チューリップス・シスター第4話 姉妹の誕生日祝い
施設で美咲の為だけに与えられた部屋に入り、まるで隔離室に自らを閉じ込めたようでもあり、精神科医の叔父が週に1回精神療法で約15分程に時間を叔父と美咲は過ごした。
徐々に精神療法によって、神父や修道院施設の職員との距離は近づいていくように見えたが、挨拶だけの距離でしかなかった。
真理は内科医の叔父夫婦に預けられ、愛情に恵まれた生活を送っていたが、時には気分がすぐれないような様子を見せていた。
しかし気分がすぐれないのではなく、美咲との交信によって、真理は集中して美咲が描く絵を見ているのだろう。
それに気付いたのは、神父ではなく精神科医の叔父で確認後、しばらくして神父にはあとで伝えられていた。
当初の神父は半信半疑だった光景が、精神科医から伝えられた神父は心に見えた光景が間違ってはいないと思った。
神父が心の中で見えた光景とは、真理は水平線の見える海、美咲は森の中にある湖、そして海と湖は見えない地下深くの水脈で繋がっていて、真理は自由に海原を飛び回り、美咲は静かな森の中で何かを待っているという現実である。
この光景は精霊からの伝心であり、神父の心の中では精霊の言霊であると信じるようになる。
真理と美咲は、教会での行動から、神父の提案によって、全く別々の人生を送る事になった。
神父が心の中での光景を信じる事になると、その後唯一、姉妹として会えるのは6月29日の誕生日だけである。
神父は、心の中で囁く言霊の指示に従い、内科医と精神科医の叔父夫婦に話し了解を得た。
この頃、叔父夫婦は、神父が話す事を信じるようにしていた。
内科医の叔父夫婦の自宅に神父は美咲を連れて行き、叔父夫婦を含め5人での誕生日のお祝いだった。
自宅から離れようとしなかった美咲は施設の部屋の中に閉じこもっていたが、美咲自身への唯一の信頼できると思い感じ、神父のいう言葉を聞くようになっていた。
美咲は、何も言わず黙ってスケッチブックを与えてくれる神父を信頼をするようになったのだろう。
施設での美咲は、毎日のようにスケッチブックを大切にして、絵を心の中で描いていた。
しかし、神父との信頼関係はあったが、全く表情が変わる事はなかった。
3才になる、6月29日の誕生日の出来事である。
叔父夫婦は、二人に同じプレゼントを贈るが、真理は手を出してくるが、美咲は手を出す事はない。
「お誕生日おめでとう」
神父は、真理と美咲に声をかけながらケーキには1本のロウソクを立てた。
いくらか、嬉しそうな表情を浮かべながら、真理と美咲は、ローソクを見つめていた。
真理は、もらったプレゼントを開けはじめるが、美咲は、ローソクの炎をじっと見つめていた。
1本のロウソクは、2人がいつまでも双子の姉妹ある事を示していた。
そして、神父は、真理と美咲を見て、ある事に気がついた。
美咲が、炎を見つめている時、その瞳には、炎ではなく、別なものが映し出されていた。
この気づきが、神父に囁く言霊の囁きからの答えである事を、神父は知った。
神父には、ある能力があったが、美咲にも、同じ能力が備わっているのではないかと思いはじめる。
もし、美咲にも、ある能力があるとするなら、美咲自信で気づくよう導かなければならない。
神父としての役目であった。
神父は、数多くの未知の力が、この世に存在していることを知っている。
真理は、ローソクよりも、プレゼントの方が気になっているようだった。
真理には、美咲のように、瞳に映るものは、そのプレゼントであった。
神父は、美咲だけかと思っていたが、双子なのに「なぜ?」という思いがあった。
一卵性の双子であれば、同じ素質などが備わっているはずなのに、真理は、そのような姿を見せてはいない。
また1年後に、確認する事を神父は考えていた。
真理と美咲は、2人でその1本のロウソクの火を吹き消すと顔を寄せ合い、目と目を合わせ微笑をみせている。
会話ははずんでいるようだが、真理は笑顔で笑い飛ばす。
その姿を見る美咲は微笑を浮かべるだけで会話する事はなかった。
美咲が、表情を変える時は、この6月29日の誕生日だけであるが、美咲も喜んでいたのだろうか。
感情を表に出さない美咲を内科医の叔父夫婦は気にしていた。
この頃の美咲は、この微笑が精一杯の喜びの表現だったのかもしれない。
こんな誕生会が4回続いたが、真理は、美咲と同じ素質を見せる事はなかった。
真理と美咲の輝きに満ちた憂いさ、喜びに、神父や叔父夫婦は心が潤される思いだった。
時は過ぎのは早く、真理と美咲は7才になったが、小さなマリア像を持ち、真理は自ら色々な事を学んでいた。
神父は、真理は3才当時から「自覚」というものを持ち合わせていたように感じていた。
真理に自覚があれば、様々な環境の中で装う事も学習する事も出来ると、神父は思った。
美咲は、7才になっても変化はなく、施設にいても「友」と呼べる存在はないに等しかった。
まわりに他の子供達がいても、ひとり小さな声で、何かを囁き、目に見えているかのように風景の絵を描きはじめ、クレヨンは机の上そのままに。
これから先に、その絵がある出来事に重大な絵画となる。
美咲の絵は、現実にあるものを描いていた事に気づくのは、先の話になる。
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