もう五十年以上も前から自然栽培で野菜を育てている、埼玉県の須賀一男さんという生産者からおもしろい話を聞いたことがあります。
須賀さんの畑のそばの利根川河川敷で牛を放牧していたときのこと。牛が草をムシャムシャと食べているのをなんの気になしに見ていると、牛の様子がどうもおかしい。一カ所で草を食べるのではなく、あちこち動きまわって食べているというのです。なぜだろうと思ってもう少し様子をうかがっていると、牛が食べているのはどうも淡い色の草ばかり。ところどころ生えている緑の濃い草を避けていました。不思議に思った須賀さんが草に分け入って調べてみると、濃い緑の草が生えているところには、例外なく牛が糞をしていました。つまり、牛糞に含まれる窒素分が肥料の役割を果たしていたのです。
緑が濃い草(野菜)と、緑が薄い草(野菜)のちがい。これは実は、肥料の話と大きく関係しています。
野菜は、成長に必要な窒素を「硝酸性窒素」という状態で土壌から吸い上げます。この硝酸性窒素、硝酸態窒素や硝酸塩、硝酸イオンと呼ばれることもある成分ですが、最近、僕たちの健康への影響が心配される声が聞こえてきています。
後に書きますが、たとえば、硝酸性窒素を肉や魚などの動物性タンパク質とともに接種すると、発がん性物質に変化する、という説です。
窒素分は主に、植物の葉や茎の生育に関与しているといわれています。窒素分が多ければ野菜、とくに葉ものの緑は濃い色になります。
河名秀朗著「ほんとの野菜は緑が薄い」P49
2010年日本経済新聞出版社
日本へ帰国してからやってみたいことのひとつに野菜づくりがありました。これは、お米づくりは専門的で大変だけど、野菜だったらできるのではという短絡的な思いがあり、あと、なんとなくですが、将来持つべきスキルのひとつとして野菜ぐらい作れるスキルがないとダメなのではという、第六感にも似た思いが漠然とあったからです。
でも実際、荒れた草ぼうぼうの畑の草刈りからはじめ、ミニ耕運機で土を耕し、畝をつくり、種や苗を植え付け水をやりながら育てていくという作業は素人には大変な面がありました。特にそこに住んでいる訳ではなく街から農地への通い農業で、それも週一ですから、上手く行くはずがありません。初年度は発芽しなかったり、または植え付けた苗を猪や鹿などから食べられてしまったりと散々でした。それでも運よく実った野菜があると、ご近所のプロ農家の方から「それは作ったんじゃなく、できたんじゃ。」と。確かに仰る通りです。
今年は二年目ですが、最近、昨年秋に植え付けた玉ねぎ、そして春に種を撒いた大根と人参、小松菜といった野菜を運よく育ってくれ収穫することができた次第です。確かに売られている野菜と比べると形も小さく味もそこそこですが、ひとつだけ良かった点があります。それは結果としてですが、無農薬、無肥料だったことです。実はこれ、狙ってそうした訳ではなく、ひとつはその知識が全く無かったから、と、あとは週一の作業ですから時間的にそうすることができなかったというのが幸いした結果でした。
今回の本のタイトルにある通り、確かに出来上がった野菜たちの緑は売られている野菜よりも薄いです。ただ、たとえば人参ですが、差し上げた方から「子供のころおばあちゃんが作っていた人参の味がする。おばあちゃんの料理を思い出しました。」というフィードバック通り、なんとなく昔の味がします。
畑は母が野菜を作っていた畑でしたが、施設に入ってしまいましたので作り手がおらず荒れていました。それをまた畑の姿に戻してあげられたらと思っています。