2023年アメリカ不況は本当に来るのか?万引き・住宅ローン滞納の急増ほか日本では報道されない実態=高島康司
アメリカがこれから不況に陥るのかどうか論議されている。ところがアメリカ国内で起こっていることは日本ではあまり報道されていないので、その実態を紹介したい。アメリカは不況になるのだろうか?(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2022年12月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
米国経済は安泰?それとも落ち目?
年末になり、2023年がどのような年になるのかの予測や議論がネットに溢れている。特にアメリカの景気の先行きに関するものが多い。
2023年も米経済は今年と同程度の経済成長率を維持するという楽観的な予測がある一方、来年は金融危機も伴う深刻な不況になることは確実だとする予測もある。エコノミストによって見通しが大きく分かれるところだ。
たしかに、7.1%とインフレが高止まりしているものの、アメリカの景気がさほど悪くないことを示す数値は多い。2022年度の経済成長率は1.6%と比較的に安定し、また失業率は3.7%で昨年の横ばい状態だ。11月の雇用統計は、予想を上回っている。さらに、5.6%の高い賃金上昇率が背景となり、個人消費の伸び率も高い。10月のデータでは前月同月比で6.2%の伸びであった。
低賃金状態の継続で個人消費が慢性的に停滞している日本とは異なる状況だ。
米経済は力強く成長しているとは言えないが、低いながらも安定的に成長している。少なくとも、これから不況に陥るというような状況ではない。
金利引き上げの余波と実質賃金の低下
しかし、こうした見かけ上の数値にもかかわらず、米国内で実際に起こっていることを調べて見ると、2023年度から不況に入ることを示唆するような現状が見えてくる。あまり明るいニュースはないのだ。
まず目につくのは、ローン金利の上昇である。今年の春から「FRB」は金利を段階的に引き上げているので、それとともにローン金利も上昇している。これが、住宅やローンで買うことが多い耐久消費材の需要を縮小させる要因になっているのだ。
いまアメリカの住宅ローンの平均金利は7%だ。自動車のローン金利も高い。6.65%から8.5%で推移している。ちなみに日本の住宅ローンの金利は0.2%から0.5%で、自動車のローン金利は1%程度か高くても3%だ。アメリカとは大きく異なっている。アメリカでは、こうした高いローン金利のため、住宅を始め、自動車などの耐久消費材の売上が落ち込みつつある。
さらに景気の先行きを暗くさせているのは、アメリカの実質賃金の低下である。たしかにアメリカの賃金の上昇率は5.6%と高い。だが、7.1%から8.5%のインフレが続いているので、インフレ率が賃金の上昇率を越え、実質賃金は低下している。10月の統計だが、実質賃金の下落率は前年比で8.5%に達していた。これは日本の1.3%よりも大きな数字だ。
こうした状況から、これからアメリカの個人消費は落ち込み、それとともに消費材やサービス、そして不動産を中心とした産業分野が影響を受け、不況に転じるのではないかとする観測も多くなっている。
こうした状況なので、いま実際にアメリカ国内でなにが起こっているのかリアルタイムで探ることにした。多くの主要メディアの記事を参照すると、日本ではあまり報道されていない事態が進行していることが分かった。それらを次頁以降に整理した。
始まった大量解雇
まず、いまアメリカ国内で多くなっているのが大量解雇だ。筆者の印象だが、最近数カ月で急に増えた感がある。
たとえば、イリノイ州北部にあるジープやチェロキーを委託組み立てする工場では、1,350人の従業員が解雇されることがわかった。同社は、現在の自動車業界について、現在進行中のコロナのパンデミックや世界的なマイクロチップ不足など、多くの要因から悪影響を受けているが、最もインパクトのある問題は、自動車市場の電動化に関連するコストの増加だとしている。さらに、ローン金利の上昇による車の売上の減少も要因としてあげている。
また、アメリカの大規模スーパーチェーンの「コストコホールセール」のコールセンターを運営している「ワイヤレスアドボケート社」では1,800人以上の従業員が解雇された。「コストコ」の現地担当者は、2022年12月5日にすべての「コストコ」の店舗で、コールセンターを突然営業を停止した。
さらにすでにリストラを発表している「アマゾン」は、これまでの予想の2倍となる2万人を解雇する計画のようだ。配送センターの従業員、IT専門家、企業幹部など、さまざまな分野で「アマゾン」は人材をリストラする。状況を知る者によると、「アマゾン」のレイオフは今後数カ月の間に行われるという。
ちなみに「アマゾン」の労働者は、レベル1からレベル7までランク付けされている。今回のリストラはすべてのレベルのスタッフが影響を受ける。「ニューヨークタイムス」は、「アマゾン」が11月中旬に1万人のレイオフを計画していると報道していた。しかし、実際にレイオフされる数は2万人になっていた。
家計資産の減少と住宅価格の下落
また、国民の家計資産の減少も大きい。1月から9月までの間に、米国の家計資産はなんと13兆5000億ドルも減少した。このような事態を招いている一因は、住宅価格が急速に下落し始めていることだ。
周知のように「FRB」は、かなり速いペースで利上げを実施している。そして、さらなる利上げが行われると言い続けている。先に書いたように、利上げによって住宅ローンの金利は平均7%まで上昇し、これが住宅需要の低迷を招いている。
さまざまな販売促進や解約防止のための積極的な奨励策にもかかわらず、住宅の販売量が減少し、契約済み住宅の解約率が急上昇している。米南西部では45%、テキサス州では38%の減少だ。住宅メーカーの新築住宅の在庫は膨れ上がっている。
また、住宅所有者が住宅ローンの残高不足に陥っており、返済の不履行率は、前回の住宅暴落のピークであった「リーマンショック」の後の2009年の水準にまで上昇している。融資開始後6カ月以内に延滞となった住宅ローンが過去1年で上昇し、コロナのパンデミック直後の月を除いて、2009年以来最高水準に達している。
そして、住宅市場の下落が続く中、取引中止や値下げが相次ぎ、11月の住宅販売保留件数は記録的な落ち込みとなった。不動産市況分析会社、「ブラック・ナイト」によると、第3四半期末時点で、所有する住宅の価値以上の借金を抱えている住宅購入者が約45万人いることが明らかになった。この数値は、これらの人々が多大の借金を抱えているので、ローンの返済ができなくなる可能性を示唆している。
そのうちの約60%にあたる27万人は、2022年の最初の9カ月間に家を購入した。合計すると、2022年に借り入れた住宅ローンの約8%が返済不能となり、さらに20%が危険水域になっている。
住宅市場指数は、住宅販売の見通しを測る業界注目の指標だが、11月には100点満点で33点まで低下し、パンデミックの最初の月を除けば、この10年間で最低の水準となった。50を下回ると問題が発生するとされている。
住宅販売の不審は、この分野における大量解雇の原因になっている。大手銀行の「ウェルズ・ファーゴ」は、数百人の住宅ローン担当社員を削減した。金利上昇により、パンデミック時代の住宅融資ブームが停止した後、業界全体で一連の削減が行われているが、これが最新のものである。
この計画に詳しい人物によれば、この人員削減は全米で行われたとのこと。「FRB」が根強いインフレを抑えるために利上げを続け、住宅ローン金利を過去20年間で最高水準に押し上げている中、ローンの借り換え需要がなくなったことも背景になっている。
食料品の支払いに困る国民
一方、アメリカ人の貯蓄率は過去最低に近い水準にあり、クレジットカードの負債も過去最高となっている。明らかに米経済は、不況に入る寸前の状態にあるようだ。
こうした状況で、食料品の支払いに困る国民の数が急速に増大している。2022年を通して、食費は賃金よりもずっと早く上がっており、今週、大手スーパー、「ウォルマート」のダグ・マクミリオンCEOは、食品の2桁の値上げが「しばらく続くだろう」と公に認めた。
もちろんこうした状況は、消費者にとって大きな負担にを強いている。小売技術プラットフォームである「スウィフトリー」が12月7日に発表した世論調査によると、69%の買い物客が、数ヶ月に及ぶ高騰したインフレの後、食料品の支払いに苦労していると答え、83%が現在、食料品を買うのに何らかのクーポンやポイントプログラムに頼っているとのことだった。
この世論調査が正確であれば、アメリカ人の70%近くがいま、食料品の支払いになんらかの問題を抱えていることになる。ちょっとにわかには信じられないが、事実であればこれは異常な数値だ。
だが、食品のインフレは収まる気配はない。むしろ、地球温暖化にともなう気象変動が原因で国内の農産物の生産が低迷しているので、少なくとも食料品に関する限り、インフレはさらに悪化しそうな状況だ。
たとえばオレンジだが、米農務省は、フロリダでのオレンジの収穫量は1943年以来最小になると予測している。農務省の次の報告書は、フロリダ州の2022ー23年の収穫量の推定値を提供する予定だ。この数字は、フロリダ州の今シーズンの生産量が2,800万箱にとどまり、前年比32%減となった10月の数値よりもさらに悪化すると予想されている。今シーズンの収穫量は、1943年以来最低となる見込みである。
もちろんこれはオレンジに限ったことではない。収穫量の減少は、小麦、トウモロコシ、大豆など幅広い農産物に見られる。農産物によって異なっているが、生産量が軒並み減少しているものが多い。
また、全米最大の運送会社「フェデックス」も、未定数のドライバーの一時解雇を開始すると発表した。自主的な一時帰休は指定された期間まで実施され、ドライバーは職場復帰を保証されると同社は声明している。同社は、一時帰休を受け入れるドライバーに週300ドルのインセンティブを提供する。ドライバーの復職時に全額が支払われるという。
予測される失業率の上昇
ところで、失業率は今後増加することは「FRB」も公式に認めている。「FRB」が発表した最新の予測では、失業率は現在の3.5%から来年末には4.4%に上昇するとしている。これは、失業率が3.7%に上昇するという6月の予測よりもかなり高い数字である。これは、現在から2023年末までの間に、およそ100万人が失うことを意味する。
だが、「FRB」のこの予測はあまりに楽観的だとする見方も多い。「シティバンク」が今週発表した最新のレポートでは、失業率が5.25%まで上昇すると予測し、2023年には推定200万人の失業が増加する可能性があるとしている。レポートでは、「FRBの利上げと債券ポートフォリオの縮小は、2023年内の経済収縮を引き起こすのに十分厳しいものであると我々は考えている」と述べている。そして、「もしFRBが収縮を見るまで利上げを一時停止しなければ、より深い不況が続くかもしれない」と述べ、来年の不況入りを警告した。
ヘッドハンティング会社、「チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社」の集計によると、11月のレイオフ件数は10月と比較して127%増となった。 2021年の同月と比較すると、11月のレイオフ数は417%も増加している。 これは大きな変化だ。 これらの数字は、米国における大量解雇の波が今始まったことを告げている。
万引きなどの小売業犯罪の急増
インフレ下で増加しているのが、万引きなどの小売業の犯罪である。
全米の最大手のチェーンスーパー、「ウォルマート」によると、全米の店舗では万引きが増加しており、このままでは価格の上昇や店舗の閉鎖につながる可能性があるという。もし小売店での盗難が多発するようであれば、最終的にいくつかのウォルマート店舗を閉鎖する可能性があるともしている。
しかし、特に増加が著しいのは、消費者が出来心でやってしまった自然発生的な万引きではない。もちろんそうした小規模の万引きも急増してはいるが、小売業にとってもっとも被害が大きいのは組織的な小売業犯罪だ。
これは、単なる自然発生的な万引きではなく、窃盗団のチームが事前に準備し、連携して小売店を襲い、最も価値のある商品を数秒で一掃するという、まったく新しいタイプの大規模な窃盗犯罪だ。盗まれた商品は、「イーベイ」や「アマゾン」などのオンラインマーケットプレイスで販売されたり、地元のバイヤーに届けられて現金と引き換えられる。
「全米小売業協会」によると、2022年の組織的な小売犯罪は前年比26.5%増と急増している。現在、小売業者の損失は年間1,000億ドルを超えている。こうした状況に対処するために、自動小銃で武装した警備員を雇い入れる店舗も増えている。
高金利、高インフレ、実質賃金低下で起こること
これが、いまのアメリカでリアルタイムで起こっていることを現地のメディアから拾った状況だ。筆者が意図して否定的な情報を選択しているわけではない。筆者は毎日かなりの数の英文記事を読むが、どの主要メディアを見ても、景気の悪化と国民生活の苦しさを伝えるニュースは日増しに増加しているのを実感する。
この背景にあるのは、高インフレで実質賃金が低下しているところに、「FRB」の利上げによるローン金利の急騰という事態だ。こうした要因により、食料価格は高騰し、またローンで買う住宅や耐久消費材の販売は急速に低下しつつある。
ただ、GDPの成長率や失業率、そして個人消費などの経済の基礎数値は数カ月の遅れで発表されている。だから、いま発表されている数値では米経済はなんとか持ちこたえて入るように見えるかもしれないが、数カ月後には今回の記事で紹介したいリアルタイムの状況が数値として現れるはずだ。
ということでは、やはり2023年はアメリカの不況から始まりそうだ。これはもちろん日本にも大きな影響を与える。日本にもついては記事を改めて書くことにする。
幸せって意外にカンタン♪大木ゆきのオフィシャルブログさんより
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