今ここが人工知能「人間超え」の出発点。米国覇権の失墜、金融危機、大量辞職…2025年には劇変した世界が待っている=高島康司
2023年を出発点にして、いま私たちは「シンギュラリティー」と呼ばれるテクノロジーの本質的な変化の過程に突入している。これは、国際秩序や政治・経済だけではなく、社会のあり方や人間の意識も含めた根源的な転換ともシンクロしている。金融危機もかならず起きるだろう。人工知能がもたらす社会の劇的な変化について解説したい。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
2023年〜2025年に起こる劇的な変化
もしかしたら、2023年の今年は、既存の世界が本質的に転換する「シンギュラリティー」の過程の出発点になる年なのかもしれない。とすれば、これから約2年間、2025年くらいまでに我々は根本的に変化することを迫られることだろう。
すでに大きな変化は2020年から始まった新型コロナのパンデミック、さらにコロナが次第に落ち着きつつあった2022年2月から始まり、いま泥沼化しつつあるロシア軍のウクライナ進攻などの歴史的な出来事で、我々の世界は大きく変化しつつある。これに異論を唱える人はほとんどいないはずだ。
コロナのパンデミックでは、世界的なサプライチェーンの寸断、サービス業の打撃と格差の拡大、また自殺者の増加、そしてリモートワークの普及によるデジタルトランスフォーメーションなどを我々は経験した。
またいまも続くウクライナ戦争では、ロシアと欧米の政治的・経済的な対立と決定的な分断を背景に、エネルギーや食料を中心とした世界的なインフレが進行し、これに対応できない人々の激しい抗議運動が特にヨーロッパを中心に続いている。
2020年からの3年間に我々が経験した変化は、ことのほか大きかった。
この変化の大きさは、他の時期の3年間と比べて見ると歴然としている。東日本大震災のあった2011年は例外としても、例えば2012年から2015年、また2015年から2018年などの3年間を見ると、それなりの出来事は起こっていただろうが、ほとんど記憶に残っていないのではないだろうか?我々の日常の基本的な枠組みは維持され、日常の細々とした変化に忙しく対応していた。2020年から2023年までとは変化のインパクトがまるで異なる。
しかし、おそらく2023年から2025年くらいまでの2年間の変化は、このインパクトをはるかに凌ぐものになりかねないのだ。
2020年から2023年の変化にもなんとか持ちこたえた既存の社会の大きな枠組みが、今度は根本から新しい形態のものへと向かう本質的な転換になりかもしれない。この変化を形容するには、「シンギュラリティー」という言葉しかない。
2023年が「シンギュラリティー」の出発点
すでにやってきているこの本質的な変化の内容を語る前に、「シンギュラリティー」とは何かについて簡単に解説したい。すでに広く使われているので、知っている読者の方々も多いだろうが、一応この言葉の意味だけは明確にした方がよいだろう。
「シンギュラリティー」とは、人工知能や機械学習技術が急速に進歩し、人間の知能を超える機械やAIが登場するとされる未来の時点を指す概念だ。この「シンギュラリティー」が到来すると、AIや機械による自己改善が指数関数的に加速し、人間には予測や制御が困難な技術的進歩が続くとされている。要するに、「シンギュラリティー」のポイントを越えると、技術の進歩が飛躍的に加速し、その後どうなるのか予測できなくなるのだ。
どうも2023年に我々はこの「シンギュラリティー」の出発点にいるようだ。すでに多くの人が使っているので周知だろうが、昨年の11月に「OpenAI」というスタートアップが出した「ChatGPT」がある。現在はバージョンが4になり、一層速く回答することができるようになった。
「ChatGPT」は、ユーザーが入力するあらゆる質問に答える能力がある。これを使うと、司法試験の問題や大学院レベルの試験、科学論文の要約、本の執筆、作曲、プログラミング、そして占いまで、知的な作業の多くを実行する能力が「ChatGPT」にはある。
そして、「ChatGPT」の出現後、ほぼ毎日のように新たなAIの商用サービスが出現している。デザインや画像の自動生成、作曲、ビデオ自動編集、記事や本の執筆のアドバイス、法律相談、ホームページ自動作成、会社のロゴの自動作成、プレゼンの自動作成など考えられる限りのサービスが雨後のタケノコのように登場している。2年後の2025年頃になると、知的な仕事のほとんどがAIによって置き換えが可能になるだろう。これにより、我々の社会も予想のできない方向に激変することだろう。
「シンクロニシティー」が起こる
「Futurepedia」というサイトがある。ここではすでに提供されている1,500を越えるAIの商用サービスが検索できる。ぜひとも見ていただきたい。
しかし、こうしたAIの「シンギュラリティー」による変化は単独で起こるわけではない。記事が長くなるので具体例は出さないが、過去の歴史でも多くの事例があるように、ある分野の革命的な進化と発展は、まったく異なった領域の本質的な変化とシンクロしながら進む。
これらの領域は相互に直接的には関連しておらず、本質的な変化が、それこそ同時並行で起こるのだ。いま「シンギュラリティー」が始まる中、これとシンクロした変化は、世界秩序から経済や政治、そして我々の社会のあり方を根本的に変える変化が起こっている。
それらの変化には直接的な因果関係はないものの、それらは相互に刺激しあって変化をさらに加速させる。いわば、「シンギュラリティー」で起こった変化の振動が、他の領域にも同じ振動数で伝播しているかのような状態だ。
そうした根本的な変化を順次見ることにする。
アメリカの覇権の失墜から多極型世界秩序へ
まず同時並行的に起こっている変化の中で最大のものは、アメリカの覇権の本格的な失墜と中ロを主軸とした多極型秩序の台頭である。
この多極化の動きは、2003年のイラク侵略戦争からすでに徐々に始まっていたが、ウクライナ戦争の勃発が背景となり、一挙に加速した。いわば2003年から蓄積された小さな変化は2023年になって臨界点に達し、世界秩序の構造的な転換を促す変化になった。
この3月に行われたプーチンと習近平との首脳会談は、多極型秩序への転換を一挙に進めるタイミングで実施された。ロシア軍に優勢に戦いが進行しているものの、欧米の支援を得たウクライナ軍は激しく抵抗しており、戦線は泥沼化している。アメリカを中心とした西側諸国も政治的決着以外に停戦の方法はないと思っている。そうした時、習近平は中国の「12項目」の方針を明確にした和平案を提示し、中国が仲裁役を引き受ける用意があるとした。
ウクライナ戦争で中国とロシアの関係がこれまでになく強化されている。ウクライナ戦争が中国の仲裁によって終結するようなことにでもなれば、中国の国際的な威信は一挙に高まり、中ロによる多極型秩序を形成する動きはさらに具体化しながら加速することだろう。多極型秩序と言っても、それを安定した秩序として構成するためには「IMF」や「世界銀行」などのような国際機関が必要になる。必要なものを列挙すると次のようになる。
・新国際決済通貨
・一帯一路を基軸にした新国際経済秩序
・新しい国際機関による管理体制(新世界銀行、新IMFなど)
・国際紛争の調停機関としての新たな国際組織
・中ロを基軸にした新しい安全保障の体制
・中ロ基軸の新軍事同盟
・西側の民主主義とは異なる社会経済モデル
いま水面下でこうしたものの形成が進んでいるようだ。中国の仲裁によってウクライナ戦争が万が一終結するようなことでもあれば、多極型秩序の現実的な構成に必要な組織や機関、そして取り決めは一挙に具体化する可能性がある。ここまで来ると、アメリカの覇権失墜は決定的となり、不可逆的となる。世界は新しいルールで動くことになる。
金融危機は必ず起こる
そして、覇権の転換と同時平行に進行するのが金融危機だ。「シリコンバレー銀行」や「シグネチュアー銀行」の破綻は「FRB」による利上げが原因だとされているが、それだけが原因ではない。もっと構造的な原因がある。
15年前の「リーマンショック」以来、世界的な金融緩和政策が実施され、市場には過剰な資金があふれていた。過剰な流動性である。いつでも低金利で得られるいわゆる「イージーマネー」の拡大だ。その結果、特にアメリカでは、多くの企業は本業で利益を出すよりも、金融的な手段による手っ取り早い利益の獲得を優先した。「M&A」と自社株買いである。
「M&A」を実施すると企業規模は確実に大きくなるので、株価も上昇する。また自社株買いで自社の株価を吊り上げて業績をよく見せることで、さらに株価は上昇する。高い株価は将来自社が「M&A」の対象になったとき、企業価値を高めるので好条件で身売りすることができる。さらに、「CLO」を始めとしたローン担保証券の取得により、大きな収益が得られた。
このような、異常な低金利の「イージーマネー」に依存した状態は、コロナのパンデミックによる巨額の支援金の供与によってさらに拡大した。本業の利益が少ないにもかかわらず、金融機関から簡単に低金利のローンがを得られたので、本業の利益が減少している「ゾンビ企業」でも存続することが可能となった。そううした企業は得たローンで自社株買いをして、自社の株価を吊り上げで業績をよく見せたので、さらに大きなローンを得やすくなった。ローンと自社株価買いを組み合わせ操業形態である。
このような慣行は企業体質を脆弱にした。いざ「FRB」による利上げが継続すると、たちまちローンの利払い費の高騰に耐えられなくなり、銀行の預金を引き出すことになった。自社株買いをする余裕もなくなると同時に、利上げの影響で新たなローンが組めなくなった。
いまアメリカを中心に、こうした企業はかなりの数に上っている。そのため、「シリコンバレー銀行」で起こったような取り付け騒ぎは、どの銀行にも起こり得る。「シリコンバレー銀行」などは「FRB」によって預金の保護がいち早く宣言されたので、銀行破綻とそれによる企業破綻の連鎖は回避された。しかしながら、銀行不安はまったく払拭できていない。市場も神経質になっている。なので、なんらかの出来事がきっかけとなり、多くの銀行で一気に取り付け騒ぎが発生するかもしれない。「FRB」による救済も間に合わないこともある。
要するにいまの金融危機は、極端な金融緩和とマネーのばらまきという、過剰な流動性の状態に依存している現在の資本主義の終焉を表すものとなるだろう。それは、現在の資本主儀に本質的な転換を迫るはずだ。
止まらない大量辞任の波と人手不足
しかし、資本主義の変質は企業よりも、そこで働く人間の側ですでに進行している。以前の記事に書いたように、すでにアメリカでは全労働人口の39%が企業を辞めフリーランスとなっている。リモートワークや新しく提供されたさまざまなAIのツールを活用すると、膨大な仕事がすでにアウトソーシングされているので、企業に依存しなくても十分に生活ができることが分かった。フリーランス化の動きは加速しており、人手不足が慢性化する状態になっている。今後もこれは続くことは間違いない。アメリカだけではなく、すべての先進国にこの波はやってきている。
言ってみればこれは、労働者が企業を放棄する流れである。リモートワーク、デジタルトランスフォーメーション、そして高度なAIのツールの活用によって、これまで企業の従業員や労働者であった人々が企業から自立して労働者というアイデンティティーを捨て、個人として自由に生き始めたのである。すでに始まっているが、労働者の確保に失敗して破綻する企業もこれから増えるはずだ。
こうした、企業には依存しない自由な個人の出現という現象に、一カ所に集めた労働者を管理し、最大の生産性を上げるように強いる既存の資本主義の企業は、自由な個人となった人々から放棄される運命にある。そうした企業が生き残るためには、本質的な転換が迫られる。この転換の波が現存の資本主義を新たな形態へと変化させて行くに違いない。
多極型秩序で進む変化
これらの変化が、AIの爆発的な進化による「シンギュラリティー」とシンクロし、同時平行に起こっている。これを見ると、中ロが主導する多極型の世界秩序という大きなプラットフォームの上で、金融危機で矛盾が一掃された資本主義が、デジタル技術と高度なAIで武装した自由な個人に対峙する過程で、本質的な転換と進化を経過するはずだ。その過程では、既存のシステムがどの程度生き残るのかは分からない。まったく新たな形態になるかもしれない。
どうも2023年は、こうした根本的な変化が起こる出発点の年だ。この変化はすさまじく加速し、どうも2025年頃になると、激変した社会を見ることになるだろう。
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2023年3月31日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。