最期は「自然の麻酔」がかかる…医師が説く「意味のない治療」とは
大病院から特別養護老人ホームの常勤配置医に転じた石飛幸三医師。著書『「平穏死」のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか』(講談社、2010年刊)では、病院で胃ろうなど延命治療が蔓延していた状況に怒りを覚え、ホームで自然死を広める「改革」を進めた。現在の終末医療の在り方をどう見るのか石飛医師に聞いた。
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病院勤務の頃は延命治療の権化のようなものでした。元戦犯なんですよ、俺は。
病院の後の世界はどうなっているんだろうと思って70歳でホームへ来たけど、ひどかったね。胃ろうを作られて、ただ生かされているお年寄りがいっぱいいた。体が受け付けないのに、無理やり栄養をとらされている。本人を苦しめるだけなんだよね。
8歳年上の認知症の女房に胃ろうをすすめられて拒否した夫が、自ら懸命に食事介助を行い、口からお茶ゼリーを食べさせた姿に皆が感動した。それが火をつけたんですよ。
いろいろな平穏死を見てきたけど、食べる量を見ているのが一番わかる。坂を下るにつれて、だんだん量が減ってくる。食べられなくなったら、食べなくていいんです。そうなると「自然の麻酔」がかかって、人間は眠る。眠って眠って、夢を見ながら静かに逝けるように、人間は仕組まれているんです。
医療をするな、と言っているわけではありません。意味のない治療はしない、ただそれだけです。黄疸が出るようになった90歳近いおばあちゃんに手術を試みようとしたり、90歳を過ぎた腎不全のおばあちゃんに週3回も人工透析を行ったり……。「天国から亭主が呼んでいるから、もういい」と本人が言っているのに、ですよ。
医療が俺たちを生かしてくれている、そんな錯覚に陥っているのでしょう。仏教でいう「我欲」「我執」としか思えませんね。
約20年前に松田道雄さんという医師が書いた『安楽に死にたい』という本があるんだけど、書かれていることが俺の本とほとんど同じなんです。以前から見ている人は見ていたんです。
まだまだ世の中は変わる途上だけど、そろそろ延命治療にとどめをさしたいね。年内にそのための本を出そうと思って、原稿を書いているところなんだよ。
※週刊朝日 2018年3月9日号