哲也は、正直な生き方をしてはいなかった。
でも、正直な生き方をしていきたいと心のどこかで思っていた。
都会での生活には、いつも香織の面影を追い求めていた。
それは、自分で作り出してしまった、苦悩の日々である。
哲也は、結婚という形で、少しずつその苦しみから逃れていった。
妻は、哲也の苦しみを知り、その苦しみを少しずつ安らかにしていった。
それは、いつかもしかしたら、
離婚ということになることも考えていたのだろう。
そう考えることで、その思いを、妻自身の不安、苦しみとして、
哲也の思いを背負っていたのかもしれない。
いつも都会の空を見上げる、哲也と妻のかおりがいた。
妻のかおりは日に日に強くなっていく。
哲也にとっても、幸せな生活をおくることになる。
妻は晴れた日には、青い空だねと言っているが、
哲也には都会の空は灰色にしか見えなかった。
確かに、青い空、白い雲がゆっくりと動いていく。
しかし、空と雲は決して混ざりあうことは、
哲也には思えなかった。
時には、
都会を離れ、家族で、空気の澄んだ場所へ旅行する事もあった。
青と白が、はっきりと分かれている空を哲也は見上げると、
香織の事を思い出す。
香織に婚約者ができた頃、
なぜ、哲也と一緒に暮らそうとしたのだろうか。
すれ違う数ヶ月の生活の中で、何を考えていたのだろうか。
哲也は婚約者の彼と二人で会っていた。
彼女は、空を見上げるのが好きで、
雨の日を嫌がり、睡眠薬で、自殺未遂を繰り返していたという。
彼は、香織の全てを受け入れたいと思い、プロポーズをした。
そして、香織の全ての要求を結婚式までに、はたさせたいというのだ。
「香織の心を満たすのは君だったんだ」
彼は哲也に言った。
香織は、満たされぬ日々、
満たされぬ心をたった一人で苦しんでいたのだと思った。
婚約者の彼の職業は、精神科医であった。
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