日産が新型マーチ用に1.2Lスーパーチャージャーエンジンを開発したようです。
「日産、高出力/低燃費の3気筒直噴スーパーチャージャーエンジン発表 出力は1.5リッター級、2011年前半に欧州市場のマイクラに搭載」 (Impress Car Watch)
最近は、ドイツのフォルクスワーゲンがTSIエンジンで始めた、小排気量でシリンダー内直噴に過給エンジンでパワーと燃費を両立すると言うのがエンジン設計のトレンドなので、最初は「VWの後追い?」 と思ったらさにあらず。ミラーサイクルにスーパーチャージャーで過給と聞いて、ピンと来るものが。で、山本晋也さんという自動車系フリーライターのページを見たら、案の定、このスーパーチャージャーはリショルムコンプレッサー(スクリューコンプレッサー)の模様。
最近の人間は知らないだろうけど、昔々、私が大学生の頃、バブルがはじける1990年前後のマツダが、マークII(今のマークX)クラスに、ユーノス800→ミレーニアと言う車を出していた時代があります。このユーノス800に搭載されていたエンジンが正にミラーサイクル+リショルムコンプレッサーによる2.3Lエンジン。 結局は、ミレーニアになった後、しばらくして排ガス規制を乗り切る改良の費用を捻出できずにカタログ落ちしたもの。このエンジンにとって失敗だったのは、ユーノス800には別に2.5LのNAエンジンをラインナップしていて、「2.3L+スーパーチャージャーエンジンの方がパワーも燃費も上」と売り出したものの、見栄の効く「ハイソカー(死語)」の世界では排気量の方が尊ばれて、販売が鳴かず飛ばず。で、失敗の烙印を押され、当のマツダも、バブルが弾けて5チャンネルの販売店整備が大失敗に終わって屋台骨が傾き、「売れないこの技術に金を掛けられるか!」となって「お蔵入り」というパターンです。
でも、よくよく考えるとVWより随分前に日本メーカーがやっていたという話。 更に言うと、ユーノス800の前には、別冊の「~のすべて」や「Motor Fan イラストレイテッド」は刊行されてますけど、本誌の方がとっくの昔に休刊になってしまった今は無き「Motor Fan」誌の名物連載に、元いすゞ自動車の技術者の故 兼坂弘 氏の毒舌評論があって、そこで兼坂弘氏がデータを示しつつ、お経のように「ミラーサイクル+リショルムコンプレッサー」と言い続けていたと言う話があります。ユーノス800があったと言うこともさることながら、この連載の影響が余りにも大きいので、トヨタがプリウスなどに搭載しているミラーサイクルエンジンのことを、ミラーさんではなく共同発明者のアトキンソンさんの名前の方を取って「アトキンソンサイクルエンジン」と読んでいたり、業界では本来「スクリューコンプレッサー」と言うのを、この圧縮機を開発したリショルムさんの名前を取って「リショルムコンプレッサー」と言うようになったとか、色々逸話があります。(なお、本来の「アトキンソンサイクルエンジン」とは、アトキンソンさんが考えたピストンの上死点・下死点が可変出来るエンジンのこと。機構的に面倒でアイデアだけで実現出来なかったところ、ミラーさんが「吸排気バルブの開閉をずらすことで、同じ事を実現出来るのでは?」と考えて、実際に実現してしまったので、やはり「ミラーサイクルエンジン」というのが一般的。)
何はともあれ、20年近いギャップの後で、こんな形であの機構のエンジンが復活するとは思わなんだ。しかも、直噴化して効率をアップしているし。気になるのは、山本晋也さんも書かれているけど、圧縮比が13と有るだけで膨張比の記載がないこと。通常のカルノーサイクルエンジンは吸気行程と排気行程が同じなので「圧縮比=膨張比」なのですが、ミラーサイクルエンジンは機構上「圧縮比<膨張比」なので、もし、本当に膨張比が13以上となると、カルノーサイクルの高圧縮エンジンが大体圧縮比13ぐらいだから、今までの常識では有り得ない凄いエンジンでっせ。一方で、ミラーサイクルエンジンは、どうしてもトルクが細いので、低速運転時にスーパーチャージャーを切ると言うのが気になるけど、その点がドライバリティにどう影響するか?
とは言え、久々に興味のあるエンジンが出てきました。流石は「技術の日産」(古~!)。