統一地方選や衆院補選で日本維新の会が新たな議席を獲得し、さまざまなメディアが「維新躍進」と報じている。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「『次の衆院選で野党第1党か』などと報じられているが、メディアが先行し過ぎている。地盤の関西では議席を取り尽くしており、今後の伸び悩みは避けられない」という――。
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記者会見する日本維新の会の馬場伸幸代表=2023年4月24日午後、東京・永田町の衆院議員会館 - 写真=時事通信フォト

■「次の衆院選で野党第1党か」との報道も

またまたメディアの「維新祭り」が始まったようだ。4月の統一地方選と衆参の補欠選挙。野党第2党・日本維新の会が議席を伸ばしたことに、やや前のめりに盛り上がっているのだ。「次の衆院選で野党第1党か」。そんな書きぶりが目立っている。

確かに維新は、各地で勝った。前半戦(9日投開票)では奈良県知事選で、後半戦(23日投開票)では衆院和歌山1区補選で、自民党が推す候補を破り当選。各種の議員選挙でも健闘し、目標としていた「地方議員600人」を実現させた。

しかし、メディアの報道はあまりに浮ついている。半世紀以上も自民党の「ほぼ一党支配」が続いてきたこの国で、自民党に代わる政権の選択肢を、短期間に自力で作り上げるのは容易ではない。

■維新の勢いは「天井」を迎えるだろう

小選挙区制が導入されて以降30年、「政権交代可能な野党第1党」づくりがどれだけ難しかったかを、散々見てきた。ちょっと風が吹けば(吹いてもいないのに)そんな政党が簡単にできるかのような見立ては、当の維新を含め、政界全体に失礼だろう。

確かに維新は、ここまでまずまず順調に支持を広げてきた。だが、今後を考えると、もうそろそろ「伸び切った」状態になるのではないか、と筆者は見ている。維新が「単独の政党として党勢拡大を目指す」以上、これ以上の大幅な伸びを短期間で実現するのは、かなり難しくなりつつある、ということだ。過大評価は禁物である。

■「新聞の見出しを取らせる選挙戦」に徹した維新

統一地方選の前半戦(知事選・政令指定都市長選・道府県議選)における維新の戦いを見て感じたのは「新聞の見出しを取らせる戦い方がうまい」ことだった。

多くの選挙が行われる統一地方選の場合、前半戦のメイン記事の見出しは「与野党対決型」となった知事選の結果になるのが定番だ。維新にとって最重要の選挙とは、当然ながら大阪府知事選・大阪市長選のダブル選だが、これは「維新2勝」がほぼ織り込まれており、有権者に大きな驚きを与えることは難しい。

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そんな状況下で維新は、奈良県知事選で新人候補を当選させた。自民党が分裂状態に陥り「漁夫の利」的な側面もあったが、知事選で唯一「与野党対決型」となった北海道が、自民党などが推薦する現職の勝利となったこともあり、奈良県知事選は新聞の1面トップに躍り出た。「維新が大阪以外で初めて知事選に勝利」という位置付けとともに「維新が伸びている」印象を、有権者に強く植え付けることになった。

■「議席4倍増」の数字のマジック

同じく前半戦の道府県議選も同様だ。維新は大阪以外の関西圏で大きく議席を伸ばした一方、関西圏以外では神奈川(6議席)、福岡(3議席)を除き、議席を獲得した10道県はいずれも1議席止まり。にもかかわらず、新聞の地域面には「維新が初の議席獲得」との見出しが躍った。

「10→15」より「0→1」の方が「初議席」という見出しを立てやすい。結果として維新は「躍進している」という「ふわっとした印象」を与えることに成功した。

政治団体「大阪維新の会」を除く「日本維新の会」として獲得したのは69議席。前回(2019年)の16議席から53議席増え「4倍増」と言われた。もともとの議席数が少ない場合「○議席増」より「○倍増」と表現した方が、伸びの大きさが強調される。今回の選挙で185議席を獲得し、前回(118議席)から67議席伸ばした立憲民主党の場合「1.5倍増」ではインパクトが弱いということなのか、議席を増やしてもろくに見出しにもならない。

■「全国政党化」にはまだまだ心もとない結果だった

一方、後半戦では衆参両院の五つの補欠選挙が、統一地方選の区市町村長選・同議員選と同時に行われた。大きな見出しになるのは、国政選挙である補選のほうだ。維新はここでも衆院和歌山1区補選に勝利。立憲民主党などが他の補選で自民党の候補に競り負けるなかで、またも大見出しを取らせた。

大阪以外に「足場」が乏しい維新が、メディアの特性を利用して、スポットライトの当たる戦いで成果を挙げ、勝利を実際より大きく見せる。それに乗っかる形でメディアも「維新躍進」を実態以上にあおる。これが、岸田政権が発足した直後の2021年衆院選以降の、政治をめぐる言論環境のトレンドだ。

維新にとってはこれも「空中戦」の一つであり、ここまでは一定程度、それに成功していると言えよう。

しかし、少し引いて選挙戦全体を見るとどうだろうか。

前述した通り、前半戦の道府県議選では、維新は関西以外では、昨夏の参院選で知名度のある元知事が出馬した神奈川を除けば、ほとんど伸びが見られなかった。東北や北陸などでは当選者はゼロ。当選者を出した県も、前述したようにほとんどが1議席であり、その多くが新人だ。そもそも1議席では、議会の中で会派を組むこともできず、地方政治のリアルパワーを形成するには、まだまだ地力が足りない。

「全国政党化に足掛かり」と呼ぶには、まだまだ心もとないのが実情だ。

■地元大阪でも勢いは失速し始めている

後半戦の市区町村長選では、少々意外な結果もあった。維新の牙城である大阪で、政治団体「大阪維新の会」が擁立した市長候補が3人も敗退したのだ。高槻市では元衆院議員の新人、松浪健太氏が、4選を目指した現職にダブルスコア以上の差をつけられ惨敗。吹田市、寝屋川市でも新人が敗れた。維新は知事選と大阪市長選の「ダブル選」で勝利した勢いを、肝心の地元・大阪で生かしきれなかった。

維新がこの状態で次の衆院選を迎えるとどうなるか。

地方議員を増やして多少の地力をつけたとはいえ、現在の維新はまだ、関西以外では「空中戦頼み」の選挙戦に頼るしかない。確かに、このままメディアの「維新上げ」状態が続けば、その「追い風」を受けて、比例代表ではある程度の空中戦を戦える可能性はある。衆院選でも比例票で立憲を上回る可能性はないとは言えない。

しかし、衆院選でものを言うのは、議席数で大きな比重を占める小選挙区だ。そして、維新が自民党と立憲民主党などの野党陣営に挟まれた「三つどもえ」の状態から単独で勝ち上がるのは、実は相当に難しいと見るのが自然だ。

■「牙城」の関西圏ですら議席は飽和状態

特に「10増10減」で選挙区が増えている首都圏で伸びを欠いているのが大きい。統一地方選の後半戦と同時に行われた衆院千葉5区補選が良い例だ。主要野党がこぞって候補を擁立したが、結果として自民党への批判票は、維新ではなく立憲民主党の公認候補に集まった。維新の候補は立憲の候補にダブルスコア以上の差をつけられ、国民民主党の候補の得票さえも下回った。

小選挙区制において「非自民」層の票は「最も自民党候補に勝てそうな候補」に集まる。維新は関西ではこうした票を集められるだろうが、議席数の多い首都圏では、それは野党第1党の立憲になる。立憲は統一地方選の全ての種類の選挙でいずれも議席を増やしており、維新同様に地力をつけつつある。補選敗北の陰で話題にもならないが、少なくとも全国的には「維新が立憲に対し大きく差を詰めた」という状況にはなっていないのだ。

そして維新は、「牙城」の近畿で徐々に「飽和状態」に近づきつつある。大阪では19の小選挙区のうち15を維新が押さえており、この先の伸びしろが少ない。この「飽和感」が後半戦での3市長選敗北につながった可能性もある。

だから維新はその分、大阪以外の近畿圏に伸びしろを求めている。統一地方選の結果を見る限り、そこは一定程度成功しそうだ。だが、近畿全体の議席数は、小選挙区と比例代表を合わせて73。少ないとは言わないが、政権与党への足掛かりを得るには、近畿で圧勝するだけでは足りない。

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■「全国政党化」への道のりはまだまだ険しい

維新は今年の活動方針に「次の衆院選で野党第1党となる」「今後3回の衆院選で政権奪取」を掲げているが、今回の選挙結果を見る限り、それは容易ではないだろう。2005年の小泉政権における「郵政選挙」のような「旋風」が起きて、メディアが大きく維新をあおる事態になれば話は違うかもしれないが、仮に維新に猛烈な「風」が吹いても、現在の維新にはそれを受け切るだけの地方組織も党員の数も、まだ十分ではない。実際の選挙で取りこぼしてしまうことも多いのではないか。

これが維新の現状に対する、ごく一般的な見方だと思う。昨夏の参院選で指摘された「議席は伸びたが全国政党化に課題」という評価は、今も変わってはいない、ということだ。別にそれが悪いと言っているわけではない。「政党を育てる」とはそれだけ手間ひまがかかることであり、維新の挑戦は緒に就いたばかりだ、というだけだ。

にもかかわらず一昨年以来、メディアなどからやや無理筋な「維新上げ」が続くのはなぜだろう。この業界の「リベラル嫌い」や「保守二大政党待望論」の強さは今に始まったことではないが、無理にでも維新の期待値を上げようといきり立つさまは異様だ。

■維新が政権政党化する非現実な二つの方法

メディアが期待するように、維新が短期的に(次の衆院選くらいまでのスパンで)政権の選択肢の一翼を担えるという状況はあるのか。無理やりひねり出してみたが、筆者に思い浮かぶ例は、せいぜい二つしかない。

一つは「希望の党騒動」(2017年)の再現のような野党再編劇の発生だ。希望の党騒動とはつまり、改革保守系の野党第1党を「一瞬で作る」ために「小選挙区で勝ち上がれる大都市の地域政党と、足腰となる組織(旧同盟系の労働組合)を合体させて母体(希望の党)を作り、そこにもともとの野党第1党(民進党)の大半を吸収してリベラル勢力を切り捨てる」というもので、アイデアとしては良くできていた(褒めてはいない)。

だが、結果はご承知の通りだ。リベラル系の立憲民主党が野党第1党の座を奪い、逆に改革保守系は脇に追いやられた。希望の党騒動の失敗に対する不満が、同党に代わる「改革保守系の野党第1党候補」として、維新への過剰な期待となっているのかもしれない。

ただ、大規模な野党再編は、現状ではほとんど非現実的だ。現在の立憲民主党は、希望の党騒動に懲りた議員らが、改めてリベラルな理念の下に再結集した政党であり、所属議員がほぼ同じであっても、「寄り合い世帯」と呼ばれたかつての民主党・民進党とは似て非なる政党だ。彼らはすでに野党第1党としてのスケールメリットを十分に感じており、野党再編に再び巻き込まれる動機がない。支持団体の労働組合にとっても、さらなる支持政党の分散を招くような政局の発生は、もうこりごりだろう。

もう一つは「自民党が何らかの理由で分裂して、その一方が維新と組む」ことだ。

今からちょうど30年前の1993年、政治改革をめぐり自民党が分裂、一方が野党勢力と組み「非自民」の細川政権が誕生した例があった。維新の馬場伸幸代表も、以前に同様の願望を口にしている。

だがこれは「当時の小沢一郎氏のように政局を振り回せる『剛腕』が、自民党か維新のいずれかに存在する」「自民党が次の衆院選で下野する恐れがある」の二つを、同時に満たす必要がある。現状はどちらも現実的ではない。両党の内外を見回しても、そんな「昭和の政治」みたいなシナリオを書ける存在は見当たらない。

■政治を「権力闘争の勝ち負け」感覚で扱うのはやめよう

こんなことを書いていて、筆者自身つくづくばからしくなってしまった。政治にパワーゲームの要素が全く必要ないとは言わないが、こんな政治ドラマばかりを面白おかしく追いかけていたから、有権者が政治にそっぽを向くようになったのだ。

もういい加減、政治を「永田町内での権力闘争の勝ち負け」の感覚でとらえるのはやめたい。どの政党やどの政治家が、国民のためにどんな働きをしているのか、そのことを淡々と、適切に監視し、評価なり批判なりすればいい。「野党第1党になれるか」とか「政権交代できるか」とか、それらは全てその結果に過ぎないのだ。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)