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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

2006年 夏のヨーロッパ旅行 ~ザルツブルク~

2006年12月15日 | 2006 夏のヨーロッパ旅行

ザルツブルク 
SALZBURG

旅もいよいよザルツブルクとウィーンでそれぞれ2泊を残すのみとなった。どちらもこれまで何度も訪れているが、今回はpocknがこよなく愛して止まないモーツァルトの生誕250年にちなんで、モーツァルトに焦点を絞っての滞在と決めていた。この記念すべき年に、モーツァルトとは切っても切り離せない2つの町で、思いっきりモーツァルトを感じ、モーツァルトに浸りたかった。


【ザルツブルクの町】
「絵のように美しい」とはまさにザルツブルクの町のこと、と思えるほどにザルツブルクの旧市街は美しい。町全体が世界遺産ということだが、一つ一つの建築物がどれも芸術品。それらが建ち並ぶことで醸し出されるハーモニーが町の雰囲気を引き立てる。山の上にたたずむ城砦「ホーエンザルツブルク城(Festung Hohensalzburg)」が、光線の具合でいろいろな色を見せつつ、町全体の風景に奥行きを与える。夕暮れにお城が赤く染まる頃はとりわけ美しい。さらに背景にはオーストリアアルプスの山並みが連なり、すべてが出来すぎたように調和している。旧市街に入ったときちょうど雨が上がり、大聖堂(Dom)に虹がかかった。



ザルツァッハ川の対岸は新市街と呼ばれているが、こちらも町並みは美しい。新市街のミラベル宮殿の庭園を前景とし、そこから眺める城砦を頂点とした旧市街の眺めも素晴らしい。

決まった時刻がくるとホーエンザルツブルク城から響き渡る大オルガンの音響、モーツァルト広場ではグロッケンシュピールの鐘が奏でる「ドン・ジョヴァンニ」の仮面パーティーの場面のメロディー。ヴィジュアルな風景だけでなく、音の風景が一層この町を印象づける。

ゲトライデ通り(Getreidegasse)は旧市街のメインストリート。お土産やカフェ、レストランが並び、世界中から集まった観光客たちでいつも賑わっている。Mozartkugeln(モーツァルトボール)と呼ばれるモーツァルトの肖像の銀紙で包まれた丸いチョコレートは、ザルツブルクのお土産の定番で、通りのあちこちのお店で売られている。チョコの中は三層になっていて、一番核の部分はピスタチオ風味のマジパンが入っている。このチョコ買うならスーパーに行った方がずっと安いのだが…


祝祭劇場(Festspielhaus)付近からのスケッチ。次々にやってくる観光馬車がちょうどこの辺りでUターンしていく。石畳を踏む馬の蹄の音が周りの建物に反響してノスタルジックな気分を誘う。

賑わっているのは、しかしこのゲトライデ通りとその周辺だけで、道をひとつ外れると静かな散歩道が続く。旧市街の外れからNonnberggasseという坂道をのぼり、ノンベルク修道院(Stift Nonnberg)を通ってホーエンザルツブルク城まで歩いた。坂道を登りきったところで見下ろした旧市街のたたずまいと雪を頂いた山々の眺めが素晴らしい。修道院の静まりかえった礼拝堂に入れば祈りのひとつぐらい捧げたくなる。Festung(城砦)へ入るには入場料が必要。今回はここはやり過ごし(一見の価値はあります)、古びた城壁の残る森の中の道を通り、ふたたび旧市街に下りて行った。

この散歩コースは町と見晴らしと自然を楽しめて良いが、同時にザルツブルクはやっぱり小規模な町だなぁ、と思う。駅周辺にはもちろんもっと大きな町が広がっているが、昔からあるザルツァッハ川周辺の観光エリア内では若者が大勢集まるような店もあるにはあるが、昔はきっと何にもなかったのだろう。モーツァルトが退屈したというのもわかるような気がする。

この辺りではお店やレストランなんかでドイツ語で話しかけても、相手は大抵英語で返事してくる。世界中から観光客が訪れるからの親切心かも知れないが、何となく居心地の悪さを感じることもある。モーツァルトが嫌気をさして去って行った厳格で退屈なカトリックの田舎町の気質が今日まで受け継がれているのかも。

2つのモーツァルト展

町中を歩けばどこもかしこもモーツァルト。チョコレート、Tシャツ、マグカップ、ミニチュアの胸像、バッジ… モーツァルトにあやかったおみやげで溢れている。でもこれは別に生誕250年だからというわけではなく、モーツァルトの生地ザルツブルクはいつでもモーツァルトで売っているのだ。博物館になっているモーツァルトの生家はいつでも切符売り場は行列とまではいかなくとも人でいっぱいだし、ここにある有名な音楽学校の名前はモーツァルテウム。

そんないつもモーツァルトで溢れているザルツブルクだが、生誕250年にちなんで行われていた"Viva! MOZART"というモーツァルトの特別展を訪れ、それからもう3回目ではあるが生家のモーツァルトハウスにもやっぱり行ってしまった。

右上が特別展の"Viva MOZART"会場前の看板。右下がおなじみのモーツァルトの生家。

"Viva! MOZART"展は、上の写真のモーツァルトの銅像が建つモーツァルト広場(Mozartplatz)に面した新王宮を州立博物館新館として新装オープンして行われていた。入口で渡されたヘッドホンをかけて部屋をまわると、その部屋の展示の説明が聞ける。映像や音響なども駆使したハイテク展示でなかなか楽しめる。

モーツァルトやその家族や友人にちなんだ品々の展示、遊び好きのモーツァルトにちなんだ当時のゲーム、直筆の手紙や肖像、シルエットの劇場やメヌエットのワンポイントレッスン場(やらなかったが…)などなど、工夫をこらした展示室が続く。モーツァルトの直筆の楽譜を見たときはとりわけ感動した。

「ピアノと木管のための五重奏曲」の自筆譜を眺めていたときのこと、その先のオーディオルームからまさにちょうどその音楽が流れて来た。音楽を聴きながら自筆譜を目で追っていたら得もいえぬ感動で満たされてきた。生き生きとしたインクの筆致、流れるような筆遣い… それが聴こえてくる音楽と一致して自筆の音符達がまさに今音楽を奏でているような錯覚… 

自筆譜はもちろん全てが展示されているわけではないので、自筆譜を最後まで目で追ったあとは、その先を広くて薄暗いオーディオルームの椅子に腰掛けて聞き入った。モーツァルトの音楽の素晴らしさを改めて実感した。

ヘッドホンのガイドでは窓から見える風景をモーツァルトが眺めるという想定。「この町が僕の銅像や音楽やチョコレートで溢れて、大勢の人達が訪ねてくるなんて想像もしていなかった。でもここから見る眺めは僕がいた頃と変わらないなぁ。」という声を聞き、「そうなんだ!この町はモーツァルトが生きていた頃と同じ眺めなんだ」ということに改めて気づきまた感動。ザルツブルク時代のモーツァルトを体験できる素敵なモーツァルト展だった。

モーツァルトはやがてこの町の大司教と決裂し、この町に嫌気が差しウィーンへと去ってしまうのだが、そこらへんのお話はこの特別展では触れられていない。あくまでもモーツァルトはザルツブルクが生んだ天才大作曲家ということだろう。

そのあと訪れたモーツァルトの生家の博物館。3回目ではあるが、250周年ということですごい特別展示もあるのではと期待したが、「こんなもんだっけ…」と思ってしまうほど拍子抜け。有名な肖像画とかもっとあったように思ったのだが、気のせいか。それとも記念すべき年にちなんでここのコレクションはあちこちの特別展に貸出し中なのか… よくわからないが最初に見た"Viva! MOZART"の特別展の印象だけがやけに鮮明に残ることになった。


2つのモーツァルト・コンサート

ザルツブルクではちょうどザルツブルク音楽祭(Salzburger Festspiele)が終盤を迎えていた。ドイツ語タイトルが示すように、このフェスティヴァルは実は「音楽祭」に限定されず、演劇や朗読などもひっくるめた一大イベントなのだが、やはり音楽がメインというイメージ。ウィーン・フィルとベルリン・フィルは常連で、更に世界中の超一流どころのオケや指揮者やプレイヤー達が集まってくる。

モーツァルトイヤーにザルツブルクの音楽祭でモーツァルトを聴く!ちょっとミーハーかも知れないが、これはやっぱり欠かせない。モーツァルトイヤーにちなんだ一番の目玉はモーツァルトの全てのオペラの上演という企画。ただチケットを予約しようとした時にはあまりに高い席しか残っていなかったのでこれは断念。聖ペーター教会で行われた「ハ短調ミサ」と、祝祭大劇場(Grosses Festspielhaus)で行われたヤンソンス指揮アムステルダムのコンセルトヘボウ管弦楽団のモーツァルトのチケットを事前にインターネットで押さえた。


音楽祭のメイン会場である祝祭劇場ではオペラやオーケストラコンサートが行われる。間もなくこの路上はチケットを持って着飾った人達で賑やかになる。

それぞれのコンサートの感想記事をリンクしますので、まだ読んでいない方はこちらをどうぞ。
聖ペーター教会の「ハ短調ミサ」
ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

感想で述べたとおり、1日目に聖ペーターで聴いた「ハ短調ミサ」は本当に素晴らしく心底感動した。12ユーロの立席は辛かったのだろうがそんな辛さは忘れてしまい、コンサートの素晴らしさだけが記憶に残っている。

2日目のオーケストラコンサートは90ユーロもしたが、やはり印象が薄い。あの手の演奏が僕の好みでなかっただけの話だが、会場のお客達はみんな満足そうに大きな拍手とブラボーを送っていた。でもそれはモーツァルトのときで、現代曲のヘンツェではあからさまに拒絶の表情をしている人をたくさん見かけ、拍手の盛り上がりもなかった。

世界に冠たるザルツブルク音楽祭。すごい演奏家達が集まる恒例の大イベントに集まるお客達、とりわけフェスティバルのメイン会場である祝祭大劇場は音楽祭の期間中は一種の社交場と化す。着飾って集まった紳士淑女たちは休憩時間ともなると外の道まで溢れて、ワイングラス片手におしゃべりに興じる。
おれなんて、子連れの家族旅行上がりであちこち移動している身の上だから、せいぜいスーツケースに押し込んだしわの目立つジャケットにネクタイをぶら下げる程度で、他のお客と比べると明らかに見栄えもしない… 

そんな状況下のヒガミかも知れないけれど、ここにお祭り気分で来ている人達は本当に音楽そのものを目的に来ているのだろうか?という疑問を、コンサートでの反応で持ってしまった。きっと答えは「ノー」だろう。「世界遺産の避暑地でおいしいものを食べながらのんびり過ごし、そこに素敵な音楽もあれば言う事なし!音楽だけが目的ではない」と言われてしまうだろう。

ま、音楽ってのは本来娯楽なんだから、楽しめればいいのかも知れない。気に入らなければ素直にそれを拍手や表情に出せばいい、というのがこちら流なのかも。コンサートではただひたすらその演奏に集中して聞き入るタイプの人間としては、こういう場は少々場違いに感じる。

…と多少小言も言ってみたが、それなりに収穫のあるコンサートではあった(こういう風に収穫があったとかなかったとか言うこと自体が問題?)。

2日目の終演後はちょっと雰囲気の良さそうな近くのAlt Salzburgというレストランに入ってみた。

メニューをみるとなかなかのお値段… 隣のテーブルの男二人がイタリア語をしゃべってたので、久し振りにイタリア語で話しかけてみた。すると彼らはシチリア出身!
「シチリアはうちらも行きましたよ!カターニャ、シラクーサ、タオルミーナ… どこもとっても良かった!」なんて話で少し盛り上がりかけたとき、向かいのテーブルに日本のご婦人方が座り、何やら注文で困っている様子。すかさず「お手伝いしましょうか。」と注文するのを助けてあげた。

少ししてそこの女性が僕のところに来て「良かったらご一緒しませんか?」と誘ってくれた。うーん、こっちのイタリア人との話も楽しそうだけど、なんかこのお二人の男性、ちょっとソフトな雰囲気でとても仲睦まじそうだったので、二人にしてあげたほうがいいかも。それにせっかく誘ってくれたんだし… ということで、3人のご婦人のテーブルに同席させて頂いた。

3人は個人でザルツブルクに1週間も滞在中とか。そのうち一人は一足早くドイツのバイロイトでワーグナーの音楽祭も楽しんだそうだ。今夜の演奏ではおれと共通する感想を持っていて話が弾んだ。
「おばさんでごめんなさいねぇ、、、」なんておっしゃっていたが、音楽のことも詳しく、やっぱり個人旅行でこうして来る人達には光るものがあって楽しかった。オードブルのチーズをご馳走になり、帰りはみなさんがお泊りの駅の近くのホテル・ルネサンスまでタクシーに乗せてくださった。ありがとうございました!

ホテル・ルネサンスから僕のホテルまでは更に暗い夜道を十数分歩く。途中で若い女性に「Bahnhofstraße(駅前通り)はどこかわかりますか?」と聞かれた。「それなら僕が泊まっているホテルの道だから案内しますよ。」ということで2人で歩いていたら、彼女もそのホテル(Gasthof Auerhahn)に泊まる予定とのこと。スイスから来た人で、明日ウィーンである親戚のお葬式に出てきたそうだ。スイスも旅してきたことや、今夜のコンサートのことなどいろいろおしゃべりをしているうちにホテルに到着。「ありがとう。助かりました。」とお礼を言われた。

こういう風に知らない人と気軽におしゃべりができるのは楽しい。でもこんな夜道で見ず知らずのアジア人の男に道を案内されて全く平気そうだったが、おれって善良そうに見えるんだろうか… 明日はいよいよウィーンだ。

ウィーンへ

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