絵じゃないかおじさん

言いたい放題、自由きまま、気楽など・・・
ピカ輪世代です。
(傘;傘;)←かさかさ、しわしわ、よれよれまーくです。

あ@仮想はてな物語(逸話) MBGのおウタばあさん あらすじ  0/32

2019-02-05 08:17:39 | 仮想はてな物語 
     
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  あらすじ

 流安人。
 平成の中年の会社員の一人である。
 優しい妻の名前は、あゆかという。
 二人の間には3人の子供がいる。
 その流家に安人の親友・ちうの紹介状を持って、
 ひとりのずうずうしい老婆が訪ねてきた。

 
 ちうは、パチンコ行脚をしている、自由人である。
 そのバァさんも、何やらいわくありげな、
 生活を送っているらしい。


 名は、流山ウタという。
 死んだ亭主の写真を胸に、
 日本中のお寺を無賃で泊りながら、
 名所・旧跡を訪ね、傍らでパチンコで、
 小遣い銭を稼ぎながら、渡り歩いているらしい。


 誰にも、束縛されず、
 人に迷惑をかける事もなく、
 小遣い銭に不自由することなく、
 元気に暮らせるのは、一つの理想的な生き方でもある。
 しかし、この事は、簡単のようで難しいことです。


 このウタばぁさんの生き方を通して、
 私の老後とは何かを、自問自答してみました。

                では、本文へ



つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 1/32
 
     
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* MBGのおウタばあさん(059)


   本文

 ある土曜日のことであった。
 一人のいわくありげな老婆が、流家を訪れた。
 流家の一応の主人は、休人である。
 しかし、結婚以来、
 主人が、どうのこうのという生活には、ほど遠い生活を送っている。

 休人、40数才。
 都心のO市に勤める会社員である。
 妻の名は、あゆか。
 少しばかり、中年太りしているが、
 昔の可愛い面影を、
 うっすらと残している、流家のリーダーでもある。

 家族は、その他に、
 高校生の長女のマイカ、
 同じく二つ下の長男の休太郎、
 小学生の次男・休次郎、
 それに、飼い犬の駄犬コロである。


 「ごめんくださいませ」

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 2/32
 
     
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 時間は、朝の10時前であった。
 私は、妻のあゆかとスーパーに、買い出しにゆく準備をしていた。
 けれども、あゆかの準備は時間が掛かる。
 安物の化粧品を塗りたくって、
 シミやたるんだ膚を隠すためと、
 スカートやガードルをはく時に、
 四苦八苦している事も、原因の一つとなっているのだろう。


 ちゃんと、自分の身体に合ったものを求めればいいものを、
 子供の買物はしても、自分のモノを買うほど気が回らないのか、
 あるいは、自分は、まだまだスマートだとでも、思っているのだろうか。
 その事は聞いてないので、よくは知らない。

 私は、玄関口近くで、
 あゆかの身仕度が整うのを待っていたので、ドアをあけた。



つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 3/32
 
     
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「何か?」
「あなた、ながれ・やすとさん?」

「はあ」
 小柄で、愛敬あるシワ顔が覗いた。

「わたし、流山ウタと申します。
 実は、お友達のちうさんから紹介いただきまして。
 これ紹介状。
 同じ流がつくもの同士、仲良くしよね」

 ナ、何じゃ、このばばぁ。
 顔のシワに負けないくらい、
 シワシワになった紙切れを、ぶっきらぼうに突きつけてきた。

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 4/32
 
     
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  ドン作、すまん。
 ウタさんが寄れば、面倒みてやってくれ。
 頼む。
 あゆか殿に、よしなに。
                            ち う


 ちうは、私の高校時代からの親友である。
 彼は、高校3年の時、学校を止めて以来、
 ずっと全国のMBGランド(=パチンコ店)を渡り歩いて、
 気ままな生活を送っている。


 MBGとは、ちうの造語でパチンコのことである。
 何でも、ミニ・ミラクル・ボール・ゲームの頭文字を取ったものらしい。
 正しくは、MMBGと呼べばいいのだが、
 MMと重なると、発音にしにくいので、3語に縮めたらしい。

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 5/32
 
     
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 夏場は涼しい地方、冬には暖かい地方へと出かけて、
 日を送っているようだ。
 もちろん、今だに独身である。

 彼は、現代の求道者とでも呼ぶ方が、適当なのだろうが、
 私とは、生き方において、かなりの隔たりがある。

 ちうは、私のことをドン作と呼ぶ。
 私は、元来、不器用なものだから、
 こういうアダナがついてしまった。
 しかし、実体を表わしているので、別に気になりはしない。



つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 6/32
 
     
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「そういうわけで、しばらくおかしてな」

 風呂敷つづみを持った小柄なバァさんが、
 つかつかと入り込んできた。
 私は、あゆかに告げてもいないし、承諾した覚えもない。
 けれども、何も言う間がないのだ。

「よっこいしょ」と言いながら、
 ウタばぁさんは応接間に座りこんだ。
 私も、つい後をついていってしまった。

 あゆかが、支度が出来たのか、
 私を呼んでいる。
 小走りで、あゆかの元に走った。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 7/32
 
     
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「あのね、ちうのヤツ、へんなババァ寄越しやがった」
「何のことよ」

「これ」と、
「ちうの紹介状」を、おそるおそる差し出す。

「いつ来るの?」
 眉がキリッと上がった。

「もう、来てるよ」
「来てるって!!!」


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 8/32
 
     
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 わっ、恐。
「どこなの」
「応接間」

 あゆかは、応接間を覗きにゆく。
 私は、子犬の初めての散歩のような、
 気持でついていった。

「これは、これは、あゆかさんでございますか?」
「あのー、どちらさまでしたか」

「ちうさんの友達でな、流山ウタと申します。
 月曜まで、2~3日、ご厄介かけますでな。
 よろしくお願い申します」

 畳にペタッと頭をつけて、
 両手を上にあげ、合わせ手をしている。

「そんな! どうぞお顔を上げて下さい」


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 9/32
 
     
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 こうなれば、OKである。
 このばばぁ、私には、
 あんな素振り少しも見せなかったのに、
 あゆかにはオベッカ使いやがって!
 ちうのヤツめ、家庭の内情、すべてバラしたのだな。

「お出掛けのご様子で?」
「ええ、買物に」

「やすとさん、水をいっぱい、めぐんでもらえんでしょうか。
 それ飲んだら、私も、早速出掛けるところがありますので。
 帰りは、8時ぐらいと思いますんじゃが。
 今夜の食事は、要りませんぞな」


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 10/32
 
     
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 この人使いの荒い、礼儀知らずのばばぁめと思うのだが、
 なぜか憎めないような、人なつっこさを持っている。
 私は、コップに水を汲んで持っていった。
 水を飲むと、ウタばばぁは、さっさと出ていった。

 何歳ぐらいだろうか。
 歳のわりには、姿勢がよさそうだ。

「ちうさんも、ちうさんよねぇ」
 あゆかが運転席から話かけてくる。
 私は、助手席でふんぞり返っている。
 彼女は、ほとんど毎日運転しているので、
 下手な運転をする私よりは、よっぽど安全である。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 11/32
 
     
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 といわけで、私は、ほとんど車を運転したことがない。
 必要がないから、ハンドルから遠ざかる。
 そのため、ますます運転する感覚を忘れてしまう。
 先程、助手席でふんぞり返っていると書いたが、
 これは職業病のためである。

 いつも座りっぱなしの仕事なので、ZI主のせいである。
 少し、深めに座れば、ポイントがはずれる。
 はずれれば、少なくとも悪化はしないと感じるから、
 そういう姿勢を取ることにしている。

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 12/32
 
     
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「本当に、数日なんでしょうねぇ」
「知らないよ、そんなこと」


「いつもアナタはそうなんだから。
 私の身にもなってよ。
 ご飯の心配はしなくてはならないし、
 気を使わなくてはならないのよ。
 アナタは、会社へ行くだけが、生活だと思っているのね。
 どんな話をしていいのかも分からないし」


「そんなこと言われても。ちうのヤツに怒ってくれよ」
「何よ! 卑怯よ! 
 それに、ちうさん、いま何処にいるのか、分からないでしょ。
 親友というのなら、親友らしくしたら、どう!
 私にとっては、二人とも、おんなじ罪よ。
 種を蒔いたのは、あなたたちでしょ」

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 13/32
 
     
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 返す言の葉が見当らない。
 ちうには、無理を頼むこともあるし、仕方ないか。

 それにしても、
 一言ぐらい、声を掛けておいてくれれば、
 こちらも心の準備をして、
 あゆかを、それとなく懐柔しておいたのに。

 気のきかない奴め。
 家庭を持ってないから、そんな気配りも出来ないのだ。
 それにしても、ちうの生活、反面うらやましくもある。


 私たちが、食事を終え、思い思いにくつろいでいるところへ、
 ウタばぁさんが帰ってきた。
 お土産を、どっさり抱えてのご帰還であった。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 14/32
 
     
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 休次郎には、ファミコンの、
 休太郎には、パソコンのゲームソフトである。

 あゆかにはお菓子類の詰め合せ、
 マイカにはブローチ、この私には煙草であった。

「みなさん、しばらくお世話になりますよ。よろしくね」

 子供たちは、キョトンとしていた。
 私もあゆかも、すっかりウタばぁさんの事を忘れていたのだ。
 あゆかが、簡単に子供たちに紹介をする。
 珍客に、子供たちは戸惑っていた。
 どう接していいか、分からないのだろう。

 男の子二人は、早速ゲームをするため消えさった。
 安サラリーマンといえども、テレビは、3台ほどある。
 1台は、かなりの値段だったが、
 残りは、2~3万円の店頭商品である。

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 15/32 
     
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 ほんの30年ほど前の、
 テレビが出始めのころから考えると、
 何と贅沢な時代になっているのだろうかと、
 つくづくと空恐ろしくなってくる。

 けれども、それぞれの目的に応じて、
 使い分けるためには、必要でもあるようだ。
 順番を待って、兄弟で一つのものを、
 仲良く使うような時代ではないようだ。

 あゆかが、食事の後片付けをしているので、
 私がもっぱらウタさんの相手をした。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 16/32
 
     
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 話を聞いていると、なかなかおもしろいバァさんであった。
 ちうと同じように、全国のMBGランドを巡っているようだ。
 ただし、彼女はお寺まいり、
 名所旧跡を訪ね歩く事も兼ねているという。

 しかし、熱心な仏教徒ではないらしい。
 お経は、「妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五」、
 俗に、「観音経」と呼ばれている、
 この経オンリーで、これ一つ覚えておけば、
 だいたいのお寺に通用するという。

 彼女は、そのお経を武器に、寺々を無賃で渡り泊って、
 MBG行脚をしているという。
 さすがは、ちうの友達になるはずである。



つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 17/32
 
     
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 ウタばぁさんの亭主は、定年後、数年も経たずして、
 夢を果たすことなく無くなったそうである。
 この亭主の夢というのが、
 夫婦して、全国を旅行するということだったらしい。

 そのため、彼の写真をロケット・ペンダントに入れ、
 一緒に旅をしているつもりだとも言っていた。
 金は、ほとんど使わず、逆にMBGのプロとして、
 せっせと小銭を貯めているようだ。


 午前中、MBGランドの早朝サービス台で、
 数千円も稼げば、貯金まで出来るとも言った。
 朝は、寺のご飯をよばれ、夜は夜で宿屋代、飯代はタダである。
 お賽銭を500円ばかりはずめば、昼飯や飲み物・タバコ代など、
 そう金は要らないという。

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 18/32
 
     
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 ランドを昼すぎに出て、食事をし、午後からお寺や名所を回り、
 夕刻にその夜、厄介になる寺を捜すようだ。
 3軒に1軒ぐらい断られるそうであるが、
 だいたいが、親切な住職が多いとも言っていた。


 私は、感心しながら聞いていた。
 ウタばぁさんの後をついて、一緒に歩きたくもなった。
 しかし、病気や怪我をした時どうするのだろうか。

「おばぁちゃん、怪我をしたらどうするの?」
「私の歳になれば、医療費は安いんじゃ」


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 19/32
 
     
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「じゃ、病気になって長く寝込んだら?」
「そのために、貯金よ。貯金。頼れるものは、金のみじゃ」


「家族は?」
「息子がひとり居るが、ありゃ嫁にくれてやったのよ」


「ボケたら?」
「治るボケだったら、治りもしたいが、
 治らないものならば、死んだものと変わりないだろが。
 死んだ後のこと、とやかく言って何になる?」

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 20/32 
     
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「そうとも考えられるのか・・・ では、養老院に入る気はないの?」
「亭主の夢を、何回でも叶えてやるんじゃ。
 この足腰が立たんようになるまでな。
 1回ぐらい回ったのでは、この日の本の国、分かりはせんぞ。
 それにな、名所と言っても、似合う季節、
 相応しい天気や時間帯など、幅が広い。
 何回、回っても、そうそう会えんのよ、
 感動するような風景にはな。

 5年でやっと一回りできるだろうかね。
 狭いようで、奥は深い、この蜻蛉の島は。
 それにな、MBGランドと言っても、
 全国では、15,000店は、軽く超えているんじゃ。
 新台も次々開発されてくる。その攻略法も学ばねばならん。
 その土地土地の人の話も、聞かにゃならん。
 名所の下調べもある。
 養老院のことなど、考えとる暇などないわ」

 私は、ますます以て、おウタばぁさんの生き方に興味を抱いた。

つづく


仮あ@想はてな物語 MBGのおウタばあさん   2 1/32
 
     
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「あゆかさん、明日の朝は卵の厚焼き、
 5cmにも、しなくっていいからね。
 それとミソ汁と、海苔の一枚もあれば、このババ十分じゃ」
「ええっ、5cm?!」

 あゆかの素っ頓狂な声が、あたりに響き渡った。
 それに、わが家の朝食はパン食である。
 特に日曜の朝は、サンドイッチと決まっている。
 みんなの楽しみの一つとなってもいるのだ。
 あゆかの心の中に、
 ちょろりと、怒りの炎が、燃え上がったのを感じた。

つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 22/32
 
     
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「朝は、ミソ汁に限るわよね。
 卵焼きには、目が無いのよ。
 無理言ってごめんなさいね。
 最近、厚い卵焼き口にしたことないのよ。
 あゆかさんの卵焼きすばらしいんだってね。
 ちうさんから聞いたのよ」
「あら、そんな」

 あゆかの心の炎が、またたく間に見えなくなった。
 それにしても、誉められているのか、
 けなされているのか分からないのに・・・


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 23/32
 
     
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 これは、ちうがあゆかに言ったのなら、
 おそらく誉めているのだろう。

 ちうはお世辞を言わないタイプの人間だ。
 感じたままを口に出す。
 しかし、だ。
 他の者が言ったのなら、
 これは、明らかにあゆかを揶揄しているのだ。

 一方では、卵焼きしか上手に作れない、
 主婦を意味しかねないからだ。
 あゆかは、そう料理が得意ではない。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 24/32
 
     
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 結婚してかなり経つが、
 私の舌は、母の料理に、今だに支配されている。
 これは、あゆかの料理の上手下手に関係なく、
 私の性格も、手伝っているのだろうと思う。
 その性格が遺伝するものなら、
 おそらく、あゆかの子供たちも、そう感じるだろう。

 そういう人間にとって、
 母の作り出す味の力は、途方もなく大きいのだ。
 果たして、この事をどのくらいの主婦が、
 自覚しているのだろうか。

 次の朝、ウタばぁさんは、
 所望の厚焼き卵を食べて、ご機嫌だった。
 後から聞いたことなのだが、
 あゆかは、物差しで、ぴったりと計ったそうだ。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 25/32
 
     
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 私は、別に予定もなかったので、
 彼女と一緒にMBGランドについていった。

 彼女の様子を見てやろうと思ったからである。
 だいたいのMBGランドは、朝の10時に開店する。
 その10時前には、いい台を取ろうと、常連客が列を作るらしい。
 私は、あまり足を運ばないので、よくは知らなかった。

「息子が、この近くに住んでいてね。
 亭主が無くなったので、最近、こちらに来たの。
 家も狭くてね、気詰まりだから、
 パチンコでもしようと思ってやってきたの。
 この店はじめてなの。教えてくれる」


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 26/32
 
     
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 MBGのプロのような、
 中年の男をつかまえて、話かけている。
 私は、他人のような顔をして話に耳を澄ましていた。

 この店で、よく出る台は?
 その台、昨日はどうだった?
 玉はどのくらい出すの?

 あまりよく知らないような振りをしながら、
 ポイント・ポイントを押さえて、質問しているようだ。
 私も、ちうに会えば、
 彼からよく聞かされているので、違和感は感じない。
 ただ実践はほとんどしない。
 短期なので、あんな時間が掛かるものには、
 あまり興味が無いのだ。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 27/32
 
     
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 そのうち、ドアが開いて、人がなだれこんでいった。
 私は、その流れに乗れなくて、ゆっくりと入っていった。
 さすがは、ウタばぁさん、さきほど聞いていた、
 入口近くの台に、ちょこんと澄まして座っていた。

 あの人がきを、どうやって潜りこんだのだろう。
 私は、奥の方の空いている台に座った。
 彼女が、よく見える位置であれば、どこでもいいのだが、
 入口に近いところの密度は高かった。

 ランドの営業上、客が入って、
 目につきやすい所の台の出玉は、多いそうである。
 客は、入るかどうか、入口近くの出玉の様子を見て、
 決めるからだとも言われている。

 モノの10分と経たないうちに、
 ウタばぁさんの台が、大当たりになった。
 もちろん、1番最初ではなかったが、
 5番以内には入っていたのだろう。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 28/32
 
     
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 店員が、次から次へと、
 大当たりになった台の番数をがなりたてて、
 景気づけを行なう。

 大当たりになる台は、座って1分とは掛からない。
 こういう台を早朝サービス台という。
 店も、そのまま止められたら、損をするのだろうが、
 それで止める者は、ほとんど居ないようだ。
 そのまま打ち続けていると、いくらも勝てるような幻想を抱くのだろう。

 見ていると、ウタばぁさんの台はダブったようである。
 大当たりが連続したのである。
 たぶん使った金は、1,000円も越えていないだろう。
 連続当たりになれば、5,000円は軽く勝っているはずである。
 彼女は、大当たり後、ほとんど打たない。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 29/32
 
     
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 店により、大当たりごとに玉を交換させる店、
 ある数字の並びによって、そのままプレイを続行してよい店、
 無制限に打たせる店など、都道府県によって、
 まちまちの打たせ方をさせるようである。

 その店は、ある特定のマークが出れば、
 続けて遊んでよいようである。
 おそらく彼女の台は、続行可のマークだったのだろう。
 しかし、彼女はタバコを吸ったり、ジュースを飲んだりして、
 あまり玉を弾かない。
 1時間ほど経ち、私も、3,000円ほど負けていた。
 そんな時、彼女が帰ろうと合図を送ってきた。


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 30/32
 
     
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 景品交換所で、景品を現金に替えた。
 ウタばぁさんは、七千数百円勝ったようである。
「安人さん、いくら負けたんじゃ?」
「3,000円ばかり」

「じゃ、これ」 と言って、
 交換したばかりのお札を三枚、私にくれようとした。

「いいですよ。私が負けたのですから。
 しかし、なぜ大当たりの後、玉をはじかなかったのですか?」
「あれは、早朝サービス台じゃよ。
 あれ以上打てば、玉は減るばかり。
 全部無くなって玉を買わなければならん」

「では、何であんなに長くいたのですか」
「長いって? あんたが居たから、早く出たつもりだよ。
 一人なら、せめて昼まではいる」


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 31/32 
     
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「どうして?」
「それが、私の店へのお返しなのじゃ。
 いつも勝たしてもらうばかりでは悪かろうが。
 あれは、店の宣伝にもなる。
 勝って、すぐ、はいさよならでは、
 一期一会の言葉にも違反することになる。

 台の奴かて、次来るときは、
 もう無くなっているはず。
 それにその店も、このババもどうなるか分からん。
 そう思うと、1、2時間ぐらい、何ともないよ」


つづく


あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 32/32
 
     
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 その後、近くのお寺を案内した。
 さすがに、観音経は飯のタネだけある。
 私は、全然知らないので、よくは分からないのだが、
 彼女の唱えるお経はよどみなく、
 静寂とした堂内に、しっくりと食い入っていた。


 次の日、月曜の朝は、早出だった。
 あゆかにも告げるのを忘れていたぐらいだったので、
 ウタばぁさんとは、とうとう会わずじまいになってしまった。

 会社から帰ると、あゆかが、
 5万円の包みが、部屋の片隅に於いてあったと言った。

 「厚焼きのうまかったこと!」と、添え書きつきで。


                      
   おわり




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