「サバイバル家族」服部文祥(中公文庫)
登山家である服部文祥さんの、登山ではなく、
私生活の、家族の日常を記すエッセイ。
書籍にするに耐えうる程度に、服部文祥を軸
とする服部家は、現代日本の多数の、一般的
な生活ではない。
無論、(常に構成員の総意かはさておき)少
なくとも著者は、そうした家族を意図的に目
指してもいない。
かつての人間の生活様式をサバイバルという
かどうかは、さまざま意見の分かれるところ
ではあるだろう。
とはいえ、本書にある生活環境から人間以外
の自然と生物を排除しない、共生するという
生活が、現代の都会の標準でないことも確か。
しかも、そうした生活環境で、結果的に致命
的なこともなく、3人の子供が成長していく
様子がわかる。
不便がないわけではないし、わりと困りごと
も多いのだけれど、かといって過剰に利便性
を追求することもない。
そこにあるのは、幸か不幸かではなく、何を
求めるか、でしかない。
数字と金額と、メジャーかマイナーかでしか
価値が語られない、勝ち負けを判断できない
現代が、好きではない。
そういう人々は、まあ漏れなく、静かに淡々
と生活を、人生を送っているのだけれど。
それはたまにこうして、(失礼だけど)世間
で言うマイナーなジャンルで、決してメジャ
ーでない場所で、姿を表したりする。
そして、それに触れて、それでもやはり迷っ
たり、揺らいだりする人々が、これまで通り
進んでいけたりする。
また、今に疑問のある、進むことを悩んでい
る人が、一歩踏み出す(外れる)きっかけに
なったりもする。
当然に、すべての人がこうするべきではない
し、人間は、利便性を求めてここまでを、そ
してこれからを進んでいく。
それもまた間違いなく、だからこそ、本書の
ような生活を、ある意味で安心して、志向と
して選んで追い求められる。
志向と趣味と言ってしまえばそれまでである
が、だからこそ、否定できる価値観ではない
し、うらやむ人だっている。