背寒日誌

2024年10月末より再開。日々感じたこと、観たこと、聴いたもの、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

中村錦之助の「沓掛時次郎」

2005年10月10日 12時20分16秒 | 日本映画
 中村錦之助が亡くなってから、もう何年になるのだろうか。あの時のショックは今も忘れない。映画俳優の死にあれほど心がぐらっときたことはなかった。一つの時代が終わった感じがした。
 私は錦之助の大のファンだった。物心ついて東映の時代劇にはまって以来、ずっと錦之助を見てきた。東映を出て独立プロを作ったときも、錦之助のことを心から応援していた。萬屋錦之介という名前に改名し、テレビで「子連れ狼」を演じたときも、さすが錦之助!すごいもんだと思って見ていた。
 最近ブログを開設してから、また錦之助に対する私の思いに熱さが増してきたことを感じる。
 私は錦之助の股旅映画が好きだ。長谷川伸原作の三つの作品、「瞼の母」「関の弥太っぺ」「沓掛時次郎、遊侠一匹」はいずれも甲乙つけがたい名作だと思っている。なかでも男女の情愛を描いた「沓掛時次郎」は私の大好きな作品である。時次郎役の錦之助も素晴らしいが、相手役の池内淳子も最高に良い。錦之助の代表作は他にもたくさんあるが、池内淳子はこの映画の女房役が代表作かもしれない。
 「沓掛時次郎」は、非常にヴォルテージの高い作品だった。やくざ渡世に身を置く時次郎は、一宿一飯の恩から何の恨みもない男(東千代之介)を斬ってしまう。斬られた男もいっぱしのやくざで、いまわの際に時次郎に遺言を託す。残した恋女房と幼い一人息子を頼むと言うのだ。そこから類まれなドラマが始まる。時次郎は、男の女房と息子を郷里の実家まで送って行く羽目になってしまう。そして、旅をしているうちに、時次郎とこの女の間にあった心の距離が徐々に縮まっていく。互いに心を寄せ合い、離れたくないほど好きになってしまうのだ。まあ、あらすじはそんなところにして……。
 何が良いのかというと、錦之助と池内淳子のすべてが良いのだ。錦之助の側から言うと、殺した男の恋女房に惚れてしまった辛さ、良心のとがめ。惚れたなんて口が裂けても言えない苦しさ。でも、好きだから、尽くすだけ尽くす。女が病気になったときの甲斐甲斐しさ。看病できる喜び。錦之助のはにかんだ表情、嬉しくて生き生きとした表情がたまらない。池内淳子の側から言うと、敵愾心が溶けていく心の移り変わり。死んだ亭主に対する貞淑さが崩れていくことへの心の乱れ、自責の念。男に尽くされる女の喜び。もうこれは、あのしっとりと落ち着いた池内淳子ならではの役どころとしか言いようがない。
 「沓掛時次郎」には、渥美清も出演しているが、錦之助とのコンビがまた良い。これも付け加えておこう。

コメント (1)
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