どシリアスなマヌケの日常

毎日毎日、ストーリー漫画を描き、残りは妄想.,いや構想の日々の日記。

イノセント後編5最終話〜はるか先の時の彼方〜

2023-01-05 12:26:00 | 日記
1週間後、はるの帝王切開が行われた。早産の小さな小さな子供達だった。男の子と女の子。子供たちは直ぐにNICUに送られ、保育器に入った。ほぼ36週になろうとしている時だった。子供たちは思ったより大きく1500グラム以上あった。最初の検査では、障害も確認されなった。
はるは、まるで務めを果たしたかのように出産後直ぐに息を引き取った。界は「任を果たせなくて、ごめんなさい。」と言って泣いた。
そんな界に向かって大輝が言った。「界くん。君が神でも、なんでも思い通りになるわけじゃないんだろう。君を病院に連れて行かないと決めたのは私と修だ。人の命は、どうしようもないんだろう?教えてくれ。人は死んだらどうなるのか。」
界は答えた。「私は話しに聞いているだけでございます。ただ、風の時代が来ると。。。。人であったものは風になり、また生まれると聞いています。人間はそうやって「学ぶ者」だと言います。私はそう教わりました。」

「風か。。。案外そばにいてくれるかも知れないな」大輝はつぶやいた。
病室でシャインとはるの両親が葬儀の相談をしていた。大輝が近づいていくと3人は、また涙を流した。その3人の顔を見て大輝はしっかりした口調で言った。
「子供の名前、決めました。女の子は春菜、男の子は颯太。僕が頑張って育てますが、ご協力お願いします。」

〜〜〜〜
はるの葬儀が終わり、シャインは大輝の子供たちの世話で数年日本にいることに決めた。それから、2週間ほどたった38週でエリカも出産。落ち着いてから、シャインがはるの死を伝えた。「一緒に子育てしようって約束してたのに。。。年下のお姉ちゃんなのに、どうして?早すぎる」エリカは文句を言いながら泣き義姉を悼んだ。
界はエリカの子供たちが生まれると高天原に帰った。
それからも、ふらりとやってきて大輝と子供たちを訪ねてきた。

冬になっていた。大輝と界が奥多摩で出会ってから1年半が経とうとしていた。
その夜は、大輝と界で酒を飲んでいた。界には疑問があった。なかなか口に出せなかったが、酒の勢いで言った。「大輝さんは、事故じゃなくて魔物にはるさんを殺されたって知っているのに、どうして罰を与えないのですか?」
大輝は笑った。「魔物とは言っても人間だ。証拠がないんだ。泣き寝入りするしかないんだよ。それよりも、子供たちの育児で手一杯。春菜と颯太の中にはるはいる。優しい風が吹けば、はるが来ていると思うんだ。」
その言葉で界の方が泣いてしまった。
そして「私にしかできないこともありますよ」とポツリと言った。「私はおとなしい性格だと言われています。でも、あの苛烈な両親の息子です。あなたの命令ではなく、在る者の私が独断ですることには口を出さないでいただきたいです。」泣きながら、空を睨みつける界の顔は「あかりちゃん」に見えた。

その年の冬は、忘年会にも誘われなかった。周りが気を遣っているらしい。子供たちと母が待っている。大輝は家路を急いでいた。
「忘年会、出ないんですか?」マリが大輝の横にピタッとついて話しかけてきた。
「子供たちが待っているからね。みんな気を遣って誘ってこない。」
「なあんだ。残念」「じゃあね。」と言って大輝が駅まで急ぎ始めたら「待って!」と言ってマリが腕を掴んできた。その腕を振り払って「何か用ですか?」と怒気を含んだ声を大輝は出した。
43の中年女が上目使いで両手を胸に当てて小首を傾げている。ああ、昔もよくこうやって「私のこと嫌い?」って言ってたな。「私、あなたが心配なの。双子の赤ちゃん抱えて仕事して、身体壊しちゃう。私がお手伝いしたいの。」
いい年をして、色は吐き気がするほど醜いのに、魔物の癖に、若い娘のような態度だ。。。それを見ていたら、大輝は可笑しくなってしまった。「間に合ってる。母もいるしね。人殺しの手伝いは要らない。子供まで殺されたらたまったもんじゃない。」そう大輝が言うと「人殺し?何言っているの?頭大丈夫?」とニコニコしてまた大輝に触れようとした。
「病院の監視カメラに君が写っていた。はるを突き飛ばすところがバッチリね」
「嘘!階段にカメラはない!」
「うん。嘘。だけど僕の奥さんが階段の事故で亡くなったってなんで知ってる?誰にも言ってないのに?泉田さん、警察に行こう」
「あんた、頭おかしい。手伝ってあげたかったけれど人間の優しい気持ちもわからないのね!」
「うん。わからない。おばさんになって常務にも捨てられて、だんだん居心地が悪くなって主婦になりたいんでしょ?そんなところだ。僕は人の人間性が色でわかる。今の君は人間の色じゃない!」「人殺しは人間じゃない」「泉田マリは魔物だ!」大輝は叫ぶとマリの腕を引っ張った。オフィス街の歩道をマリの腕を掴んで数メートル進んだ。
大輝の中で結論が出た。大輝は、立ち止まると空に向かって「界!ここだ!」と叫んだ。
赤い神、赤い目の界が、空に現れ右手を振り上げ、振り下ろした。

その瞬間、大輝とマリがいた歩道の真横のビルの外壁が崩落した。
瓦礫は大輝を掠めてマリの上に落ちた。人が集まってくる。
大輝は「死んだの?」と隣にいる界に尋ねた。界はニヤッと笑って「我らは殺しません。ーぬるすぎますから。この魔物は手足をもがれて、意識明瞭なまま長生きです。」

ふふふ。。。と大輝が笑った。「僕は、若い頃イノセントなものを探していた。見つけるのは難しい。ほとんどいないから。やっと、はるというイノセントな人と出会った。もう、イノセントなものは探さない。代用品は要らない。僕は風の中にイノセントなはるを感じて子供たちと生きていく。」
界の目にうっすらと「赤い気」を纏い始めた大輝がいた。

「赤い気」は天上界の頂点、赤界(セキ国)に召し上げられた印。
「大輝、あなたはセキ様により、赤男になると定められました。いつか遥か先の時で、またお会いしましょう。」
界は、そう独り言を呟くと高天原に向かって去っていった。

「イノセント」終わり



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