COVID-19克服の切札(?)としてワクチンが切望されている中で、ヒト免疫学(human immunology)の重要性が改めて注目されています。本reviewはStanford大学のBali PulendranとMark M. Davisによるhuman (clinical) immunologyについての非常に興味深く情報が多いreview articleです。
動物モデル、中でもマウスモデルが免疫学において果たしてきた役割は極めて大です。しかしいろいろな面でマウス免疫学はヒトの免疫学とは似て非なるものであることも分かっています。何よりもマウスを用いた研究の多くは、遺伝的に均一なstrainを用いて行われており、極めて遺伝的多様性に富むヒトとは異なります。またほとんどの研究にはspecific pathogen-free(SPF)マウスが用いられるために、常に多くのpathogenにさらされているヒトとは免疫学的な環境が異なります。動物とヒトにおける免疫反応乖離の実例として、動物実験では全く副作用が見られなかった抗CD28抗体theralizumabの臨床試験における壊滅的な有害事象の発生は記憶に新しいところです。
ヒトの多様性はヒト免疫学研究を困難にしている点でもありますが、近年のomics technologyやsingle cell解析などの新たなアプローチの応用は、このような困難さを克服する大きな助けになっています。様々な自己免疫疾患の病態メカニズムのみならず、ワクチンについても、例えばインフルエンザワクチン投与の3-7日後のTLR5発現と1カ月後の抗体反応とが強い相関を有するなどの結果がomicsのアプローチから得られています。
このような研究手法の変化は、研究性質自体を変化させています(著者らはcultural challangesと呼んでいます)。一人の研究者や一つのラボでは研究のすべての過程をカバーすることが困難になり、分野を超えての共同研究が必須になっています。一つの論文に数十人のオーサーが名を連ねる、といったことも珍しくありません。しかしこのような中でも、”scientific discovery has always been, and will continue to be, driven by the creativity and conceptual ideas of individual scientists.(科学発見は個々の科学者の創造性や概念的発想が、これまでも、これからも重要である)”としめくくっています。
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