佇む猫 (2) Dr.ロミと助手のアオの物語

気位の高いロシアンブルー(Dr.ロミ)と、野良出身で粗野な茶白(助手のアオ)の日常。主に擬人化日記。

治療師か詐欺師か(6)エロスか愛か、二択

2019年09月14日 | 手記・のり丸

ノエルさんとラッキーさんは、雰囲気が対照的だった。

私は2回手術をしたが、左右の内頚動脈という血管に巻き付いている腫瘍は取り残しになった。
その部分にはガンマーナイフという放射線をかけた。
そのことにより「下垂体前葉機能低下症」になった。
 
ノエルさんとラッキーさんの病状は、あるところまでは私とそっくりだった。
私は自分の病気に対する情報収集をしたくて、ネットでふたりに接触した。
 

愛妻家。病気がわかってから、(男性不妊治療を開始し)子供を作ろうとする。

 

病気がわかってから、すぐに恋人と入籍する。妻に財産を残す方法を考えまくる。

 

ついでに私。付き合っているパリピがいたが、病気がわかってから、速攻で振られる。(瞬殺)

 

下垂体前葉機能低下症により主に分泌ができなくなるもの。(一部~全部)

・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)

・甲状腺刺激ホルモン(TSH)

・成長ホルモン(GH)

・性ホルモン(LH、FSH)

3人とも大部分のホルモンが機能不全になった。

私は「性ホルモン」の補充はしなかったが、不妊治療のために補充を受けていたノエルさんの精神状態は悪かった。
 
人間から「性ホルモン」がシャットアウトされると何が起こるか?
エロスの部分がなくなるのだ。(…私の場合だが)
 
「一目惚れ」というのはエロスだと(科学的に)解明されているそうだ。
その動物的なエロスがそぎ落とされた場合、愛だと思っていた感情は残るのだろうか。
 
つまり自分が愛だと思っていたものは、ただの「動物としての好き」だったのか?
そこが試されるのだ。(…私の場合)
 
 
結果、私は「仙人」になり、全く恋愛に興味がなくなった。(100%エロスだったようだ)
「性ホルモン」が出なくなってから、ずっと無味乾燥な世界が広がっている。(ドキドキがなくなる)
動物としての「好み」が消えて、人間として「好きか、嫌いか」で人と付き合うようになった。(はずである)

当時のメールは残っていないし、正確に記憶している訳ではないのだが、以下のような雰囲気だった。(誇張もあり)

 

ノエル
『視力低下のせいで妻とギクシャクしている。
アイコンタクトが出来なくなったからかな?
寒い、寒い、体温が35度までしか上がらない。
T4(甲状腺)が異常に低いのに主治医はその数値で良しとしている。
この病気、クソだぜ!!!』
 
 
ラッキー
『良性腫瘍という事で、ちゃっちゃと手術して、釣りにでもいこうと思っていたら~~
なんと!まさかの悪性診断!
ワーイゞ( ̄∇ ̄;) ワーイ 宝くじ並みの確率でした~~
んで、化学治療開始の前に悪あがきで難病治療の「玉川温泉」行ってみた~
強力酸性泉で肌がイタイイタイ~~』
 
 
のり丸
『セカンドオピニオンで、東京の虎の門病院に今月の18日に行くことになりました。
他に病院情報をご存知でしたら、教えていただけないでしょうか?
T4の数値は具体的に現在どのぐらいですか?
できれば、ACTHの数値も教えていただけたら、と思います。』
 
 
虎の門病院で診察待ちの時に「ノエル」に声を掛けられる。
 
「のり丸…さん、ですよね?」
 (えぇ?誰?見たことのない人だが?)
 
「ノエルです(笑)、すぐピンときたわ、のり丸さんかなぁって。メールの雰囲気からブレないわ」
 (直観?メールの雰囲気って?…普通、あり得ないだろう。)
 
「いや、だって今日受診するってメールに書いていたし、覗いたらいるかな、と思って。
あ、俺は『ラッキー』の見舞いに来たんですよ。ラッキーはここに入院しているんです」
 
そんな感じの出会いだったけど、ふたりとも現実では(私より)はるかに状態が悪かった。
私は「悪性」にならなかったが、ふたりの腫瘍は「悪性」になっており深刻な状態だった。
 
 
ふたりは本当に働けない状態だった。
私は現実を受け入れる覚悟がなく、ただ自分に「言い訳」をしているだけだった。
だるいだるい、と愚痴をいいながらも、私は働ける。
だから、私にはまだ「することがある」かもしれないと思ったのだ。
 
 
私はまた挑戦することにした。