東京から母がやって来た。
娘の結婚式に出席し、
そのまま、私の家にいる事になった。
「歯の治療をしましょう」
そう言ったら、しばらく私の家にいる事を納得したように見えた。
夕方になると母の脳は混乱する。
夕食の支度をしている私にいろいろと話しかけるけれど、
私を誰かと勘違いしているらしい。
しばらく話を合わせていたけれど、つい悲しくなって
涙がこぼれそうになる。
分かっているのだけど、他人と自分の親とは
こうも違うのだと、思い知らされることばかりだ。
「私、明日ちょっと帰ってこようと思うんだけど」と母。
母は今でも東京の家に帰りたいし、
ここを東京と思いこんでいる時もある。
懐かしの東京、
母にとっては故郷のような町なのだろう。
王子駅へととづく道にいつも気になるマンションがある。
其々の部屋のベランダに木が植えてある。
見上げると涼しい風が通り抜けるような気がした。