りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“ジェイ・スペンサー” ―全13場― 完結編

2012年09月10日 17時18分11秒 | 未発表脚本

       ――――― 第 12 場 ―――――

 

         下手よりジェイ、歌いながら登場。

 

         “いつまでも来た道しか見れなかった・・・

         いつまでたっても先へ進むことが出来なかった・・・

         目に見えない何かに縛り付けられて・・・

         昔にかえることも

         新しく歩き出すことも出来ないまま

         ただ時だけが黙って過ぎてゆく・・・

         だけど・・・今・・・

         導いてくれるものの到来を感じ

         何故か心が解き放たれて自由を思う・・・

         素晴らしい予感が手を差し出し微笑む・・・

         たとえ・・・

         叶わない予感だとしても・・・”

 

         そこへ上手よりロバート、走り登場。

         カーテン前。

         ロバート、一瞬ジェイに声をかけるのを

         躊躇ったように立ち止まる。

 

  ロバート「(思い切ったように。)ジェイ!!」

  ジェイ「(振り返る。)・・・ロバート・・・どうした、まだ何か言い足り

      ないことでもあるのか・・・。」

  ロバート「違うんだ・・・さっきは・・・すまなかった・・・」

  ジェイ「ロバート・・・別にいいさ・・・俺も言い過ぎた・・・。それに

      おまえの言ったことは正しいよ・・・。あんなフィルム1本

      の為に・・・」

  ロバート「もういいんだ!!おまえが・・・どんな気持ちであの写

       真を使ったか、もっと考えるべきだったんだ・・・。ただ

       俺は、あれを見て頭にカッと血が上ってしまって・・・。

       ジェシーの死が無意味なことに変えられてしまったよう

       で・・・。俺なんかより・・・ずっと辛い思いをしたのは、

       おまえなんだもんな・・・。おまえのこと、分かってるつ  

       もりだったが・・・情けないよ・・・」

  ジェイ「今まで俺は・・・ただ自分が許せなかった・・・何故あの時

      、ジェシーを行かせたのか・・・何故ジェシーを守ることが

      できなかったのか・・・その思いに雁字搦めにされて、一

      歩も前へ進むことも・・・勿論過去へ戻ることもできなかっ

      た・・・。あの写真は・・・ジェシーそのものなんだ・・・。彼

      女が最後まで守って離さなかった・・・あの写真が・・・ジェ

      シーが生きていた証なんだ・・・。ジェシーがここにいた・・・

      (自分の両手の平を見詰める。)」

  ロバート「ジェイ・・・」

  ジェイ「(微笑んで。)愛していたよ、本当に心から・・・。おまえも

      同じだな・・・」

  ロバート「(微笑んで。)おまえには負けるよ・・・」

  ジェイ「(思い出したように。)キャロルに謝らないと・・・。酷いこと

      を言ってしまった・・・。」

  ロバート「俺もだ・・・」

  ジェイ「白状する・・・俺も彼女が好きだ・・・彼女自身が・・・」

  ロバート「ジェイ・・・自由競争だぜ!」

  ジェイ「勿論、望むところだ!」

 

         2人、握手して笑い合う。

 

  ジェイ「向日葵か・・・全くそのとおりだな・・・」

 

         その時、上手よりシモン、駆け込んで来る。

 

  シモン「(慌てて。)大変だーっ!!」

  ジェイ「シモン・・・?」

  ロバート「どうしたんだ、一体・・・」

  シモン「(息を切らせて。)大変だよ、ジェイさん!!ホテルが・・・

      ホテルが軍隊の攻撃を受けて火事に・・・!!」

  ロバート「何だって!?」

  ジェイ「・・・シモン!!それでキャロルは!?」

  シモン「それが一旦は僕らと外に逃げ出して無事だったんだけど、

      何か大事なものを部屋に忘れてきたからって飛び込んだ

      まま出てこなくて・・・!!危ないから止めろって言ったん

      だけど振り切られて・・・」

  ジェイ「あの馬鹿・・・(思わず上手へ走る。)」

  ロバート「(慌てて。)ジェイ!!どうするつもりだ!!」

  ジェイ「勿論、助けに行く!!」

  シモン「(絶望した声で。)もう無理だよ!!」

  ジェイ「・・・俺はもう二度と大切な者を失いたくはないんだ!!」

  

         ジェイ、上手へ走り去る。

 

  ロバート「ジェイ!!」

  シモン「ジェイさん!!」

 

         暗転。

 

         ――――― 第 13 場 ―――――

 

         カーテン開く。

         ホテルの建物の前には、大勢の人々が

         騒いでいる。建物は攻撃を受けた後らしく、

         無惨に破壊され煙の流れる中、炎が見え

         隠れする。

         上手よりジェイ、走り登場。

 

  ジェイ「(外にいたシバを見つけて駆け寄る。)シバ!!キャロ

      ルは!?」

  シバ「(オロオロと。)あ、ジェイさん!!それが奥様は中に入

     られたきりまだ・・・」

 

         ジェイ、建物の中に駆け入ろうとする。

 

  シバ「無茶です!!(慌ててジェイを抱き止める。)」

  ジェイ「離せ!!(力付くでシバを突き放し、建物の中に入る。)」

  シバ「ジェイさん!!」

 

         そこへ上手よりロバート、シモン走り登場。

 

  シモン「(シモンに駆け寄り。)ジェイさんは!?」

  シバ「それが中に・・・」

  ロバート「あいつ!!」

  シモン「ロバートさん!!このままじゃ2人共死んじゃうよ!!」

  ロバート「糞う!!」

 

         ロバート、ドアから入ろうとして開けると、

         中から煙が流れ出る。

 

  ロバート「うわっ!!ジェイ!!(中に向かって叫ぶ。)」

  シバ「もう・・・駄目だ・・・(呆然と。)」

  シモン「馬鹿野郎!!なんてこと言うんだよ!!」

  ロバート「(再び中に向かって叫ぶ。)ジェイ!!キャロル!!」

 

         ロバートの叫び声が木霊して、一瞬の

         静けさが辺りを包む。

         一時置いて、ジェイ、キャロルを抱き抱えて

         出て来る。

 

  ロバート「ジェイ!!キャロル!!(興奮して駆け寄る。)」

  シモン「ジェイさん!!(ロバートに続く。)」

  ジェイ「(キャロルを下ろして。)・・・大丈夫か・・・?」

  キャロル「(頷く。)」    

  ジェイ「(少し照れたように。)・・・おまえに謝らないと・・・さっき

      は・・・酷いことを言ってごめん・・・」

  キャロル「・・・ジェイ・・・」

  ジェイ「・・・心配かけやがって・・・」

  キャロル「・・・ジェシーの写真が・・・(涙声になる。)ごめんなさ

       い・・・」

  ジェイ「何言ってるんだ!!」

  キャロル「・・・だって・・・あなたの一番大切にしてた・・・ネガだ

       ってもうないって、ロバートが・・・」

  ジェイ「(キャロルの言葉を遮るように。)確かにあれは大切な

      ものだった・・・。だけど今の俺には、あの写真よりもお

      まえの方が大切なんだ!!」

 

         ロバート、一瞬驚いた面持ちをするが、

         直ぐに優しく微笑み、シモンの肩に手を

         掛け、シバには目で合図して、2人から

         そっと離れ下手へ去る。

         いつの間にか舞台上、ジェイとキャロル

         を残して皆立ち去る。

 

  ジェイ「何よりもおまえを失ったら俺は・・・」

  キャロル「私が・・・ジェシーに似ているからでしょう・・・」

  ジェイ「馬鹿野郎!!俺はおまえがジェシーに似ていなくても、

      おまえに惚れてたよ・・・おまえ自身に・・・。それにジェシ

      ーの笑顔ならここに・・・(胸を押さえる。)」

  キャロル「本当・・・に・・・?」

  ジェイ「当たり前だ!!(恥ずかしそうに。)おまえはジェシーと

      は全然違うよ・・・。ジェシーはもっと女らしかったからな

      ・・・。」

  キャロル「酷い!!」

  ジェイ「冗談だよ。(笑う。真面目な顔付きになって。)・・・愛し

      ているよ・・・」

  キャロル「・・・私もよ、ジェイ!!(抱き付く。)」

 

         ジェイ、立ち上がってキャロルの手を取る。

         キャロル、導かれるように立ち上がって、

         2人、見詰め合い歌う。

 

      ジェイ“いつからだろう・・・

          歩くことを思い出したのは・・・

          前を見詰めることが素晴らしいと

          思い出したのは・・・

          全てが君のお陰・・・

          全ては君がいたから・・・

          僕は進み出す・・・”

 

      キャロル“いつからかしら・・・

            あなたのことが特別になったのは・・・

            きっと願いは叶うものと

            心に誓っていたのは・・・”

 

      2人“全てが君(あなた)のお陰・・・

         全ては君(あなた)がいたから・・・

         僕(私)は進み出す・・・”

 

         ジェイ、キャロルの頬に触れる。

         その時、ジェシーの声が微かに響く。

 

  ジェシーの声「・・・おめでとう・・・」

 

  ジェイ「(驚いたように見上げて。)・・・ジェシー・・・?」

  キャロル「どうしたの?」

  ジェイ「あ・・・いや、何でもないよ・・・(微笑む。)」

 

 

 

 

        ――――― 幕 ―――――

 

 

 

 

 

― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪

 

 



   
 http://milky.geocities.jp/little_pine2012/index.html

         http://ritorupain.blogspot.com/

     http://blogs.yahoo.co.jp/dorapontaaponta



最新の画像もっと見る

コメントを投稿