400年以上続いた山持の旧家が姑の生家だ。
姑の話では、先祖は御所の北面の武士であったそうな。
矜持(プライド)を持った明治生まれの姑だった。
老女になっても美しい人だったが、若いころは、〇〇小町などと言われ、
引く手あまたの存在だったようだ。
そんな姑が、親の決めた人を嫌い、弟の家庭教師に来てた、隣村の村長さんの息子と
行李(こおり)一つを持って、東京へ。
駆け落ち同様の結婚であったそうだ。
主人が生まれる頃は、舅も出世が早かったから、それなりの生活を営めたけれど、
東京に出てきて、池袋の教員宿舎での新婚生活は、厳しかったそうだ。
特に、年子の姉たちの学費には頭を悩ませ、質屋のお世話になったこともあったとか…。
私が主人と結婚したころは、穏やかな老女になっていたが、若いころは、それは苦労の連続だったそうな。
姑は、嫁の私に、とても優しかった。
そんな姑に一度だけ、叱られたことがある。
友人から、古着を貰ったときのことだ。
古着と言っても、新品同様の品だ。
彼女のご主人は、若くして自社ビルを建てたような成功者。
私と同年の彼女の生活は、華やかだった。
ブランド品の服など、ごろごろしてた。
それらの服を、惜しげもなく、友人に配るのだ。
私も、いただいた一人だ。
姑とは隠し事せず、何でも話す間柄だったから、嬉々としてその服を見せた。
日頃、怒った顔を見たことがない…と言う姑だが、その形相は怖かった。
「人さまから恵んでもらうほど、うちは困っていません。
洋服が欲しかったら、私に言いなさい! 買ってあげます。」
この時のことは、主人には内緒の話だ。
姑と私だけの秘め事だ。
若いころから、一人、頑張ってきた姑。
他人から、後ろ指さされないように…と、暮らしてきた姑。
嫁の安易なふるまいは、明治生まれのプライドの高い姑には、我慢できなかったのだろう…。
古着屋さん巡りなどするようになったのは、姑が亡くなってからのこと。
が、今でも古着は、なんか、私の中では、タブーの扱いとなっている。"(-""-)"