絵じゃないかおじさん

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仮想はてな・ストーリィu 朽の柿村のおイトばぁさん 2/3

2014-11-30 07:29:45 | 仮想はてな物語 
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決して、全面的に肯定しているものではないのだが、
愛妻のあゆかは、そうは見てはくれない。
妻といえども、
この微妙な心理の動きは伝わらないのだろう。



{いい歳して、若者のように、バイクに乗って}と
いうような見方に支配されているようだ。

いつか、あゆかに免許を取らして、
二人でツーリングに出掛けるのが、
私の願いの一つでもある。

しかし、あゆかは、小馬鹿にして相手になろうともしてくれない。
私は、それはそれでよいと思っている。
夫婦で趣味など一致すれば、
喧嘩ばかりして対立するだろうなあとも思っている。


同一趣味といえども、
その深さ、姿勢が一致するなどとは、
とうてい思えないからだ。

下手をすると、
逆に近親憎悪のようなものが
生まれるかもしれない。


あゆかは、クラシックが趣味でもある。
私は、音痴なものだから、
あんなものじっとして聞いていると、
イライラしてくるのだ。


オーケストラなど、目にすると、
大の大人があんなに沢山、
あんな狭い場所で、
何を汗かいてやっているのだと思う。

しかし、その反面、
人と人との共同作業に憧れもする。

だが、私自身は、
一人でツーリングでもしている方が楽しいのだ。
人に合わせて、何かをするということは、
苦手でもある。
そんな性格が物事の見方を制してしまっている。


しばらくしていると、
訝しそうな目つきをした年寄りが、
「何んか用かい?」と、声を掛けてきた。

私は、家の中から人が出てくるものばかりと
思い込んでいたものだから、
道路の方からの出現に意表をつかれた。

「咽喉が乾いたものですから、
井戸の水を飲ませていただきたいと思いまして」

「そうか。咽喉が乾いているんかい。
しかしな、その井戸は飲料には不向きじゃ。
洗濯と泥落としぐらいにしか使ってないんじゃ。
こち来」

慣れて来ると、老婆は人なつっこい顔に変わった。
背は、私の肩より少し低かった。
頭に手ぬぐいを巻いて、鼠色の格子のエプロンをかけていた。
色黒いシワの平たい深い顔には、愛敬が漂っていた。

「あの井戸の水、旨そうなんだけど・・・」
「表面はな。保健所の人が来て、検査したところ、
飲むには適してないということじゃよ。
何でも、この先の山上にあるゴルフ場の農薬が
沁みこんできていると言っていた。
夏は、冷たく、冬は暖かくて、
いい水だったんだけどなあ。
だんだん年が経つと、暮らしが便利になって、
いいことはいいんじゃが、
昔のいい所まで殺されてしもうた。
長生きするのも良し悪しじゃのう」

 私は、冷えた麦茶を飲みながら、
玄関の上がりカマチに、そのばぁさんと腰を降ろして
話し込んでしまった。

犬のヤツも、そんな私とばぁさんの
馴れ合いぶりをみて吠えなくなった。

 ばぁさんは、おイトばぁさんと言った。
男の子が一人いるのだが、東京で就職して、
今は孫も二人になったという。

連れ合いは、5年ほど前にボケて、
谷底に落ちて亡くなったらしい。

東京へは、数年に一回顔を出すだけで、十分だ。
一人暮しは、決して人に勧められるものではないが、
コンクリに囲まれた団地暮しは、2日以上は、
ごめんをこうむりたいとも言った。

家には、猿の桃子と犬の猫助、
豚のデン子がいるので、淋しくはないという。
 
犬に猫とは変わった名前の付け方をするばぁさんだ。
話を聞いていると、孫が赤ちゃんの
犬と猫の区別もつかなくて、つけたものらしい。

おイトばぁさんも、
 目に入れても痛くないような孫の命名なので、
 そのままにしているらしい。


 ばぁさんの歳は71歳で、
 年金収入と杉山が少しばかりと、
 2反ほどの田をアテアゲにしているらしい。

 アテアゲとは、米作りを一切他人にまかせて、
 収穫した米の2割ばかりをもらう方式のようだ。

 収入は減るが反面、田圃づくりから開放されるので、
 気楽になったとも言っていた。

 杉の方は、枝落としに、その歳でも行っているらしい。
 孫が大きくなった時、ばぁちゃんの育てた杉だよと
 残してやるのが夢だとも語っていた。


 その日、私は、小1時間ばかり居て別れた。
 半年に一度ぐらいは、ツーリングで傍を通るので、
 おイトばぁさんの姿が見えれば、寄ることをしている。

 バイクも乗りっぱなしでいると、緊張して疲れる。
 休憩するには、気の休まるところでもあった。
 ばぁさんと話していると、ごみごみとした都会生活とは、
 かけ離れた話になるから、私もホッとするのだ。


それから、数年経った頃である。



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