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人生100年時代――。90、100歳まで健康寿命を維持して過ごせるかは、70歳の迎え方にあるという。70歳前後は、脳の前頭葉の老化、男性ホルモンの減少、セロトニンの減少が一度に襲い、急激に「意欲の低下」が訪れる。新刊「70歳が老化の分かれ道」(詩想社新書)の著者で、精神科医の和田秀樹氏にこの時期の過ごし方を聞いた。
◇ ◇ ◇
団塊世代もみな70代に突入した。超高齢社会で、70歳近くまで会社員生活を続け、90代の親の介護をしたりするケースが増えた。まだまだ活動期だが、70歳前後の迎え方によってその後の“老いの速さ”や“寿命”に関わってくるという。ちなみに現在、全国の健康寿命は男性が72歳、女性は75歳だ。
「定年退職後、ガクッと年を取るといわれますが、急に歩けなくなったり、認知症になるわけではありません。知能テストで点数が目に見えて落ちてくるのは80代から。病気やケガをきっかけに老化が進むことはありますが、もっとも怖いのが『意欲の低下』です。前頭葉の機能の低下によるもので、早い人は50代から意欲の減退が始まって、70代で顕著になります。それによる不活発な生活が、運動機能や脳機能の低下を加速させます。定年し、子供も独立した65歳以降は、第三者に強制的に何かをやらされる機会もなくなって、急激に衰えるのです。とくにいま、コロナ禍の1年半で高齢者は、自粛生活を送ってきました。ワクチン接種後に外出し、『歩いてもすぐ疲れる』『階段が上れない』『趣味が面白くない』などと自覚する方が増えていると考えられています」
厚労省は昨年度から、75歳以上の人を対象に行う健診で「フレイル」の状態になっているかチェックしている。「フレイル」とは日本老年医学会が示した概念。介護が必要になる手前の段階で、だるさや疲れ、歩く速度が落ちたり、急激な体重減少によって日常生活を送るのに必要な体力が衰えてしまう。この状態を放置してしまえば、介護まっしぐらである。健診では、運動や食生活の習慣、物忘れの有無など15項目を尋ねて、早期発見や重症化予防を目指している。フレイルの原因となるのが、意欲の低下だ。自覚症状がないというが、サインは?
「意欲低下の指標は、知的好奇心に伴います。たとえば、①先月、本を何冊読んだか、思い返してください。映画でも構いません。40、50代の現役時代、そして数年前と比べて減っていませんか。②宅配ではなく、定期購読していた雑誌や新聞を買っていますか。③ワクチン接種後、旅行や外食はしたいですか。趣味を再開したいか。やりたいことがあるかも振り返ってください。また、体力面としては、④近所のスーパーに買い物に行って足取りが重かったり、疲れを感じるようになったら、進行している可能性があります」
ワクチン接種後はスポーツジムも再開(C)日刊ゲンダイ
運転に仕事…あらゆる引退をしないこと
それでは、若さを持続するにはどうしたらいいか。
今年70歳を迎える笑福亭鶴瓶は、テレビとラジオのレギュラー番組を6本抱える多忙ぶりだ。70歳を過ぎた吉永小百合は、今年公開の映画作品122本目にして初の医師役に挑戦と意欲も衰えない。
「あらゆる、引退をしないことです。たとえば、再雇用でもパートでも構いませんから、働くことをやめない。そして運転も70歳なら免許返納は逆効果です。2019年に筑波大学などの研究チームが公表した調査では、65歳以上の男女2800人(2006~07年時点で要介護認定を受けていなかった人)を追跡し、10年時点で運転をやめていた人は、運転を続けていた人に比べて16年には要介護になるリスクが2.09倍になっていました。運転をやめて、バスや自転車を利用した人の要介護リスクも、運転を続けた人に比べて1.69倍高かったのです。脳機能、運動機能の健診を受けた上ですが、70歳前後なら、運転をやめるリスクの方が高いのです。『肉食』もやめてはいけません。むしろ意識して取るくらいがちょうどいい。高齢になると野菜中心になりますが、70歳以上の日本人の5人に1人がタンパク質不足といわれています。意欲レベルの低下をもたらすのは、脳内の神経伝達物質セロトニンの減少も関係します。セロトニンは年齢とともに減少しますが、肉を食べることで対抗できます。セロトニンの材料となるアミノ酸『トリプトファン』が肉には多く含まれています」
肉にはコレステロールもたくさん含まれるが、適度に取って維持することは大事。男性ホルモンの原料になるためだ。男性ホルモンの中でも、テストステロンは「意欲」と関係していて、性欲に限らず、他者への関心や集中力をつかさどっている。
また、年を取ると血液の数値も気になりだすが、「健康診断は受けなくても問題ない」という。多額のお金をかけて隅々まで検査することで、意欲を低下させる可能性がある。
「日本の健診で示される判定は、健康と考えられる人の平均値を挟んで95%の人を正常とし、そこから高すぎたり、低すぎたりして外れた5%を異常とする統計的なもの。だから、自治体などの健診を受けたからと安心せずに、70歳前後からは脳ドックと心臓ドックのみ受けるだけでも十分。心筋梗塞や脳梗塞といった急な死に直結する病気のリスクを軽減できますし、70代以降のがんは中高年に比べて進行が遅いので、放っておいても手術したのと同じくらい生きているケースは多く、逆に手術をしたことで一気に体が弱ってしまい、寝たきりになる方もいます」
自覚症状がなければ、毎年検査する必要はない。ほかの自覚症状のない病気も同じ。たとえば、「血圧が高い」と言われたとして、薬を飲みながら食べたいものを我慢していれば、20年生命を維持できるかもしれないが、意欲は奪われる。
「仮に5年寿命が短くなっても、外食して食べたいものを食べる人生も選択できます。健診の結果を意識しすぎて人生を楽しめなくなれば、健康寿命とは程遠くなるのです」
■古希を過ぎたら多少わがままに
そして、意欲が低下していたことを自覚したなら、定期購読雑誌を意識して手に取ったり、多少“義務”的にでも映画や写真など趣味を再開する。
「ラーメン屋の食べ歩きといった健康に悪いかなと遠慮していたものでも構いません。見たい、聞きたい、食べたい――という好奇心を満たすことが、心身の衰えを遅らせます。また60代、70代からは終わりのある“任務”を請け負ってはいけません。80代、90代の親の介護を始める方も多いですが、できれば自治体や介護施設に一任してください。仕事の定年後に老け込む人がいるように、介護も親の死とともに終わりを迎えます。高齢になるほど打ち込んだものが終わった時の喪失感や『次にやることがない』という状態が、意欲の低下を招きます」
70歳からの生き方は、多少わがままに、自分の人生を生きることだ。挑戦を諦めたらそこから老いる。
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87歳の今も俳優として第一線で活躍する・草笛光子(くさぶえ・みつこ)さん。草笛さんのハツラツとした姿と言葉から、きれいにを生きるヒントを学ぶ特集です。第4回は老いの気付きや、亡き母への後悔について伺った等身大のインタビューをお届けします。
目次
1. 草笛光子さんが骨折してわかった「やっぱりがたつく」
2. 草笛光子さんの無理をしないためのブレーキ3か条
3. 認知症の母を介護施設に入れたことを今も悔いています
4. 草笛光子さんのプロフィール
5. 2021年10月公開映画「老後の資金がありません!」に出演草笛光子さんが骨折してわかった「やっぱりがたつく」
毎週2時間、きつい筋肉トレーニングを続ける精神力。脚が肩の高さまで上がる柔軟性。80代とは思えない若々しい肉体と精神をお持ちの草笛光子さん。「年齢なんて気にしたりしないわ」と公言してきたけれど、このところ、ちょっと変化があったのだそうです。
「あんまり大きな声では言えないんですけれど、春先に背中の骨を折ったんです。胸椎第11番の圧迫骨折。何だか痛いなと思ってハリやマッサージに行ったもののよくならないので病院で診てもらったら、『折れています』と。
すぐにコルセットを着け、3か月は安静にするよう、言われました。実はそのとき主演の舞台中でしたので、もうだめかな……と頭をかすめたのですが、結局、痛みを我慢して、共演者やスタッフには黙って舞台に出ました。公演の終盤には、さすがに白状しましたが」
ここ数年、何度かけがをしたり、体の調子を崩したことがあって、草笛さんはその都度、お医者さまから念を押されてきたことがあります。
「『草笛さんはどうしても外見が元気そうに見えるから、みなさんから元気ですねと言われるでしょうけれど、それをいい気になって聞いてちゃいけない』と。
体は80年以上生きてきて、しかも舞台でいろんな無理をして、以前と同じように丈夫であるはずがないんですよね。『だから体が悲鳴を上げたのだ。それをよく頭に入れて、激しく動くときは気をつけなさい!』と、きつく注意されちゃいました。
それに、舞台の上では孤独だから、自分と、この体一つが頼り。常に一生懸命です。身をていして演じ切ります。俳優とはそういうものだと思うし、これから先もそうしていきたい。
そんな自分のために、舞台が終わったら食べるものに気を付けたり、体を大事にしたり、お付き合いの仕方を見直したり、普段の過ごし方に少しブレーキをかけることを覚えました。
最近、草笛光子といえばトレーニング、というくらい、芸のことより筋トレや体のことを聞かれるのですが(笑)、今は骨折中に落ちた筋力を取り戻すのに、少々焦っています。
特に体幹(体の軸)ね。この年齢で一番怖いのは転ぶこと。転ばないためにも体幹はしっかり鍛え直さないと」
筋肉がつくと体が軽くなるし、食欲も湧くし、頭もさえるし、いいことずくめ、と草笛さん。何年も変わらず、毎日の一人ストレッチと、週に1回、腰に8kgの重りを巻いてスクワットをするなどの2時間筋トレは続けています。
「負荷を減らすどころか、トレーナーからは『もうちょっと重くしましょうか』と言われます。トレーニングは限界ぎりぎりのところまでやっておくと、いざ舞台に立つとき、余裕を持って臨めます。アスリートみたいでしょ。というかアスリートなの。
でも、自分を痛めつける前にちょっとブレーキをかけるのが、今の私流です」草笛光子さんの無理をしないためのブレーキ3か条
1. ほめ言葉に浮かれない
「お若い」「お元気」と言われても、体は80年も動いてきた年代物。いつどこががたついてもおかしくないことを自覚する。
2. 冠婚葬祭は無理して出ない
義理を欠くことをいとわない。そこで自分を抑えるようにして、大事な舞台や仕事で、自分を出し切ることに一生懸命になる。
3. 運動はむやみにがんばらない
体との向き合い方を変える。運動を漫然とやらないで、昨日の体との違いを意識して行う。そして、まず転ばないために体幹と筋肉を育てる。認知症の母を介護施設に入れたことを今も悔いています
草笛さんが2016年に全国を回った朗読劇「白い犬とワルツを」。物語は、もう会えないと思っていた愛する人に、再び会える互いのうれしさ。現実にはありえないけれど、“こんなことがあったらいいなあ”があるお話です。
「私の場合、2009年に92歳で亡くなった母を、今も近くに感じています。家にふと、けし粒ほどの黒い虫が飛んでいると、『あ、お母さんが帰ってきた』『お母さん、いるの?』と声をかけたりして、うれしくなります。
一緒に暮らしてきた母は、晩年、認知症を患って台所で鍋を焦がしたり、徘徊がひどくて廊下に柵をつけても出て行ってしまったりの状態でした。けれど、私が母のそばに寝て終始面倒を見ようと思っても、現実には仕事を辞められません。
世間にも、一人で親を見る方がいらっしゃるでしょう。大変なはずです。どうしたらいいのでしょうね……。私は苦渋の選択でしたが、弟と妹が決めた施設に預けることにしました。
母に会いに、たびたび施設へ行きました。和やかな時を過ごして、帰る時間になると、母は決まって一緒に帰ろうとするのです。エレベーターが閉まる間際まで、『光子ちゃん、私帰りたいのよ』と懇願しました。
帰りの車に揺られながら、母の顔と声が頭から離れず、これでいいのかと自問し、心が引き裂かれるようでした。今でもそのときのことを考えると、涙がこぼれます。
あのとき、連れて帰ればよかった、母の最期は家で迎えさせてあげたかった、臨終のときにいてあげたかった――。後悔しないように生きようと思っても、少しずつ、こうした後悔が残っています」
元気な頃は、親としてマネージャーとして、いつも草笛さんに的確なアドバイスをくれていたお母様でした。
「晩年も、数日だけ許され施設から帰宅し、二人で晩酌をしていたら、突然しゃんとした頭になって『何を気取ってるの。もっと思い切ってやりなさい、もっとできるはず』と私を叱ったことがありました。
そうした母の言葉の数々が、今も鮮明に私の中に残っているからでしょう、仏壇にその日の出来事や、うれしかったこと、悲しかったこと、迷っていることを話しかけると、母の言葉で答えが返ってくるのです。
普段は気配だけの母が、小さな黒い虫になって私のところに現れるように、愛する人を失ったら、どんな形でもいいから姿を見せてほしいと夢見ることは、誰にでもあるのではないでしょうか。その夢を、この舞台の物語に重ねて、叶えさせてあげられたら。そう思っています」
草笛光子さんのプロフィール
くさぶえ・みつこ 1933(昭和8)年、神奈川県生まれ。50年松竹歌劇団に入団。53年に映画デビュー。日本ミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。その演技が認められ、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、毎日芸術賞など受賞多数。99年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章。
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宮内庁は10月1日、眞子さま(29)と小室圭さん(29)が同月26日に結婚されると正式発表するとともに、眞子さまが「複雑性PTSD」と診断されたことを明らかにした。精神科医の和田秀樹さんは「会見に同席した精神科医は『結婚について周囲から温かい見守りがあれば、健康の回復が速やかに進むとみられる』と発言しましたが、これは国民に誤解を与え、現実に複雑性PTSDの症状に苦しむ虐待サバイバーに脅威を与えるおそれがある」という。その理由とは――。
精神科医が腰を抜かすほど驚いた「眞子さまは複雑性PTSD」
宮内庁は1日、秋篠宮家の長女・眞子さま(29)が「複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断されたことを明らかにした。
そのため、この病名がネット上で一気にトピックワードとなった。
この病名については、秋篠宮家の側近部局トップの加地隆治皇嗣職大夫が眞子さまの病状について切り出し、精神科医で、公益財団法人「こころのバリアフリー研究会」理事長の秋山剛氏が会見に同席して「長期にわたり誹謗中傷を体験された結果、複雑性PTSDと診断される状態になっておられる」と述べた。
1991~94年にアメリカに留学して以来、この疾患に向き合ってきた私は、宮内庁のその後の説明を聞くにつけて、腰を抜かすほど驚いてしまった。
なぜなら、複雑性PTSDとは虐待のような悲惨な体験を長期間受け続けた人に生じる心の病であり、治療も大変困難なものとされているからだ。
1970年代、ベトナム戦争で兵士が受けた心理的後遺症やレイプトラウマの研究が進み、1980年に発表されたアメリカ精神医学会の診断基準第3版(DSM-3)に「PTSD」という病名が採用された。
その後もトラウマ研究が進み、児童虐待のような長期反復型のトラウマ体験の場合は、もっと深刻な病状が生じることがわかってきた。
当時のアメリカにおけるトラウマ研究の第一人者であるジュディス・ハーマン(ハーバード大学准教授)は、その主著と言える『心的外傷と回復』(みすず書房)において、複雑性PTSDという病名を提起した。
複雑性PTSDの症状…自傷行為、性的逸脱、解離症状、希望喪失
ハーマンが提起し、94年に発表されたアメリカ精神医学会の診断基準第4版(DSM-4)の「複雑性PTSD」に加えることが検討された症状には以下のようなものが列挙された。
1:感情制御の変化(自傷行為や性的逸脱など)
2:意識変化(解離症状など)
3:自己の感覚の変化(恥の意識など)
4:加害者への感覚の変化(復讐への没頭だけでなく、加害者を理想化することもある)
5:他者との関係の変化(孤立・ひきこもりなど)
6:意味体系の変化(希望喪失など)
実際、私の留学中も虐待の被害者の患者をかなりの数で診たが、この指摘には心当たりがある。ここで注目したいのは、2の項目にある「解離」という症状だ。
解離は、自分の忌まわしい記憶をふだんとは別の意識状態に置くことで生じると考えられている。要するにトラウマ的な出来事を覚えている意識状態と、普段の意識状態は、別の意識状態になっている。
そのため、その人は、トラウマ的出来事を覚えている意識状態になったときのことは覚えていないし、その意識状態は、普段の意識状態と連続性をもたない。
解離性健忘の場合、その解離状態の時の言動を覚えておらず、かなりの暴言を吐いても、犯罪的な行為(万引きや暴行など)や性的逸脱を行っても、それを覚えていない。
別の意識状態になったときにアイデンティティ(自分が子どもか大人かとか、ふだんの名前や役職など)まで変わってしまう状態は多重人格と呼ばれてきたが、DSM-4では解離性同一性(アイデンティティ)障害と呼ばれるようになった。
「複雑性PTSDとは、悪口レベルの外傷的体験ではない」
またこの複雑性PTSDの場合、感情も対人関係も不安定なので、婚姻生活や社会生活に支障をきたし、定職にもつけない境界性パーソナリティー障害と呼ばれる診断を受けることも多い。
ただ、ハーマンの過去の記憶を思い出させて、それをぶちまけさせるような治療方針がかえって患者の具合が悪くすることが多いことが明らかになったことで、彼女のアメリカ精神医学会での影響力はかなり弱まった。ハーバード大学でも教授に昇格していない。そのせいか、2013年改訂のアメリカ精神医学会の診断基準の第5版(DSM-5)では、複雑性PTSDの病名は採用されなかった。
ところが、WHOが作るもう一つの国際的な診断基準の最新版(ICD-11)が2018年に公表された際に複雑性PTSDが採用されることになった。これまでの歴史をみるとアメリカ精神医学会の基準に追随することが多かった中で画期的なことである。
おそらくは、世界的に深刻化する児童虐待だけでなく、人権を弾圧するような政府や軍事介入などで生じる心の後遺症を無視することができないと考えたのだろう。
実際、この診断基準で挙げられている逃れることが困難もしくは不可能な状況で、長期間・反復的に、著しい脅威や恐怖をもたらす出来事の例としては、「反復的な小児期の性的虐待・身体的虐待」のほか、「拷問」「奴隷」「集団虐殺」が挙げられている。けっして悪口レベルの外傷的体験などではない。
これに対して秋山医師は、「複雑性PTSDは言葉の暴力、インターネット上の攻撃、いじめ、ハラスメントでも起こる」と拡大解釈をしたわけだ。
実際、インターネット上の誹謗中傷で自殺する人もいるのだから、私もその可能性を否定するつもりはない。
「温かい見守りがあれば、健康の回復が速やかに」という発言の問題点
むしろ今回、国民に誤解を与え、現実に複雑性PTSDの症状に苦しむ虐待サバイバー(※)に脅威を与えるおそれがあるのは、秋山医師が発した「(小室圭さんとの)結婚について周囲から温かい見守りがあれば、健康の回復が速やかに進むとみられる」という言葉だ。
※児童虐待を受けたあと、生き残り、心の病に苦しんでいる人たち。
自らが虐待サバイバーで複雑性PTSDの実際の症状を赤裸々に記録した『わたし、虐待サバイバー』(ブックマン社)の著者である羽馬千恵さんは、自身が発行するメルマガ(※)の中で、「虐待が終わってからが、本当の地獄だった」と記している。
※大人だって虐待で苦しんでいる。当事者が語る子供時代のトラウマ - まぐまぐニュース!(mag2.com)
羽馬千恵『わたし、虐待サバイバー』(ブックマン社)
虐待を受けた子供たちは大人になり複雑性PTSDに苦しむわけだが、親元を離れ、虐待を受けなくなったり、多少周囲が温かくしてくれたりしところで、そう簡単に治るものではない。
つい最近も3歳児が母親の同居人の虐待で死亡した事件があったが、それに関するニュースの多くは、初動で行政がしっかり対応していたら死ななくてすんだという類のものだった。
たしかにそういう面もあるかもしれない。しかし、もっと重要なのは子供の今後の人生だ。「運よく生き残ったから、よかった」で済む問題ではない。生き残った子供たちは下手をすると生涯にわたる複雑性PTSDに苦しむのである。
「眞子さまはおそらく適応障害なのではないか」
人格変化のために周囲の人が犠牲になることさえある。古くは永山則夫事件、あるいは大阪・池田小事件の宅間死刑囚、そして山口県光市の母子殺しの少年など、子供時代などに虐待を受けた人物が起こす重大事件は枚挙に暇がない。
銃社会のアメリカでは、虐待を受けた子供が将来重大犯罪を起こすことが多いことも、虐待を受けた子供を親元に返さない大きな理由となっている。
眞子さまの場合、もし、環境が変わり周囲の批判がなくなった結果、秋山医師が断言したように「健康の回復が速やかに進むとみられる」ならば、それは複雑性PTSDなどという心の重病でない。もちろん、私は直接診察したわけではないので100%そうだと言い切れないが、眞子さまに関してはおそらく適応障害(この疾患の詳細は、拙著『適応障害』宝島社新書を参照いただきたい)にあたるのではないかと思う。
ただ、日本の場合、精神科の主任教授が臨床軽視・研究重視の大学教授たちの多数決で決まるため、私のようなカウンセリングや精神療法を専門とする大学医学部は全国どこを探してもない。そのため、複雑性PTSDであれ、適応障害であれ、よい治療者をみつけることはかなり困難だ。
そういう点で、いい治療者を見つけるために眞子さまがご結婚されアメリカに行かれるのはいいことだ。
写真=毎日新聞社/アフロ
「秋季皇霊祭」のため、半蔵門から皇居に入られる秋篠宮家の長女眞子さま=2021年9月23日
複雑性PTSDについては予防の必要性は極めて高い。私は、アメリカのように、虐待が見つかったら原則的に親元に返さないできちんとしたチャイルドケアを受けさせるべきだと考える。そうでないと一生不幸を抱えてしまうことになりかねない。
その一方、虐待をしてしまった親に対するカウンセリングも重要だ。アメリカではこれが盛んに行われ、カウンセラーが認めれば、子供はその親元に返される。
日本の場合、残念ながら医学の世界、精神医学の世界がカウンセリングを軽視する傾向があり、見通しは暗いと言わざるを得ない。私の留学先のような「大学でない精神科医の養成機関」をかなりの数作らなければならないと思われる。
「複雑性PTSDの患者は数十万人に達する可能性がある」
実は、複雑性PTSDの患者はかなり多いと予想できる。というのは、虐待の数が想像以上に多いからだ。2021年8月27日に、令和2(2020)年度の児童相談所における虐待相談対応件数が発表されたが、ついに20万件を超えた(心理的虐待12万1325件:全体の59.2%、身体的虐待5万33件:24.4%、ネグレクト3万1420件:15.3%、性的虐待2251件:1.1%)。
虐待された子供が新規で毎年20万人(実際はもっと多い可能性が高い)ということは、日本中に虐待経験者は全体で数百万人単位いるということになる。仮にその1割が複雑性PTSDになったとしても数十万人だ。これはかなり少なく見積もった数と言えるものだ。これから複雑性PTSDを増やさないだけでなく、現在複雑性PTSDの人たちを救うことが急務だ。
今回の報道でもっと危惧するのは、複雑性PTSDになった人は周囲の人がやさしく見守れば、そのうち症状が緩和する軽い病気であるかのような誤解が広まることだ。
あるいは、芸能人や政治家がバッシング逃れのために知り合いの精神科医に複雑性PTSDの診断書を書いてもらうケースが増え、この疾患に直面している人の苦しみをどこか軽んじるような風潮が世間に広まることもあり得る。
複雑性PTSDという病名が世間に知られることは望ましいことだが、本当の実態が知られないと逆にいちばん迷惑をこうむるのは複雑性PTSDの患者であることも知ってほしい。
和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。
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周囲で「糖質制限ダイエット」で体重を減らしたという体験談を聞いたことがあるかもしれない。ところが、さまざまな研究論文から科学的根拠に基づいて分析してみると、糖質制限ダイエットにより死亡率が高くなる可能性があるという。
食材をエビデンスベースで5グループに分類し、「体に良い食品」と「体に悪い食品」を明らかにした『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』を上梓したUCLA助教授の津川友介氏に、糖質制限ダイエットを避けたほうが良い理由を解説してもらう。
体重は減っても死亡率が上がってしまう
日本では「糖質制限ダイエット」が流行っていますが、私は糖質制限ダイエットをおすすめしていません。体重を減らすという目的は達成できるかもしれませんが、死亡率が高くなるなど健康を害してしまうリスクが報告されているからです。
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
さらにいうと、たしかに糖質制限では比較的短期間で体重減少やウエストが細くなったことを実感できますが、6カ月以上継続することが難しいことも知られています。
今回は「炭水化物」に注目して研究からわかっていることを説明しようと思います。
ごはん、パン、麺類などの炭水化物は食事の中で大きな割合を占める重要な要素です。なんとなく炭水化物は身体に悪い、もしくは太る原因になると思っていて、悪者になりがちなのですが、実はこの理解は間違っています。
最新の科学では、炭水化物をうまく選んで味方につけることで、空腹をがまんするなどのストレスを感じることなく、健康になり、痩せることができると考えられています。
まず理解していただきたいのは、炭水化物の中には、白米や小麦粉などのような「精製された白い炭水化物」と、玄米や全粒粉のような「精製されていない茶色い炭水化物」の2種類があるということです。
そして前者は健康に悪いのに対して、後者は健康に良いという真逆の影響があります。白い炭水化物を食べている人ほど、糖尿病のリスクが高く、死亡率も高いことが知られています。
一方で、茶色い炭水化物を食べている人ほど、逆に糖尿病のリスクが低く、大腸がんのリスクや死亡率も低いと報告されています。これは、外皮などに含まれる不溶性の食物繊維やその他の栄養素が健康に良いからであると考えられています。
炭水化物は多すぎても少なすぎても不健康に
実際に、炭水化物の摂取量と死亡率の関係を評価してみると、U字の関係にあることがわかっています。つまり、炭水化物の摂取量は多すぎても少なすぎても不健康になってしまうということを意味しています。
(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
注:炭水化物の摂取割合と死亡率との関係。U字となっており、炭水化物の摂取割合が少なすぎても多すぎても死亡リスクが高まることを示している。網掛け部分は95%信頼区間。
出典:Seidelmann et al. Lancet Public Health. 2018.
この研究をもう少し詳しく見てみると、動物性の蛋白質・脂質の摂取量が多い人において、糖質制限ダイエットをしている人の全死亡率、心筋梗塞などによる死亡率、糖尿病の発症リスクが高いという結果でした。
一方で、植物性の蛋白質・脂質の摂取量が多い人においては、逆に糖質制限ダイエットをしている人の全死亡率、心筋梗塞などによる死亡率、糖尿病の発症リスクは低いという結果でした。
人は食べないとおなかが空いてしまうので、食事の量を単純に減らすということは難しいものです。何かの摂取量を減らすと、その代わりに何かほかのものを食べることで空腹にならないようにする傾向があります。
糖質制限ダイエットをしている人の中には、肉などの蛋白質の摂取量を増やすことで満腹感を得ている人が多いと思いますが、肉は食べすぎると大腸がんのリスクを増やしてしまうなど健康に悪影響があります。そもそも、不溶性の食物繊維が豊富に含まれる「茶色い炭水化物」の摂取量が減ること自体も、大腸がんのリスクを上げる原因になります。
白い炭水化物を茶色い炭水化物に置き換えることで、健康に良い効果があるだけでなく、ダイエットになることも研究結果からわかっています。健康を犠牲にすることでやせることができる「諸刃の剣」である糖質制限ダイエットよりも、茶色い炭水化物を積極的に食べるという食事法で、健康的にやせていただきたいと思います。
糖質制限ダイエットの減量効果は一時的
糖質制限は比較的すぐに減量を実感できるので、良いと信じている人が多い印象があります。しかし、そもそも糖質制限ダイエットによる減量効果が一時的であり、長期的に維持することが難しいことはあまり知られていません。
炭水化物の摂取量を控える糖質制限と、脂質の摂取量を控える低脂質ダイエットを比較した研究があります。その結果を見ると、確かに6カ月までの短期的な追跡においては、糖質制限ダイエットに軍配が上がることがわかります。
しかし1年経つと、この2つのグループの間での違いはなくなってしまいました。
注:糖質制限ダイエットと低脂質ダイエットの体重変化(1年)。図の縦軸は体重変化、横軸は月数を表す。糖質制限ダイエット(Low-carbohydrate diet)の長期的な減量効果は示されていないことがわかる。
出典:Foster et al. NEJM. 2003.
さらにデータを見てみると、1年間の段階で両群とも約4割の人はドロップアウトしていることがわかりました。つまり、糖質制限ダイエットは長期的に続けることが難しい食事法であることを意味しています。
糖質制限ダイエットは、低脂質ダイエットと比べて副作用も多い食事法です。やはり不溶性の食物繊維の摂取量が減るので、約7割の人が便秘になりますし、6割の人が頭痛を経験すると報告されています。
これらを総合的に判断すると、糖質制限ダイエットは医学的にはあまりおすすめできない食事法であると言っても良いと思います。
出典:Yancy Jr. et al. Ann Intern Med. 2004.
茶色い炭水化物「玄米」は病気のリスクも下げる
玄米にはさらに色々なメリットがあることが複数の研究で報告されています。
例えば、サンプルサイズの小さな研究ですが、インドで行われた実験(ランダム化比較試験)では、白米と比べて玄米では血糖値の上がりを約20%減少させたと報告されています。玄米が糖尿病のリスクを下げたり、ダイエットに有効なのはこれが理由だと考えられます。
玄米の外皮(正確には酒粕)を摂取することで腹囲が減ったというランダム化比較試験の結果もあります。韓国からの報告です。
日本で行われたクロスオーバーデザインのRCT(介入群と対照群を途中で入れ替えて、それに合わせてアウトカムも逆転するか検証する方法。通常のRCTでは違う人を比較するのに対して、クロスオーバーデザインでは同じ人において白米を食べている状況と玄米を食べている状況を比較しているので、よい研究デザインだと考えられています)では玄米に変えると血糖値とインスリン分泌量が減るだけでなく、血管内皮の状態も改善すると報告されています。
白米に戻すと戻ってしまうので因果関係としても信頼性は高いと思われます。
まずは1日のうち1食だけ玄米にしてみる
食事を変えるというのはなかなかハードルが高いものですが、日頃の白米を玄米に変えるというだけであれば実行可能だと感じる人も多いと思います。いきなりすべて変えるのは難しいという方には、まずは1日のうち1食だけ白米を玄米に変えるというのでもいいと思います。
この方法では空腹をがまんしているわけではないので、長く続けることが可能でしょう。それだけで、短期的にはウエストが細くなったり便通が良くなることが実感できると思います。
長期的には、糖尿病、脳梗塞、大腸がんなどのリスクが下がります(これは目に見える変化ではありませんが、リスクは確実に下がっています)。
玄米が食べにくいという方には、発酵させるなどして食べやすくした玄米をおすすめしています。圧力釜で炊くのもおすすめです。
玄米には毒(フィチン酸やアブシシン酸)があるので発芽させないと身体に悪いというのは都市伝説です。昔、動物実験レベルでアブシシン酸が健康に悪影響があるかもしれないという報告があったのですが、どうやらそれが真実かのように広まってしまったようです。
果物から抽出されたアブシシン酸の経口投与によって、高血糖や高インスリン血症が改善したという研究結果もあり、アブシシン酸はむしろ健康に良いものである可能性があるということで現在研究されているくらいです。
玄米に含まれるヒ素が心配という方がいます。たしかにヒ素の含有量は白米よりも玄米のほうが多いと言われています。ヒ素が心配な方は、まず沸騰したお湯に玄米を5分間入れた後に、水を入れ替えて新しい水で炊飯すると効果的に取り除けると報告されています。こうすれば、ヒ素の心配をすることなく、糖尿病や大腸がんのリスクを下げることができるでしょう。
津川 友介 : カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授 著者フォロー
2021/05/26 4:30