りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“ゲルダ” ―全8場― 2

2012年09月11日 14時50分01秒 | 未発表脚本


  ゲルダ「(顔を上げてフロルを認める。)」
  フロル「どうして泣いているの?何か悲しいことがあるの?(ゲ
      ルダの涙を拭うように。)僕に話してみない?力になれる
      かも知れないよ。」
  ゲルダ「・・・誰・・・?」
  フロル「僕はフロル。人々を幸せにして歩くのが、僕の仕事なん
      だ。泣いてる君を放っておけないよ。」
  トロル「(ボソッと。)お節介な奴め・・・」
  ゲルダ「・・・私の恋人が急に冷たい人になってしまったの・・・」
  フロル「(驚いたように。)・・・冷たい人・・・って・・・?」
  ゲルダ「(頷く。)ほんの今さっきまでは、彼程、心温かで優しい
       人は、この世にいないと思えるくらい、愛情溢れる人だ
       ったのに・・・。それなのに急にカイは・・・私を傷付ける
       言葉を残して何処かへ消えたの・・・(涙ぐむ。)」
  フロル「・・・鏡の破片が心に刺さったんだ・・・」
  ゲルダ「・・・鏡の破片・・・?」
  フロル「そのカイが消える時、何か言ってなかったかい?何処
      かへ行くとか・・・」
  ゲルダ「・・・(一時考えるように。)・・・雪の・・・女王・・・僕はあな
       たに付いて行く・・・そう言ってたわ・・・。」
  フロル「雪の女王・・・?彼女に気に入られたのか・・・早く行かな
      きゃ大変だ・・・」
  ゲルダ「・・・大変・・・?」
  フロル「うん。雪の女王に気に入られた者は皆、彼女の城へ連
      れて行かれ、その内、体全部が氷に閉じ込められ、心ま
      でもなくなった人形のようになり、二度と感情は戻らない
      ・・・」
  ゲルダ「そんな・・・」
  フロル「大丈夫!僕達がカイを見つけ出して、鏡の破片を取り
      出せば、カイの心は温かさを取り戻す。そうすれば氷に
      閉じ込められても、早いうちなら心が氷を溶かしてくれる
      んだ。カイは助かるよ!」

         フロル、ゲルダの手を取って歌う。
         トロル、ゴロンと横になり、気だるそうに
         見ている。

         “心配しないで
         君のその涙を無駄にはしない
         温かな心を取り戻す
         優しい思いが
         きっと全てを救い出す
         安心おしよ
         僕は幸せに導く天使さ!
 
         心配はいらない
         君が流した涙の分だけ
         優しさ溢れる心に出会う
         思いは全て
         誰にも正直で嘘はない
         不安は無用
         僕は幸せを運ぶ天使さ!”

  フロル「だから安心おし!(トロルの方を向いて。)おい!!また
      一つ破片の行方が分かったよ!!雪の女王のとこだ!!
      」
  トロル「(起き上がって。)聞こえてるさ・・・そんな大声で叫ばなく
      ても・・・。雪の女王っていやぁ、この鏡の本家本元・・・み
      たいなもんだから、ちょっとばかし手強いかもしんねぇなぁ
      ・・・。(笑う。)」
  フロル「笑ってる場合じゃないよ!さぁ、ラップランドへ出発だ!
      」
  
         フロル元気よく、トロル溜め息を吐きながら、
         上手へ行こうとする。

  ゲルダ「・・・待って!!」
  フロル「(立ち止まり振り返る。)どうしたの・・・?」
  ゲルダ「私も連れて行って!!」
  フロル「連れてって・・・って・・・僕達が今から向かうのはラップ
      ランドだよ!?あそこは一年中、雪と氷に覆われた場所
      なんだ!ここの冬より、何十倍も寒いところなんだよ!!
      」
  トロル「人間には無理無理・・・」
  ゲルダ「そんなに辛いところなら尚更よ!!カイはそこにいるん
       でしょ!?そんなところで雪の女王に捕まって、どんな
       に心細いでしょう・・・。私はそんなカイを一人放って、何
       もしないであなた達の帰りを待つなんて出来ないもの!
       !お願い連れて行って!!カイのところへ!!」
  トロル「おい、分かってんのか、おまえ?自分の言ってること、よ
      おく考えてみなよ。北極だぜ、北極!そんなところに・・・」
  フロル「・・・分かったよ・・・」
  トロル「(驚いたように、フロルを見る。)・・・えっ?」
  フロル「一緒に行こう!!君のその温かな気持ちが、僕達が行
      くよりずっと簡単にカイを救えるかも知れないからね!」
  トロル「おい、フロル!!おまえ、何言って・・・」
  フロル「いいじゃないか!どうしても行きたいって言ってるんだ
      から!」
  トロル「オイラ知らねぇぜ・・・」
  フロル「行こう!!ラップランド!!」
  ゲルダ「(嬉しそうに頷く。)」
  トロル「(呆れたように。)・・・ヤレヤレ・・・」

         暗転。

    ――――― 第 3 場 ―――――

         ガラスの割れる音が聞こえ、人が叫ぶ。

  人の声「こらーっ!!誰だ、一体!!」

         明るくなる。
         上手より一人の少年(クラウス)、走りながら
         登場。

  クラウス「(上手方を見て。)へへーんだ!!ざまあ見ろってん
       だ!!・・・ふん・・・畜生!!なんかむしゃくしゃする!!
       なんか無性に暴れ回りたい気分なんだ!!」

         音楽流れ、クラウス歌う。

         “何故だかイライラする!
         何故だか腹が立つ!
         どうしても我慢できないんだ
         無性に暴れたいんだ
         悪戯したら皆があたふたする
         悪戯したら皆の堪忍袋の緒が切れる
         愉快じゃないか
         こんな楽しいことはない!”

  クラウス「あああ・・・何か悪戯はないかなぁ・・・。お次はどんな
       ことをやって、皆を怒らせてやろう!そうだなぁ・・・昨日
       はシスターの洋服のポケットに、冬眠中のカエルを入れ
       てやったんだ!!(楽しそうに。)あの時のシスターの驚
       いた顔ったら・・・(笑う。)傑作だな!それからその後、
       昼食用のじゃがいものスープの中に、胡椒を丸ごと一
       瓶、打ち込んでやったんだ!!それから・・・」

         その時、下手よりシスター、困ったような
         面持ちで登場。クラウスを認め、ゆっくり
         近寄る。

  シスター「(溜め息を吐いて。)・・・クラウス・・・こんなところにい
        たのですね・・・。何故あなたは近頃、直ぐに乱暴を働
        くのかしら・・・。この間までホームの子ども達の、いい
        お兄さんだった筈よ・・・?昨日もゾラが、あなたに髪の
        毛を木に結び付けられたって泣いてたわ・・・。本当に
        いけない子・・・」
  クラウス「煩いなぁ!!あいつ泣き虫だから、見ててイライラす
       るんだよ!!悪戯ならもっと一杯やったぜ!!さぁ、お
       仕置きでも何でもすればいいさ!!鞭で打つなり、食事
       を抜くなり!!その代わり、その鞭はその辺の木屑み
       たいにバラバラに・・・腹が減ったらパン屋へ行ってパン
       を頂戴するまでだ!!(笑う。)」
  シスター「クラウス・・・!困ったわね・・・。(溜め息を吐く。)・・・
        痛っ・・・(胸を押さえる。)・・・何かしら・・・(段々と表情
        がなくなる。)」
  クラウス「さぁ、早いとこお仕置きしろよ!!」
  シスター「・・・そうねぇ・・・そんなに悪い子は・・・台所の大釜で
        煮てしまおうかしら・・・。それとも冬の寒空の下、一晩
        中、木に縛り付けておきましょうか・・・(クスッと笑う。)」
  クラウス「ばっ・・・馬鹿野郎!!そんなことしたら死んじまうだろ
        !!」
  シスター「そうかも知れないわねぇ・・・。でもあなたは早くお仕
        置きして欲しいんでしょう?」
  クラウス「それは・・・そう言ったけど!!」
  シスター「どちらがいいかしら?どちらでも好きな方を選んでい
        いのよ。(微笑む。)」
  クラウス「どっちもご免だ!!」
  シスター「そう・・・どっちも嫌なの・・・。でも、それじゃあ、あなた
        は反省しないものね・・・。そうね・・・私と1対1の勝負
        をする・・・?」
  クラウス「1対1・・・?」
  シスター「丁度いいものを持っているわ・・・(ポケットから折り畳
        みナイフを2本取り出し、1本をクラウスの方へ投げる
        。)」
  クラウス「(ニヤリと笑ってナイフを拾う。)・・・OK・・・!」

         2人、其々構えて斬り付け合う。
         その時、上手より登場したフロル、ゲルダ、
         2人のただならぬ様子に驚いて駆け寄る。

  フロル「ちょっ・・・ちょっと!!何やってるんだい!?」

         フロル、シスターとクラウスの間に割って
         入るように。

  シスター「邪魔だ!!」
  フロル「邪魔・・・って・・・その格好から、あなたは確かに神様に
      お仕えする方・・・」
  クラウス「早く退けよ!!」
  ゲルダ「どうしてそんな風に戦っているの!?」
  シスター「この子が心ない悪戯ばかりするもので、ちょっとばか
        しお仕置きをね!!」
  クラウス「シスターこそ、俺を殺そうとしたんだ!!やられる前に
       やるだけだ!!」
  ゲルダ「フロル、この人達の言ってること可笑しいわ!!」
  フロル「(何かに気付いたように。)・・・ちょっと失礼!(シスター
      の左胸元に手を翳す。)」
  シスター「(凄い形相で。)何するんだ!!やめろ!!やめ・・・
        (気を失う。)」
  ゲルダ「(驚いて駆け寄る。)どうしちゃったの!?この人・・・!!
       」
  フロル「大丈夫!心にガラスの破片が刺さってたんだ!まだ入っ
      て間もない破片はこうやって、簡単に取り除くことができる
      んだよ。」
  ゲルダ「・・・ガラスの破片の威力で・・・こんな風になっちゃうの
       ・・・?」

         呆然と見ていたクラウス、何か悟ったように
         ゆっくり下手方へ。

  フロル「(クラウスに気付いて。)待つんだ!!」

         クラウス、立ち止まる。

  フロル「君の心の中も見せてもらおうかな?」
  クラウス「・・・俺は何も!!」
  フロル「それはどうだろう?(クラウスの方へ手を翳す。)」
  クラウス「あ・・・!!やめてくれよ・・・!!ちょっ・・・」

         クラウス苦しそうに跪き、身を丸める。

  シスター「(気付く。)う・・・ん・・・(起き上がる。)・・・私・・・?(ク
        ラウスを認め、その様子に驚いて駆け寄る。)クラウス
        !!どうしたの!?クラウス!!」 
  クラウス「(シスターを認め。)・・・先生・・・?」
  シスター「ああ、よかった!!(クラウスを抱く。)」
  クラウス「(恥ずかしそうに。)苦しいよ、先生・・・」
  シスター「驚いたわ・・・。心配かけないで・・・。」
  クラウス「ごめんなさい・・・。でも・・・僕、どうしちゃったんだろう
       ・・・。なんだか頭がボーッとして・・・(周りを見回して。)
       どうしてこんなところにいるのかな・・・?」
  シスター「さぁ、ホームへ帰りましょう・・・。皆があなたの帰りを
        待ってるわ・・・。」
  クラウス「はい!!そうだ、僕、ゾラに紙人形を作ってあげるっ
       て約束してたんだ!!」
  シスター「そう・・・(微笑む。)」

         シスター、クラウス、2人の様子を微笑ましく
         見ているフロル、ゲルダのことは気にせず、
         通り過ぎ下手へ去る。

  ゲルダ「よかった・・・!!鏡の破片さえ取り除けば、元の優しい
      人間に戻るのね!!」
  フロル「うん、そうだよ!」
  ゲルダ「じゃあ、カイもきっと大丈夫ね・・・!!」
  フロル「勿論さ!」

         ゲルダ、希望に瞳を輝かせ、遠くを
         見遣る。
         暗転。

    ――――― 第 4 場 ―――――

         上手方、スポットに胡坐を掻き、手鏡を
         持ったトロル、浮かび上がる。

  トロル「チッ!!放っときゃあいいのに・・・。もう少しで面白い戦
      いが見れたかもしれないんだぜ!オイラなら黙って見て
      るがねぇ・・・」

         下手方スポットに、フロル浮かび上がる。

  フロル「放っとけないよ!!元は皆、優しくていい人達なんだ!」
  トロル「元が優しい人間だなんて、どうして分かるのさ!」
  フロル「分かるよ!!それを鏡の破片のせいで、あんなにいが
      み合ったり傷付けあったりするなんて・・・。」
  トロル「それが楽しいんじゃねぇか!(笑う。)考えただけで愉快
      極まりないねぇ・・・!」
  フロル「そんなことばっかり言ってると、また女王様の怒りに触
      れることになっても知らないよ!」

         音楽流れ、トロル歌う。

         “そんなものにビクビクしてちゃ
         悪いことなんて出来ないぜ”

         フロル、呼応するように歌う。

         “やっていいこと いけないことの
         区別くらい出来るだろ?”

  トロル「区別なんてつかねぇ!!」

         呆れた表情のフロル、フェード・アウト。
         トロル歌う。

         “オイラにとっちゃ いけないことも
         オイラが楽しきゃそれでいいのさ
         誰に非難されようと
         オイラはやりたいようにやる
         オイラはトロル 小鬼なんだ
         その呼び名の通り
         オイラはオイラの道を行く!”

  トロル「残る破片は、後一つ・・・(鏡を見る。)」

         暗転。

          
   






     ――――― “ゲルダ”3へつづく ―――――










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