ暗だった。
ぷーんと魚の腐ったような匂いが押し寄せる。
心細いので懐中電灯を点けた。
クジクジはマッコウクジラだ。
最大時速、約36km。
ということは、10分では5~6kmも進む。
平地での1kmはたいしたことないが、
海底や山の高さとなってくると、
その桁は何万倍にも読み換えなければならない。
元来、気の小さい私は、不安に襲われていた。
クジクジの鼻の穴あたりがわずかに白い光を放っている。
私は尖った歯にしがみつき急降下に耐える。
ジェットコースター並みだ。
海亀のヤツ、
騙したりはしないだろうな、
ちゃんといい所へ案内してくれるのだろうな、
そんな事を思いながら身を任せていた。
しまった!!!
3/4へ