アサダの余命を知ったのは彼が亡くなる四ヶ月ほど前だった。
深夜に切迫したメールをコウキチがよこした。
「Tetsuさん、アサケン{アサダ}のことですぐに電話をしてほしい」と。
すぐに電話をした。コウキチは見舞いに行った今日、父親からアサダの余命があと三ヶ月だということを知らせれた。あまりにもショックでどうしていいか何も分からなくなり、自分に電話をしたかったらしい。
自分は震えた。初めてだった。身体が言うこと利かずにただ震えた。
コウキチと同じようにアサダの死を、彼が死ぬということを自分もどうしていいか、受け容れることなど考えることすら出来ずにいた。
だが、とりあえず、ゆっくりと震えが止まるまで、少し落ち着くまで話しをした。
それまでも何人もの人の死と関わってきた自分だが、弟のように接してきたアサダが死ぬということがどういうものなのか、想像も付かなかった。身体のなかでは血がほんとうに騒いでいた。
コウキチには、ただ、これからもよく会いに行こう、そして、話し合っていこうと何かあったらお互いに伝え合おうと約束した。
アサダの余命が分かってからも変わらずに今まで通り見舞いには行った。何人もの友達も余命のことは話さずに誘って、アサダに会いに行った。
コウキチと同じ日に見舞いに行き、アサダの余命を知った矢島ゆかちゃんともしっかりと連絡を取り合った。
この三人とアサダの彼女、アサダと同居していた友達だけが家族以外にアサダの余命を知っていた。
このメンバーで見舞いに行く帰りは飲んで泣いた。
余命を知らない文化学院の友達とは、見舞いの帰りはバカ話をして笑いながら飲んだ。その友達たちには病人に対してどう接して方がいいのか、機会を見つけて話し、また彼らの話しを聞いた。そして、また来てくれるように話した。
自分自身は心が折れそうになっていた。いや、心はぼろぼろだった。どうにか歩けているような瞬間や思い出のものたち、思い出の場所、思い出に似た空、風、何もかもが瞬間的に涙を誘った。一人でぼろぼろ泣くことが何度もあった。
アサダに余命は知らせるべきだ。そうずっと思っていた。
知り合いの二人に相談した。
一人は山谷でよくお世話になっているフランチェスコ会の神父、死刑囚の面談などもしている人だ。
「知らせた方がいいです」彼も言った。
一人は浄土真宗の尼さん、ホスピスもしており、カウンセラーでもある。自分が信頼している人だ。
「知らせなければ罪です。必ず、知らせた方がいい」そう言った。
自分はそれまでもアサダの父親に余命を告知することを進めていたが、彼はアサダが聞くまで話さないと言っていた。
医者との病状の会話もいつも父親とアサダで話しを聞いていたが、それが脳腫瘍が進行していくことでアサダは外されていった。
どれほどの孤独だったろう。どれほど怖かったろう。自分の想像を絶するものだったろう。
医者が余命を告知しようと一度した。しかし、アサダがあくまでも治ると思うその姿勢に負け、話すことが出来なかったらしい。
こうしたことを尼さんにも話した。彼女は言った。
「あなたは告知できないの?」
{つづく}
深夜に切迫したメールをコウキチがよこした。
「Tetsuさん、アサケン{アサダ}のことですぐに電話をしてほしい」と。
すぐに電話をした。コウキチは見舞いに行った今日、父親からアサダの余命があと三ヶ月だということを知らせれた。あまりにもショックでどうしていいか何も分からなくなり、自分に電話をしたかったらしい。
自分は震えた。初めてだった。身体が言うこと利かずにただ震えた。
コウキチと同じようにアサダの死を、彼が死ぬということを自分もどうしていいか、受け容れることなど考えることすら出来ずにいた。
だが、とりあえず、ゆっくりと震えが止まるまで、少し落ち着くまで話しをした。
それまでも何人もの人の死と関わってきた自分だが、弟のように接してきたアサダが死ぬということがどういうものなのか、想像も付かなかった。身体のなかでは血がほんとうに騒いでいた。
コウキチには、ただ、これからもよく会いに行こう、そして、話し合っていこうと何かあったらお互いに伝え合おうと約束した。
アサダの余命が分かってからも変わらずに今まで通り見舞いには行った。何人もの友達も余命のことは話さずに誘って、アサダに会いに行った。
コウキチと同じ日に見舞いに行き、アサダの余命を知った矢島ゆかちゃんともしっかりと連絡を取り合った。
この三人とアサダの彼女、アサダと同居していた友達だけが家族以外にアサダの余命を知っていた。
このメンバーで見舞いに行く帰りは飲んで泣いた。
余命を知らない文化学院の友達とは、見舞いの帰りはバカ話をして笑いながら飲んだ。その友達たちには病人に対してどう接して方がいいのか、機会を見つけて話し、また彼らの話しを聞いた。そして、また来てくれるように話した。
自分自身は心が折れそうになっていた。いや、心はぼろぼろだった。どうにか歩けているような瞬間や思い出のものたち、思い出の場所、思い出に似た空、風、何もかもが瞬間的に涙を誘った。一人でぼろぼろ泣くことが何度もあった。
アサダに余命は知らせるべきだ。そうずっと思っていた。
知り合いの二人に相談した。
一人は山谷でよくお世話になっているフランチェスコ会の神父、死刑囚の面談などもしている人だ。
「知らせた方がいいです」彼も言った。
一人は浄土真宗の尼さん、ホスピスもしており、カウンセラーでもある。自分が信頼している人だ。
「知らせなければ罪です。必ず、知らせた方がいい」そう言った。
自分はそれまでもアサダの父親に余命を告知することを進めていたが、彼はアサダが聞くまで話さないと言っていた。
医者との病状の会話もいつも父親とアサダで話しを聞いていたが、それが脳腫瘍が進行していくことでアサダは外されていった。
どれほどの孤独だったろう。どれほど怖かったろう。自分の想像を絶するものだったろう。
医者が余命を告知しようと一度した。しかし、アサダがあくまでも治ると思うその姿勢に負け、話すことが出来なかったらしい。
こうしたことを尼さんにも話した。彼女は言った。
「あなたは告知できないの?」
{つづく}