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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
あらすじ
流安人。
平成の中年の会社員の一人である。
優しい妻の名前は、あゆかという。
二人の間には3人の子供がいる。
その流家に安人の親友・ちうの紹介状を持って、
ひとりのずうずうしい老婆が訪ねてきた。
ちうは、パチンコ行脚をしている、自由人である。
そのバァさんも、何やらいわくありげな、
生活を送っているらしい。
名は、流山ウタという。
死んだ亭主の写真を胸に、
日本中のお寺を無賃で泊りながら、
名所・旧跡を訪ね、傍らでパチンコで、
小遣い銭を稼ぎながら、渡り歩いているらしい。
誰にも、束縛されず、
人に迷惑をかける事もなく、
小遣い銭に不自由することなく、
元気に暮らせるのは、一つの理想的な生き方でもある。
しかし、この事は、簡単のようで難しいことです。
このウタばぁさんの生き方を通して、
私の老後とは何かを、自問自答してみました。
では、本文へ
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 1/32
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* MBGのおウタばあさん(059)
本文
ある土曜日のことであった。
一人のいわくありげな老婆が、流家を訪れた。
流家の一応の主人は、休人である。
しかし、結婚以来、
主人が、どうのこうのという生活には、ほど遠い生活を送っている。
休人、40数才。
都心のO市に勤める会社員である。
妻の名は、あゆか。
少しばかり、中年太りしているが、
昔の可愛い面影を、
うっすらと残している、流家のリーダーでもある。
家族は、その他に、
高校生の長女のマイカ、
同じく二つ下の長男の休太郎、
小学生の次男・休次郎、
それに、飼い犬の駄犬コロである。
「ごめんくださいませ」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 2/32
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時間は、朝の10時前であった。
私は、妻のあゆかとスーパーに、買い出しにゆく準備をしていた。
けれども、あゆかの準備は時間が掛かる。
安物の化粧品を塗りたくって、
シミやたるんだ膚を隠すためと、
スカートやガードルをはく時に、
四苦八苦している事も、原因の一つとなっているのだろう。
ちゃんと、自分の身体に合ったものを求めればいいものを、
子供の買物はしても、自分のモノを買うほど気が回らないのか、
あるいは、自分は、まだまだスマートだとでも、思っているのだろうか。
その事は聞いてないので、よくは知らない。
私は、玄関口近くで、
あゆかの身仕度が整うのを待っていたので、ドアをあけた。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 3/32
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「何か?」
「あなた、ながれ・やすとさん?」
「はあ」
小柄で、愛敬あるシワ顔が覗いた。
「わたし、流山ウタと申します。
実は、お友達のちうさんから紹介いただきまして。
これ紹介状。
同じ流がつくもの同士、仲良くしよね」
ナ、何じゃ、このばばぁ。
顔のシワに負けないくらい、
シワシワになった紙切れを、ぶっきらぼうに突きつけてきた。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 4/32
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「
ドン作、すまん。
ウタさんが寄れば、面倒みてやってくれ。
頼む。
あゆか殿に、よしなに。
ち う
」
ちうは、私の高校時代からの親友である。
彼は、高校3年の時、学校を止めて以来、
ずっと全国のMBGランド(=パチンコ店)を渡り歩いて、
気ままな生活を送っている。
MBGとは、ちうの造語でパチンコのことである。
何でも、ミニ・ミラクル・ボール・ゲームの頭文字を取ったものらしい。
正しくは、MMBGと呼べばいいのだが、
MMと重なると、発音にしにくいので、3語に縮めたらしい。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 5/32
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夏場は涼しい地方、冬には暖かい地方へと出かけて、
日を送っているようだ。
もちろん、今だに独身である。
彼は、現代の求道者とでも呼ぶ方が、適当なのだろうが、
私とは、生き方において、かなりの隔たりがある。
ちうは、私のことをドン作と呼ぶ。
私は、元来、不器用なものだから、
こういうアダナがついてしまった。
しかし、実体を表わしているので、別に気になりはしない。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 6/32
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「そういうわけで、しばらくおかしてな」
風呂敷つづみを持った小柄なバァさんが、
つかつかと入り込んできた。
私は、あゆかに告げてもいないし、承諾した覚えもない。
けれども、何も言う間がないのだ。
「よっこいしょ」と言いながら、
ウタばぁさんは応接間に座りこんだ。
私も、つい後をついていってしまった。
あゆかが、支度が出来たのか、
私を呼んでいる。
小走りで、あゆかの元に走った。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 7/32
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「あのね、ちうのヤツ、へんなババァ寄越しやがった」
「何のことよ」
「これ」と、
「ちうの紹介状」を、おそるおそる差し出す。
「いつ来るの?」
眉がキリッと上がった。
「もう、来てるよ」
「来てるって!!!」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 8/32
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わっ、恐。
「どこなの」
「応接間」
あゆかは、応接間を覗きにゆく。
私は、子犬の初めての散歩のような、
気持でついていった。
「これは、これは、あゆかさんでございますか?」
「あのー、どちらさまでしたか」
「ちうさんの友達でな、流山ウタと申します。
月曜まで、2~3日、ご厄介かけますでな。
よろしくお願い申します」
畳にペタッと頭をつけて、
両手を上にあげ、合わせ手をしている。
「そんな! どうぞお顔を上げて下さい」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 9/32
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こうなれば、OKである。
このばばぁ、私には、
あんな素振り少しも見せなかったのに、
あゆかにはオベッカ使いやがって!
ちうのヤツめ、家庭の内情、すべてバラしたのだな。
「お出掛けのご様子で?」
「ええ、買物に」
「やすとさん、水をいっぱい、めぐんでもらえんでしょうか。
それ飲んだら、私も、早速出掛けるところがありますので。
帰りは、8時ぐらいと思いますんじゃが。
今夜の食事は、要りませんぞな」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 10/32
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この人使いの荒い、礼儀知らずのばばぁめと思うのだが、
なぜか憎めないような、人なつっこさを持っている。
私は、コップに水を汲んで持っていった。
水を飲むと、ウタばばぁは、さっさと出ていった。
何歳ぐらいだろうか。
歳のわりには、姿勢がよさそうだ。
「ちうさんも、ちうさんよねぇ」
あゆかが運転席から話かけてくる。
私は、助手席でふんぞり返っている。
彼女は、ほとんど毎日運転しているので、
下手な運転をする私よりは、よっぽど安全である。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 11/32
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といわけで、私は、ほとんど車を運転したことがない。
必要がないから、ハンドルから遠ざかる。
そのため、ますます運転する感覚を忘れてしまう。
先程、助手席でふんぞり返っていると書いたが、
これは職業病のためである。
いつも座りっぱなしの仕事なので、ZI主のせいである。
少し、深めに座れば、ポイントがはずれる。
はずれれば、少なくとも悪化はしないと感じるから、
そういう姿勢を取ることにしている。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 12/32
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「本当に、数日なんでしょうねぇ」
「知らないよ、そんなこと」
「いつもアナタはそうなんだから。
私の身にもなってよ。
ご飯の心配はしなくてはならないし、
気を使わなくてはならないのよ。
アナタは、会社へ行くだけが、生活だと思っているのね。
どんな話をしていいのかも分からないし」
「そんなこと言われても。ちうのヤツに怒ってくれよ」
「何よ! 卑怯よ!
それに、ちうさん、いま何処にいるのか、分からないでしょ。
親友というのなら、親友らしくしたら、どう!
私にとっては、二人とも、おんなじ罪よ。
種を蒔いたのは、あなたたちでしょ」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 13/32
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返す言の葉が見当らない。
ちうには、無理を頼むこともあるし、仕方ないか。
それにしても、
一言ぐらい、声を掛けておいてくれれば、
こちらも心の準備をして、
あゆかを、それとなく懐柔しておいたのに。
気のきかない奴め。
家庭を持ってないから、そんな気配りも出来ないのだ。
それにしても、ちうの生活、反面うらやましくもある。
私たちが、食事を終え、思い思いにくつろいでいるところへ、
ウタばぁさんが帰ってきた。
お土産を、どっさり抱えてのご帰還であった。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 14/32
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休次郎には、ファミコンの、
休太郎には、パソコンのゲームソフトである。
あゆかにはお菓子類の詰め合せ、
マイカにはブローチ、この私には煙草であった。
「みなさん、しばらくお世話になりますよ。よろしくね」
子供たちは、キョトンとしていた。
私もあゆかも、すっかりウタばぁさんの事を忘れていたのだ。
あゆかが、簡単に子供たちに紹介をする。
珍客に、子供たちは戸惑っていた。
どう接していいか、分からないのだろう。
男の子二人は、早速ゲームをするため消えさった。
安サラリーマンといえども、テレビは、3台ほどある。
1台は、かなりの値段だったが、
残りは、2~3万円の店頭商品である。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 15/32
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ほんの30年ほど前の、
テレビが出始めのころから考えると、
何と贅沢な時代になっているのだろうかと、
つくづくと空恐ろしくなってくる。
けれども、それぞれの目的に応じて、
使い分けるためには、必要でもあるようだ。
順番を待って、兄弟で一つのものを、
仲良く使うような時代ではないようだ。
あゆかが、食事の後片付けをしているので、
私がもっぱらウタさんの相手をした。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 16/32
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話を聞いていると、なかなかおもしろいバァさんであった。
ちうと同じように、全国のMBGランドを巡っているようだ。
ただし、彼女はお寺まいり、
名所旧跡を訪ね歩く事も兼ねているという。
しかし、熱心な仏教徒ではないらしい。
お経は、「妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五」、
俗に、「観音経」と呼ばれている、
この経オンリーで、これ一つ覚えておけば、
だいたいのお寺に通用するという。
彼女は、そのお経を武器に、寺々を無賃で渡り泊って、
MBG行脚をしているという。
さすがは、ちうの友達になるはずである。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 17/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
ウタばぁさんの亭主は、定年後、数年も経たずして、
夢を果たすことなく無くなったそうである。
この亭主の夢というのが、
夫婦して、全国を旅行するということだったらしい。
そのため、彼の写真をロケット・ペンダントに入れ、
一緒に旅をしているつもりだとも言っていた。
金は、ほとんど使わず、逆にMBGのプロとして、
せっせと小銭を貯めているようだ。
午前中、MBGランドの早朝サービス台で、
数千円も稼げば、貯金まで出来るとも言った。
朝は、寺のご飯をよばれ、夜は夜で宿屋代、飯代はタダである。
お賽銭を500円ばかりはずめば、昼飯や飲み物・タバコ代など、
そう金は要らないという。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 18/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
ランドを昼すぎに出て、食事をし、午後からお寺や名所を回り、
夕刻にその夜、厄介になる寺を捜すようだ。
3軒に1軒ぐらい断られるそうであるが、
だいたいが、親切な住職が多いとも言っていた。
私は、感心しながら聞いていた。
ウタばぁさんの後をついて、一緒に歩きたくもなった。
しかし、病気や怪我をした時どうするのだろうか。
「おばぁちゃん、怪我をしたらどうするの?」
「私の歳になれば、医療費は安いんじゃ」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 19/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「じゃ、病気になって長く寝込んだら?」
「そのために、貯金よ。貯金。頼れるものは、金のみじゃ」
「家族は?」
「息子がひとり居るが、ありゃ嫁にくれてやったのよ」
「ボケたら?」
「治るボケだったら、治りもしたいが、
治らないものならば、死んだものと変わりないだろが。
死んだ後のこと、とやかく言って何になる?」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 20/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「そうとも考えられるのか・・・ では、養老院に入る気はないの?」
「亭主の夢を、何回でも叶えてやるんじゃ。
この足腰が立たんようになるまでな。
1回ぐらい回ったのでは、この日の本の国、分かりはせんぞ。
それにな、名所と言っても、似合う季節、
相応しい天気や時間帯など、幅が広い。
何回、回っても、そうそう会えんのよ、
感動するような風景にはな。
5年でやっと一回りできるだろうかね。
狭いようで、奥は深い、この蜻蛉の島は。
それにな、MBGランドと言っても、
全国では、15,000店は、軽く超えているんじゃ。
新台も次々開発されてくる。その攻略法も学ばねばならん。
その土地土地の人の話も、聞かにゃならん。
名所の下調べもある。
養老院のことなど、考えとる暇などないわ」
私は、ますます以て、おウタばぁさんの生き方に興味を抱いた。
つづく
仮あ@想はてな物語 MBGのおウタばあさん 2 1/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「あゆかさん、明日の朝は卵の厚焼き、
5cmにも、しなくっていいからね。
それとミソ汁と、海苔の一枚もあれば、このババ十分じゃ」
「ええっ、5cm?!」
あゆかの素っ頓狂な声が、あたりに響き渡った。
それに、わが家の朝食はパン食である。
特に日曜の朝は、サンドイッチと決まっている。
みんなの楽しみの一つとなってもいるのだ。
あゆかの心の中に、
ちょろりと、怒りの炎が、燃え上がったのを感じた。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 22/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「朝は、ミソ汁に限るわよね。
卵焼きには、目が無いのよ。
無理言ってごめんなさいね。
最近、厚い卵焼き口にしたことないのよ。
あゆかさんの卵焼きすばらしいんだってね。
ちうさんから聞いたのよ」
「あら、そんな」
あゆかの心の炎が、またたく間に見えなくなった。
それにしても、誉められているのか、
けなされているのか分からないのに・・・
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 23/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
これは、ちうがあゆかに言ったのなら、
おそらく誉めているのだろう。
ちうはお世辞を言わないタイプの人間だ。
感じたままを口に出す。
しかし、だ。
他の者が言ったのなら、
これは、明らかにあゆかを揶揄しているのだ。
一方では、卵焼きしか上手に作れない、
主婦を意味しかねないからだ。
あゆかは、そう料理が得意ではない。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 24/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
結婚してかなり経つが、
私の舌は、母の料理に、今だに支配されている。
これは、あゆかの料理の上手下手に関係なく、
私の性格も、手伝っているのだろうと思う。
その性格が遺伝するものなら、
おそらく、あゆかの子供たちも、そう感じるだろう。
そういう人間にとって、
母の作り出す味の力は、途方もなく大きいのだ。
果たして、この事をどのくらいの主婦が、
自覚しているのだろうか。
次の朝、ウタばぁさんは、
所望の厚焼き卵を食べて、ご機嫌だった。
後から聞いたことなのだが、
あゆかは、物差しで、ぴったりと計ったそうだ。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 25/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
私は、別に予定もなかったので、
彼女と一緒にMBGランドについていった。
彼女の様子を見てやろうと思ったからである。
だいたいのMBGランドは、朝の10時に開店する。
その10時前には、いい台を取ろうと、常連客が列を作るらしい。
私は、あまり足を運ばないので、よくは知らなかった。
「息子が、この近くに住んでいてね。
亭主が無くなったので、最近、こちらに来たの。
家も狭くてね、気詰まりだから、
パチンコでもしようと思ってやってきたの。
この店はじめてなの。教えてくれる」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 26/32
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MBGのプロのような、
中年の男をつかまえて、話かけている。
私は、他人のような顔をして話に耳を澄ましていた。
この店で、よく出る台は?
その台、昨日はどうだった?
玉はどのくらい出すの?
あまりよく知らないような振りをしながら、
ポイント・ポイントを押さえて、質問しているようだ。
私も、ちうに会えば、
彼からよく聞かされているので、違和感は感じない。
ただ実践はほとんどしない。
短期なので、あんな時間が掛かるものには、
あまり興味が無いのだ。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 27/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
そのうち、ドアが開いて、人がなだれこんでいった。
私は、その流れに乗れなくて、ゆっくりと入っていった。
さすがは、ウタばぁさん、さきほど聞いていた、
入口近くの台に、ちょこんと澄まして座っていた。
あの人がきを、どうやって潜りこんだのだろう。
私は、奥の方の空いている台に座った。
彼女が、よく見える位置であれば、どこでもいいのだが、
入口に近いところの密度は高かった。
ランドの営業上、客が入って、
目につきやすい所の台の出玉は、多いそうである。
客は、入るかどうか、入口近くの出玉の様子を見て、
決めるからだとも言われている。
モノの10分と経たないうちに、
ウタばぁさんの台が、大当たりになった。
もちろん、1番最初ではなかったが、
5番以内には入っていたのだろう。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 28/32
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店員が、次から次へと、
大当たりになった台の番数をがなりたてて、
景気づけを行なう。
大当たりになる台は、座って1分とは掛からない。
こういう台を早朝サービス台という。
店も、そのまま止められたら、損をするのだろうが、
それで止める者は、ほとんど居ないようだ。
そのまま打ち続けていると、いくらも勝てるような幻想を抱くのだろう。
見ていると、ウタばぁさんの台はダブったようである。
大当たりが連続したのである。
たぶん使った金は、1,000円も越えていないだろう。
連続当たりになれば、5,000円は軽く勝っているはずである。
彼女は、大当たり後、ほとんど打たない。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 29/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
店により、大当たりごとに玉を交換させる店、
ある数字の並びによって、そのままプレイを続行してよい店、
無制限に打たせる店など、都道府県によって、
まちまちの打たせ方をさせるようである。
その店は、ある特定のマークが出れば、
続けて遊んでよいようである。
おそらく彼女の台は、続行可のマークだったのだろう。
しかし、彼女はタバコを吸ったり、ジュースを飲んだりして、
あまり玉を弾かない。
1時間ほど経ち、私も、3,000円ほど負けていた。
そんな時、彼女が帰ろうと合図を送ってきた。
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 30/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
景品交換所で、景品を現金に替えた。
ウタばぁさんは、七千数百円勝ったようである。
「安人さん、いくら負けたんじゃ?」
「3,000円ばかり」
「じゃ、これ」 と言って、
交換したばかりのお札を三枚、私にくれようとした。
「いいですよ。私が負けたのですから。
しかし、なぜ大当たりの後、玉をはじかなかったのですか?」
「あれは、早朝サービス台じゃよ。
あれ以上打てば、玉は減るばかり。
全部無くなって玉を買わなければならん」
「では、何であんなに長くいたのですか」
「長いって? あんたが居たから、早く出たつもりだよ。
一人なら、せめて昼まではいる」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 31/32
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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「どうして?」
「それが、私の店へのお返しなのじゃ。
いつも勝たしてもらうばかりでは悪かろうが。
あれは、店の宣伝にもなる。
勝って、すぐ、はいさよならでは、
一期一会の言葉にも違反することになる。
台の奴かて、次来るときは、
もう無くなっているはず。
それにその店も、このババもどうなるか分からん。
そう思うと、1、2時間ぐらい、何ともないよ」
つづく
あ@仮想はてな物語 MBGのおウタばあさん 32/32
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その後、近くのお寺を案内した。
さすがに、観音経は飯のタネだけある。
私は、全然知らないので、よくは分からないのだが、
彼女の唱えるお経はよどみなく、
静寂とした堂内に、しっくりと食い入っていた。
次の日、月曜の朝は、早出だった。
あゆかにも告げるのを忘れていたぐらいだったので、
ウタばぁさんとは、とうとう会わずじまいになってしまった。
会社から帰ると、あゆかが、
5万円の包みが、部屋の片隅に於いてあったと言った。
「厚焼きのうまかったこと!」と、添え書きつきで。
おわり
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