黒沢永紀オフィシャルブログ(旧・廃墟徒然草)

産業遺産と建築、廃墟、時空旅行、都市のほころびや不思議な景観、ノスタルジックな街角など、歴史的“感考”地を読み解く

高橋春人『たのむぞ石炭』ポスター

2017-07-05 12:29:13 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
2017年の春に九段の昭和館で行われた、
『ポスターに描かれた昭和 高橋春人の世界』展
(この記事の投稿時点では既に終了しています)
で展示されたポスターに感動。

高橋春人『たのむぞ石炭』
高橋春人『たのむぞ石炭』

実は、展示は実際に見ていませんが、
路面の案内板に掲示されていたポスターに目が釘付けです。

シンプルなコピーとイラストで構成されたポスターは、
戦中から戦後にかかて、
公共広告を数多く手がけた高橋春人の作品。

インパクト強すぎのリード、
「たのむぞ」だけを赤の太明朝にし、
「石炭」を裾広がりのゴシックでまとめた、
フォント処理の素晴らしさ!
そして、必要な部分だけを的確に抽出したイラスト。
色、バランス、配置、全てが一体となって、
素晴らしい作品に仕上がっていると思います。

当時石炭がいかに重要だったかを、
ひしひしと感じます。

ところで、この片手を口元に当てて、
口を大きく開けるポーズを見て、
あるポスターを思い出しました。





ロトチェンコ『あらゆる知についての書籍』
ロトチェンコ『あらゆる知についての書籍』

画像は、ロシアのデザイナー、ロトチェンコの、
『あらゆる知についての書籍』と題された1924年のポスター。
叫んでいる口から吹き出しているのは、
「本」という意味のロシア語です。

ロトチェンコは、
ロシアアバンギャルドと呼ばれる芸術運動に所属し、
絵画、写真、建築など、多くの媒体を通して作品を残した作家。
特に20年代には、詩人マヤコフスキーのコピーとともに、
数多くのプロパガンダポスターを制作しています。

口元に片手をあて、口を大きく開けて叫ぶポーズは、
まさにたのむぞ石炭の兵士のポース。
高橋春人が、このポスターを見ていたことは明らかですね。

ポスターとしての完成度は、
明らかにロトチェンコに軍配。
しかし、横顔だった構図をほぼ正面の構図にし、
ロトチェンコのご機嫌な眼差しを、
切迫感ある眼差しに変更するなど、
単なるパクリを越える工夫を凝らして、
ロトチェンコより訴求力を高めているのは素晴らしいと思います。

「本ー!」と叫ばれてもピンときませんが、
高橋のポスターは、
「よっしゃ、任せてくれ!」と返したくなります。

neonさん作『志免炭鉱竪坑櫓』

2013-12-30 11:55:32 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
以前の記事で、
N的画譚』のneonさんこと大倉ひとみさんの個展で、
拙ブログにアップした志免炭鉱竪坑櫓を題材に、
作品にして頂いたものが展示されるとお伝えしましたが、
実はその時に、作品を頂いていました。
もう昨年のことですが、ありがとうございました。



大倉さんは、下町のトタンで出来た工場街などを、
独特な線と色で表現するのが得意な方で、
志免の竪坑櫓のような巨大コンクリート建築を題材にされるのは、
あまり拝見したことがありません。

志免の竪坑櫓は、
一般的には壮大で壮麗な巨大珍建造物として捉えられますが、
大倉さんの作品になった竪坑櫓は、そういった印象ではなく、
どこかノスタルジックで何時か見た夢の中の光景、
のような印象で、
大倉さんらしいテイストでしっかり仕上がっていて感動です。

大倉さんは定期的に個展を開催されています。
ご興味のある方は是非脚を運ばれることをお勧めします。
個展情報などは上記『N的画譚』のリンク先でご覧になれます。

『町工場ジンタ』展開催

2012-09-25 19:28:19 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
拙ブログによくコメントを頂き、
その縁でブログのみでおつきあいさせて頂いている、
N的画譚』のneonさんこと大倉ひとみさんの個展
『町工場ジンタ』展が開催されます。


画像はクリックすると拡大します

町工場に限らず、
商店街や映画館などを題材に描かれた絵には、
懐かしい下町のぬくもりと、
まだ見ぬ未来の記憶が同居しています。

拙ブログにアップした志免炭鉱の竪坑櫓も題材して頂きました。

お時間のある方は是非ご覧下さい!



大倉ひとみ個展【町工場ジンタ】

会場:ギャラリー ツープラス
期日:10月5日(金)~17日(水) ※11日(木)休廊
時間:12:00~19:00 最終日 16:00まで
住所:東京都中央区銀座1-14-15-2F/3F 〒104-0061
電話:03-3538-3322
詳しくはこちら


記憶屋「廃墟」ドイテフ氏の個展開催中!

2012-06-17 01:15:34 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像

画像はクリックで拡大します

iOSアプリ『廃墟百花』ほか、
イベント等でもおせわになっている、
廃墟サイト『記憶屋「廃墟」』管理人のドイテフ氏による個展が、
神戸で開催されています。

常に廃墟の新しい表現を探求し続けるドイテフ氏の初個展!
みなさん、是非行きましょー!

~ドイテフ氏の口上より~
「廃墟探索というグレーな趣味を安全な趣味に変えていくか。
自分のサイトの影響で不法侵入者が生まれてしまった事実。
自分の中でジレンマになりました。
と同時に個々人が「探索に行って写真を撮るだけ」で終わってしまう、
広がりのない趣味に成り下がり、
サブカルチャーともいえない代物にもなってしまいました。

70年代80年代の廃墟カルチャーは、
演劇・舞台・文学と物語の背景としてなっていました。
しかしいまは写真ありき。
これではカルチャーとしても不法侵入者を増やすだけでダメだ。
ということで「家でも楽しめる廃墟」のコンセプトの元に
廃墟・産業遺産・重要文化財の擬人化にたどり着く。」



会期中、ドイテフ氏監修の
「写真では感じられない臭いを、飲むことで味覚と嗅覚で感じられる」
『廃墟のカビ』カクテルを販売。
匂いに挑戦ー!いいですね~!

◆イベント詳細◆

『廃墟×ポートレート×擬人化』

◆日時:2012年06月13日(水)-25日(月)11:00-20:00
◆定休日:火曜日
◆場所:Gallery「1」
    兵庫県神戸市中央区海岸通9 チャータードビル2F/3F
    TEL:078-392-2880

>>> 詳細はこちら

マニアパレル『暗渠T』復刻

2011-09-14 14:04:47 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
マニアパレル『暗渠T』復刻!

マニアパレル『暗渠T』

以前、軍艦島Tシャツの制作でもお世話になった、
ニッチでマニアックなTシャツで知られるマニアパレルさんが、
『暗渠T』を復刻発売してます。

ひたすらクリーン化しようとする東京に残る、
数少ない都市の記憶、暗渠。

この機会に是非どうぞ~!

詳しくはこちら→ マニアパレル公式ブログ/『暗渠T』ページ


沖縄 #06:斎場御嶽

2010-06-12 04:40:39 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
シリーズでアップしている沖縄。
今回は、中城城跡の記事でも少し触れた御嶽です。
御嶽へ行くのは今回が初めてなので、
最も名のある斎場御嶽(せーふぁうたき)を訪れてみました。
Mapion
御嶽は南西諸島に分布する聖地の総称、
その中で琉球王国最高の御嶽が、この斎場御嶽です。



いきなり崩れかけの石の塊ですが、これは
御門口(うじょうぐち)と呼ばれる斎場御嶽の入口にある香炉で、
王朝の時代には、一般人はもちろん
全ての男子が中へ入る事ができず、
国王ですら着物を女性前にして入ったそうです。



御門口から続く御嶽への道は、
周囲を鬱蒼とした緑が包み、
徐々に聖域へ入る心の準備をさせるかのようです。





しばらく坂道を登ると左手に見えるのが、
大庫理(うふぐーい)と呼ばれる拝所です。
大庫理とは大広間とった意味だそうですが、
中央には石を敷き詰めた祈りのスペースが造られている以外、
特になにもありませんが、
岩と植物が造る自然の拝所は、
最も御嶽を特徴ずける形だと思います。



大庫理を離れてしばらく進むと小さな沼があります。
これは御嶽とはまったく関係なく、
戦中の艦砲射撃による砲弾で出来た穴が、
沼になったものだそうですが、
聖地の攻撃による戦意喪失を意図したものだったんでしょうか。
説明板には「水中には様々な生物が棲息しています」
と、意味深げな事がかいてありましたが、
果たしてそれが何を意味しているのかはわかりませんでした。
ただ、妙に気になる沼です。



特に拝所に限らず、斎場御嶽の中は、
全ての場所が富士山の樹海にも通じる神聖さをたたえています。
拝所は本来は特に意味のある場所なんでしょうが、
素人にはその差はあまりわからず、
このエリア一帯全てがパワースポットで、
どこで拝んでも同じ様に感じられます。



森が特に深くなった先には、
寄満(ゆいんち)と呼ばれる拝所があります。
対象物がないので大きさがつかめないかと思いますが、
画像中央下部の窪んだスペースが、
人が入って祈りを捧げられる位の大きさです。
王朝の時代とは植物の形も随分と変わっているのでしょうが、
植物と岩石の作り出す光景は、
異世界へ入り込んだ錯覚を覚えます。



8m位の高さから岩肌をつたって延びる木の根。
斎場御嶽は世界遺産にも認定され、
多くの観光客が訪れる場所ですが、
多くの御嶽は、今でもその土地のごく一部の人しか知らず、
外部の人間には一切公表されていないと聞きます。



寄満の次は、斎場御嶽でも最も知名度の高い拝所、
三庫理(さんぐーい)です。
この日三庫理を訪れると、
数名の女性が岩に向かって祈りを捧げていました。
中央の女性がのりとを唱え、それ以外の女性は、
ただ椅子に座って拝んでいるだけです。
さらにその後方にはもう一人若い女性が座っています。



三庫理の中でも最も崇高な、久高遥拝所。
上画像の女性たちはその後、岩の間を通って久高遥拝所に入り、
再び祈りを捧げ始めました。
祈りの前には供物を捧げるようですが、
赤い服を来た女性は、供物の準備を手伝い、
それが終わるとここでも他の女性と距離をおいて座っていました。
いわゆる「見習い」ということなのでしょうか。



かつて画像でしか見た事がなかった三庫理。
2つの岩が支え合う三角の通り道は、
想像していたより大きなものでした。





久高遥拝所から見える久高島。
久高島は以前の記事でも触れた様に、
琉球の始まりとされる島。
このロケーションがもし自然に造られたモノだとしたら、
確かにここは琉球にとって特別な意味を持つ場所だ
と考えられたとしてもおかしくはありません。



隣接する知念岬から眺める久高島。
次回沖縄へ行ったら、是非久高島へ行ってみたいと思います。



ド派手な色使いと構図で昭和を駆け抜けた画家岡本太郎が、
縄文に魅せられて日本文化に目覚め、
最後に行き着いた場所が、
なにもない御嶽だったと言われています。
なにもないからこそ、
あらゆるもを作り出せる可能性のある場所、
と感じたのかもしれないと思いました。

◆ シリーズ 沖縄 ◆
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風間健介新作展

2008-06-10 04:01:55 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
新宿の三井ギャラリー東京で開催されている風間健介新作展へ行きました。
写真集『夕張』で数々の写真賞を受賞し、長年の北海道での活動に終止符を打った後、
東京へ出て来てからのおそらく最初の大きな新作展だと思います。
(以前吉祥寺で井の頭公園の新作展をちょこっとやっていましたが)



北海道での炭鉱写真で知られる風間氏ですが、
以前から「僕は炭鉱写真家ではない」と聞いていた様に、
今回展示されていた作品は全く炭鉱の「た」の字も無いものばかり。

多重露出で造り上げた桜、
スローシャッターで撮影された水槽の金魚、
「東京うらがえし」というシリーズの裏焼きしたカラー写真など、
風間氏の意欲が感じられる作品群でした。



東京うらがえしは基本的な撮影方法を使いながらも、
その場所を知っている人間には
ちょっと頭の中をかき回される気持ちいい作品。







東京うらがえしはモノクロ作品も展示されていましたが、
こちらはかつての風間氏のモノクロ写真に通じるテイストで、
安心して見ていられる作品です。







「AGE」と表題が付けられた作品は、「エイジ」ではなく油揚げの「揚げ」。
油揚げを大判のフィルムサイズに整えてダイレクトに焼き込んだ、
今回のラインナップでは一番完成度が高い意欲作。

なべて意欲が先行しがちな印象を受ける仕上がりなものの、
今後面白い展開が期待出来る作品群でした。

会期は水曜日 [6/11] まで。


LOST

2007-12-27 01:51:56 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像


アメリカの連続ドラマ『LOST』のサードシーズンが販売・レンタル開始されました。
当初、キャスト・アウェイのような内容を想像したものの、
観進むうちに全然違うことに気がつきます。
すでにサードシーズンに入りながら、
物語は大きな意味で、いっこうに進んでいません。
もちろん飛行機が墜落してから70日近く経っていて、
その間のストーリー進行もあるのですが、
いわゆる起承転結からすると、まだ起の部分だと思います。

ミステリー・アドベンチャー映画を見る時いつも思うのは、
極力見せずに想像力をかき立てる前半に興奮するものの、
陳腐な実像が出てくる後半になると、たいがいさめてしまいまうことです。
その点このドラマは想像力をかき立てられる前半部分だけなので、
飽きこそすれ、いっこうに褪めません。

そして大きなストーリーが全然進まない中、
一体何がドラマとして展開しているかというと、
島の中でのサバイバル生活にだぶらせた、
人生の様々な局面にどう対処するかという話。
もはやこの物語は無人島でのサバイバルストーリーではなく、
ドラマ人間模様。

廃墟然とした地下施設や草茂るセスナ、廃動物園らしき施設と、
視覚的に楽しめる部分も満載。

このぐらいくるドラマを、
日本のドラマでも見てみたいと思います。


グレゴリー・コルベール "ashes and snow" 展

2007-07-23 03:20:54 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
既に会期も終わってしまった、
グレゴリー・コルベール (Gregory Colbert) の "Ashes and Snow" 展。
でも久しぶりに観た、打ちのめされるエキシビションだったので、
アップしておこうと思います。



会場はお台場のノマディック美術館。
美術館といっても、この美術館は恒久的なものではなく、
"Ashes and Snow" 展のためにそのつど特設される、
世界を永久に巡回し続ける美術館だそうです。

訪れたのが夜なので、美術館の外観がよくみえませんが、
実際は大量の船積みコンテナが外壁に使用されています。
美術館の外観はwikiのページで、サンタモニカのものが観れます。
このコンテナ、実はそれぞれの都市で調達されるようなので、
お台場で使用されていたのはおそらく以前の記事でアップした、
コンテナグランド展と同じモノだと思います。





館内へ入ると、神殿のように鉄の列柱が並ぶ、
巨大な空間に驚かされます。
柱の間に吊るされた巨大プリントにだけ照明が当たり、
それ以外の館内は極力灯りがおさえられているので、
まるで神殿の中にAshes and Snowのイメージだけが、
浮遊しているような錯覚すら覚えます。





「かつて人間が動物と平和に共存していた頃の、共通の土台を再発見すること」
をコンセプトに作られたイメージの数々は、
「始めも終わりもなければ、こちらとあちらという観念もなく、
過去も現在も存在していません」と本人が語る様に、
まさに<未来の記憶>。





何十枚と吊るされた等身大のスチールイメージと、
何カ所かで上映されている映像イメージをみているうちに、
実は超未来が、DNAに眠る超古代の記憶と、
まったく同じものなんではないかと思えて来ます。





訪れたのは、プレレセプションの3/10。
会場の至る所に、球体の花瓶に生けられたカラーが置かれ、
また壁面の至る所に蝋燭が置かれていて、
さらに幻想性を高めていました。
またサーブされる軽食やワインも、素晴らしく美味しく、
ロレックス インスティテュートの底力を痛感した一夜でした。

そして、各地の美術館が、
所蔵作品の何十倍もの金額で建設され、
何倍もの年間メンテナンス費がかかるという、
美術文化発展途上国の日本に一番必要な沢山の答えが、
提示されていた様にも思います。


ビッグサイトの夕暮れ

2006-05-23 00:36:07 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像

 
お台場ビッグサイトのデザインフェスタでの出展が、
無事終了しました!

DVDやポスカを購入して頂いた方々、
そしてブースをご覧になって頂いた方々、
本当にありがとうございました m(_ _)m
今回は大音量のDJイベントブースのすぐ近くだったため、
モニターをゆっくり試聴できない環境だったのが、
残念でした。

また今回出品した、
鉄道廃墟をまとめた新作『トワイライト(パイロット版)』を、
オープロジェクトのサイトにて御購入できるようにしました。

当初両日とも雨の予報でしたが、
結局土曜に夕立があっただけで、
会場は蒸し暑くはあっても、気持ちのいい2日間でした。
画像は土曜の夕立の後のビッグサイトです。
とても空気が澄み渡っていました。 
 


ブルー

2006-05-14 07:30:37 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像


今週ずっとアップしてきたブルーシリーズ。
最後の今日は映画の『ブルー』につて。

映画『ブルー』は、
今は亡きイギリスの監督、
デレク・ジャーマンの最後の作品ですが(だったと思います)、
全編ブルー一色だけが延々と流れる中、
エイズで余命幾ばくもない監督本人とその仲間の会話や、
モノローグをだけを編集した、超異色の作品です。

映像がない分、全編にちりばめられた音楽の割合が大きく、
監督の中期以降の作品のサントラをずっと手掛けた、
サイモン・フィッシャー・ターナーの、
重く切ない曲や効果音が最後までひっぱてくれます。

それにしても、廃墟感が多いイギリスの映画の中でも、
この人の作品はどれもこれも、
けっして廃墟はでてきませんが、
それ以上に群を抜いて廃墟感全開の作品ばかりです。
 


廃墟を感じた音 #03

2006-03-16 07:13:27 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
廃墟を感じた音楽として前回までアップしたものは、
一部の人にはよく知られた作品でしたが、
あまり一般的ではなかったので、
今回はもっと一般的な作品を、と思いました。

Prince : 1999
プリンス:1999



70年代後半にデビューし、
80年代にはその高い音楽性と変態的言動で、
マイケル・ジャクソンと人気を二分した、
アメリカのブラック・ポップ・スター、プリンスですが、
その名を世界に知らしめたアルバム
『1999』に収録されている
'Something in the water (does not compute)'
は、知名度が低い曲ながら、
限りなく廃墟感を感じます。

歌詞は自分をノケものにする彼等は、
きっと飲んでる水道の水に何かが混入されているからだ
というきわめて偏執狂的な内容ですが、
それはさておき、
イントロからほぼ最後まで暴力的に鳴る、
奇妙な(でも心地よい)エフェクトのかかったマシーン・ドラムの奥に、
限りなく美しく切ないシンセ・サウンドが見え隠れしながら、
プリンスのつぶやきと雄叫びが絡んで、
最後の最後に穏やかなシンセコードで終わる曲です。

表面的には奇怪で限りなく壊れていながら、
その裏側に柔らかく甘い憂鬱な感じがあるところが、
強烈に廃墟を連想します。

ところでプリンスの曲には他にもいくつか廃墟を感じる音が有ります。
CONTROVERCY』に納められた'Ronnie talk to Russia'、
SIGN OF THE TIMES』に納められた'Ballad of Dorothy parker'
などなど。
ブラック・ミュージックに廃墟感を感じることはめったにないので、
ちょっと不思議です。

ただ前回まで取り上げたTGノイバウテンは、
おそらく誰もが廃墟を連想されるでしょうが、
プリンスの場合は人それぞれかもしれませんね。
 


廃墟を感じた音 #02

2006-02-19 03:53:49 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
70年代後半から80年代中盤の頃は、
廃墟感溢れる音楽が沢山リリースされていたような気がします。
このグループなんかは自らが主宰するレーベル名を、
インダストリアル・レーベルと付けていたくらいですから。

'Throbbing Gristle : 20 Jazz Funk Greats'
スロッビング・グリッスル:20ジャズ・ファンク・グレイツ



イギリスの音楽といえばリバプールやロンドンが有名ですが、
このグループの本拠地はそれより遙か北にある、
シェフィールドという工業都市です。
Throbbing Gristle-躍動する軟骨→あばれまわる男性性器>
という名前を付けたこのグループの音は、
今ではわりとすんなり聴ける音かもしれませんが、
当時は全編にわたって音を覆いつくす、
限りなく寒くザラついたノイズに喜んだのを思い出します。

おぼろげな記憶では当初上のジャケットで発売されたはずです。
尤もこのジャケットの実物は後にも先にも一回目にしただけで、
手元にもないので、
これは現在手に入るCDの裏ジャケからのものですが。
最初に日本に入ってきたときは、
修正が加えられたカラー版のジャケットでした。



これはこれで内容を全く無視した、
のんきなグループサウンズ風なのが笑わせてくれますが、
この撮影場所が「ビーチーヘッド」という、
イギリスでは有名な自殺の名所だと聞くと、
本国ではのんきだけでは見られないのかもしれません。

そんなのんきな人達の中に、
一人だけ場違いな空気をかもしだしているのが、
左から2番目に写るこのグループのリーダー、
ジェネシス・P・オリッジです。
一見女性にも見えますが男性です。
この人は不思議な人で、
写真に写ると凄く女性的にみえますが、
実際に見ると全然そうみえません。

そういった自分の特性を知ってかどうかはわかりませんが、
この人がライフ・ワーク的に展開している
アートパフォーマンスにはとにかく驚かされます。
少しずつ整形を重ねて、
現在の奥さんであるレイディ・Jの容姿に近づくというものらしく、
同時にこの奥さんも少しずつ整形を重ねて本人に近づく、
つまりお互いがお互いに近づいて、
最終的には男女の特徴的なものを全部もった、
同じ外見の2人のジェンダーが出来上がる。
という構想らしいです。
ちなみに豊胸手術は既に終わっているそうです。

80年代中頃の初来日の時、
オールスタンディングの会場で一緒に踊ったジェネシス・P・オリッジは、
限りなく体臭がきつく歯がボロボロの、
あきらかにヤバいおじさんでした。
 


廃墟を感じた音 #01

2006-01-03 07:45:18 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像
そういえば音楽に関して殆どアップしていない事に気が付いたので、
時々アップしていこうと思います。

といってもこのblogなので、
廃墟を感じる音に関してです。

'einsturzende neubauten : 1/2 menche'
アインシュツルツェンデ・ノイバウテン:ハーバ・メンシェ



「崩れかけの新建築」とい名前のこのグループの音楽を聴いたとき、
まだベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツは、
なんて殺風景でいいところなんだろうと憧れたものです。
デビュー当時のインタビューに登場する彼の部屋には焼け跡があり、
インタビュアーの質問に、
「前の彼女が放火した」と答える、
メイン・ボーカリスト-ブリクサ・バーゲルト率いる、
生体廃墟楽団が紡ぎ出す音は、
コンクリの塊のように内蔵の奥までずっしりと響いて来ました。
けっこう来日していますが、
2回目に来日した時のライブは、
今はなき浅草の常磐座という、
当時既に廃墟だった映画館で行われました。
埃と黴の臭いが充満する会場を振動させる、
極太なバネや、錆びた鉄板で造られたオリジナルの楽器が奏でる音は、
鼓膜が破れるかと思うほどの轟音で、
2、3日耳が使い物にならなかったのを憶えています。
80年代前半のことでした。


岡本太郎

2006-01-02 07:47:58 | コラム:アート・デザイン・音楽・映像


今年は戌年なので、犬の画像はないかと探したら、
こんな画像がありました。
太陽の塔のミニチュア模型とたまごっちの黒柴です。

残念ながらこの模型は川崎の岡本太郎美術館で購入したもので、
EXPO'70当時のものではありません。
もう何処へ行ったかわからない
大阪万博の時に購入した太陽の塔がシルバーだったので、
シルバーの塔に思い出があります。
(当時白も在ったのかも知れませんが、
購入したときは売っていませんでした)

以前に太陽の塔はアップしましたが、
そういえばその時は岡本太郎に関してなにも書かなかったと思い、
この機会に少し書こうと思いました。

「芸術は爆発だっ!」の名言で有名な岡本太郎は、
にくみきれない赤ん坊のような人だったと思います。
20年代にパリに渡り、シュールとかしっかり勉強しますが、
やがて人類学者のマルセル・モースと出会い、
民俗学から日本文化へと傾倒していきます。

戦後、日本再発見の旅に出た岡本太郎が行き着いたのは、
沖縄の<御嶽(うたき)>でした。
<うたき>は沖縄にある神の降りる場所ですが、
たぶんここでパックリいってしまったのでしょう。
でなかったら、太陽の塔なんて、
ベラボーなパビリオンは思い浮かばなかったと思います。

奇妙でありながら、なぜか懐かしさを感じる太陽の塔。
いまだに欧米追従の色が濃い日本の美術から、
岡本太郎が本当に認められるのは、
まだまだ先のことなのかもしれません。