植物のふしぎ

植物をはじめ、生物のふしぎな生態をレポートします。
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ガガイモの花・ふしぎな構造とは?

2024年09月11日 | 植物の生態

ガガイモの2回目です。(1回目は「ヘクソカズラとガガイモ」

ガガイモはかつてはガガイモ科ガガイモ属に分類されていました。現在はキョウチクトウ科イケマ属になりました。遺伝子解析による分類が進んだため変更されたとのこと。何事もアップデートしていかないと。。

まずは花弁に生えている白い長毛が気になるのでそれを顕微鏡で観察すると・・

ヘクソカズラの毛とは違って先端は球状にはなっていませんでした。普通に先の尖った円錐状の毛と写真のように先端が帯のように平たくなって くるくる巻いているものがありました。花弁が大きく開いている花なので、この場合の長毛の役割はよく分かりません。ヘクソカズラとは違ってポリネーターの選択には全くはたらいていないようにも思えます。

次に花の中央から雌しべ状のものが突き出しているのでその先端を拡大して見てみると・・

先端は二つに分かれていました。最初、これが柱頭だと思っていました。手元の図鑑にも「柱頭は長く花冠からつきでる」と書いてあったので・・(山渓ハンディ図鑑・野に咲く花1989年10月)しかし、何かがおかしい。柱頭というと乳頭状突起に粘液を分泌させるなどして花粉をキャッチするために最大限の努力をしているはず。言わば肉食系女子・・・なのに何もない。あっさりし過ぎています。花粉のようなものも付着していませんでした。

雄しべの所在も不明なため 花の中央をクローズアップしてみると・・

中心部に5枚の白い爪状のものが中央の突起物を取り囲んでいました。それの間には茶褐色の粒が挟まっているように見えました。花粉を出している葯のようなものも見当たらずさっぱり分かりません。

なので花弁を剥がして中央の構造物をよく見てみることにしました・・

すると茶褐色のラグビーボールのような粒がありその下の黄色みがかった所には縦のスリットがありました。下の受け皿のようになった所には蜜がたっぷり溜まっていました。

これでも全然理解できないのでの白い爪状の部分を剥がしてみると・・

なんか変なのが出てきた!!。例のラグビーボールに黄色い俵形状の物が2個くっついています。以前、胡蝶蘭の花粉塊を外したことがあったのですがそれに似ているなと感じました。

これを外して見てみると・・

こんな形。図書館で調べたらラグビーボールは「捕捉体」、黄色の俵形は「花粉塊」と書かれていました。「原色野草観察検索図鑑(1981年)」

そのほか、この本では、「ずい柱とはこの科(出版当時ガガイモ科)に特有の構造で中央の雌しべと花糸が癒着して筒形になったおしべ5が合生したもの。(中略)花粉塊は文字通り花粉の塊だが硬くて容易には押しつぶされない。この科以外には見られない特異な構造である」とありました。

捕捉体を拡大してみると・・

縦に筋が入り、深い溝になっていることが分かりました。

胡蝶蘭の花粉塊では二つの花粉塊を粘着体が繋いでいました。文字通り粘着体がポリネーターに強力にくっついて花粉塊を運ばせるのですがガガイモも同じでしょうか。

しかし、捕捉体は全然粘りません。むしろ黄色い花粉塊の方がベトベトしています。

まだまだ さっぱり なので蕊柱を縦に切って観察してみます。

 

蕊柱の下部に空洞があるので、ここに花粉塊が入ることで受粉するということでしょうか。でもどこが柱頭?全然分かりませ〜ん。

前の写真に戻って

スリットの下の方が丸い穴のようになっているのでそこから花粉塊が入りそう。。ということでピンセットで花粉塊を入れ込んでみようとしました。何回かチャレンジしてようやく花粉塊の1個が入れられました。でもこんな複雑なこと短時間しか訪れないポリネーターにできるのでしょうか。不思議です。

一方、花粉塊をポリネーターにくっつける方法については想像できました。おそらく蝶や蛾のストロー状の口が蜜を探っている時、スリットに挟まってしまい上部の捕捉体の溝にもはまってしまうことで花粉塊がストロー状の口にくっついて運ばれるのではないかと想像。実際にそうなるか試そうとしました。掃除用ブラシの毛1本とってきて蝶のストローに見立てようとしましたがうまくいきません。スリットが狭過ぎてブラシの毛がうまく挟めなかったのです。それくらい小さな花なのです。

ちなみにいくつかの花を調べていたら・・

虫がスリットに捉えられていました。羽が挟まれて蜜だらけになって身動きできずに命を落とした模様。こんな虫がポリネーター??

よくわからないので誰か調べた人いないかな〜って丁寧に検索していたら・・・

2006年に日本の方がガガイモの花の形態と受粉生態についての論文発表をしていました。Plant Species Biology (2006) 21, 193-199 ダウンロードして見られます。

タイトルの日本語訳が「日本のMilkweed ガガイモ(ガガイモ科) における花の雄花両性花同株性表現と昆虫による花粉塊授受、とくに花の形態との関係」著者は、田中肇 秦野 武雄 金子紀子 川内野姿子 北村治 鈴木百合子 多田多恵子 矢追義人(敬称略)

田中肇さんは 北隆館発行のフィールドウォッチングを編集された方でしょうか。私はこの本を見て植物の生態に興味を持ったのです。そして多田多恵子さんは最近NHKにも出演されていたし著書をいくつか持っているので親しみあります。「したたかな植物たち あの手この手のマル秘大作戦」ほか。

その論文では、スリット間に「櫛のような上向きの刺」があることなど細かな構造も観察して訪花昆虫との関係について結論づけていました。驚いたのは花粉塊を運ぶのは、ストロー状の口を持つ蝶の仲間というよりはハラナガツチバチだったということ。蜂の口でもあの狭い隙間トラップにかかるのですね。それから意外だったのは両性花と雄花があるということ。全然気づきませんでした。そして注目の柱頭の位置はというと・・柱頭室(蕊柱の下部にある空洞)内の花柱の側面にあるそうです。その位置を図示するのも難しいのかな?

さらにネット検索していたら「ヒカルゲンジの自然と分化」というブログでガガイモの花の構造を丁寧に解剖して説明されていました。小さな花なのに細かに調べられて驚きました。

参考にした文献を基に改めて各部の名称を示したいと思います。

花粉塊のメリットは、一度に多数の花粉を塊として運ばせられるということ。ラン科同様ガガイモも大変面白い受粉方法を採用していることが分かりました。植物は思考をしていないはずなのに、そうしたように進化をしているのが興味深いです。


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