
ぴんと張りつめた冷たい空気。
峻厳さの中にも大愛を感じる今日の空。
三年ほど前、古い家に住んでいたおばあさんが、立ち退きで、
ここからずいぶん遠くの地域に越して行った。
アパートに動物は飼えないということで、
かわいがっていたネコを置いて行った。
そのネコが時々、うちにご飯を食べにくるようになった。
私は、そのネコを、べべと名付けた。
玄関の扉のガラス部分に、べべのシルエットが映ると、
私は小躍りして、いつも用意してあるごはんを玄関先に置いた。
とても用心深くて、撫でてみたいけど、決して触らせないべべ。
この辺の人たちは、ネコをけ嫌いする人もいるようで、
追われたりすることもあるのかもしれない。
だから、なかなか気を許してはもらえない。
でも、それでいいんだ。
その方が、安全だから。
雨の夜や、冬の夜など、べべはどうしているんだろう。
と、いつも思う。
べべは何処で寝ているのか。
坂の下のお寺の待合小屋なら、雨風はしのげるけれど、相当寒そうだし、
人家の駐車場の中は、落ち着かないだろう。
かつては、おばあさんの家のあたたかい寝床があったのに、
かわいそうなべべ。
家の玄関先の、飾り棚のところのちょっとしたスペースに、
小さなダンボールを置いて、100円ショップで買ってきた、
あたたかそうな腹巻を引いて、ベッドを作ってみたりしているけれど、
入った形跡はなし。
こうして3年経過した先日のある日。
べべが首輪をつけてきた。
私は、喜びのあまり、大声で、「やったー!やったー!」と連呼して家中を回った。
べべをかわいがっている家があるんだ。
赤い首輪に鈴までつけて、そのかわいらしいこと。
安心だ、もう安心だ。
空腹でごみをあさったりしていたこともあったべべ。
かわいがってくれる家を見つけたんだ。
よかった。
実は、もうずいぶん前からそんな家を見つけていたのかもしれないけど、
その人が、首輪をつけてくれたお蔭で、
私はそのことを知ることができた。
ほんとうにありがとう。

