夕木春央「十戒」読了。
ミステリに嵌るきっかけは綾辻行人の「十角館の殺人」だが、それを更に加速してくれたのが本作者の前著である「方舟」だった。
大どんでん返しの方舟体験は「未読が人生の損」と断言できる程に強烈だった。
無理矢理感に溢れた戒律により脱出不能な孤島で不可解な連続殺人事件が発生。相変わらず句読点が頻繁に使われていて読むのに苦労する。頑張って構築したであろうトリックだが、読むのが辛くて面白さも半減して残念だった。
中卒だから、大学の文学部を出ていないからこんな文体になるのかとつい思ってしまい、それは学歴差別でナンセンスだと自戒することが多々あった。うまい文章、読み易い文章を書けるのはセンスと読書量と影響を受けた作家の文体なのだ。
余計な作者プロフィールは作品を読む上で邪魔になる事もあるが、本作のタイトルだけでなく終盤で語られる宗教的な信念を思い付いたきっかけとして生い立ちの境遇があるのかも?とより理解を深めることに繋がったので良し悪しだな。
本作の醍醐味は殺人トリックなどではなくてP.285の一行目の台詞で予感をさせ、ラスト2頁の見開きの「*」以降で明かされるある人物の素性なのだが、残念ながらSNSで薄っすら知っていたせいで衝撃は軽かった。もしその情報を知らずに読んでいたら「おぉ!」と狂喜乱舞していただろう。それでもラストの描写は作者のセンスの良さを感じるものでニヤリとさせられた。それだけでも読む価値はあったし、周回を重ねれば新たな気付きを楽しめそうだ。
そこには触れられないので何も語れないけれど、敵に回したらダメな人物と運悪く同行してしまった被害者らには同情を禁じ得ない。合掌。