夢かぎりなく!

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「ぼく 暗くて 恐かったの…」

2010年09月15日 | 井川事務長
心の琴線に触れるお話 第1話
『ぼく 暗くて 恐かったの…』

息子がまだ小さかったころのことです。十一月の終わりに近い、ある夕方のこと。いつも元気いっぱいの私は、鬼の霍乱(かくらん)とでもいうのでしょうか、めずらしく風邪を引き、三十八度五分の熱と頭痛とで寝込んでいました。
その傍らに、五歳になったばかりの息子がちょこんと膝(ひざ)を揃え、心配そうに私を見ながら、幼い声で、
「ママ苦しい?」
私はそっと目を開け、「うん」とうなずくと、
「ぼく、安井さんに行って、お薬をもらって来るよ」(安井さんとは、息子のかっちゃんがいつもお世話になっている病院名)

 かっちゃんは、生まれて間もなく、腸(ちょう)重積(じゅせき)という生死を分けるような幼児の病気を患いました。小さな体に開腹のため大きくメスを入れ、一ヵ月近く入院したのです。
そのせいか、平均よりやや成長が遅れ、ひ弱で毎月必ず安井医院に通っていました。
 私はかっちゃんに「寒いからいいよ」と言いました。それにもう薄暗くなりかけていたのです。そう言うと、私はほんの少し、うとうとしたようです。・・・・ふと目覚め、「かっちゃん」と呼んでみたが返事がありません。起き上がり、明りをつけ、狭い部屋を見回しても姿が見えないのです。すでに外は暗く、まさかと思い、上衣を着て探しに出ました。

 当時は、安アパートの二階に住んでいました。廊下を出ると、その寒さに思わず上衣の前を合わせたほどです。廊下に降りる鉄製の階段があります。そこの下から二、三段目あたりに小さな影が見えました。私は「かっちゃん!」と叫びながら、鉄製の階段をけたたましい音を立てて駆け降り、その小さな体を抱き上げました。

 かっちゃんは寒さで小刻みに震え、涙顔です。小さな声で、
「ママごめんね。ぼく暗くって、怖かったの・・・安井さんには行かれなかったの」
 部屋に入って、冷え切った小さな肩や体を強く抱きしめ、挫(さ)すりながら「ありがとう」を何回となく繰り返しました。私はかっちゃんの涙と自分の涙をそっと拭(ふ)きました。
 やがて、冷え切っていた体も温まったのでしょう。いつの間にかかっちゃんは小さな寝息をたてています。あどけない寝顔で腕のなかで寝入っているかっちゃんに、私は「ありがとう」と囁(ささや)きました。


東京都豊島区 鈴木 初子(七十才)



今期より、札幌中央倫理法人会のモーニングセミナーに参加していただいた方に、
『心の琴線に触れるお話』を配布させていただいております。
次週、第2話は、
「たった一人の私のファン」をお送りします。

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