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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

砂川事件最高裁判決から40年後、高村副総裁(当時外相)も集団的自衛権の行使は憲法違反だと認めていた。

2015年06月13日 | 憲法9条改憲・安保法制・軍拡反対

 

 憲法学者や当時の弁護団から批判を受けながら、いまだに高村正彦自民党副総裁は砂川事件最高裁判決(1959年12月)の「法理」からして、存立危機状態などの新3要件が揃えば、自衛隊がアメリカの戦争に助太刀に入る集団的自衛権の行使は認められるといっています。

 その理屈は、この判決の中に

「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。」

という一文があるので、集団的自衛権の行使は、我が国の平和と安全を維持してその存立を全うするために

「必要な自衛のための措置」

として認められるというものです。

 2015年6月10日の衆院憲法審査会にも出席して、高村氏は集団的自衛権の行使容認の根拠として砂川判決を挙げてこう言っています。

「判決は必要な自衛の措置のうち個別的自衛権、集団的自衛権の区別をしていない」

「意図的憲法解釈の変更ではなく、違憲であるという批判は全く当たらないということを改めて強調したい。憲法の番人は最高裁判所であって、憲法学者ではありません」

砂川事件最高裁判決 高村自民党副総裁の「憲法学者より私の方が考えてきたという自信はある」発言のお笑い

 

 

 

 しかし、何度も書いているように、砂川事件で争われたのは、米軍基地が憲法9条で保持を禁止された「戦力」にあたるか、日米安保条約が憲法9条に違反するかどうかで、自衛隊が米軍を助けられるかということは全く判断されておらず、現に「自衛隊」という言葉は一回も判決文に出てきません。

 高村氏らは、同じ憲法審査会で憲法学者全員に安保法制が憲法違反だと言われて、取り繕っているだけです。

砂川事件最高裁判決は集団的自衛権の行使が合憲である根拠にはならない。


 それに、冒頭の画像のように、高村氏は小渕内閣の外務大臣だった1999年に、集団的自衛権の行使は憲法上許されないと答弁で明言しているのです!

 ですから、今回、高村氏がいきなり砂川事件最高裁判決を根拠に集団的自衛権が認められると言いだしたのは、まさに

「意図的憲法解釈の変更」

であることがわかります。

 さて、高村外相がこのような答弁をしたのはどういう状況だったかというと、1999年(平成11年)2月9日の衆院安全保障委員会のときのでした。

 これは、1997年9月に日米両政府によって締結された「日米防衛協力のための指針」(いわゆる日米ガイドライン)と、それを受けて国会に上程されていた「周辺事態法案」について審議していた同委員会での発言です。

 ちなみに、この「周辺事態法案」は、1998年4月に閣議決定され法案が提出され、1999年の通常国会で5月に可決成立となりました(小渕内閣)。そして、周辺事態法という法律から今回周辺事態と言う地理的概念が外され、地球のどこにでも自衛隊が行けるという重要影響事態法案になっています。

 その審議の中で、当時の高村外務大臣は、国際法上は集団的自衛権を固有の権利として日本は持っていると言いつつ、このように結論しています。

「しかしながら、憲法9条のもとで許容されている自衛権の行使は我が国を防衛するため必要最小限度にとどまるべきものと解しており、集団的自衛権を行使することはその限度を超えるものであって、我が国の憲法上許されない、こう考えております。」

(委員会で審議の全文はこちら。問題のやり取りは19ページ目。)

 

 

 さて、高村氏や、安倍首相、菅官房長官は今回の安保法制=戦争法案を成立させる必要があるのは、我が国を取り巻く安全保障の状況が変化したためとしています。

 それ自体に嘘があるのは、旧ソ連が存在した冷戦自体と比較してすでに書きました。

今のアジアは冷戦時代より緊張が緩和しており、戦争法制は必要ない

 

 しかし、理屈上は、日本を取り巻く安全保障の状況が変化することはあり得ます。

 ところが、

この判例の法理は時の経過では変化しません!

 なぜなら、この最高裁判決はその時の事件の中身や社会の状況に応じて、憲法や法律を解釈して事件を解決したものですが、憲法や法律の文言はもちろん、事件の中身もその当時の状況も、その判決時に固定されたもので、後になって変わっていないからです。

 当たり前ですが。

 ですから、1959年に出された砂川事件最高裁判決の法理自体は、高村外相が集団的自衛権の行使は憲法上許されないと答弁した1999年でも、2015年現在でも変わることはないのです。

 だからこそ、政府は砂川事件最高裁判決後13年経った1972年と、22年経った1981年に集団的自衛権の行使は「憲法上許されない」との見解を示しました。

 したがって、さらに砂川事件最高裁判決からちょうど40年後の1999年に集団的自衛権の行使が問題になった時には、周辺事態法を通すために判決のことはおくびにも出さずに違憲だと言ったのに、55年経った去年になって突然、いやいやあの判決の「法理」から集団的自衛権の行使は憲法上認められると言いだすのは、最高裁の言っていることは変わらないのに意味づけだけ変えたわけで

まさに八百代言

というにふさわしく、「意図的憲法解釈の変更ではない」という高村副総裁の言葉は

騙るに落ちた

というのがぴったりなのです。

高村外相は前から第二列一番左。そして、懐かしい面々!

 

 

 大多数の憲法学者に違憲だと言われ、いまさら、憲法の番人は最高裁だと言いだしていますが、その最高裁が違憲だと言っても議員定数不均衡を抜本的に解消しようとしないのも今の政府です。

 はっきり違憲だと言われても言うことを聞かないのに、最高裁が言ってもいないことを言った言った、合憲だと言ったというのは恥ずかしい限りです。

 ですから、法律家の後輩として、高村正彦自民党副総裁には、これ以上は恥の上塗りになりますから

もう口を閉ざしなさい

と進言したいと思います。

 

 

日本の法律家全体から馬鹿にされているのに、政治家と言うのは本当に面の皮が厚くないとできませんね。

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しかも、砂川事件最高裁判決は、田中最高裁長官らがアメリカの要人と連絡を取り合って、安保条約改定に間に合わせて作った「司法権の独立」もへったくれもない、最悪の政治的、屈辱的判決でした。

砂川事件と田中最高裁長官
布川玲子 (著, 編集), 新原昭治 (著, 編集)
日本評論社

60年安保改定交渉の山場に出された砂川事件伊達判決は、米国にとって途方もない脅威だった。極秘だった新資料によって裏舞台を暴く。伊達判決をつぶし60年安保改定を強行した裏舞台の全て。

1959年安保改定交渉大詰め時の米解禁文書群から執念で発掘した極秘文書等22の新資料を網羅、整序する。日米政府にとって駐留米軍を違憲とした伊達判決がいかに脅威であったか、それを葬るためにいかなる作戦が秘密裏に謀られたか、その中で、田中耕太郎最高裁長官が大法廷で覆すことをどんなふうに米国と裏約束したのか…、基地問題、集団的自衛権など、日米同盟の深化に向かう今日の日本の国のかたちを決定づけた時期に司法の果たした役割がいま明らかにされる。


検証・法治国家崩壊 (「戦後再発見」双書3)
吉田 敏浩 (著), 新原 昭治 (著), 末浪 靖司  (著)
創元社

1959年12月16日、在日米軍と憲法九条をめぐって下されたひとつの最高裁判決(「砂川事件最高裁判決」)。アメリカ政府の違法な政治工作のもと出されたこの判決によって、在日米軍は事実上の治外法権を獲得し、日本国憲法もまた、その機能を停止することになった…。大宅賞作家の吉田敏浩が、機密文書を発掘した新原昭治、末浪靖司の全面協力を得て、最高裁大法廷で起きたこの「戦後最大の事件」を徹底検証する!!




砂川事件最高裁判決に、少しでも集団的自衛権行使が憲法上容認されると読める余地があったら、内閣法制局が何十年もの間、集団的自衛権行使を違憲だとしてきたわけがない。

政府の憲法解釈
阪田 雅裕 著
有斐閣

60余年積み重ねられてきた政府の憲法解釈とは
政府の憲法解釈とは何か,これまで憲法の各条文について国会・行政の場でどのような議論が交わされてきたのかを,国会議事録・答弁書等を資料として引用し,元内閣法制局長官である著者が詳解する。憲法改正を語る前に理解すべき,政府の憲法解釈を知るための書。


「法の番人」内閣法制局の矜持
阪田 雅裕 (著), 川口 創  (著)
大月書店

憲法9条の解釈変更=集団的自衛権容認は許されない!長年にわたり政府の憲法解釈を担い、いま岐路に立たされる内閣法制局の元長官みずからがその内実と責務を語り、解釈改憲がもたらす立憲主義の破壊に強く警鐘を鳴らす。
戦後60余年積み重ねられた憲法解釈の重みをもっとも知る人物が語る、立憲主義の要としての法制局の責務とその危機。全国民必読の書!



新安保法制 砂川事件判決 合憲の根拠にはならぬ

 集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案が憲法学者から違憲と批判され、苦境に陥った政府・自民党が、1959年の最高裁砂川事件判決を再び持ち出してきた。

 安倍晋三首相は先の記者会見で砂川判決に触れ、法案は合憲と訴えた。自民党の高村正彦副総裁も11日の衆院憲法審査会で「憲法の番人は最高裁であり、憲法学者ではない」と強調した。

 憲法学者の指摘に理屈で反論できなくなったため、最高裁の権威に寄り掛かろうというのだろう。

 砂川判決は集団的自衛権行使の是非が争われた裁判の判決ではない。明らかに無理筋である。

 砂川事件は東京都砂川町(現在の立川市)の米軍基地拡張に反対し基地内に入ったデモ隊が起訴された事件だ。憲法9条の下で米軍駐留が認められるかが問われた。

 最高裁判決は駐留米軍を憲法に反しないと判示し、傍論部分で「日本の存立を全うするために必要な自衛のための措置を取り得ることは国家固有の権能」とした。

 高村氏は憲法審で「判決は必要な自衛の措置のうち個別的自衛権、集団的自衛権の区別をしていない」とし、限定的な集団的自衛権の行使は容認されると説明した。

 しかしこの判決当時は政府の集団的自衛権の定義さえ定まっていなかった。政府は72年と81年に集団的自衛権の行使は「憲法上許されない」との見解を示している。

 高村氏が言うように、判決から行使容認を導くことができるのなら、判決後も政府が一貫して行使を憲法上許されないとしてきたことをどう説明するのか。

 砂川判決を憲法解釈変更の根拠とすることは、集団的自衛権行使を容認した昨年7月の閣議決定前に政府・自民党内で検討された。

 だが公明党が「裁判で集団的自衛権は問題になっていない」と批判したため、やむを得ず72年政府見解を持ち出し、「行使は許されない」とした結論を「許容される」と正反対に変えた経緯がある。

 民主党の枝野幸男幹事長が「憲法解釈を一方的に都合良く変更する姿勢は、首相が強調する法の支配とは対極だ」と批判したのは当然だ。法案は撤回が妥当である。

 衆院特別委員会はきのう、労働者派遣法改正案をめぐる与野党対立激化を理由に民主、共産両党が欠席する中、強引に安保関連法案の審議を進めた。政府・与党の焦りの表れだろう。これでは国民の法案への疑念は強まる一方だ。

 


砂川事件弁護団 安保関連法案撤回求める

6月12日 20時35分 NHK
 

 
昭和34年に最高裁で判決が言い渡された「砂川事件」の弁護団が会見し、この判決を基に「集団的自衛権の行使は憲法に違反しない」という議論が出ていることについて、「誤った解釈だ」として、法案の撤回を求めました。
砂川事件は、昭和32年に東京のアメリカ軍旧立川基地の拡張計画に反対したデモ隊が基地に立ち入り、学生などが起訴されたもので、最高裁判所は昭和34年に「戦力の保持を禁じた憲法9条の下でも、主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されない」と判断しています。
この最高裁の審理に加わった当時の弁護団が12日、東京で会見を開き、最高裁判決を基に「集団的自衛権の行使が憲法に違反しない」などとする議論が出ていることについて、「誤った解釈だ」と述べました。
このうち、憲法に関する多くの訴訟で弁護活動を続けてきた新井章弁護士は「最高裁の判決文にある『わが国が』『自国の』といった表現や文脈から考えると、日本の個別的自衛権を指していることは明らかだ。集団的自衛権の行使には全く触れていない」と指摘しました。そのうえで「集団的自衛権の行使は憲法に違反しないという考えには根拠がない」として、直ちに安全保障関連法案を撤回するよう求めました。

高村氏「法案の考え方理解してない」

自民党の高村副総裁はNHKの取材に対し、「砂川事件の判決では、自衛権について、個別的か集団的かは触れていない。自国防衛のための措置であっても、国際法上、集団的自衛権と言わざるをえないものがあり、安全保障関連法案はその部分だけを限定的に容認している。弁護団は法案の考え方を全く理解していない」と述べました。
 
 

■高村正彦・自民党副総裁

 枝野幸男・民主党幹事長が「高村さんは、司法試験に受かる程度の憲法の勉強はしたと思うが、それ以来憲法学者のように憲法をずっと勉強してきたのか」というようなことを言っていた。私は、憲法の法理そのものについて学者ほど勉強してきた、というつもりはない。

 だが、最高裁の判決の法理に従って、何が国の存立をまっとうするために必要な措置かどうか、ということについては、たいていの憲法学者より私の方が考えてきたという自信はある。

 枝野さんがあまり考えてこなかったからといって、他の政治家がそういうことを考えてこなかったと速断するのはどうかと思う。

(朝日新聞などの取材に)

 

毎日新聞 2015年06月11日 11時59分(最終更新 06月11日 13時17分)

民主党の枝野幸男幹事長(左)と高村正彦副総裁=国会内で2015年6月11日、望月亮一撮影
民主党の枝野幸男幹事長(左)と高村正彦副総裁=国会内で2015年6月11日、望月亮一撮影

 衆院憲法審査会(保岡興治会長)は11日午前、自由討議を行い、4日の審査会で参考人の憲法学者3人が安全保障関連法案を「憲法違反」と主張したことについて各党が意見を述べた。自民党の高村正彦副総裁は「憲法の番人は最高裁であり、憲法学者ではない」と述べ、関連法案と過去の政府見解は整合性が取れていると強調した。これに対し、民主党の枝野幸男幹事長は「専門家の指摘を無視して憲法解釈を都合よく変更する姿勢は、法の支配とは対極そのものだ」と真っ向から反論した。

 ◇高村氏「違憲批判当たらず」/枝野氏「法の支配とは対極」

 高村氏は、集団的自衛権の限定的な行使を認める論拠として1959年の最高裁の砂川事件判決を挙げ、「必要な自衛の措置を取りうることは国家固有の権能の行使として当然と言っている」と指摘。同判決は集団的自衛権の行使を想定していないという批判に対して「はっきり誤りだ」と明言した。そのうえで、今回の憲法解釈変更を「合理的な解釈の限界を超えるものではなく、違憲との批判はまったく当たらない」と述べた。

 公明党の北側一雄副代表は「9条で自衛の措置がどこまで許されるかが、昨年7月の閣議決定に至るまで与党協議の最大の論点だった」と表明。「学界で、自衛隊や日米安保条約が違憲かどうかという議論はあっても、わが国の安全保障環境を踏まえつつ、9条と自衛の措置の限界について突き詰めた議論がなされたということを私は知らない」と述べ、憲法学者から相次ぐ関連法案への違憲論をけん制した。

 これに対し、枝野氏は「国内を代表する憲法学者がそろって憲法違反と述べたのは重大だ。こうした声を軽視するのは国会の参考人質疑の軽視につながる」と強調。砂川判決について「個別的自衛権について指摘したものであり、論理のつまみ食いは法解釈の基本に反する」と政府・与党の姿勢を批判した。

 維新の党の井上英孝氏は、集団的自衛権行使が限定的に容認される場合はあるとしながらも「関連法案は憲法上疑義なしとは言えない」と述べ、共産党の赤嶺政賢氏は「明確に憲法に違反する法案は廃案にすべきだ」と訴えた。一方、次世代の党の園田博之氏は「国会審議を通じて立憲主義は担保される」と政府・与党に理解を示した。

 4日の審査会では、自民党推薦の長谷部恭男早稲田大教授が「従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない」などと批判。民主党推薦の小林節慶応大名誉教授と維新の党推薦の笹田栄司早稲田大教授も関連法案を違憲と主張した。【高橋克哉】

 
 
 
 

なぜ、今、「砂川判決」なのか──本当の問題点と珠玉の部分【江川紹子の事件簿】

最高裁が自衛隊に触れた唯一無二の判決


砂川事件

1955年頃に撮影された砂川事件/wikipediaより

 最高裁の「砂川判決」が脚光を浴びている。

 集団的自衛権の行使容認の違憲性が話題になるたびに、政府や自民党によって、半世紀以上も前に出された判決を持ち出される。衆議院憲法審査会で参考人となった憲法学者が、そろって審議中の安保法案を「憲法違反」と断じた後、政府が慌てて出した見解や自民党が所属議員に向けて配った文書でも、この「砂川判決」が使われた。

 なぜ、今、「砂川判決」なのか。

 集団的自衛権行使容認の牽引役となってきた高村正彦・自民党副総裁は、次のように語っている。

「この判決が、私が知る限り、最高裁が自衛権に触れた唯一無二の判決だ」

 では、この唯一無二の司法判断は、果たして集団的自衛権を行使し、自衛隊を海外に展開させることを合憲と言っているのだろうか。

 結論から言うと、NOである。

 判決文のうち、政府や自民党が、繰り返し引用するのは、次の部分だ。

<わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとりうることは、国家固有の機能の行使として当然のことといわなければならない>

 そして、この判決では「個別的自衛権」と「集団的自衛権」は区別されていないから、<集団的自衛権を行使することはなんら憲法に反するものではないのです>(自民党所属議員宛の書面)という。

 つまり、「最高裁が違憲だと言っていない以上、違憲じゃない」という主張である。

争点は米軍駐留の合憲性


 最高裁は、なぜ集団的自衛権を「違憲」としなかったのか。それは単に、自衛権の種類について話題にならなかったからにすぎない。この判決は、米軍基地の拡張に反対する人たちが基地内に立ち入ったことが犯罪になるかどうかが争われた刑事事件について出されたもので、争点は米軍の駐留の合憲性だった。

 判決は、憲法9条の戦争放棄と戦力不保持によって生じた防衛力の不足を補うために、米軍の手を借りることを容認しただけだ。そのために、自衛隊が日本の外まで出て行って、米軍のお手伝いをする、という話は、かけらも出ていないのである。最高裁判決には「自衛隊」という言葉さえ出てこない。

 話題にならなかったから言及しなかったものを、あたかも最高裁が認めているかのように言い募るのは、牽強付会に過ぎる。

 この判決で、注目すべきなのは、政府や自民党が引用する一文ではなく、次の3点だろう。

 ひとつは、米軍駐留の根拠になっている日米安保条約については、「高度の政治性を有する」ので「司法の判断にはなじまない」とする「統治行為論」などを持ち出して、判断を避けている点だ。一見して明白に違憲無効と判断できるものでない限り、違憲立法審査の対象にはしない、という考え方である。

 最近、政府や自民党は、多くの憲法学者からの「憲法違反」との批判に対し、「憲法解釈の最高権威は、憲法学者ではなく、最高裁だ」として、最高裁の権威を強調する発言が相次いでいる。

 しかし、日本の最高裁の違憲立法審査は、法案や法律そのものの違憲性を直接審査するわけではない。実際に訴訟が提起され、その事件を判断するうえで法律の合憲性が問題になった時に、初めて違憲立法審査が行われる。しかも、裁判は一審から始まるわけで、現在審議中の安保法案に関して、最高裁の判断が出るのは、おそらく相当先の話になる。

 しかも、こうした安全保障法制は「高度の政治性を有する」のだから、「統治行為論」などによって最高裁は違憲判断は避けてくれるはずだ――これが、最高裁を持ち上げる政府・自民党のもくろみだろう。その前例としても、砂川判決は貴重なのだろう。

 しかし、この「砂川判決」を、あたかも黄門様の印籠のように扱い、持ち上げてしまっていいのだろうか。

 注目すべき2点目は、この判決の出自である。

 砂川事件は、一審が米軍駐留を違憲として無罪判決が出たため、政府はすみやかに逆転有罪判決を目指すべく、高裁をすっ飛ばして最高裁に「跳躍上告」した。アメリカ側からプレッシャーはものすごかったようだ。駐日米国大使が日本の外務大臣に対して「跳躍上告」を促す外交圧力をかけたことも判明している。

戦後司法の歴史の中で、最大の汚点


 プレッシャーは、日本政府だけでなく、裁判所にももたらされたようである。当時最高裁長官だった田中耕太郎は、何度も米国大使館などにおもむき、駐日米大使に対して、判決の時期や審理の進め方、見通し、一審判決批判などを説明している。大使が本国に送った報告の電文などが、米国側ですでに開示されていて、その事実を裏付けている。

 判決前に裁判長がこのような情報を外部にもらすなど、通常では考えられないことだ。

 日本の主権や司法の独立という点で、「砂川判決」は、戦後の司法の歴史の中で、最大の汚点とも言うべき出来事あろう。

 日本国憲法を米国からの「押し付け」などと言って嫌う人たちが、こういういわば国辱的判決をありがたがる、というのは、非常に奇妙な気がする。

 そのような判決でも、読み直してみると、当時の裁判官たちの思いと英知が込められた、きらりと光る部分はある。

 それは、日米安全保障条約に関する司法判断を避けつつ、こう書いているところだ。

<第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきものであると解するを相当とする>

 安全保障にまつわる条約という非常に難しい問題なので、司法が判断することはあきらめる。けれども、憲法の埒外の聖域に置いてよいわけではない。だから、とりあえずは条約を締結する内閣や批准を行う国会の判断に従うとしても、最終的には「主権を有する国民の政治的批判」に任せるべきだという指摘である。

 この点こそが、「砂川判決」の肝であり、最も注目すべき珠玉の部分ではないか。ましてや、今回は国際的な条約とは異なり、国内法の制定なのである。

 今回の安保法案に関しては、様々な報道機関が世論調査を行っているが、いずれも今国会での成立はすべきでないという意見が圧倒的である。法案に対しても、国会審議が始まってから、むしろ反対意見が増えている。

判決に書いてあることを大事にすべき


 たとえば、読売新聞が6月5~7日に行った世論調査。同社の調査では、この法案については、以下のように極めて誘導的な問いがなされている。

「安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか」

「日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大する」法案への賛否を問われて、「反対」とはなかなか言いにくいだろう。ところが、その結果は「賛成」40%(前回46%)、「反対」48%(同41%)と、「反対」が「賛成」を上回った。

 しかも、「賛成」は前月の調査に比べて6ポイント下落し、「反対」は7ポイント増えている。法案の今国会成立については、「反対」が59%(前回48%)で約6割となり、「賛成」の30%(同34%)の倍近くに達した。

 政府は、国民に対して責任を負っている。第一に果たすべきは、説明責任であろう。

 ところが、この読売新聞の世論調査では、「政府・与党は、安全保障関連法案の内容について、国民に十分に説明していると思いますか」という問いに対して、「十分に説明している」と回答したのは、わずか14%。実に80%が「そうは思わない」と答えている。この数字は、前月の81%とほぼ横ばい。国会審議が始まっても、政府の説明責任は果たされていない。

 最高裁の「砂川判決」は、集団的自衛権については触れていないが、安全保障がかかわる司法判断が難しい問題も、「主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべき」とは明記している。判決が書いていないことを、あれこれ推測するより、書いてあることを大事にすべきだろう。

「砂川判決」が大事なら、「主権を有する国民の政治的批判」を無視し、今国会成立にこだわることは、とうていできないはずである。【了】

【江川紹子(えがわ・しょうこ)】
1958年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。1982年~87年まで神奈川新聞社に勤務。警察・裁判取材や連載企画などを担当した後、29歳で独立。1989年から本格的にオウム真理教についての取材を開始。「オウム真理教追跡2200日」(文藝春秋)、「勇気ってなんだろう」(岩波ジュニア新書)等、著書多数。菊池寛賞受賞。行刑改革会議、検察の在り方検討会議の各委員を経験。オペラ愛好家としても知られる。個人blogに「江川紹子のあれやこれや」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/)がある。
 
 

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6 コメント

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Unknown (sk)
2015-06-13 19:50:28
この国の独立性を貶める屈辱的米国隷従判決を臆面もなく持ち出す高村の破廉恥さw

ところで、集団的自衛権行使の根拠をこの破廉恥判決に求めることができることを説く、著名な、憲法学者を、たくさんあげてもらいたいものですね。
返信する
Unknown (よっしゃ)
2015-06-13 22:05:28
砂川判例の歴史の深~い闇、ようやく報道特集がコーナー締めのコメントで口にしましたね。
アメリカは良いところもまずいところもある国ですが、ここは評価できるところの一つが「一定年限経過後の公文書公開」です。黒塗りなんて野暮なことをしない。進む道が時の大統領次第のお国柄の所以でしょうか。
その点日本国の場合は、つい10数年前現役政治家の国会答弁がこんな調子ですからw
返信する
Unknown (日焼け止め)
2015-06-14 19:33:42
野党にはこれで徹底的に追及して欲しいですね。
1959年から1999年までは起こらなかったが、それ以降現在までに起こった
安全保障環境の根本的な変容とは何であるか?と。
政府の立場は
解釈は変えてないです環境の変化のせいなんですよ、
ってことらしいですからね。
返信する
Unknown (Unknown)
2015-06-14 20:16:54
高村副総裁に関して、1999年2月9日の衆議院安全保障委員会において、外務大臣だった高村氏が集団的自衛権を否定している発言をしていたようです。真偽について報道してください。
返信する
Unknown (Unknown)
2015-06-15 10:06:20
高村氏は同じく1999年4月1日の特別委員会でも今度は当の安倍とのやり取りの中での発言もありますね。
返信する
砂川事件判決で押し通すの ? (山口)
2015-06-15 16:20:07
判決要旨の二、が 一、の集団的自衛権包含の根拠と主張するなら、新3条件など不要で「間接的自衛もあるんだと」言ったらどうなのか。
もっとも「風吹けば桶屋が儲かる」ような論法になるのでしょうが。
返信する

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